技術の種をたくさん持ち、お客様のビジネスを解像度高く理解して、適切な手法を選ぶ
2013年にNTTデータへ入社した森田は、現在、公共・社会基盤分野でAI技術を本番システムに適用し、実システムの運用を担当しています。
システム開発だけでなく、データサイエンティストとしてデータ分析やAI系の技術検証を行い、その結果に基づいてお客様の意思決定をサポートする提案をしています。
たとえば、私たちは病院で医療費の3割を支払いますが、残りの7割は病院が健康保険組合などに請求書を発行して初めて費用請求が完了します。その請求書を審査する組織において、審査の過程にAI技術を適用するプロジェクトに携わっています。
AIは結果だけを返すものと思われがちですが、技術的には審査結果に対する説明をつけるような機能を持つことも可能です。現在、そうした技術(説明可能なAI=XAI:eXplainable AI)を検証し、実用に向けて議論を進めています。
データサイエンティストの役割は、お客様のビジネスの課題解決にデータを活用して貢献することです。データ分析やAIの技術はあくまでも方法論に過ぎません。いま世の中にどのような技術が出ているのかを把握し、お客様のビジネスを解像度高く理解した上で、適切な手法を選んで検証・提案することが必要です。
現在、事業部門のデータサイエンティストはまだあまり多くありません。そのため、さまざまな案件に触れられる環境にあり、自分の考えをどんどん提案できるところにやりがいを感じています。解決が難しい話もありますが、そういった困り事があると知れるだけでも個人的にはおもしろく、解決できたときには達成感を覚えます。
やりがいを感じながら日々仕事に向き合っている森田ですが、そのプロセスは決して楽しいことばかりではありません。
データ分析はあらかじめ立てた仮説を検証するために行うものですが、やってみるまで結果がわからないことが多いんです。実際に手を動かして試行錯誤していく中でいろいろなことがわかってくるので、より良い提案をしていくためにはそうした場を多く作っていく必要があると思っています。
お客様側の業務も技術特化の業務も経験できたことが、今の仕事につながっている
学生時代に情報理工学(生体信号処理)を専攻していた森田は、ITを用いて人々の生活を支える社会インフラに携わりたいと考えてNTTデータに入社しました。
公共領域に関わろうと思うと、それなりの企業規模や影響力が必要です。IT系の大企業は他にもありますが、将来的な海外展開も視野に入れると、NTTグループが強いと考えました。
とはいえ、最初からデータサイエンティストになろうと考えていたわけではありません。入社時には、技術に軸を持つ部門に行くか、事業領域ごとにお客様と向き合う部門に行くかの選択肢があったのですが、私はかなり悩んだ末に事業部門を希望しました。社会インフラはお客様がいないと成り立ちませんから。
最初に配属された社会保障事業部(現ヘルスインシュアランス事業部)では、公的医療保険領域における審査支援システム開発のほか、要件定義・新規提案といった開発の上流工程も担当しました。
入社から2〜3年は下積みというイメージだったのですが、蓋を開けてみると1年目の終わりごろにはお客様への提案をさせてもらえて、もうここまで任せてもらえるんだと驚きました。そのおかげで、お客様はこういうところで困るんだな、こういうことを考えて仕事をしているんだな、と肌で感じることができました。
NTTデータは保守的な会社に見られがちですが、実際には若手のころから裁量を大きく持たせてもらえる風土があります。事業部門で経験を積んだ後、森田は技術開発本部(現データ&インテリジェンス技術部)に異動しました。
最初に事業部門を経験したので、技術部門に進むことは正直諦めていました。そんな時、当時の上司がAI技術習得のための武者修行という選択肢を与えてくれたんです。技術開発本部では、審査業務にAIを適用するための技術検証を提案し、社内PoCを経て顧客環境下でのPoCまで実施しました。
お客様側の業務も技術特化の業務も両方経験できたことが、今の森田の土台を作っています。
新しい事業を進めるには腹を決めて発信し、周りを巻き込んでいくことが大切
2020年度に社会保障事業部(現ヘルスインシュアランス事業部)に復帰した森田は、AI技術を用いた業務の事業化に向けて、学んできたことを活かすべく日々行動しています。しかし、公共領域でAI技術を本番システムに適用し、実システムを運用するといった業務は、前例がありません。仕様が決まっていない、今までになかった業務を生み出していく行程には、困難がつきものです。
技術検証やデータ分析は、あくまでも仮説なんですよね。仮説は立てるものの、うまくいくかどうかわからない状態で始めることが多くて、実際PoCをしても100点になることは多くありません。むしろ40~60点になることも多く、技術検証は失敗だらけなんです。
審査AIを活用したシステム開発においても、うまくいかないことは日常茶飯事でした。しかし、想定と違う結果が出たとしても、それを素直に受け止めてこの部分だけ業務側でカバーすればうまくはまるかもしれない、といった調整をしながら技術提供まで持っていきました。
世の中にはさまざまな知識や価値観を持っている人がいて、それらをすべて盛り込まないことには100点を取ることはできません。しかし、課題が残る結果を失敗や挫折と捉えるか、そこをスタート地点と捉えて少しづつ点数を上げていくかでその後の流れは変わってきます。
解決策を見つけるために必要なのは、お客様の業務を深く理解すること。システム化、IT化、AIも含めて、技術ってやっぱり方法論なんです。うまくいかないときこそ、お客様と価値観や目線を合わせることが大切で、NTTデータはそれができる会社だと感じています。
仮説に対してネガティブな意見をもらうこともありますが、それを受けて、みんなが納得できる方法を粘り強く模索していくことで、少しずつ点数を上げていけます。データサイエンティストって格好良く思われがちですが、実は泥くさい一面もある仕事なんですよ。
試行錯誤できる場を作ることの重要性と、検証と提案の先に見えてくるもの
入社してから今日にいたるまで、壁にぶつかりながらもめげることなく歩み続けてきた森田。
たくさんの人に影響を与える大規模なシステムを作り上げ、運用していくことにエンジニアとしてやりがいを感じ、学生時代に思い描いていた公共領域に携わる仕事ができています。
自分の能力に自信が持てず、悩んだことや落ち込んだことは多々ありますし、たくさんの失敗もしてきました。しかしそこからなんとか学びを得て、成長の糧にしてきました。急速にAIが進化していき、技術者の働き方はどんどん変わっていくことでしょう。
ただお客様に言われた通りに作るのではなく、仮説を立てて検証し、提案をしていくことがますます重要になっていくと思っています。
AI領域の技術は実際に触ることで提案のイメージを膨らませていけますが、より広範囲で高度な技術検証を行うためには、もっと多くの技術者が必要です。森田は、若手を育て、体制を整えていく必要性を感じ、そこに自分の経験を役立てたいと考えています。
試行錯誤しながら検証ができる場を作ることが一番大切です。お客様に対してでも、社内に対してでもよいのですが、場が大きくなればなるほど関わる人も増えていくので、関わるメンバーにはその中で実際に手を動かして検証を続け、提案していってほしいですね。そういった場作りやサポートが、私の仕事だと思っています。
最初から100点を取れる人はなかなかいないと思います。きちんと試行錯誤できる場があって、周囲とコミュニケーションを取ることで、前に進んでいくことができます。
入社一年目からお客様に対して提案を重ね、成長できたと感じている森田だからこそ、若手を実践の場に置いて、裁量を持たせていくことの必要性を理解しているのでしょう。
一人でできることは多くはありません。社内だけでなく顧客も巻き込んで事業を推進していく森田のチャレンジは、これからも続いていきます。
出典:talentbook「株式会社NTTデータ」(2024年3月29日公開)より転載