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クラウドサービス「OpenCanvas」が変える基盤技術とSIの未来

クラウドが当たり前の存在になった今、基盤技術やシステム開発のあり方も変わり始めています。NTTデータの商用クラウドサービス「OpenCanvas」に開発初期から関わり、現在も普及に取り組んでいる田中教之は、クラウドとSIの今後をどのように見ているのでしょうか。

目次

システムにおける本来あるべき基盤を突き詰めたい

田中 教之
技術革新統括本部 システム技術本部
生産技術部 クラウド技術センタ

NTTデータがサービス提供しているクラウドサービス「OpenCanvas」。クラウド技術センタの田中は、その立ち上げから関わってきた人物です。

2017年にNTTデータに入社した田中は、前職では国内の大手SIerに務めており、ネットワークの構築や仮想化ビジネス、商用クラウドサービスの企画開発などに携わってきました。

しかし前職において、クラウドサービスはあくまでもビジネスの手段のひとつという立ち位置でした。そのため、クラウド自体がコモディティ化していく中でサービスに注力していくのは難しく、田中は徐々に窮屈さを感じるようになります。

商用クラウドサービスの経験を生かしつつ、もっとレベルの高い環境で自分の力を試したい。そう考えた結果、田中の選択肢に浮かんだのがNTTデータでした。

田中 「前職の頃、NTTデータは競合企業であると同時に、パートナーでもありました。一緒に仕事をすることもあったのですが、当時のNTTデータの印象は、大規模なシステムを数多く手がけており、優秀な人が多いということ。特にプロジェクトマネジメントが強いという印象がありました。」

基盤を「売る」ことだけを目的にせず、システムにおいて本来あるべき姿を突き詰めたい。基盤技術に関わり続けてきた人間として、新しい技術を用いて基盤の進化を牽引したいと考えていた田中。ソフトウェア開発を主軸にするNTTデータであれば、それを実現できると期待していました。

そして2017年2月、田中はNTTデータに入社するやいなや、当時、金融業界向けの商用クラウドサービスとして検討されていた「OpenCanvas」の開発に関わることになりました。

田中 「まだ周りにどんな人たちがいるのか把握できていない中で、私はクラウドの有識者としてプロジェクトに関わることになりました。実際にプロジェクトが始まって感じたのは、個々の技術者のレベルの高さです。もともと抱いていたNTTデータのイメージとは違っていて、いい意味で予想を裏切られましたね。OSSのコミュニティに参加して仕様策定に関与するような人がいたり、技術力に加えてビジネスセンスや推進力なども優れた人がいて、幅広い能力が求められる環境だと感じました。」

システムとの組み合わせでクラウドサービスを普及させる

田中は商用サービスの「OpenCanvas」の開発だけでなく、NTTデータ全社の開発環境を集約するプライベートクラウド、「統合開発クラウド」を社内に普及するという別の役割も担っていました。

田中「2017年、NTTデータは全社の開発基盤を集約するクラウド基盤として、統合開発クラウドの運用を開始しました。この統合開発クラウドは、あくまでも内部の開発環境に適用されるものだったため、次は商用のクラウドサービスを作ろうと計画が立ち上がり、まず金融分野向けのクラウドサービスとしてOpenCanvasを開発することになったのです。」

世の中のクラウドサービスには、主にAWSに代表されるパブリッククラウドと、プライベートクラウドの2種類があります。高いセキュリティが要求される金融機関がクラウドを利用する際には、後者のプライベートクラウドが選択されます。

こうした金融機関に向けたクラウドサービスである「OpenCanvas」は、全国ほぼ全ての金融機関が利用するNTTデータの「ANSER」のシステム基盤や運営ノウハウを活用したものであり、データの持ち出しに対する厳格なルールや金融機関の監査への対応など、非常に高いセキュリティ性に特徴がありました。結果、金融機関を中心に高信頼性を求める顧客に利用されるサービスとなりました。

その後、2018年には商用クラウドサービスを更に広く社内外に展開しようという動きが立ち上がり、ゼロから作るのではなく、既に成功している「OpenCanvas」を活用しようというアイデアが採用されます。そして「OpenCanvas」は、公共、法人など金融以外の他の分野にも展開されることになりました。

現在、田中は「OpenCanvas」の普及・展開、プロジェクトへの適用、開発支援などを行っていますが、多くの課題に直面しているところだそうです。

田中「金融系、公共系以外の法人の場合、多くの企業は低コストでスピーディにサービスを立ち上げたいと考えるので、プライベートクラウドではなくパブリッククラウドをファーストチョイスとするケースが非常に多いです。私たちがIaaSとしてOpenCanvasの高信頼性を訴求してもニーズにマッチしないことが多くあります。そこで私たちが考えているのは、基盤だけを提供するのではなく、その上に様々なサービスやシステムを載せて基盤と一緒に広げていくということ。NTTデータのアセットやシステムを活用して、間接的に「OpenCanvas」を広めていきたいと考えています。」

クラウドを活用してSIのあり方を刷新する

田中 「NTTデータはまだ力をすべて発揮できていないと感じています。もっと、新しい形や仕組みを生み出せるはずです」

田中がそう語るのには、ある理由があります。

田中「NTTデータには縦割りの組織文化が残っています。各事業部に専門の担当者がおり、当社独自の強みを持つ様々なサービスを提供しているものの、横展開がされにくい。イチから作らなくても、実は隣の部署が作ったものを活用できた、という例も多々あります。秘匿性の高いプロジェクトが多いので仕方がない部分もあるのですが、せっかく作ったものやナレッジを活用できないのはもったいない。」

「OpenCanvas」をNTTデータ社内に向けて展開し、各部門が同一のクラウド基盤の上で開発するようになれば、ナレッジの横展開や技術の組み合わせが可能になるかもしれません。各プロジェクトの秘匿性をどう担保するかという課題はありますが、こうした仕組みが構築できれば、NTTデータのSIのあり方自体を変えられる可能性もあると田中は目論んでいます。

田中 「IaaSだけで勝負するのでは、当社らしさを発揮できません。顧客に合わせたオーダーメイドのSIを得意とするNTTデータでは、サービスをクラウドに載せて、それをベースに各業界をつないでいくことができるはずです。」

今や、基盤技術を通じてNTTデータ全体やシステム開発のあり方までも変えようとしている田中ですが、入社以前は「特定の基盤技術に詳しければそれでいい」という志向性だったそうです。

田中 「NTTデータに入社する前の私は、特定の基盤技術に詳しければそれでよく、マネジメント志向もありませんでした」

そう語る田中がNTTデータに入社してから飛躍的に視座を高めたのは、周囲の社員たちから受けた刺激も大きかったからでした。

田中 「NTTデータでは、個人としての技術力が高いのは当たり前で、それ以外にもいろいろなスキルを持った人財が多くいます。なぜだろうと考えてみると、NTTデータが今まで違うことをやりたいという人に寛容な組織だからなのだと思います。」

従来型のSIが変革を迫られ、アジリティが重視されるようになった今、NTTデータも変わろうとしています。「新しいことに挑戦する」というNTTデータの文化が、日本のSIを刷新する日も遠くないかもしれません。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです