“なんでも屋さん”の経験から高い視座とスキルを獲得したキャリア前半
水野は2008年にNTTデータへ入社。システム開発からデザインと幅広い経験を同社で重ね、2022年12月現在は公共統括本部の社会DX推進室に所属しています。そんな水野のキャリアの起点となったのは、大学・大学院時代のユーザーインターフェースについての研究です。
大学時代の研究テーマは、科学技術に関する社会問題について専門家と一般市民が議論する場合など、多様な視点で議論し合意形成を作ることを目的とした会議の際に、コミュニケーションツールがどう活用できるのかについてでした。
この経験より、卒業後は社会を支えるシステムに携わりたいと考え、公共分野のサービスを多く手がけるNTTデータに惹かれました。長く働きたいと考えていたため、ライフステージに合わせた働き方が選べる環境があったことも入社の決め手となりました。
最初に水野が担当したのは、メディア関連企業のシステム開発です。1年目は要件定義や設計書への落とし込みなどを実施するトレーナーのサポートなどを実践していましたが、2~3年目はその他にもあらゆる業務に携わるようになっていきます。
要件定義からコーディング、ユニットテストまで引き受け、当時は“なんでも屋さん”のような感じでした。比較的小さなシステムを担当していたこともあり、専任のプロパー社員は自分だけの時期もありました。おかげで新人ながらシステム全体が見渡せるようになり、上司のサポートも受けつつ良い経験を重ねられました。
また、水野は当時はまだ定着していなかったアジャイル開発にも取り組むことになります。
社内システム開発を請け負い、3カ月というスピードで開発しました。また、さらにそれを社内10部署ほどに1〜2カ月使ってもらい、吸い上げた要望を要件定義に反映。ユーザーの利用状況を鑑みてリアルタイムで改善を進めていく工程を体感しました。
密度の濃い経験と学びを重ねる水野でしたが、やがて自身のキャリア設計に目を向けるようになっていきます。
マネジメントよりも手を動かしたい──専門性を活かせるデザインチームへ
入社から4年ほど経ち、今後の身の振り方を考えるようになってきました。当時は案件のハンドリングはしていたものの、実際にシステムを作るのはビジネスパートナーの方々です。当時の部署ではキャリアを10年ほど重ねるとマネジメント職に就く人が主流でしたが、私はもう少し長くプレイヤーでいたいと感じました。
そのころ従事していた大きな開発案件で、UI改善などを手がけていた水野。その案件が学生時代に携わっていたヒューマンインターフェースの研究を思い出させたことが、水野のキャリア設計にも影響を与えます。
上司にプレイヤーとしてのキャリアを相談したところ、別部署には活躍できる場があるかもしれない、とアドバイスをもらいました。ユニバーサルデザインやUXデザインに携わるチームの募集が社内公募に出たタイミングで、挑戦することを決めました。
そして水野は当時の公共・金融領域で技術支援を行う部署へと異動し、デザインに関連する業務を本格的に始めました。
その部署はデザインだけでなく、クラウドやサーバーなどの専門性を持つメンバーが、その技術を必要とするプロジェクトに派遣される技術支援の部署です。異動後はいくつものプロジェクトを掛け持ちし、業務の幅を広げていきました。提案書づくりをサポートしたり、開発チームの一員としてユーザーテストを実施したり、それからUXデザインの社内研修なども担当しました。
約10年間同部署に在籍し、水野は“人間中心設計”を軸に据えたキャリアを重ねました。
人間中心設計とは、常にユーザーを第一に考える設計思想です。マニュアル作成であってもシステム開発であっても、提供者側の都合で作るのではなく、ユーザーが達成したいゴールのためには何が必要なのかを追求し続けました。
しかし、必ずしもユーザーからの言葉にその答えがあるとは限らないと水野は考えます。
ユーザーの言葉の裏側には、別のゴールが隠れている場合が少なくありません。たとえば「会計システムでお金を集計したい」と相談されたとしても、よく話を聞いてみると実際は「年度末の報告のために品目ごとに集計したい」というのがゴールということもあります。
ユーザーが最初に言った言葉をそのまま受け止めるのではなく、場合によってはユーザーも気づいていない隠れた要求を探索していくことがデザインにとって大切だと考えています。
人間中心のデザインを追求してきた水野ですが、長年のキャリアの中で、デザインのスタンダードそのものが一変していくのを目の当たりにすることになります。
最前線を走りながら自らがたどり着いたテーマは「社会デザイン」
以前は誰もが使いやすいことをめざす「ユニバーサルデザイン」が先駆的な考え方でした。視覚障がい者向けの音声案内や、四肢が不自由な方でも利用できることをシステム上で実現することなどが、その具体例として挙げられます。
昨今ではユニバーサルデザインはできて当たり前の品質とされており、これに加え、システムを利用する前後を含めた状況や、その際の感情など良いデザインとする活動であるUXデザインも当然のように求められるようになりました。
たとえば、ATMの画面がどんなに素晴らしくても、そのATMがいつも長蛇の列ができていたり、パスワードが覗き見できたりするような位置に置かれていたらどうでしょうか。ATMを利用するその瞬間がどんなに素晴らしい体験であろうと、お金を引き出すというトータルの体験としては良くないものになっていると思います。こうした利用者の状況による最適解まで配慮することが、現代のUXデザインのスタンダードと言えます。
こうしたデザインの考え方の変化にあわせ、水野は自身の知識やスキルのアップデートはもちろん、周囲への働きかけも積極的に行いました。
UXデザインに取り組み始めた当時は、以前に比べてやるべきことが増えるのではないかという懸念のため、周囲からは理解が得られないこともありました。しかし、このまま変化に追随できなければ、いずれ案件の受注が難しくなることをチーム一丸となって根気強く説明し、デザイン研修などの活動を地道に続けました。UXデザインの重要性を社内に浸透させることについては、多少なりとも貢献できたと感じています。
キャリア後半では、サービスデザイン領域でも上流のビジョンメイクや目標設定などを手がけるようになった水野。2021年には公共統括本部へ異動し、社会デザインという新たなテーマに巡り合いました。
公共統括本部は中長期の公共分野全体の戦略を描く部署で、私はそのなかの共創実証チームに所属しています。産学官民連携で地域の課題を解決する方法を模索し、検討を重ねて実践につなげていくのが主な役割です。
現在関わっている取り組みの1つは新潟県佐渡市のプロジェクトです。サステナビリティに配慮した地域経済活性化の仕組みづくりを、佐渡市と新潟大学、市民、そしてNTTデータの四者連携で進めています。
誰も答えを持たない課題に向き合うことに対し、水野は難しさと同時にやりがいも感じています。
問題を引き起こす原因は、さまざまな事象に紐付いています。これさえ解決すればすべて解決できるということはめったにありません。地域活性化は難題が多いテーマではありますが、地域の課題解決のために産学官が立ち向かおうとする姿勢は、市民の方々のモチベーションの向上につながるのではないか、と感じています。
もちろん私たちのビジネスを生み出すきっかけでもありますし、手がかりを探していくプロセスにはおもしろさがあります。
社会デザインの仕事はNTTデータだからこそ取り組める──めざすは元気な日本
より良い社会づくりのために、地域の課題に向き合う。水野が携わるプロジェクトはNTTデータ“らしい”仕事ではない一方、この仕事はNTTデータだからこそできるものです。
どんな企業も、将来的にはサステナブルな社会づくりや地域活性化といったテーマと向き合いつつ事業を作っていかなければなりません。しかし、安定した基盤や資本力がなければ、これらの課題に本格的に取り組むことは難しいでしょう。だからこそ、長年の歴史からそれらの力を持つNTTデータは、率先して社会デザインに取り組んでいく必要があります。
NTTデータの社員として社会デザインに携われることを幸せだと感じつつ、水野は人間の幸せだけを実現することは、事業のゴールだとは考えていません。
私たち人間とシステム、それをとりまく社会、環境、さらには地球、すべてがうまくいくことを最終的なゴールに据えています。たとえば、人間にとっては幸せだけれど、人間以外の地球上の動物や環境を守れない事業では意味がありません。環境維持のために私たちは何をすべきか、仕事を通じて考え続けたいです。
今後しばらくは社会デザインの領域で突き進みたいと考える水野。実現したい彼女の夢は、日本全体を元気にすることです。
現在取り組んでいる佐渡市の事例を成功に導き、そこから体系化された仕組みを日本中で展開していけたらと考えています。NTTデータとしてもビジネス創出になりますし、このプロジェクトを通じて日本全体を元気にできたらうれしいですね。
学生時代のヒューマンインターフェース研究を起点に、広い視野と豊かな知識で水野はキャリアを広げてきました。社会デザインの領域にたどり着いた彼女は、より良い未来を描き、新たな価値を創造するために試行錯誤しながら歩みを前へと進めていきます。
出典:talentbook「株式会社NTTデータ」(2022年12月22日公開)より転載