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パネルトーク&ラウンドテーブルセッション 分岐点の振り返りからキャリア形成を考える

法人分野におけるDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の情報を発信していく連載第1弾では、「DEI実現のためには、キャリアに対する固定的なイメージを変えていくことが必要」というメッセージがありました。自身のキャリアに対して自律的であろうとする意識が重要になる一方で、「キャリア自律」という言葉の曖昧さに戸惑う方もいるのではないでしょうか。そこで2024年9月11日、「私のキャリアの分岐点」と題したワークショップ(パネルトーク&ラウンドテーブルセッション)を法人分野として開催。シリーズ第2弾の今回は、ワークショップ開催模様をお伝えします。

目次

Profileこの記事に登場する人

キャリアの語源は「轍(わだち)」。

振り返った時に見えてくるもの

パネルトークに先立ち、法人事業推進部 企画部HR担当部長の下川さんから、キャリアの語源や、キャリアの考え方は1つではないこと、山登り型・川下り型(※)があること、共通して分岐点が存在していることなどの解説がありました。最後に下川さんは「キャリアの語源は荷馬車や荷車が通った後に出来た轍(わだち)です。先に決まった道があるのでなく、その人が一生懸命考えて行動した足跡を振り返ったときに意味あるものとして見えてきます」と、参加者にメッセージを送りました。

(※)キャリア形成には、定めた目標に向かって逆算的、計画的にできるだけ最短距離を選んで進んでいく「山登り型」と、川の流れに身を任せるように目の前の仕事に向き合い経験や実績を重ねていく「川下り型」があると言われています。いずれの場合でも「分岐点」は訪れ、意識的・無意識的の差はあれど、自分でどちらの方向に進むかを選択しています。

流れに身を任せるのもキャリア形成 プラスアルファで自分なりの仕掛けを

ワークショップでは、パネリスト3名によるパネルトークと各テーブルに分かれてのラウンドテーブルセッション(各テーブルに分かれての対話)を通じて、「分岐点」に着目しながらキャリア形成について話し合いました。

キャリアは山登り型か、川下り型か?

布井 真実子 布井さん

私はこれまで社内でいろいろな部署を流浪してきました。はじめ10年間は金融機関のクリティカルプロジェクトに従事し、その後公募でEV充電のサービス企画に参画、通信→電力と渡り歩いて課長の時に人事本部のスタッフを経験しました。スタッフの後は、自動車業界の現場に移り開発と営業の経験を積んだあと、インダストリ本部の企画部長を経て現在自動車事業部の事業部長を務めています。基本は開発・PMのキャリアですが、スタッフ・営業・コンサルと幅広く経験していることが特徴です。
これまでのキャリアを振り返ると、「川下り中心の少し山登り」でした。入社時は法人分野を希望していましたが、配属されたのは金融分野のプロジェクト。希望との違いから最初の数年は異動の希望を出していましたが、だんだんとプロジェクトが面白くなっていきました。典型的なトラディショナルシステムの開発ですがそのときに身につけたプロジェクトマネジメントの基礎はその後の仕事でずっと役立っています。ただ10年目に、やり切ったという気持ちが急に湧いて、公募に手を挙げました。その後は2−3年に1度異動することになるのですが、山登り的にチェンジさせたのはこの公募だけで、後は周囲の薦めなど川下り要素が強いですね。

川原 慶子 川原さん

私は「川下り、山登り」半々で歩んできました。20代の前半は大学勤務をしながらプライベートに全力投球していました。いろいろあって、次は仕事に全力投球しようと思い立ち、MBA取得に取り組んだもののブレーキのかけ方が分からず体調を崩してしまい、入院した時期もありました。
このままではいけないと、次のキャリアとして転職先に選んだのがコンサルティング会社です。最初は仕事がつらくて再転職も考えたのですが、ちょうどリーマンショックの時期だったため、後戻りできない状況でした。その時に覚悟を決め、「何があれば自分はこの会社を卒業したといえるのか」といった風に捉え方を変えてみました。まずは数字に強くなることを決め、数字を一番使うと思われるプロジェクトに志願するなど、今の環境でできることはすべてやると決めてキャリアを積み始めたのです。

青木さん

私は入社以来、長く同じ部署で働いてきました。特に最初のエンタメ領域のプロジェクトには約10年間携わりました。その次に交通領域での会計案件を経験し、二度の出産・育児休職を経た後、2024年から交通統括部の課長を務めています。
私は入社時からPMを志望していました。そのため、ずっとPMをめざして一直線に「山登り」してきたという捉え方もできます。しかし、初期配属は希望どおりにはいきませんでした。入社時の希望は公共分野。ところが実際に配属されたのは法人分野。希望と異なる配属に、最初は異動したい気持ちがあったのですが、周りの方が良い方ばかりで、ここでの経験は無駄にはならないとポジティブにとらえなおし、気づけば10年が過ぎていました。PMが軸ですが、置かれた場所で今ある仕事を頑張ろうと「川下り」をしてきたという認識です。

遭遇した分岐点、そのとき考えたことは?

布井 真実子 布井さん

私の最初の分岐点は、10年目の公募です。これがなかったら今でも同じ部署にいたかもしれません。ただ、公募した際は、自分の行動がこの先のどんなキャリアにつながるかなど考えることもなく飛び出しました。
次の分岐点は人事本部へ移ったことです。なぜなら過去の蓄積がまったく通用しない大きなキャリアチェンジだったからです。きっかけは、当時尊敬していた先輩から「人事向いていると思うからやってみては」と声をかけてもらったことにありました。自身として全く想定していなかった選択肢でしたが、周囲のおすすめで世界を広げる方が良いことが起きやすいという感覚があり、チャレンジしました。人事本部では、株式会社を経営していくとは何か、組織を大きく動かすには、といった経営目線の仕事が多く、おかげで、視点が大きく変わりました。現場から見る世界と経営から見る世界、この両面の経験が今のキャリアにつながっています。

川原 慶子 川原さん

いくつかありますが、コンサルティング会社で、「なりたい」と思ってもいないのに「管理職になりたいです」と上司に伝えたことも私にとっては分岐点でした。当時の自分は、社内で望むような評価が得られない一方で、経験を積んだ分プライドも高く、そのギャップがストレスになっていました。自分に何が足りていないのかを確認するのも恐くて、思い迷っている状態でした。上司と大喧嘩をして、皇居の風に吹かれて泣いたこともあります。そんなとき、自分のマインドチェンジのために、一番ざらつきを感じていたことに向き合う決意をしました。それは管理職になることです。管理職になりたいと言ってみようと思いました。「なりたい」と意思表示をすることで、初めて建設的なフィードバックがもらえるかもしれないと考えたのです。
スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』には、主人公が何の落ち度もないのに、両親を助けるため、働かせてくださいと必死に頼み込むシーンがあります。当時このシーンを見たとき、ショックを受けました。なんて理不尽なんだろうという驚きとともに、主人公は私だと思ったのです。取られた名前を取り戻さないと脱出できないというのも、自分と重なるような気がしました。そして、主人公がやりたくないが今できることを必死に頼み込むことで新しい展開が広がったということは、自分も同じようにやってみる文脈なのかなと思い立ち、上司に伝えました。自分の中でざらついていたものに向き合えたのは、私にとって大きな変化でした。仕事だけでなく、私生活も含めた生きやすさにつながったと感じています。

青木さん

大きな分岐点は10年間続けたエンタメのプロジェクトの担当からいまの交通担当へ異動したことです。開発、更改、維持と一通りのプロセスに携わることができ、さすがに違う世界を見たい、違う方に出会いたいという気持ちが強くなって踏み切りました。今思うと、10年は長かったかもという気もしますが、当時は一大決心でした。異動には不安もありましたが、新しい担当でも十分やっていけるという自信もつきました。
もうひとつの分岐点は管理職になったことです。もともとPM業がやりたくて入社を決め、今もいろいろな人をまとめて開発をリードする仕事にやりがいを感じています。振り返ってみると、その原点は学生時代に学級委員や部活の部長を楽しく務めた思い出にありました。その延長にPM業があり、管理職もあると思えたので、チャンスが回ってきたときに管理職になることに対して大きな抵抗はありませんでした。自分の上司のような管理職になれる気がしないという方もよくいらっしゃいますが、私はお世話になった上司の方々をそのまま目指すというより、自分なりの管理職の姿を目指せばいいと思っています。いろんな管理職がいた方が、後輩の皆さんも目指しやすくなるかもしれないという思いもあります。

管理職になって変わったことは?

布井 真実子 布井さん

管理職になって、ふれられる情報が増えたのは重要な変化です。知っていることが増えると、対処できることの幅も広がるので、大きなメリットだと思います。
デメリットかはわかりませんが、以前上司から、「管理職、とくに役職が上がるほど孤独になる」という話を聞いたことがありました。だからこそ自己承認欲求を下げたほうがいいよとも言われました。お客さんや周りからありがとうと言われると、自分が認められた気持ちになり良い仕事をしたと思えます。けれど管理職になるとそういう言葉をかけてもらえる機会は減ります。それを見越してのアドバイスでした。
実際には、部長になっても、現場は皆でプロジェクトを進めている感覚もあり、それほど孤独ではありませんでした。ただ、そのときに上司から受けたアドバイスは、私の仕事への対峙に大きな影響を及ぼしています。

川原 慶子 川原さん

限られた情報の中では、会社に対して提案しても刺さらないことがよくあります。内容が浅いと言われたこともありました。それが管理職会議などに出るようになると、得られる情報が増えるので次第に会話のプロトコルが合ってきます。あの時内容が浅いと言われたのはこういう背景があったからかとわかるようになります。

青木さん

管理職会議に出ないと知りえなかった話もあり、入手できる情報量は大幅に増えています。布井さんのお話にある管理職は孤独という話ですが、課長はたくさんいるので、むしろ仲間が増えたような感覚があります。管理職同士で協力して頑張っていこうという雰囲気を感じています。

キャリア形成に大切なこととは?

布井 真実子 布井さん

山登りでも川下りでも、形はどちらでも良いと思います。大切なのは、自分の希望があるのであれば、時々はそれを思い出して周りに表明しておくことです。時間が過ぎるのは早く、振り返ってみるともっと早く次のステージに行っても良かったと思うこともあります。自分が想像できるキャリアは狭いことがあるので意志は固くなくても良いというのが私の持論です。明確でなくても、実力値を脇に置いても、やってみたい、変わりたいという思いを普段から口にだすことで思いもよらない道がひらけたり、上の人しか知らないチャンスが回ってきたりと意外と効果があります。

川原 慶子 川原さん

私が当時の上司に昇進したいと伝えたとき、えっと驚かれました。そんな気持ちがあるとは想像もしなかったそうです。私たちは黙っていてもいつか周りに認められて管理職になれるものと思ってしまいがちですが、そうではありません。希望を口に出さない寡黙さや、自分にはできないという謙遜によって、上司はその気がないと判断してしまいかねません。意思を伝えることはとても大切で、それによって私も一歩を踏み出せたと思っています。

自分らしいキャリアとは?

布井 真実子 布井さん

「自分らしいキャリア」という今回のパネルトークのテーマには、私はひっかかりを覚えます。今日この3人からお話しした内容は、それぞれ行動や決断はしているものの、そこに強い意志があったり、決まった手順があったりするわけではなかったと思うからです。自分自身も当時、「自分らしさ」を意識できてはいませんでした。もちろん流れに埋没し過ぎると、流れ自体も見えなくなってしまうので、そうならない意識は必要ですが、流れにのりながら頑張っているその先に「その人らしさ」が形成されることも多いと感じます。
構える必要はありません。偶然の流れもキャリアの1つと捉え、ゆるくても何をしようかなと考えることは意識する。それだけでも全然違うと思います。

参加された皆さんの声

パネルトークの後、参加者はテーブルに分かれて話し合いました。
悩みや葛藤も含めて包み隠さず語り合うパネリストの姿勢に、参加者の皆さんも刺激を受けた様子。このラウンドテーブルセッションでは、キャリアについて本音で熱く語る姿が各テーブルで見られました。
閉会後、参加者の皆さんからは次のような感想が寄せられています。

キャリアという言葉や、キャリアを考えようという言葉の圧力に、少し抵抗感があったのですが、イベントに参加したことで、なんだかもっと気楽にカジュアルに考えてもよいのだということに気が付けました。

キャリアに関する根本的な考え方として、常に目標を目指して、それに自ら近づいていかないといけない(上るキャリア)というイメージが強く、その状態とのギャップを感じることが多かったですが、下るキャリアも悪いわけではなく、実は目標に近づいていることがあるという気付きがありました。

きっちり考えすぎてたな、と気づかされました。キャリア面談とか、周りの管理職を見て、管理職ってこうあるべき、みたいなものに縛られて、自分がやりたい働き方にはむいてないしできないかもしれないと思っていましたが、自分が目指したい課長像がイメージできるきっかけになりました。

次の分岐点を活かすために

パネルトーク冒頭に、布井さんは心理学者アドラーの言葉を引用し、次のようなメッセージを参加者に送りました。
「過去の経験が未来を決定づけるのではなく、過去の経験を『どう意味づけるか』で世界のあり方が変わる、と信じてます。」

時々これまでを振り返り、自分の判断の軸や価値観を確認し大切にしていくことができれば、分岐点をより良いキャリア形成に活かしていくことができるのではないでしょうか。

※NTTデータ法人分野におけるDEI情報発信の取り組みについて

DEIをCSR(企業の社会的責任)としてだけでなく、多様な人財を活かしてイノベーションを生み出し、価値創造につなげる取組として捉えています。(参考:ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省))
DEIには性別・年齢・人種や国籍など様々なテーマがありますが、今年度は全社一体となって進めているキャリア自律や働き方の柔軟性、また近年増加している経験者採用にフォーカスして情報発信します。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです