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あたり前の“会社人生”から一歩外へ。2本目の軸足が運んでくれた出会いと経験

ベンダー各社がクラウドサービスの運用に本腰を入れようとしていた2010年。クラウド黎明期ともいうべきこの時期、当時NTTデータ入社2年目の安東沙織は、情報収集のため米マイクロソフト社のクラウドサービスAzureのコミュニティに参加しました。自社の業務と並行しての活動を通じ、安東が得た気づきとは――。

目次

Azureを研究せよ。情報収集のためのコミュニティ参加が転機に

安東の入社は2009年。情報系に強い関心があったことに加え、世の中に貢献できる仕事がしたい、という思いが入社の決め手だったといいます。

安東 「インターネットが一般家庭にも普及しはじめた2000年前後は、中・高生時代にあたります。自宅で父のPCを触って遊んでは、ウィルスに感染してクラッシュ…ということを繰り返していました(笑)。

次第に、そもそもなぜウィルスに感染してしまうんだろう、どうすれば防げるんだろうということに関心が向くようになり、セキュリティを学びたくて情報系の大学に進学しました」

学部時代は、自作のJavaプログラムが“動く喜び”に夢中になったといいます。

安東 「学部ではあまりできなかったセキュリティの勉強を深めるため、大学院に進みました。大手のウィルスソフト対策メーカーとの共同研究に携わる経験にも恵まれました」

そしてNTTデータへ入社。最初の配属先は、基盤技術や新技術・手法を全社へ普及展開させる使命を持つ、基盤システム事業本部でした。ここで、システム開発にも携わります。

安東 「学生時代もプログラミングはしていましたが、求められる品質や詳細な仕様書作成、あとはコーディングの“お作法”の部分で、『仕事でするプログラミングはやはり違うな』ということを感じました。

そしてシステム開発の一方で、米マイクロソフト(MS)社が開発したばかりのパブリッククラウドサービスAzureの研究を担当することになり、情報収集のため、社外の勉強会に参加するようになりました」

クラウドに関する情報がネットや日本語文献で簡単に手に入る今とは異なり、この当時、欲しい情報は足で稼ぐしかなかったといいます。

安東 「いざ勉強会に参加してみると、女性のメンバーは私ひとり。男性メンバーの中で萎縮してしまい、勉強会が終わると懇親会にも参加せず退散していましたね」

しかし、そんな安東の内面にある変化が訪れます。

安東 「初めは、メンバーのたたずまいにマニアックなものを感じて尻込みしていたのですが、何度か参加するうちに、テクノロジーに関する豊富な知識に心底圧倒されて、『なんておもしろい人たちなんだろう』と。

SNSでわからないことをつぶやくと、驚くほどのスピードでヒントをもらえたり(笑)。手探りで情報収集していた私にとって、社外のコミュニティが貴重な存在になっていきました」

“ぶちょー”としてJAZUG女子部を牽引

その後安東は、MS社から思わぬ打診を受けます。

安東 「2010年に新しく立ち上げることになったJapan Azure User Group(JAZUG)、その女子部の部長に、というお誘いでした。クラウドが普及すれば、たとえば従来なら現地のサーバールームにこもってやるしかなかった環境構築のような作業も、遠隔地にいながらにしてできるようになる。

男性以上に、ライフイベントに応じた柔軟な働き方が求められる女性にとって、クラウドが資するものは大きいはずだから、女性ユーザーの裾野を広げたい――という意向をMS社はお持ちで、唯一の女性メンバーだった私が勧誘されたのです」

こうして、JAZUG女子部の“安東部長”が誕生しました。

安東 「女性メンバーを募るところからのスタートです(笑)。しかも、当時社会人2年目のまだまだひよっこ。平仮名の“ぶちょー”というのが実態です」

それでも、一人二人とメンバーが加わり、発足2年目の2011年には第1回勉強会の開催にこぎつけました。女子部の活動を軌道に乗せることができた安東ですが、人知れず思い悩むこともあったといいます。

安東 「実業務では、3年目の途中からECサイトの仮想化基盤の構築に携わるようになっていました。JAZUGでの活動は、就業時間後や土日を使っての、完全にプライベートなもの。

端的に言ってしまえば、会社での評価につながるわけでもないし、会社に直接貢献できるわけでもない。自分のキャリアを考えはじめる時期でもあり、部長になって2~3年目は結構揺れていました」

加えて、“部長”ならではの気苦労も。

安東 「女性とひとくくりに言っても、当然ですがさまざまなバックグラウンドの方がいらっしゃいます。ライフステージや考え方も違うし、会社の公認で女子部に参加しているかどうかという違いもある。

しかも皆さん、私よりも社会人としてキャリアのある方ばかりだったので、まとめるのは大変でした」

それでもつづけたのは、やはりコミュニティの活動が「楽しかったから」だと安東は言います。

安東 「ビジネス云々からいったん離れたところで、会社人生だけならきっと出会えなかった方たちと、テクノロジーの話題でつながることができました。それが本当に嬉しかったし、楽しかったですね。

とくに女子部のメンバーは、いろんなことを一緒に乗り越えてきた“仲間”という感覚があって、会社の外にもそういった関係を築けたことはとても貴重だと思っています」

「NTTデータ社員」と「JAZUG女子部長」の両立。その先に見えたもの

JAZUG女子部の部長として、大勢のリスナーの前で登壇する機会も多い安東。意外にも、人前で話すのは得意ではなかったといいます。

安東 「どちらかと言うと人前に出るのは苦手で、初めは登壇するたびに緊張で頭が真っ白…なんていうこともありました。また、性格的なことだけではなくて、『私が知っていることなんて、きっと皆さんご存知ですよね』、『どうせ私の言うことなんて…』という思いが初めは強かったのです。

でも、聞いていただいた方から『へ~、知らなかったよ』とか、『このセッションを聞いてよかった。おもしろかったよ』というリアクションをもらうことがあって、素直に嬉しいなと。また頑張ろうと、だんだん前向きに考えられるようになりました」

また、部長になって4年目の2014年には、コミュニティでの活動が目に見える形で評価を受けるようになります。MS社が、自社の製品やテクノロジーに関する豊富な知識を備え、プライベートな活動としてその知見を対外的に発信している個人を表彰するMicrosoft MVPアワードをMicrosoft Azure分野で受賞したのです。

安東 「MVPになると、米MSが年1回開催するMVP Global Summitに参加することができます。さまざまな製品の開発チームのセッションを聞くことができるんです。

初めて参加した年に、Azureのチームと対面しました。彼らが、いかに楽しみながら開発しているのかがわかって、この先も携わっていれば『きっと楽しいだろうな』と確信しました」

また、業務の面でも、2015年秋からパブリッククラウドサービスのベンダー各社とのアライアンスを担当するようになり、「NTTデータ社員」としてもクラウドとの関わりを深めていきます。

単身で勉強会に飛び込んでから5年余り。「楽しい」を原動力に、業務とJAZUG女子部の活動を両立させつづけた安東は、「パブリッククラウドといえば安東」と社内で目される存在になっていったのです。

なおMicrosoft MVPアワードについては、その後5年連続での受賞という快挙を成し遂げています。

今の自分があるのは多くの縁のおかげ。その“恩義”に報いたい

現在、安東は事業部の企画担当として、戦略や事業計画のとりまとめに携わっています。

安東 「事業部全体としての成長戦略や目指す方向性を明確にしたうえで、各担当の戦術や戦略について関係者の方々とすり合わせを行い、事業部としての合意形成を図っていく役割です」

多くの人との対話が必要なポジション。“ぶちょー”から“部長”へと進化しながら、女子部の活動を前進させてきた経験が、現在の業務にもいかされているようです。

そんな安東は、今後の展望を次のように語ります。

安東 「入社の際に、漠然と『世の中に貢献できる仕事』をと考えていたのですが、その思いは今も変わりません。

Azureについては、数年かけてやってきたことをマイクロソフトさんから認めていただいた結果、MVP受賞につながったと思っているので、ここまでの実績を土台にさらに何かできたらと思っていますし、クラウドとは関係ないところでも、これまで培ってきたテクノロジーに関する知識や技術を使って、何かが返せたらいいなと思っています」

そして、少しはにかみながら、“返せたら”という言い回しの真意を補足するように言葉をつなぎました。

安東 「これまで、たくさんの人との縁をいただきました。女子部の部長に任命していただいたのも、本当に縁だったと思っています。そして現在、自社でクラウドビジネスに携わることができているのも、そうしたさまざまな縁の積み重ねがあったからこそ。

少し古臭い表現かもしれませんが、そのおかげで得ることができたものを、これから出会う人々や世の中に返していく“恩義”がある。そう思っているんです」

ITの分野でも、オープンイノベーションが重要なファクターと目される今日。会社の枠組みをしなやかに飛び越えてきた安東は、次に人事本部というステージへ。人財の採用や育成という新たな挑戦にも、人とのつながりを活かして自分らしく向き合っていくことでしょう。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです