世界情勢を踏まえた課題感の共有とエコシステム実現に向けた仲間作り
コネクティッド、自動運転、AI活用、電動化など、次世代を見据えた挑戦が進む自動車業界。こうした業界変革を包括的に支援しようと、自動車事業部では3つの戦略領域とチームを策定しました。顧客接点領域における新たなカスタマージャーニーの創出を目指す「CX」、コネクティッドデータを活用した社会課題解決・新たな価値創出を図る「MX」、EVの普及とカーボンニュートラルな社会に向けた貢献に取り組む「EX」です。
アカウントセールスの解田は、複数の自動車メーカー、サプライヤー様の担当として、主にNTTデータの先端技術を活用した新規事業の創出に取り組んできました。現在進行中の「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」構築プロジェクトも、大手サプライヤー様と先端技術を活用して自動車業界に貢献できる新たなサービスを共創できないかと模索していたのが、最初のきっかけだったと言います。
さまざまなテーマを検討する中で、当時の業界課題として特に注視していたのが、欧州委員会が新たな規制として検討していた「電池規則」でした。
この規制をクリアしなければ、ヨーロッパ市場で日本車を販売することに大きな制約が発生する。そうなれば当然、日本の基幹産業である自動車業界に重大な影響が出ます。そこで自動車業界に影響力がある大手サプライヤー様と我々NTTデータが連携して課題解決を目指そうと取り組みを開始したのです。
解田はこのプロジェクトの初期中心人物として、両社で取り組む意義や目指すべき仕組みの方向性といった構想を策定し、プロジェクト推進に取り組みます。
初期フェーズでは規則内容も不明点が多く、周辺企業もそこまで具体的な考慮をしていなかった時期に、大手サプライヤーの皆様と日々議論を重ね両社での合意形成に努めていきました。また並行して、両社で検討した課題や解決すべき仕組み・活動について、省庁や自動車メーカーの皆様に対しての提言とご理解をいただく活動を行っていきました。
当社は元々お客様からの要望を伺い、それを仕組みとして実現することを得意としています。そのため、要望が具体的でない状態から、業界横断型で連携した取り組みを構築し、業界の皆様からの理解をいただく過程では非常に難しい場面もありました。
その中で、 “これは何のためにやるのか”“(当社含め)なぜ両社でやる必要があるのか”“それが業界にどう貢献できるのか” といった大義について、時間をかけて大手サプライヤー様と合意形成をし、信頼関係を醸成しながら一緒に活動してきたと言います。
そのような活動を経て、社内幹部を含めた大手サプライヤー両社での合意形成ができ、両社で本件に関わる基本合意書を締結することができました。その後、経産省の補助事業に共同で公募し、採択を受け、検討を開始することができたのです。
業界の課題や取り組む方向性については、当社だけではなし得なかった提案であり、業界にいらっしゃる大手サプライヤー様に多大なるご尽力をいただきました。両社で一緒に課題感を共有し目指す方向性について合意形成しつつ協業活動してきた結果だと強く感じています。
こうして、現在構築中のバッテリートレーサビリティプラットフォームの原型がここからスタートしました。
多角的な視点とナレッジの融合で、業界横断型のプラットフォームを実現
「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」プロジェクトは、その中核を担うデータ連携基盤の開発工程へと移っていきます。現在進行中のこのフェーズにおいて、プロダクトの企画構想・設計などの上流を手掛けているのが、大手自動車メーカー出身の井上です。
前職で電動車の研究・開発を手掛けてきた井上がNTTデータに転職したのは、「何を作るべきか」「どういうものを作るべきか」というモノづくりの視点から新規ビジネスの創出やソリューションの企画に取り組みたかったからだと言います。
特に私が目指していたのは、自動車に関わりながら地球温暖化対策やカーボンニュートラルといったテーマで社会貢献することです。そのためにも国や業界全体を巻き込む規模のビジネスに携われる環境を模索し、NTTデータが一番有力だと思ったのです。
異業種への転身について、「入社するまでは不安しかなかった」と井上は振り返ります。ITやデジタルに関する知識レベルを含めて、自分のスキルが足りるのか想像がつかなかったそう。しかし、解田をはじめとするプロジェクトチームの見解は違いました。むしろ井上が自動車業界で培ってきた知見に大きな魅力を感じ、入社初日から打ち合わせへの同席を打診します。
そして井上は解田とともに自動車メーカーやサプライヤーといったエンドユーザーの声を直接聞き、その要望を社内に持ち帰ってはさまざまな分野の技術者とディスカッションを重ねることでデータ連携基盤の構想を形にしていきました。
データ主権といった概念をいかに具現化するか、立場もニーズも異なるユーザー全員が納得できる仕様とは何か。そうした考えをシステムに落とし込んでいくのは非常に困難でしたが、解田さんのサポートもありなんとか形にすることができました。
それに私ひとりではメーカー視点の発想に留まりますが、公共事業として大規模プラットフォームの開発に携わってきた方の視点であったり、R&D部門で最先端技術を研究している方の技術視点であったりと、さまざまな視点を持ち寄ることで最適なプロダクトを目指すことができました。
NTTデータには、これまで公共や金融などあらゆる領域で幾つもの大規模プラットフォームを企画・開発・運用してきた実績とナレッジがあります。そうした力を事業部の垣根を越えて連携し、「オールNTTデータ」と言える体制で一大プロジェクトに臨めることは、当社ならではの強みです。井上が入社前に感じていた不安はすぐに払しょくされ、開発工程は加速していきました。
社会への影響力が大きいプロジェクトに挑戦できる。それが醍醐味
現在、バッテリートレーサビリティプラットフォームはユーザーテストに入っており、リリース・運用に向かって邁進しています。さらに今後はこのプラットフォームをバッテリーの解体・リユース・リサイクル企業などとも連携する拡張計画があり、業界横断でデータ連携する仕組みづくりによってサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を目指していきます。プロジェクトをリードする解田は、この仕事の醍醐味を「影響力の大きさ」と表現します。
このプラットフォームは自動車業界のあらゆる企業が使うシステムになります。その影響力は広大ですし、ひいてはカーボンニュートラルや循環型社会といった社会課題に通ずる基盤にもなっていきますので、やりがいも使命感も非常に大きいですね。
多様な専門家とともにプラットフォームの開発にあたってきた井上は、プロジェクトを通して自身の視点や発想が広がっていることを実感していると言います。また自動車業界だけでなく、さまざまな製造業でサーキュラーエコノミーの実現を目指すという新たな目標も生まれました。
これまでモノづくりに携わる中で、日本企業の製品や部品の高寿命に対する強いこだわりを感じてきました。そうしたデータを収集・分析し、データ連携基盤とマッチすることができれば、日本の良さを活かして「使える部品や資源は循環するのが当たり前」といった形に社会構造やビジネス構造を変化できるんじゃないかと考えています。
サーキュラーエコノミーという文脈ではまだまだこれからですが、新しい社会づくりに貢献できたらうれしいなと思っています。
井上が語るように、このプロジェクトで構築されたトレーサビリティプラットフォームやサーキュラーエコノミーの仕組みは今後、自動車業界だけに留まらずさまざまな製造業に展開を目指しています。同事業部のメンバーはこれからも、自動車業界の変革や社会課題の解決などに対する強い想いと、一人ひとりが異なるバックボーンを持ち寄って次世代の社会づくりに貢献していきます。