地方銀行5行の期待がかかる、オープン基盤系システムへの更改プロジェクト
――MEJAR更改プロジェクトにおける皆さんの役割と関係を教えてください。
私たちが所属する第二金融事業本部 第三バンキング事業部では、地方銀行5行が共同利用している勘定系システム『MEJAR』をメインフレームからオープン基盤に更改するプロジェクトに取り組んでいます。私はPMOとして、人見さんは基盤のオンライン制御部分のチームリーダーとして、そして吉田さんは同じく基盤のバッチ運転制御部分のチームリーダーとして、それぞれの役割を担っています。
MEJARのオープン化にはPITON™(ピトン)が使われています。PITON™とは、NTTデータが提供するメインフレーム上に構築されたシステムをオープン化するためのフレームワークです。私たちは全員、このプロジェクトに参加する前にNTTデータの技術部門の集約組織である技術革新統括本部で PITON™の研究開発に関わっていました。
私たちがPITON™の研究開発に配属されたのは、将来的に本プロジェクトに配属することを見越してのことだったと聞いています。そのため、PITON™の業務に携わる際にはオープン化を実現するための各種機能について「これはMEJAR更改プロジェクトにこのように活かせそうだ」と考えながら取り組んでいました。
――MEJAR更改を見越して研究開発に人員配置をされるとは、プロジェクトの重要性がよくわかります。皆さんの役割を、もう少し詳細に教えていただけますか。
私は、オンライン制御の中でもATMでの残高照会や入出金などの取引に使われている機能の部分を担っています。その機能をPITON™を利用してオープン基盤上で実現するのが私のミッションです。
現状のメインフレーム上で動いている処理を移行後のオープン基盤で同じように実現させるという点で、人見さんと役割は同じです。私の担当はバッチ運転制御の部分で、バッチ処理を回すための土台をオープン基盤で整えるのがミッションです。
本プロジェクトには、人見さんや吉田さんの担当されている基盤制御機能の開発に加え、勘定系業務機能の開発、その他周辺系のシステム更改など多岐にわたるチームがあります。私はPMOとして、それぞれのチームと連携を取り、進捗管理や品質管理などのマネジメント業務の標準化や、チームを跨いだ課題の解決を担っています。また、プロジェクトの状況を見える化したうえで、社内・社外に向けて説明を行うことも私の役割です。
――大規模なプロジェクトなだけあって、多くのチームが携わっていらっしゃるのですね。地方銀行にとって、オープン基盤化は熱度の高いトピックと伺いました。
プロジェクトの規模は大きいですね。NTTデータと協力会社を合わせて、社内有数の規模の社員、協力会社社員が携わっています。
お客様からオープン基盤化が強く望まれていることは日々感じています。メインフレームを使い続けることによるベンダーロック状態が望ましくないのもありますが、一番の理由はコストダウンでしょう。地方銀行は少子高齢化、地域経済の伸び悩みなどの影響を少なからず受けていますので、勘定系の維持管理コストを縮小し、よりビジネスモデルの転換に投資をすべきだと考えていらっしゃいますね。
維持管理コストを削減した分、ビッグデータの活用に投資をしたいという風潮も強いです。お客様のデータベースには膨大な量のデータが蓄積されています。それらを分析し有用に利用できれば、新しい活路が生まれるかもしれませんから。
「100点」が不可欠なオープン基盤移行の困難と達成感
――MEJAR更改プロジェクトを進めるうえで、重視していたことや困難だったことを教えてください。
まさしく、「100点を目指すのではなく、100点を達成しなければいけない」というところです。
システムを別物に置き換えているわけですので、更改前後の動作には若干の違いが生まれます。その違いをゼロにするのが私たちの腕の見せどころです。どんなシステムのオープン化であっても100点の完璧な仕事を目指すべきですが、社会を支えるインフラストラクチャーである金融系システムは特に100点の出来でなければいけません。一般的なオープン基盤化であれば許容されることも、金融系システムであれば許容されません。「100点に近づける」のと「100点にする」の差は大きいな、と実感しました。
私の担当分は「前例がない」ことが大変な部分でした。水野さんがお話した通り、100点の状態でMEJARを更改しなければならないため、更改前後のバッチシステム処理が変わらないようにマイグレーションする必要があります。しかし、メインフレームで実行されている処理をオープン基盤上で実現するための方法が分かりませんでした。メインフレームに詳しい方、オープン基盤に詳しい方はそれぞれいらっしゃるのですが、両方に精通している方がいませんでした。なので、私が翻訳家になろう!と決めました。
――メインフレームからオープン基盤への移行に必要な処理の書き換えのルールブックをご自身で作ったと伺っています。
試行錯誤を重ねたり、それぞれの分野に詳しい方に質問しに行ったりして、変換のルールブックを作り上げました。そのルールブックをチームに展開することで、無事にバッチ処理を移行することができました。
難易度が高い分、スペシャリスト思考やこだわりを持って、しっかりとやり遂げたいプロジェクトだとも感じて取り組んできました。
過去の事例がない中で生みの苦しみを味わったという点では皆さん共通しているかもしれません。私の場合は、品質管理の基準をイチから作り上げる必要がありました。
確かに!どのように考えて基準を作りあげたのか、私も興味があります。
一般的なプロジェクトであれば、品質管理項目を作る際に、前例をそのまま適用し、過去から蓄積した統計情報を基準にして作るのが通例です。しかし、MEJAR更改プロジェクトは、社会を支える大規模な金融システムをオープン基盤に更改するという前例のないプロジェクトです。そのため、前例をそのまま適用するわけにはいかず、どうやって品質を評価すべきかを考えなければなりませんでした。
――品質管理のためにまったく新しい基準を作らなければいけないことは珍しいですね。
メインフレームからオープン基盤への更改自体の前例が少ないですからね。私は今まで経験したことがありませんでした。これまでの経験をベースにしながら、「品質管理とは何を確かめればよいのか?」「どのような指標で管理すれば品質が良いと言えるのか?」というような、品質管理の本質を自らに問いかける必要がありました。
私の場合は、技術面とは別に、そうした苦労を共にする皆さんのチーム管理について学ばせていただきました。当時は自分の中で管理手法が定着していなかったので、周りの方に質問しながら経験を積んでいきました。
周りから見ていても、人見さんは、周囲を巻き込んでいくのがとても上手だと思います。困難な課題でも協力しながら課題解決を進めていると思います。
私一人では分からないことだらけだったので、チーム内外を問わず幅広い方に協力を仰ぎました。例えば、PITON™の設計について考えなければいけないときには、設計思想に詳しい方を探して相談するなど、専門家を探して連携することを積み重ねて役割を果たしてきました。NTTデータにはさまざまな分野に精通したスペシャリストがたくさんいますので、チームワークを駆使してあらゆることを成し遂げることが可能な組織だと思います。
大型プロジェクト完遂は目前。道中で感じたNTTデータの強みとは
――オープン基盤化されたMEJARの試験開始は目前と伺っています。
先日、結合試験のフェーズを終えたところです。これから実際にお客様にも試験に協力いただきます。オープン基盤更改後のMEJARを試用いただき、2024年のリリースに向かって確認を行っていきます。
先ほど私がお話しした「品質の良し悪し」の答えを出すフェーズといえますね。今回の移行で心がけたのは、お客様の業務を変えないという設計です。通常、システムが変わると、お客様の操作も変わるため、混乱が起こってしまいます。それを避けるため、今回の移行ではお客様側の操作がほぼ変わらないような仕様設計をしています。
――お客様の業務にまで入り込むNTTデータだからこそ実現できる設計思想だと言えそうですね。
そうですね。私たちは今までのMEJARを作り上げてきた会社ですから、更改プロジェクトを任されることは順当と思われるかもしれません。ですが、お客様からはNTTデータにシステム更改作業を任せるべきかフラットに検討されたと聞いています。
最終的に私たちに任せていただけることになったのは、技術力をもって実績を出し続けることで、お客様との信頼関係を築き続けてきたからではないかと思います。その期待に応えなければいけないと感じますね。
MEJAR更改プロジェクトを通じて感じたのは、一貫して「助け合おう」という雰囲気が強いこと。基盤チームとして働く中で、お互いに協力し合って課題を解決していく場面が多くありました。チームワークを発揮し、前例のないことを成し遂げられる組織だと感じています。
本当にそうですね。私にとっても周囲の助けがプロジェクトを遂行するための鍵でした。私は2021年に出産をし、子育てをしながら開発現場に戻る決断をしたのですが、最初はとても覚悟が必要でした。ですが、状況に応じてチームメンバーの協力を仰ぐことで、仕事と家庭を両立できています。例えば、子どもが発熱してしまったときには作業を変わってもらうようお願いする、通信機器を持ち込めないマシン室の外でできる業務を増やして家庭と連絡がすぐ取れる状態にするなどです。チームメンバーの力なしには、仕事と家庭の両立はできなかったと思います。
吉田さんに限らずMEJAR更改プロジェクトは女性の方の活躍に支えられており、NTTデータ社員からも5、6名ほど参画しています。産休を経て復職している方もいらっしゃいますね。
前例となる存在がいるのはありがたかったですね。ただ、働き方や家庭の事情はそれぞれ異なります。私は自分自身のロールモデルを自分で作ろう!という気持ちで育児と仕事を両立させています。
――さまざまな人財が活躍する第三バンキング事業部に求められている人財はどのような方でしょうか。MEJAR更改プロジェクトをここまで推進してきた皆さんだからこそ感じることを教えてください。
共通しているのは、能動的に動ける方ではないでしょうか。割り当てられたことをこなすだけで満足せず、業務範囲に制限も設けず、さまざまなことに挑戦していきたい。そんな貪欲さをお持ちの方が事業部の求めている人財です。意欲の分だけ、多くの成長機会が与えられると思います。
ITとは違う側面ですが、地方銀行に勤めていた経験をお持ちの方も需要が高いですね。金融業界の課題や銀行の業務にも精通している方は、私たちのチームでいう“お客様の顔が見える存在”です。私自身、経験者採用で入社した元銀行員の方にプロジェクトで大変お世話になりました。お客様が喜ぶ提案ができるという外向きの面と、金融業界の業界仕様をチームに共有するという内向きの面、両方で価値を発揮していただけるはずです。
当社の心強いところは、頼れば上長やチームメンバーが応えてくれる組織だということ。困ったときには手を差し伸べて成長させてくれますし、互いに学び合える環境があります。前向きな姿勢があれば、IT業界経験の有無に関係なく成長できると思いますね。
—
成功事例を「なぞる」のではなく「つくる」というフェーズを経験した皆様のお話からは、能動的に働きかければ快く応えてくれるチーム風土がプロジェクト成功に重要であることがうかがえました。個々の技術力があること、その力を最大限発揮できる風土があること。その2本柱が揃ったシステム開発チームが、業界が抱える大きな課題を解決するために必要とされています。