システム刷新に留まらず、若手にも魅力的なプロジェクトを目指す理由
地域社会を支える金融インフラであり、国策の担い手でもある政府系金融機関は、以前から金融業界をリードする形でシステム導入を進めてきました。そして、その発展を長年にわたってご支援してきたのが、NTTデータの郵政・政策金融事業部です。
数十年前に誕生した基幹系システムを軸に、社会的ニーズの変化や技術革新に合わせて改修と機能追加を重ね、安定した金融システムを提供してきました。しかし「この開発の歴史こそが大きな課題を生んでいる」と舘は話します。
レガシーシステムというものは、各時代のエンジニアたちが「これが最適だ」と思って作りこんできた、知恵と技術の集合体です。しかし、継ぎ足し継ぎ足しで拡張してきた結果、システムのそこかしこにブラックボックスが生まれていることも事実。
さらに古い技術が生き続けていることで、システムの保守にも職人技が求められ、若手への技術継承も難しくなっています。お客様はこうした状況に強い危機感をお持ちでした。今は大丈夫でも、将来的にシステムの安定稼働に支障を来せば、社会インフラとしての役割を果たせなくなるという重大なリスクを秘めているからです。
そこで2022年7月、10年先を見据えた長期的ビジョンのもと、お客様である政府系金融機関において「モダナイズ」「クラウドリフト」「デジタル化の推進」という3つの施策がスタートしました。まずはオンプレミス環境からクラウドに移行し、足回りを整えた上で基幹系システムや業務アプリケーションの革新を目指します。その上で舘は、“若手にとっても魅力的なプロジェクト”にしたいと考えています。
お客様も、若手エンジニアの育成や人財の新陳代謝の重要性については共通認識をお持ちで、「将来にわたる運用も考えて、良い資産を残していきたい」とおっしゃっていただいています。
それに魅力的なプロジェクトを作っていくことは、組織を率いる私の責務の一つ。エンジニア心をくすぐるような仕事があれば、必然的に意欲的な人財が集まると思いますし、結果としてお客様にとっても一番価値が高いものを提供できると信じています。
実際、すでに本プロジェクトではクラウドサービスによる非対面チャネルの実現やデータマネジメント/アナリティクスによるデータ活用など、様々なデジタル技術の導入計画が進行しています。さらに基幹系システムなどはウォーターフォール型の開発体制で作り込む一方、顧客フロントのアプリケーションはローコード開発を導入して開発スピードを高めるといった、開発プロセスの変革も検討。フレキシブルな発想で、新たな価値の創出を目指します。
コロナ禍で再認識した、セーフティネットの重要性
今回のプロジェクトが始動した背景には、お客様とNTTデータが一体となって難局を乗り越えた体験があります。ターニングポイントとなったのは、2020年4月に発出された緊急事態宣言でした。
コロナ禍が本格化する中、政府系金融機関が先頭に立ち、全国の中小企業や零細企業に対して事業資金を緊急融資する取り組みがスタートします。しかしこの時、全国の事業者から問い合わせが殺到したことで、通常の約10倍のトランザクションが発生。これはシステムの許容限界を完全に超える数字です。この「想定もしていなかった」状況が連日続きました。
万が一システムが止まれば緊急融資ができなくなります。この未曽有の事態に、お客様は休日返上で窓口対応に当たり、NTTデータは有識者を集結させて昼夜を問わずシステムを止めることなく運転することに注力するなど、二人三脚で事業者支援に取り組み続けました。
正直、お客様も我々も、あの試練は人力で乗り切った感覚が強いです。現行システムへの危機感が生まれ、「万が一また有事が起こった時には、デジタルの力で事業者を支えるセーフティネットの役割を果たしたい」という想いを強くするきっかけにもなりました。
舘には、今も忘れられないお客様との会話があります。それは、「私たちが相対する零細企業の経営者は、本当に孤独で頼れる存在もなかなかいない。デジタル化なんて全然、という方も少なくありません。そうした方々が、私たちを相談相手に選んで来てくれるんです」という内容でした。
お客様の言葉を通して、エンドユーザーの姿が明確になりました。そのおかげで、私たちが実現すべきミッションとは、お客様のモダナイゼーションをご支援することで、その先にいらっしゃる事業者を支え、経営の底上げに貢献することなんだと再認識できたのです。
日本全体の事業会社のうち、中小企業が実に99%以上を占めると言われています。その1社1社への貢献を目指す挑戦は、「日本経済の活性化」という大きな成果につながり、NTTデータにとっても重要な意味を持ちます。
しかし、単にシステムやアプリケーションを刷新するだけでは、この一大ミッションは達成できません。舘が目指すのは、非対面チャネルの構築や融資スピードの向上をはじめとする「業務のモダナイゼーション」まで踏み込んだ先進的なご支援です。
こうした取り組みは金融業界をリードするもの。また、社会全体でも多くの企業で既存システムの高度化やDXが求められる「2025年の崖」が迫る中、モダナイゼーションのロールモデルとしても大きな価値を秘めています。
ミッションに共鳴する仲間とともに、大きな目標の実現へ
舘は本プロジェクトの開発責任者を務めながら、担当部長として組織開発にも注力しています。目指しているのは、多様な人財が集い、多彩な意見・価値観・文化が柔軟に混ざり合う「変化に強い組織」です。
そこでお客様に企画・開発・保守と縦のラインで密着して支援する組織に加えて、横の連携を強化するためにプロジェクトを横断して技術支援する専門チームを新設。テクニカル・グレード制度(※)の適用者でもある技術に秀でたメンバーをリーダーに据え、各プロジェクトに横ぐしを通すとともに、各チームが培ってきた知見やノウハウを共有する仕組みを整えます。
※テクニカルグレード(TG)制度。2019年に新設された、高度な専門性による貢献を主軸にした人事制度。専門領域はプロジェクトマネージャーやITスペシャリスト、データサイエンティスト、コンサルタントなど多岐にわたり、職務や役割、社会への貢献度の大きさによりレベリングされ、社内で認定を受ける。
ノウハウはポータブルにしつつ、人財一人ひとりの担当分野も固定化し過ぎず、チーム間の異動も定期的に行うことで、誰もがフラットに交流・連携できるマトリクス型の組織を作りたいと思っています。
こうした組織づくりのアイデアは、舘自身の実体験がベースになっています。舘は若手時代、事業部内外のあらゆる高難度プロジェクトを技術支援する専門チームに所属。全社から集まったスーパーエンジニアとの協業経験はスキルアップにつながるとともに、さまざまなカルチャーに接する機会にもなりました。そして、「自分は当たり前だと思っていても、他所では当たり前ではない」と実感し、視座の高まりにつながったと言います。
実は先日カットオーバーしたプロジェクトが、想定以上に高難度だったんです。そこでボトルネックの解消のために各所に協力を仰ぎ、エンジニアたちに応援に来てもらったことがありました。”
そのサポートそのものもありがたかったのですが、結果的に多彩なカルチャーをチーム内に持ち込むことにつながり、メンバーたちの発想や視野が大きく変わるきっかけになりました。正直、大変なシーンもありましたが、メンバーからは「いい財産になった」という声も聞いています。
お客様の事業パートナーとして深い関係を構築し、中小企業のセーフティネットを支え、経済活性化に貢献する。その挑戦はまだ始まったばかりです。舘は力を込めて語ります。
我々の担当部署のミッションに、本気で共感してくれる人が仲間になってほしい。私たちと同じ想いで、お客様や中小企業に対して価値貢献がしたいと思ってくれる方と一緒に仕事がしたい。それが今一番願うところです。
新しい仲間との出会いも推進力に変えて、舘はこれからもモダナイゼーションという一大プロジェクトに臨んでいきます。