濃密な技術の世界に浸りながら、自らのキャリアを開拓していった
現在、グリーンイノベーション推進室の室長として、自社の環境負荷低減や国内外のグリーンビジネス展開を推進している下垣。まずはNTTデータへの入社時点まで遡り、そのキャリアを振り返っていきます。
修士課程では医療分野にVRを用いる研究を行っていた下垣は、「医療×IT」という軸で貢献できる領域を探し、NTTデータに入社。当時は「自分の専門性を生かしたい」という志向がもっとも強く、将来のキャリアビジョンはさほど明確ではなかったといいます。
最初に配属されたビジネス開発事業本部は基盤系の技術を扱う組織で、オープンソースソフトウェアのチームに参加。今でこそオープンソースソフトウェアは当たり前の存在になりましたが、品質面の課題もあり、ミッションクリティカル領域への適用を前提に考える当時のNTTデータにとっては、すぐに商用システムへ導入できるものではありませんでした。いわば「明日のITシステム」を考えるようなR&D機能を備えたチームだったともいえます。
「高度な技術力を持つエンジニアが集まった組織でした」と、当時を振り返りますが、そんな下垣自身も「尖った」志向性の人物だったことがうかがい知れます。
当時は大きな組織の歯車にはなりたくないと考えていました(笑)。せっかく技術を扱うなら、難易度の高い分野で修行を積みたいと希望を伝えていたところ、技術的にチャレンジングな部署への配属になりました。
入社3年目にはNTTデータ先端技術株式会社に出向。その1年後にはNTTグループ各社からオープンソースソフトウェアのエンジニアが集められたNTT OSSセンタの立ち上げメンバーとして参加。そこではNTTグループ全体の技術支援を行い、NTTグループのミッションクリティカルシステムをオープンソースソフトウェアで構築する最初期の業務に携わりました。NTTグループ内でのネットワークも築くことができました。
初期配属から一貫して濃密な技術の世界に浸っていた下垣ですが、優秀なエンジニアたちに囲まれながら経験を積むうちに、徐々にキャリア観に変化が生じていきました。
ずっとミドルウェアを作る側で仕事をしてきましたが、世界レベルのエンジニアたちと接していると、上には上がいると感じるようになりました。NTT OSSセンタにもレベルの高いエンジニアが大勢いて、このまま周りと同じように作る側で技術を追求していくよりも、優秀なエンジニアたちの協力を得ながら技術を適切に使ってもらう側の立ち位置にシフトした方が良いのではないかと考えるようになりました。
そして8年目、出向からの復帰で基盤システム事業本部へ異動。ビッグデータ活用のための基盤であるHadoopのエンジニアとして働き始めます。それまでPostgreSQLを軸にミッションクリティカル性に重きを置いていた下垣からすると、Hadoopでは今までの常識にとらわれない点も多く、新鮮さと戸惑いの両方を感じたそうです。
当時下垣は、お客様先への導入支援を担当し、大手インターネット企業のお客様先に常駐していた時期もありました。お客様の一員として数々の有名サービスにも携わり、自分の作ったものが世の中の多くの人たちに使われる醍醐味も実感することができました。
さらには、スタートアップ企業と連携した新規ビジネスの立ち上げや、技術系イベントの企画や運営、書籍の執筆など、会社の枠を超えて精力的に活動の幅を広げていきます。外向けに発信を行って、その反応を取り入れるというプロセスは、現在のグリーンイノベーション推進室の活動でも生かされているそうです。
エンジニアから人事への越境。そして「グリーン」との出会い
志向性や業務の移り変わりを経ながらも基本的には技術に軸足を置いてきた下垣のキャリアにおいて、大きな方向転換になったのは人事本部への異動です。
これからもNTTデータで働き続けていく上で、なぜNTTデータで働いているかと考えた時に、エンジニアとしてのキャリアを前提として、グローバルに「幅出し」もしている会社をコーポレート目線で見られる人事という仕事は、キャリアの選択肢として面白いと思いました。
エンジニアチームのマネジャーを経験していた下垣は、自らの実体験からも人財を相手にすることの難しさを感じていました。当時、下垣がマネジメントしていたチームでは難しい案件にやりがいや喜びを感じるメンバーが多かったため、メンバーが納得できるような案件にアサインし、各人の得意分野を伸ばすことを意識していたそうです。
しかし、採用責任者として人事本部に異動してみると、これまでとはまるで違う世界が待っていました。
今までエンジニアとして培ってきた強みがほとんど生きない世界でした。それまでは技術を軸に、自分が詳しく理解している世界で働いてきましたが、BtoBの会社にいながらも採用では一人ひとりを見るというBtoC的な側面もあり、何も持たずに丸腰で飛び込んだような感覚でした。
このポジションで、新卒学生の採用や経験者採用拡大のため、熱量を持ってNTTデータの魅力を伝えるという役目を担いました。また未知の世界だったとはいえ、社員や候補者、関係者を合計すると数万人が関わる採用活動のオペレーションを一手に握るという責任、そのオペレーションを改善・拡大していくことは、急速に変わりゆく採用市場への対応で苦難が多かった一方で非常にやりがいのある仕事でした。
とりわけ、新型コロナウイルス拡大を受けて急ピッチでオペレーションを変えていった時期は、先の見えない中でありながら影響範囲の大きい判断をスピーディに行ったという点で、今となっては良い経験になったと振り返ります。
そして人事本部経験後、再び技術の世界に戻り、技術開発本部の先進コンピューティング技術センタ センタ長に着任します。幅広く新しい技術をターゲットにしたこの組織では、下垣が過去には関わっていなかった量子コンピュータへの関与もありました。それまで関わっていなかった量子コンピュータへの理解を深めながら、新しい知識を得ることが好きなのだという自分の性格を再確認しました。
そして、下垣がこの時に出会ったのが、現在のグリーンイノベーション推進室につながる、「グリーン」というテーマでした。
次の世代のために世の中をより良くしたいという、視座の高まり
気候変動やカーボンニュートラルへの対応はきわめて重要なテーマではあるものの、当時、技術開発本部としてどのように取り組みを進めていくべきか、方向性は明確には定まっていませんでした。そこで下垣には、技術開発本部におけるグリーンの取り組みの推進というミッションが与えられます。
ITとして関わることができる領域の検討を進める中で、技術開発本部だけではグリーンの取り組みを本格化させられないことが明らかになっていきました。そこで、事業戦略室を交えて議論を重ねた結果、当時コーポレート部門の責任者、現NTTデータの社長である佐々木の指示で、環境領域に特化した新たな組織として、グリーンイノベーション推進室を新設することになり、下垣はその室長として、先進コンピューティングセンタへの着任からわずか3ヶ月でコーポレート部門に復帰します。
グリーンイノベーション推進室への着任以降、それまで技術部隊としてグリーンの取り組みを見ていたところから、グリーンと名のつくあらゆる取り組みについて責任を持つようになりました。とてつもない範囲の広がりには、驚きさえ感じたほどです。
グリーンイノベーション推進室が対象とする範囲の圧倒的な広さゆえに、下垣自身も活動の領域を大きく広げることになります。グリーンという切り口で企業戦略を考える立場として、全社を巻き込んだ推進体制の立ち上げ、CO2排出量削減のための具体策の検討、各種イニシアティブとの関係構築、情報開示や投資家との対話など、これまでに経験していなかった業務も担当するようになりました。
会社として向かうべき方向性に自分の想いを乗せて、かつこれまでの経験や知見、さらには人脈まで含めて自分の能力を総動員して取り組みを進めることには、大きなやりがいも感じているといいます。
さて、ここまで見てきたように、紆余曲折のキャリアを歩んできた下垣ですが、現在に至るまで一貫して変わらないものがあります。それは内面で脈動を続ける「好奇心」です。
量子コンピュータの時以上に、グリーンの分野は新たに学ぶべきことばかりですが、知らないことを勉強するのはいまだに楽しくて。新しいことを学ぶのが好きなんだなと実感しています。
下垣が20年にわたってNTTデータで働き続けている理由も、その好奇心に応えられる環境があったから。ここでの「環境」とは、事業領域の多様性もさることながら、個人の志向性次第で異分野への越境的な異動も受け入れるNTTデータのカルチャーも含まれます。「人財採用やグリーンなど、私にとって完全な新規領域にもアサインしてくれました」と下垣が驚き混じりで語るように、ひとつの会社にいながらキャリアのアップデートを続けられるのは、NTTデータでキャリアを歩む魅力のひとつです。
下垣はそんなNTTデータの環境を十二分に生かしながら、キャリア初期には優秀なエンジニアから刺激を受け、Hadoopを通じてお客様のビジネスに貢献する経験を積み、人財採用、先進コンピューティング技術、そしてグリーンイノベーションと、現在に至るまで絶え間なく新しい分野へのチャレンジを続けています。そして多様な経験を積みながら、下垣の視座も高まっていきました。
サステナビリティは世界的なトレンドではありますが、非常に深刻なテーマでもあります。私のキャリアの当初は、技術的な面白さが大きな観点でしたが、その後のキャリアを経て、それだけではない視点が身につきました。せっかくなら、自分の仕事を通じて世の中を良くしたい、子どもたちや次世代の人々が笑顔で過ごしていくことができるような、活力に満ちた世界にしていきたいと考えるようになりました。
そのような下垣の想いは、「情報技術で、新しい『しくみ』や『価値』を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」というNTTデータグループの企業理念とも密接に連動しています。NTTデータグループはこの企業理念のもと、未来に向けた価値をつくり、さまざまな人々をテクノロジーでつなぐことで、お客様とともにサステナブルな社会を実現していこうとしています。グリーンイノベーションは新しい領域にも見えますが、NTTデータグループ全社として向かうべき方向性でもあるのです。
気候変動は解決困難な問題ではあるものの、NTTデータであればきっとその解決に寄与できるーー。下垣はそう確信しながら、今、グリーンイノベーションの実現という大きなミッションに挑んでいます。