1.「見える化」から「変革」へ
「ビジネスインテリジェンス(BI)」とは、「企業内外に散在する膨大なデータを分析して、経営意思決定に活用する取り組み、IT、方法論など」を総称するコンセプトです。BIを実現する上でのポイントは、基幹システムからデータを抽出して、分析用データベースとなるデータウェアハウス(DWH)を構築し、データ検索・分析・作表などを行うBIツールを活用することです。
NTTデータでは、BIに関する数多くの経験から、BIを「集計分析型BI」「発見型BI」「WHAT-IF型BI」「プロアクティブ型BI」の4つのタイプに分類しています。ここでは、これら4つのタイプのBIを紹介し、変革におけるBIの役割やBIによる変革を実現するポイントについて説明します。
「集計分析型BI」と「発見型BI」は、現在広く普及している代表的なタイプのBIです。「集計分析型BI」ではExcelのピボットテーブルのような多次元分析ツール(OLAP: online analytical processing)を使ってデータを集計し、その結果にもとづいて「見える化」を行います。また、「発見型BI」はデータマイニングと呼ばれる手法を駆使して、大量データの中から隠れた関係性や規則性を発見するときに活用されます。
図:4つのBI
BIが注目されるようになったきっかけは「見える化」の普及です。「見える化」は変革の第一歩と位置づけられ、これまでにもさまざまな企業で多くの実績を挙げてきました。しかし、ただ単に見えればよいというわけでなく、これを変革へと発展させていくことが望まれます。一方、近年情報分析活用を核にして業務改革やサービス革新を実現し、企業に変革をもたらす新しいタイプのBIが表れてきています。それが、これから紹介する「WHAT-IF型BI」と「プロアクティブ型BI」です。
2.BIがビジネスにもたらす2つの変革
「WHAT-IF型BI」とは、業務の新しい"やり方"をデザインすると同時に、その効果を事前に試算するタイプのBIで、「プロアクティブ型BI」は、ユーザ行動の理解にもとづき知的サービスを提供するタイプのBIです。NTTデータでは、「WHAT-IF型BI」と「プロアクティブ型BI」という2つのBIが、これからのビジネスに大きな変革をもたらす牽引力になると考えています。
ここでは、企業経営やビジネスモデルに変革をもたらす「WHAT-IF型BI」と「プロアクティブ型BI」について、具体例を交えつつ、その特徴や役割について紹介しましょう。
「WHAT-IF型BI」~BIを梃子にした業務改革
ITによる業務改革はどの企業にとっても大きな関心事です。ここでは、BIが業務改革に果たす役割とこのような場面で使われるBIについて考えてみます。
業務改革ではこれまでの業務の"やり方"を変える、すなわち業務方式の改革が大きな鍵になります。例えば、米国流通最大手のウォールマートは、メーカと協調して商品計画、需要予測、補充を行うCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)という取組みにより、欠品防止、在庫削減を実現する改革を行いました。
図:「CPFR」事例にみる「WHAT-IF型BI」
このような改革を日本の流通業界で実際に進めるとなると、(1)業務方式をどのようにデザインするのか、この例ではどのような情報を共有して需要予測をし、どのような発注をするのか、(2)いくつかある業務方式の中でどの方式が効果的か、といったことが大きな問題になります。
(1)を実現するための個別要素技術(需要予測や在庫・発注計算)としてBIが有効であることは、異論の余地はありません。それでは、(2)についてはどうでしょうか。これまでやったことのない業務方式の実行したときの効果を試算するには、業務上の要件、制約をリアルに描写するシミュレーション技術が大きな力を発揮します。
先ほどのCPFRの場合、想定する発注方式(需要予測と在庫・発注計算)をもとに実際に発注したら、販売数、余剰在庫、欠品はどうなるかという計算を過去の一定期間にわたって日々を繰り返します。このとき、例えば、発注してもある割合でメーカ側が欠品するので納品されないとか、一定期間売残ったら廃棄しなければならないといった現実の業務要件、制約を組み込んでいくことになります。
このような場面で活用されるBIは、これから導入しようとする業務方式がもたらす結果を比較し、どれが最適かを考えるという意味で「WHAT-IF型BI」と呼ぶことができます。
未知の取組みとなる業務改革には常に大きなリスクが伴い、そのインパクトを事前に推計することで、経営上のリスクを少しでも軽減することが求められます。「WHAT-IF型BI」は業務の高度化を実現すると同時に、このようなリスクを軽減することで、業務改革を推進する梃子の役割を果たします。
「プロアクティブ型BI」~BIで実現するサービス革新
近年、BIの新潮流として注目されるのが、ユーザ行動を理解し、一歩先回りをして、気の利いたサービス・機能を提供するためにBIを活用するものです。例えば、Webショッピングサイトで商品を検索した際に、その人が興味を持ちそうな関連商品を表示する「レコメンド」や、クレジット・カードが利用されるときの不審な行動を見抜いて決済処理を即座に停止する「不正検出」といった知的なサービス(プロアクティブ・サービス)がすでに普及しています。そうしたサービスの実現に貢献しているのが「プロアクティブ型BI」と呼ばれるタイプのBIです。
図:「プロアクティブ型BI」の実現イメージ
医療の現場においても「プロアクティブ」な仕組みを導入することで、救急医療の高度化を実現したという事例が報告されています。ここでは、患者や医療スタッフ、医療器具にRFIDタグをつけて位置情報を取得、動きをトレースし、患者と医療スタッフ・医療器具の接触履歴から治療進行状況を自動的に把握することで、治療の進行状況を「見える化」します。そして、同時進行する手術のスケジュールを自動的に作成・更新し、これを医療スタッフに共有することで、絶え間なく到着する救急患者に対して、柔軟かつ効率的な医療体制を実現することができます。
図:「ER管理システム」にみる「プロアクティブ型BI」
また、「プロアクティブ型BI」を実現するためには大量の情報をタイムリーに処理する必要があります。最近では絶え間なく到着する、いわゆるストリーム・データをリアルタイムに処理するCEP(Complex Event Processing)と呼ばれる基盤技術が登場しており、プロアクティブなサービスを容易に提供する環境が整いつつあります。
図:CEP
このような知的なサービスや機能を提供する「プロアクティブ型BI」は、株式などの証券を自動で売買するアルゴリズム・トレードや高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)における安全でスムーズな運転の補助など、サービス革新をもたらす根幹技術としての役割が今後ますます期待されます。
3.BIによる変革実現のポイント
NTTデータでは、変革を実現するためには、以下の3つがポイントになると考えています。
図:変革を実現する3つの観点
情報分析・活用のシナリオ
ここまで、CPFRやER管理システムなどの事例を紹介しましたが、これらの事例には、いずれも業務方式という形で情報分析・活用のシナリオが組み込まれており、これをいかにデザインするかが変革実現の決め手となります。一方、情報分析・活用という観点で見ると、実は業界が違っても、同じようなデータ形式に対して、同じような目的で、同じような分析をしているケースが多々あり、そこには業務や業態に関係のない、いくつかの「分析の定石」(=分析シナリオ類型)が存在します。
NTTデータでは、これまで手がけてきた200を超える案件をもとに、分析シナリオを「評価・要因分析型」や「予測・制御型」など、9つに類型化(サブ類型も含めると13シナリオ)し、データ分析技法「BICLAVISR」として体系化しました。目的に応じてこうしたシナリオを活用することで、変革を具体的にデザインすることが可能になるのです。
図:(左)「BICLAVISR」の分析シナリオ類型化(右)4つのBIと分析シナリオ類型化の対応
BI成熟度
BIをただ闇雲に導入しても期待した効果は得られません。そこでは、変革のレベルに応じて、組織的なBIの能力すなわち「BI成熟度」をどのように、どの程度高めていくのかがカギを握ります。NTTデータでは、「業務」「システム」「人・組織」という3つの視点から5つのステージで、BI成熟度を捉えることを提唱しています。目標とする変革レベルに合わせて、求められる水準までBI成熟度を高めることで、見える化から業務改善・サービス革新といった変革が実現すると考えています。
図:BI成熟度モデル
BI定着化
BIを導入したけれど、なかなか使ってもらえないといった話をしばしば耳にします。ここでは、BIが現場に受入れられ、変革を確かなものにするためにはどのようにすればよいかということについて考えています。
NTTデータでは、BI定着のポイントは以下の4つあると考えています。
図:BI定着のポイント
BIが定着しない最大の理由は、単純に実際の業務において機能しないからです。そこで、まず第1目のポイントは、いかにBIを業務への組み込むかということになります。そのためにはターゲットとなる業務や作業の洗い出しが必須になります。また、マネージャが事実データによる報告を現場に対して能動的に要求することも重要な要素となります。
第2目は、業務定着までのロードマップをあらかじめ定めておくことです。例えば、特定業務・担当への試行導入から始め、レポート要件を抽出した上で全社展開する、といったロードマップを関係者で共有することで、定着化が促進されます。また、普及展開にあたっては、レポートを絞り込むことにも注意する必要があります。
第3目は、業務シーンや活用目的に合ったツールを選定することです。また、一般にレポーティングツール、OLAPツール、データマイニングツールという順で高い分析スキルが要求され、それに応じて利用者層も絞られてきます。どのようなユーザ層に定着させるのかという点もツール選定の大きな判断基準になります。
第4目は、現場を支える支援組織のBI機能を強化することです。例えば、営業企画部、営業推進部といった営業社員をバックで支える組織では、現場で活用する情報の提供と同時に情報活用の指導なども行うことがあります。このような組織では、必ずしもBIの専門家を抱える必要はなく、外部リソースも積極的に導入すべきでしょう。
以上の4つのポイントに着目してBIの定着を図ることが、より高いレベル変革の実現につながります。
4.NTTデータの取り組み~「BI Boosts Your Innovation」
NTTデータでは、「BI boosts your innovation」というコンセプトのもとに、「BICLAVIS®」をはじめとする独自のメソドロジ、IT基盤・ツールへの中立性、グローバルでの導入実績をベースとした業務別BIソリューションを提供しています。ここでは、グローバル需給調整をはじめBPO、顧客接点改革など、変革に向けての様々なソリューションが用意されています。
さらに、「業務」「システム」「人・組織」の各側面から業務の"やり方"をデザインし、BI成熟度向上をサポートする「変革コンサルティング」によって、戦略的な情報活用を組み込んだ新たな「変革」を、お客さまとともに実現したいと考えています。
図:NTTデータのBIソリューション