社会変化を受け、変革に向かおうとする全銀システム
新しい決済手段の登場やキャッシュレス化の急速な普及、FinTechをはじめとする技術革新によって、決済領域には大きな変革の波が押し寄せてきています。異業種からの決済領域への参入も続く中、日本の決済のインフラとして今まで以上の責務を担っているのが「全銀システム」です。
全銀システムは、全国の金融機関をオンラインで相互接続するインフラ。一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が資金決済法に基づき、内閣総理大臣から資金清算機関の免許を受けて運営するシステムで、日本国内のほぼすべての金融機関を網羅しています。1973年の稼動以来、NTTデータがシステムの開発・保守を担い、大きなトラブルを起こすことなく安定的に日本の金融市場を支えてきたという歴史を持ちます。
約50年という歴史を持ちながらも、社会変化に対応すべく、変わろうとしている全銀システム。全銀ネットの変革に向けた議論を中核で支えているのが、決済ITサービス事業部の全銀統括部 全銀担当である竹村達也です。
NTTデータは全銀システムの稼動当初から現在に至るまで開発・保守を任されてきました。
全銀システムの堅牢性・信頼性の高さは世界的に見ても評価が高く、今まで日本の金融市場の発展を支えてきたことは間違いありません。しかし今、全銀システムのあり方には変化が求められている風潮にあると竹村は語ります。
「安心・安全・安定」は私たち決済ITサービス事業部の使命の根幹であり、全銀システムに関して、今後も同様の役割が求められます。その上で、昨今の決済を巡る国内外の急激な環境変化を踏まえた柔軟かつスピーディーな対応が望まれており、そのために、全銀システム自体がオープンなものに変わっていくことを求められています。私自身、全銀システムに携わる中で、新しいニーズにしっかりと応えていく必要性を肌で感じています。
竹村が変化の兆しを肌で感じている機会のひとつが、全銀ネットが主体となる「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」です。同タスクフォースには、銀行、決済業種関係団体、学識者、NTTデータを含めたITベンダなどで構成されており、竹村もメンバーとして参加し、決済の未来を見据えた全銀システムのあり方について議論を行っています。
現在進行系で金融市場の風景が変わりつつある中、NTTデータはどのように金融の未来を描いていくのでしょうか。竹村のキャリアを振り返りながら、現在の取り組みに迫っていきます。
さらなる利便性向上を。NTTデータならではの価値創出を実現
竹村が全銀システム以前に担当していたシステムは、統合ATMスイッチングサービス。これは銀行間のCD(現金自動支払機)・ATM(現金自動預払機)を相互接続する中継システムです。
NTTデータに入社した竹村は、統合ATMスイッチングサービスの前身に当たるシステムの機能追加や更改プロジェクトに携わり、2004年にサービスインした統合ATMスイッチングサービスの開発ではオンライングループのリーダーとして開発を推進。困難な開発ではありましたが、産みの苦しみと醍醐味の双方を実感できたといいます。
グループ内では処理できない問題が発生した時には、上位層を含めた多くの人たちからサポートしてもらいました。自分で対応できる問題と対応できない問題を理解し、対応できない場合にはプロジェクト全体の問題として迅速にエスカレーションする重要性も理解できました。個人的にも大きく成長できたプロジェクトでした。
苦労は多かったのですが、統合ATMスイッチングサービスをリリースして新聞の1面にニュースが載った時にはとても感慨深かったですね。
現在、他行のキャッシュカードであっても、日本全国ほぼすべてのATMで取引ができるのは統合ATMスイッチングサービスがあるからです。竹村たちの努力は、人々の生活をより便利にするという形で社会に影響を与えました。
さらに2014年には、振込依頼前に振込先名義の正誤を確認できる振込データ一括口座確認機能を追加。今までになかったオンライン連動の仕組みを取り入れ、統合ATMスイッチングサービスのさらなる利便性・安全性向上に貢献しました。
私たちから銀行に対して機能を提案したり、システムの仕様をまとめるなど、さまざまな働きかけを行いました。NTTデータならではの価値が創出できたプロジェクトだと思います。
一方、当時の全銀システムでは24時間対応の検討が始まっていました。そこで竹村は振込データ一括口座確認機能の追加後、全銀システムのシステム稼動拡大を実現すべく、全銀システム担当へと異動しました。
守るべきものを守り、変えるべきものを変える挑戦
2014年当時、政府が成長戦略として打ち出した「資金決済の高度化」や海外の動向を受け、全銀システムは24時間365日送金ができるサービスを目指した検討を開始しました。
2015年から全銀システム担当となった竹村は、システム稼動時間拡大に向けた要件定義からプロジェクトに参画。平日8時半から15時半までのコアタイムシステムに加え、それ以外の時間をカバーするモアタイムシステムを追加するという二段構成により、24時間365日稼動を実現するという構想に向けて動き出します。
全銀システムの場合、当社の直接的なお客様は全銀ネットになるのですが、その先にいるのは各銀行です。私は担当営業と一緒に銀行のシステム担当者と会話をしたり、各銀行によって異なる認識や要望をまとめながら仕様を固めていきました。統合ATMスイッチングサービスと同様、関係者が多岐にわたります。
この業務は、個人的には非常に楽しく、やりがいがありました。企画段階では検討が思うように進みませんでしたが、詳細なスケジュールを組み立ててお客様と合意できた途端、関係者の方々全員が同じ方向を見て一気に動き始め、予定通りに要件定義を完了できたからです。お客様と一体になったプロジェクトの動かし方について、身をもって理解できた出来事でした。
竹村はこの稼動時間拡大プロジェクトに企画から開発まで一貫して携わり、2018年に無事にサービスを開始。24時間365日の送金や決済が可能になり、日本の決済インフラが大きく前進しました。
そして2019年からは第7次全銀システムの更改プロジェクトに携わり、現在では同システムの維持・機能追加を行っています。一方で、次の更改予定はまだ先の話であるにも関わらず、既に次期全銀システムの変革に向けた議論も動き出しています。
その背景には、キャッシュレス化の進展や決済方法の多様化をはじめとする近年の社会変化や金融業界の新規プレーヤーの参入などがあります。
次期全銀システムでは、近年のテクノロジーの進化に合わせた外部からの変革要請が強く、新規参入の決済事業者やFinTech企業を含めた多岐にわたる関係者に対して、全銀システムとしてのあるべき姿を打ち出し、形にしていくことが求められています。
現在の竹村のミッションは、全銀システムの企画・営業チームを率いて、次期システムのあるべき姿を検討すること。約50年という安定稼動の実績を持つ全銀システムに携わってきたベンダとして、「変えていくもの」「変えずに守っていくもの」をしっかりと定義することが重要であると竹村は考えています。
そしてシステムだけでなく、全銀システムに携わるNTTデータ自身も変わることが必要な時期に来ていると竹村は感じているそうです。
NTTデータは、歴史のあるシステムを「守る」という点では本当に頼りになる優秀なメンバーたちが支えてきました。一方で、社会変化や新しい技術や情報があふれている状況を踏まえ、システム自体がオープンなものに変わっていこうとしている中、私たちも外部のパワーを最大限取り入れることで今の組織の良い部分とのベストミックスを作り上げ、時代の変化に挑戦していく必要があると考えています。
社会における金融とは、人間でいう大動脈のようなものであり、けっして止まることは許されません。その中核と呼べる全銀システムを「変えていける」という点で、今はまたとないチャレンジの好機であると竹村は語ります。
日本の決済インフラを根幹から支える全銀システムの変革に「自分ごと」としてチャレンジできる。NTTデータでなくては、そして、今でなくては経験しがたいことだと思います。未来を見据えた際に全銀システムはどういう姿であるべきなのか。まだ答えがない問題ですが、NTTデータには全銀ネットとともに、全銀システムを新しい形に変えていく責務があります。
これから、未来の決済はどのような姿に変わっていくのでしょうか。竹村たちは、自らも変化しながら、日本の決済インフラの変革に向けて挑戦を続けていきます。