転換が求められるリテール業界。デジタル化によるプロセス短縮が不可欠
リテール業界では、これまで数カ月~1年をかけて商品を大量生産し、消費者に届けるというビジネスモデルが主流でした。しかし、大量生産による大量廃棄が社会問題となる中で、いま大きな転換が求められています。本組織ではグローバルに展開するリテール企業のニーズに応えるだけでなく、持続可能な社会を実現するという大きな目標を見据えています。そのために取り組んでいるのが、業界全体を見据えたバリューチェーンの変革です。
「たくさん作ってから売り方を考える」という大量生産・大量消費が行われてきた背景には、“商品の企画から生産まで時間がかかり、消費者の今のニーズが反映できない”というバリューチェーンが持つ課題が一因になっていました。
デジタル技術を活用して消費者の趣向をより早く商品に反映することができれば、消費者の声を聞きつつ「売れるものだけを作る」ことができます。それにより、「無駄なものを作らない」ことで廃棄を減らすビジネスが可能になります。
生産から販売までのバリューチェーンを持続可能な形に変革することで、消費者にとってもリテール企業にとっても、そして将来世代にとってもWin-Winの関係を築いていけると考えています。
SDGsの意識の高まりなどを受けて、バリューチェーンの変革に対するパートナー企業の熱量は高くなっています。その一方で、各社ともにどのように取り組んでいけばいいか悩んでいるという現状があると村竹は話します。
NTTデータは世界各国のグループ会社とのシナジーを発揮することで、One Teamとなりパートナー企業それぞれの課題と向き合い、変革をリードしています。
例えば、グローバルに展開する倉庫、工場、企画などの各セクションが在庫や材料などのデータをやり取りする際、セクションごとにタイムラグが発生し、お互いの持つ情報が分からないという状況が発生したとします。
そんなときも、データを同一のプラットフォーム上で管理することができれば、企画セクションが工場の在庫をリアルタイムで確認し、生産可能なロット数を把握するなど、企画から生産のバリューチェーンを短いサイクルで回せるようになります。
本組織が目指すのは、企業が必要な情報を必要なタイミングで、必要な場所で扱えるようにするサービスを自社で作り、世界中で提供し、業界のバリューチェーンを変革することです。
自社サービスを多くの企業に提供し、ノウハウを蓄積することで「NTTデータは変革に不可欠なパートナーとして、グローバルトップのポジションを担える」と村竹は話します。
消費者の声を拾い、商品企画に反映するスピードを上げるためにはどうすべきか。例えば、アパレルの商品サンプルは、実物を作らず3Dデータ化してマーケティングに活用するなど、リテール企業の固定概念や今までのやり方を変える提案を行うことで、業務や業界の変革を支える“Thought Leadership”(※1)を発揮できるはずです。
※1 特定のテーマや業界の将来を先取りし、いち早く革新していく第一人者となること。
国際情勢の変化に対応し、最適化されたリテールが持続可能な社会を作る
グローバルに広がるバリューチェーンサイクルの短縮、スピードアップが実現できれば、消費者の好みの反映だけでなく、社会情勢の変化など不測の事態に対しても素早い対応が可能になります。
いまや工場や物流、デベロッパーも含めたすべてのプレイヤーが世界中でバリューチェーンでつながっています。これには良し悪しがあって、特定の国の原材料が使えない、製品を運ぶための船が出ないなど、世界のどこかで問題が起こると、その影響をダイレクトに受けてしまうことになります。
だからこそ情報をEnd to Endでつなぎ、短いサイクルで回すことができるバリューチェーンへと変革できれば、問題が起きたときすぐに計画の変更や生産の持続ができる臨機応変なビジネスモデルが実現できると考えています。
世界の不確実性が高まる中で、生産から販売までの一連の流れにも、効率だけでなく柔軟性が求められています。より小回りの利く体制を構築することで、販売開始後の売れ行きに合わせて生産計画の変更が可能になるという利点もあるといいます。
デジタル化によって消費者のニーズをより反映した販売計画を立てることが可能になりますが、それでも計画と実際の売れ行きのズレをゼロにすることは困難です。
その点で言えば、各店舗で販売を開始したあと、実績が計画と異なっていればタイムリーに生産計画に反映することができることも、サイクルの短縮によるメリットです。「予想よりも売れていない商品の生産数を減らす」「計画以上に売れている商品を増やす」など、生産ロットをリアルタイムに調整できるということが肝になります。
また、バリューチェーンの変革では、モノ・ヒトの移動や稼働をアルゴリズムで最適化することも有効な取り組みの一つです。人手不足が深刻化する中で、販売店や生産工場のシフト管理などにアルゴリズムを導入すれば、最適化した配置によって生産性を上げ、スタッフの待機時間など人的資源の無駄も減らすことにつながります。
グローバルなバリューチェーンでは、商品や材料を運ぶことでも燃料など地球の資源を消費しています。究極的には、商品を欲しい人がいる消費地のすぐそばで商品を作ることができれば、輸送自体が必要なくなるはずです。どこに生産拠点を置けば輸送の無駄を減らせるのか、アルゴリズムで最適化してマッチングすることで、環境負荷を大きく下げることも可能になります。
さまざまなロスを減らし、変化に対応できるビジネスモデルは、環境問題や社会課題の解決へ向けた糸口になると村竹は考えています。
世界の先進事例を取り入れ、グローバルでフラットな組織が未来を作る
グローバルを見据えた本組織の取り組みは、日本からの拡大ではなく最初から世界での利用を見越していることも特徴的なポイントです。先進企業であるパートナー企業の更に先を行くため、先進技術などの活用事例も海外から集めることに主眼を置いています。NTTデータ社内で用意できないノウハウは現地企業の協力を得るなど、外部の強みも積極的に取り入れていく方針です。
一例を挙げると、スマートファクトリーでは中国の工場が抜きん出ています。仕掛品の状況が分かるようにデジタル管理し、生産工程を細かく分割して作業のパターンを決めておくことで、作業者がベテランでも新人でも生産性が変わらないシステムが実現されています。そうした先進的な事例を調査し、取り込んでいきたいですね。
AIカメラや無人化されたダークストアの技術など、国内だけに目を向けていては取り残されてしまう先行事例が世界には多くあります。グローバルに展開する企業をパートナーとする以上、世界の先進技術にタッチできるグローバル人財が求められています。
村竹自身、NTTデータベトナムに出向し現地社長を務めた経験があるグローバル人財です。グローバル志向が強いパートナー企業へ海外の目線を取り入れた価値提供をすることが課題となる中で、活躍の場をデジタルパートナー事業部に移しました。その知見を活かし、現地でのPoC(※2)実施に際しては橋渡しの役割も果たしています。
※2 Proof of concept・・・概念実証の略。新たなアイデアや原理を実用化する前に、部分的に実施し検証するプロセスのこと。
ベトナムはAPAC(アジア・パシフィック)の中でもタイに次いで発展が見込まれるとされており、政府もデジタル化に力を入れています。国内に生産工場や倉庫がありながら、大きな消費地でもあり、生産拠点と消費地の川上から川下までをトータルでトライアルするPoCにふさわしい市場だと考えています。”
村竹と同様、海外を見て仕事ができるメンバーは組織の中でも増えていますが、まだまだ十分ではありません。新たな人財を迎え入れ、ともに変革を実現するために、作っていくのはフラットで自律的な組織です。
バックキャスティングの思想で、マーケットが求めるもの、課題解決につながるものを先回りして用意することで、“Thought Leadership”を発揮できることが私たちの強みになります。そのためには社員が納得感を持って、やる気に満ち溢れていること、達成感を感じられる組織であることが大切です。
私はチャレンジにおいて、「失敗」はないと考えています。新しい気づきが、次の挑戦の糧になるからです。
フラットでお互いを認め合う組織だからこそ、現状維持ではなく前進を何よりも大切にする雰囲気がデジタルパートナー事業部には浸透しています。村竹とチームの関係性も非常にフランクで、メンバーは「業務上のミスで自分を責めて落ち込むことがあっても、村竹さんから責められたことはない」と全幅の信頼を置いています。
「デジタルパートナー事業部、略してDP事業部は、『D:Dreamer』であり『P:Pioneer』でありたい」と話す村竹。グローバルをターゲットに、リテール業界、さらには世界のバリューチェーンを変革するという大きな夢に向かって動いています。