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悩んだらリスクの高い方へ。不確実な世界でキャリアを描く秘訣【Google 佐藤聖規 対談/後編】

NTTデータの卒業生をお招きし、人事本部 人事統括部長である森田が聞き手としてお話を伺う本企画。前編に引き続き、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社のカスタマーエンジニアリング技術本部長である佐藤聖規(さとう まさのり)氏との対談をお送りします。前編では、NTTデータに入社した佐藤氏がキャリアリセットを恐れずに何度もゼロスタートのチャレンジを続けてきた軌跡を語っていただきました。後編では、グーグル・クラウド・ジャパンでの現在の取り組み、変化の激しいIT業界におけるキャリアの描き方、そして今後のIT業界に対する想いについて伺いました。

目次

GoogleとNTTデータにおける”ロール”の考え方

森田
さて、ここまで佐藤さんがNTTデータで経験されてきたことについて伺ってきましたが、ここからはGoogleでのキャリアについてお聞きしたいと思います。

佐藤さんがNTTデータを卒業後にクラウド企業を経て、グーグル・ジャパン(当時)に入社された背景を教えていただけますか?

Google 佐藤
2016年、Google Cloudの東京リージョンが設立されることが発表されたあとに声をかけてもらい、東京リージョンのオープンの少し前にグーグル・ジャパン(当時)に転職しました。その後、グーグル・クラウド・ジャパンの設立に合わせて異動しました。Google Cloudのスケーラビリティ、開発者の生産性の高さ、また、Googleという会社のカルチャーに共感したのが主な動機です。

森田
東京リージョンの立ち上げというゼロスタートのチャレンジだったのですね。NTTデータ時代のお話をお聞きした後だと、佐藤さんらしいキャリアに思えます。入社後のキャリアについても教えていただけますか?

Google 佐藤
最初のロールはグーグル・クラウドではカスタマーエンジニアというロールで、IT業界で言うところのプリセールスエンジニアでした。プリセールスエンジニアとは、お客様の要件や実現したいことをうまく引き出し、それをテクノロジーで解決する提案をするロールです。その後、日本でもGoogle Cloudのお客様が増えてチームが拡大し、管理職を作る必要が出てきたところで、「ピープルマネージャー」というロールにチェンジしました。その後、率いる部門がいくつか変遷していき、現在はグーグル・クラウド・ジャパンのカスタマーエンジニアのチームのマネジメントを担当しています。

森田
「ロール」という言葉が出てきましたが、日本で言う「職種」とは違うものでしょうか?

Google 佐藤
近い部分もありますが、ロールはジョブディスクリプションによってやるべき仕事が明確に決められています。Googleにおける管理職の仕事は、チームのビジョンやミッション、OKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)の設定、採用など、チームを推進するのに必要なことを、責任を持って進めることです。日本企業と大きく違うのは、Googleではカスタマーエンジニアもピープルマネージャー「管理職」もそれぞれのロールでしかなく、管理職とメンバーとの間に上下関係はなく、役割が違うだけです。

森田
まさしくジョブ型雇用の姿ですね。

実は、現在のNTTデータにも専門性を軸にした人事制度「テクニカルグレード(TG)」や、AI・IoT・クラウドなどの先進技術領域やコンサルティングの領域で高度な専門性を持った人材に対する「アドバンスドプロフェッショナル(ADP)」制度があります。

また、積極的に社外のコミュニティ活動に取り組んでいた佐藤さんのように、技術や知見の外部発信を行う社員を「リレーションシップビルダー(RB)」として認定する制度があります。

仮定の話にはなりますが、もし、佐藤さんの在籍時にこうした制度があったら、どうされていたと思いますか?

Google 佐藤
とても良い制度ですよね。私がNTTデータに在籍していた当時もスペシャリスト向けの制度が存在したかと思いますが、まだまだエンジニアも管理職になるのが一般的だったように思います。そのことに対してネガティブな感情を持っていたわけではありませんが、こうした制度があったら一度はチャレンジしていたと思います。NTTデータで専門性を極めるということは、日本での第一人者になるということですからね。

ただ、私は同じことを2、3年やると飽きるタイプなので、できればいろいろなロールを高い頻度で行ったり来たりできるといいな、と思っています。Googleのメンバーがキャリア開発でリスクを取って新しいロールに挑戦できるのは、以前のロールに戻る選択肢も用意されているからだと感じています。

森田
そうですね。当社のTGやADPも、一人一人のキャリアパスを着実に積み上げていくために、必要があれば通常の雇用形態との間でキャリアの行き来ができるようになっています。

Google 佐藤
素晴らしいですね。柔軟なキャリア形成が可能になると、私のようにいろいろな分野にチャレンジしたい人にはありがたいと思います。

森田
ありがとうございます。いただいた意見も参考にしながら、TGやADPの制度は推進していきたいと思います。

「役割」が明確であるがゆえの厳しさ

森田
NTTデータにいた頃は管理職になるかどうか悩まれていたとのことでしたが、Googleで管理職にチャレンジしようと思ったのはなぜですか?

Google 佐藤
ひとつはタイミングが大きいですね。Googleでは定期的に上司とキャリア開発について議論します。その中で、ピープルマネージャーも今後のキャリアの一つとして考えられるのではないかと提案してもらいました。

ちょうどカスタマーエンジニアとして一定の結果を出すことができた後で、周りに素晴らしいロールモデルの人たちがいたからです。Googleではピープルマネージャーもロールのひとつでしかなく、「昇格」とは違います。ということは、管理職を経験した後に専門職のロールに戻るキャリアも可能だということです。こうしたキャリアの柔軟性も管理職に挑戦してみようと思えた理由のひとつです。

森田
チャレンジしやすい土台があったわけですね。とはいえ、ロールの役割が明確に決まっているということは、日本企業とは違う難しさもあるのではないかと思いますが、いかがですか。

Google 佐藤
その通りです。ロールチェンジのときには必ず面接があり、そのロールに定められた役割が務まるかどうかをシビアに確認するものです。そのためロールチェンジのチャンスを掴むため目標のロールに向かってスキルを磨き、ロールチェンジに挑まなければなりません。ですから、ロールチェンジの面接は準備にも時間を費やし、本番では本当に緊張します。

また、最近では日本でもジョブ型雇用の注目が高まっていますが、本当に仕組みを取り入れようと考えるとオペレーションを抜本的に見直す必要があるかもしれませんね。ロールという目標に対してストレッチとチャレンジを続けられる人であればいいのですが、ジョブに期待されるパフォーマンスが出なかった場合のフォローや、ジョブに対するトレーニングの提供なども必要です。

森田
役割が明確であるがゆえの厳しさがあるのですね。管理職という立場で伺うと、GoogleとNTTデータは違う組織ではありますが、マネジメントにおける違いはあるのでしょうか?

Google 佐藤
マネジメント上におけるNTTデータとの大きな違いとしては、Googleではマイクロマネジメントをしないことが前提となってきます。そのために、組織の達成するべきミッションがあり、OKRがあります。そしてジョブ型で各ロールの役割が明確になっています。そのため、ある意味ではマネジメントしやすい点です。

一方、NTTデータは多くの方がメンバーシップ型で、ジョブディスクリプションできっちりと役割を切らずに、チームとしてゴールに向かって各メンバーが柔軟な動きをしているため、その方たちの想いをまとめる、という点ではマネジメントの難易度は上がる、と私個人は思います。

不確実な世界で、人とのつながりを大切に

森田
佐藤さんはNTTデータ在籍時からいろいろなチャレンジを続けていましたが、キャリアチェンジやロールチェンジの際に、どのような軸で意思決定をされてきたのですか?

Google 佐藤
新しいことにチャレンジするのはドキドキしますが、私の場合、チャレンジして得られるものは何かを考えます。そして、悩んだらリスクが高い方に倒すのが私のやり方です。失敗してもやり直せますし、難しいことほどできる人が少なく、得られるリターンも大きくなります。

森田
悩んだらリスクの高い方へ。これまでのお話を聞いているとその通りのキャリアを歩まれていますし、佐藤さんらしい言葉ですね。佐藤さんから見て、IT業界でキャリアを描くにあたって重要なことは何だと思いますか?

Google 佐藤
私が社会人になった頃は、まだクラウドがなく、データセンターにサーバを置いてサービスを提供するモデルが一般的でした。そのことを考えると、遠い未来のことを見越してキャリアを描くことは不可能だと思います。

森田
その通りですね。特にIT業界にいると、未来を予測するのはきわめて困難です。

Google 佐藤
個人のキャリアも同様で、私自身もNTTデータで管理職になるものとばかりと思っていたら、気がつけばいろいろな経験をして、今はグーグル・クラウド・ジャパンでピープルマネージャーとして働いています。グーグル・クラウド・ジャパンに転職した時ですら、自分がピープルマネージャーになるとは考えていませんでした。

森田
先のことは読めないという前提に立つと、どのような観点でキャリアを考えるべきでしょうか。

Google 佐藤
振り返ると、私は人とのつながりの中でキャリアを切り拓いてきたと思います。偶然、良いタイミングで声をかけてもらったことが何度もありました。だからこそ、私は来たチャンスをつかむための努力は惜しまずに続けてきたつもりです。先のことはわかりませんが、社外も含めて広く行動していた結果、チャンスを頂いて、それを掴んだことで作られたのが今のキャリアです。

キャリアという観点で、私がエンジニアの方に少しでもアドバイスできることがあるとすれば、今の仕事をちゃんとやり遂げること。そして、今いる場所で得られる経験や成長を大切にすること。キャリアの分かれ道で悩んだら、リスクが高い方に飛び出すこと。コンフォータブルゾーンから出ることが大切です。運やタイミングなど、自分でコントロールできないことも多々ありますが、柔軟に、楽観的に、ポジティブに考えてみてください。

森田
お話をしながら感じますが、佐藤さんはエンジニアとして専門性に強みを持ちつつ、あわせてとてもホスピタリティが高い方だと思います。それが関わる人たちにも伝わって、いろいろな縁が生まれているのでしょうね。

IT業界のパートナーとして、一緒に社会をより良くしたい

森田
現在、グーグル・クラウド・ジャパンとNTTデータはパートナーという関係性で協力させていただいています。今の佐藤さんから見たNTTデータの印象はいかがでしょうか。

Google 佐藤
一緒にプロジェクトに取り組む際の安心感は、NTTデータならではだと思います。技術力は高く、グリップ力もあって、始める前からこのプロジェクトは上手くいくと確信できることも多いです。安心感を持つとともに、私たちもしっかりしなければ、と背筋が伸びます。改めて優秀で、視座の高い人が多い会社だと思います。

森田
ありがとうございます。NTTデータがグーグル・クラウド・ジャパンと一緒に取り組んでいることは、日本のIT業界全体をより良くしていくチャレンジでもあると思います。佐藤さんは、どのような心持ちでIT業界と向き合っていきたいとお考えですか?

Google 佐藤
大前提として、テクノロジーやエンジニアリングは何かを解決するためのものであり、その先にはお客様やユーザーがいます。SIにしても、グーグル・クラウドのような事業にしても、そのテクノロジーによってお客様のビジネスがどれだけ成長するのか、課題を解決できるのかを常に念頭に置きながらサービスを提供することが重要だと思います。そしてグーグル・クラウド・ジャパンとしては、NTTデータをはじめとしたパートナー企業へのリスペクトを大切にしながら、一緒に日本や世界を良くしていきたいと考えています。

森田
ありがとうございます。私たちはIT技術を使って社会課題の解決策をデザインできる人財を「アーキテクト」と捉えており、今後そうした人財が活躍できる機会をさらに増やしていきたいと考えています。佐藤さんは、まさに理想的なアーキテクトの姿です。NTTデータを卒業された後も縁があって本当に嬉しく思います。

先ほどロールの話がありましたが、私は企業にもロールと呼べるものがあると考えています。社会の中で、グーグル・クラウド・ジャパンのロール、NTTデータのロールといったものがあり、お互いの役割を果たしながら、連携して社会をより良くしていくというプロジェクトを成り立たせていると言えるのではないでしょうか。

佐藤さんはグーグル・クラウド・ジャパンとNTTデータという両方のロールを知っているハブとして、ぜひ今後も一緒に協力していきたいと思います。本日はありがとうございました!

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※掲載記事の内容は、取材当時のものです