銀行の店舗にも訪れるDXの波。営業店システムの変革の難しさとは
――第三バンキング事業部のミッションと皆さんの担当業務について教えてください。
第三バンキング事業部は、地方銀行向けの共同利用型システム「MEJAR」の開発・維持を行っています。その中でも私たち3人は全員、銀行の店舗窓口にある営業店システムをメインで担当しています。
営業店システムとは、銀行店舗の窓口にて、主に通帳や現金などの現物が必要な手続きを職員が処理する専用端末です。NTTデータは豊富な技術的知見をもとに営業店システムを構築し、その安定稼働を行ってきたという実績があります。そして現在は、次のシステム更改に向けた提案活動も行っているところです。
――銀行の店舗運営において欠かせないシステムなのですね。現在は多くの業界でデジタル化が進んでいますが、銀行の営業店システムは今、どのような状況にあるのでしょうか。
まさしく営業店システムにもDXの波が押し寄せています。銀行の事務手続きに合わせて構築された営業店システムは、エンドユーザーである個人の利用者と銀行をつなぐ重要なチャネルですが、インターネットバンキングなどの非対面チャネルの利用増加、コロナ禍などの変化を受け、システムのあり方自体が問われるようになっています。
しかし営業店のDXはそう簡単ではありません。その理由のひとつは、銀行業務に現物を扱わざるを得ない環境があることです。銀行の窓口業務では、現金や印鑑、通帳などの「現物」を扱う機会が多く、それらを処理するシステムが求められます。紙や印鑑をなくしてデジタル化しようというのは、たしかに世の中の潮流ではありますが、銀行の店舗にはご高齢の方もお越しになる中、いきなり現物をなくすのは現実的ではありません。
特に銀行業務における「現物」には、印鑑などで照合して本人確認を行った上で取引を行うという重要な意味があります。利用者が手ぶらで店舗を訪れた場合に、どのように本人であることを証明するのか。本人確認のプロセスの構築は慎重に考えるべき部分です。
そうですね。とりわけMEJARを共同利用している5行はすべて地方銀行であり、都市部だけでなく、地方も営業エリアに含まれます。地方の店舗では印鑑などの現物処理を必要とする高齢の方も多くなります。比較的人口の多い都市から少子高齢化が進む市町村まで、幅広い地域特性の店舗や利用者に受け入れられる窓口業務とは何か。エンドユーザー視点を忘れてはなりません。
――地方銀行が利用する営業店システムだからこそ、他の業界とは違い、大胆な変革が難しいのですね。そのような中で、どのような変化の兆しが生まれているのでしょうか。
営業店システム特有の変革の難しさはお伝えした通りですが、だからと言って変わらなくてもいいというわけではありません。銀行のその先にいるお客様と、継続的かつ良質な信頼関係を創出していくために、「変わらなければいけない」という課題意識は、すべてのお客様が共通して持っていらっしゃいますね。
その通りです。新たな方向性を模索しないといけない中、お客様の要望を聞いてシステムに落とし込む、という従来のやり方ではなく、お客様と一緒に相談しながらシステムのあるべき姿を描き、新しいソリューションを提案していくという、コンサルティングに近い役割が求められるようになっています。業務効率化に閉じず、新たな銀行体験を提供するにはどうしたらよいか、営業店の未来を変える新しい形を提案できるよう、取り組んでいます。
お二人が話した通り、NTTデータが果たすべき役割は非常に難しいものになりつつありますが、お客様が求めるシステムを高い品質で提供してきたという今までの実績があるからこそ、未来に向けた話ができているとも言えますね。NTTデータ社内でも、デジタルの非対面チャネルに強みを持つ別部署と連携するなど、第三バンキング事業部内にとどまらない議論が始まっています。
銀行のチャネル全体を見据えながら、次世代の営業店システム像を描く
――次世代の営業店システムを実現するために、NTTデータはどのようなことにチャレンジしているのでしょうか。
これまで私たちは営業店システムという領域の中で機能追加を行ってきましたが、その中だけに閉じていては新しい営業店システムの姿は描けません。今後は、営業店だけでなく、銀行のチャネル全体を見据えながら、営業店システムのあるべき姿を模索していくことが必要になります。
明確な正解がない中で、自分たちが熟考した考えをお客様に提案しシステムのあるべき姿を模索していくのは、とても難しいチャレンジです。ですが、私自身としては同時に面白さも感じています。まだ実現していないからこそ、さまざまな可能性があるとも言えるのですから。
次世代の営業店システムを描く上で鍵になるのは、やはり営業店の業務を深く理解することだと考えています。経営上の課題から事務手続き上の課題まで一貫して理解し、エンドユーザーである利用者目線に立って改善策を提案していくことが必要です。
その通りです。業務理解とエンドユーザー目線の獲得は、まさに今私たちが力を入れているところです。いくらシステムに関する豊富な知見や実績があっても、業務を理解し、エンドユーザー目線に立たなければ次世代の営業店システムは描けません。まずは自分たち自身の考え方や姿勢から変えていく必要があります。
――銀行が新しい店舗のあり方を模索する一方で、NTTデータとしても新しい発想が求められているのですね。
はい。ただし、今の営業店システムもここにいる2人をはじめとして苦労しながら作りあげてきたもので、お客様も含めた多くの人たちの想いがこもっています。愛着はあるとはいえ、それにしがみついていては、新しいものは生まれない。率直に、2人は今どんな気持ちですか?
名残惜しさがないと言ったら嘘になりますね(笑)。しかし中長期的な視野に立ち、銀行のチャネル全体を見据えて考えれば、今までとはまったく違う営業店システムに変わるべきであることは間違いありません。スマートフォンの登場から短期間で社会が変わったように、変化に対応するためには、過去にとらわれない大胆なチャレンジが必要だと考えています。
あえて極端な言い方をしますが、私は既存のシステムにまったくこだわらなくてもいい、と思っています。イノベーションの芽を阻害するようであれば、きっぱり捨ててもいいと考えているくらいです。「イノベーションのジレンマ」を乗り越えるためには、それくらいの気持ちが必要だと思います。
なるほど。一方で営業店システムを利用するのは地方銀行の方々ですから、私たちだけが「変えよう」と気持ちを奮い立たせても意味がありませんよね。既存の営業店システムについては、お客様自身も愛着を持っていたり、既存システムを土台にして事務手続きが構築されているなど、変えることに対する抵抗がないわけではありません。
はい。さらに言えば、MEJARは5行の地方銀行が共同利用しており、お客様が単独ではない、という特徴もあります。DXの取り組み状況は各行によって違い、営業店システムの更改に対する反応も銀行によって違います。各銀行の個別の状況を理解しながら、次世代営業店システムのメリットをしっかりと伝えて変革を後押しするなど、お客様の状況に応じた対応も重要です。
エンドユーザー目線を持ち、「一人称」で幅広い領域に挑める
――第三バンキング事業部で営業店システムに携わるやりがいについて教えてください。
営業店システムはそれなりに大規模なものではありますが、かといって勘定系システムほどには大規模ではない、という規模感の特色があります。そのため、上流工程から開発、基盤、プロジェクトマネジメントなど、すべての領域を若いうちから「一人称」で実行できるところに独自のやりがいがあると思います。
全国に足を運び、現地でシステム稼働に立ち会うなど、自分の手で最後まで見届けられるという喜びがありますよね。また、営業店システムではお客様との直接の接点も多く、早い時期からリーダーなどのポジションを任される機会もあります。スピーディに幅広い経験が積めるのは、営業店システムならではの魅力と言えそうです。
はい。システムのライフサイクル全体に関わることができるのは営業店システムに携わる魅力ですし、一つひとつの難しい課題を紐解いていって、システム更改という局面を無事に迎えられた時の達成感はひとしおです。
開発という立場からすると、特にシステム更改のタイミングの喜びは大きいですよね。銀行のお客様とも苦労を共有しながらプロジェクトを進めていくので、お客様と一緒に喜びを分かち合えるのもこの仕事の魅力だと思います。
――お客様に伴走しながら「一人称」で幅広い領域を担えることが大きな特徴なのですね。一方、営業店システムに携わる上では、どのような姿勢が求められますか?
やはりエンドユーザー目線だと思います。私自身、利用者としていろいろな銀行の店舗に口座を作りに行って、どんな手続きがあるのかを実際に体験することもしています。実際に店舗でサービスを受けてみると、銀行によって特色が異なることも身をもって理解できました。エンドユーザーの立場に立つと、今までにない発見もあります。
同感です。エンドユーザーという立場ではなくても、実際に店舗を訪問させてもらうと多くの気づきがあります。店舗で実際の手続きを見て、「自分が考えていたことは的外れだった」とショックを受けて、新しい発想につながることもありますね。現場に行くからこそ見えてくるものはたくさんあります。
――次世代の営業店システムを実現するというミッションに対して、皆さんはどのような想いを持って取り組んでいるのでしょうか。
お客様が店舗の様子を私たちに快く見せてくださるのもそうですし、NTTデータに対する期待は大きいと感じています。その期待に応えるべく、営業店システムだけに閉じない広い視野で銀行の業務や課題を深く理解し、営業店システムを通じてお客様の変革を支えていきたいですね。
今、私たちが目指していることは、これまでNTTデータが提供してきた「品質の高さ」とは別のレイヤーにあります。ですが、過去のシステムから脱却することになっても、これまでに積み重ねてきた知見が無駄になるわけではありません。未来を考え、実現していくための財産や武器になるはずです。
過去のシステムにはこだわるべきではないと話しましたが、黒木さんの話には私も同意です。既存の営業店システムにとらわれずに最適な姿を模索するという挑戦は、今までになかった新しいNTTデータの強みを生み出していくことにもなるだろうと思います。
その通りですね。「銀行ではどうして印鑑と通帳が必要なんだろうか」といったエンドユーザー目線の課題意識を持った方に来ていただき、フラットに意見を出し合いながら、一緒に銀行の営業店を便利なものにしていきたいですね。
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MEJARの営業店システムは、銀行の営業店の日々の業務を支え、さらには銀行を訪れる地域の人々の生活も支えています。今回の座談会では、そのシステムを変えることの意義と同時に、変えることの難しさ、NTTデータが果たすべき役割の重さも浮かび上がってきました。橋本、舩津、黒木たちは、未来の銀行を思い浮かべながら、次世代の営業店システムのあり方を模索していきます。