使う人から創る人へ
未来は自分たちの手で創る。
プログラムを使う人から創る人になろう
世の中にあるコンピューターを使ったサービスは、すべてプログラムの力で動いています。身近な家電から人工衛星やロケットに至るまで、生活のありとあらゆるところにプログラムが使われています。
そして、日々、世界のどこかで、誰かのプログラミングの力によって、新しいサービスが生み出され、私たちはその恩恵を受けながら生活をしています。
つまり、もし、自分でプログラムを作ること、つまりプログラミングができれば、自らのアイディアをもとに、よりよい未来のサービスを生み出すという、素晴らしい可能性を手に入れることができるのではないでしょうか。
ただ、そこには、「プログラミング=難しいもの」というハードルを越える必要があります。幸い、最近では、子ども向けのビジュアルプログラミング言語が複数あり、小さなうちからプログラミングに取り組める環境が整ってきました。わたしたちは、定期的な活動を通じて、子どもたちに自らのアイディアを形にする楽しさを伝え、未来への可能性を広げる支援をしています。
楽しいから工夫する、
工夫するから論理性に気づく
活動の目的は、初めてプログラミングに挑戦するお子さんに、楽しい体験としてプログラミングを認知してもらい、子どもたちの未来の可能性を広げることです。
よって、ビジュアルプログラミング言語の中でも、小学校低学年からでも取り組みやすい文部科学省提供のオンラインツール「プログラミン」(※1)を使い、アニメーションやゲームづくりを楽しく習得できる内容にしています。
この言語の特長は、ひとつ1つの動きの命令プログラムが、特徴あるキャラクターになっているので、動きをつけたい絵に対して、キャラクターを積み重ねていけば、簡単に絵を動かすことができることです。
また、作ったプログラムは「さいせい」ボタンですぐに動作確認できるので、思ったとおりの動きになるよう、キャラクター(命令)を積み重ねる順序やタイミングなどを子どもたち自身で考えながら、楽しく試行錯誤できます。
さらに挑戦したい人には
ロボットプログラミング
「プログラミング=楽しいもの」という心の種が育ちはじめると、さらに難しいプログラミングにも挑戦したい。という欲求が芽生えます。
そんな子どもたちの意欲に応えるため、難易度の高いロボットプログラミングのカリキュラムを設け、条件分岐やループといったアルゴリズムを意識したプログラミングにより、実際に形あるモノを動かす喜びも伝えています。
Beauto Racer(ビュートレーサー)(※2)という車型のロボットを使い、さまざまな形のコース上を走るプログラムを作ります。分岐やループの命令がブロックになっていて、論理的に矛盾しないように命令どうしを線でつなげることで、プログラムを作っていきます。
プログラムを変えると、ロボットの動きも変わる。あたり前かもしれないけれども、実際に体験したからこそ分かる学び。そのような子どもたちの感覚を大切にしながら、学びを深めていきます。
プログラミング学習が必修化?
わたしたちが大切にしていること
小学生の習い事として、プログラミングがとり上げられる時代になってきました。また、日経新聞2016.4.19の朝刊では、プログラミング学習を小中学校で2020年から段階的に必修にする方針を固めた。という記事もでています。このような動きには、子どもたちの思考力や創造性を高める手段としてプログラミングを活用したり、AIの普及などを見据えて付加価値の高い人材を育てていくといった狙いがあるものと思われます。
すでに、個人・企業・政府、それぞれの役割に応じた動きが始まっていますが、わたしたち企業が、社会貢献活動として、独自でプログラミング教室のカリキュラムを開発し、たくさんの子どもたちと接することで見えてきた、大切にしたいポイントがあります。
そのひとつは、楽しく自律的に学び、その体験を一過性にしないことです。カリキュラムでは、サンプルプログラムを使って、子どもたちにプログラムの作り方を教える時間を設けています。
しかしながら、その時間は必要最小限とし、子どもたち自らが、どういった動きを作りたいのか、そのためには、どういった命令を組み合わせればよいのか、自律的に考えながら自由にプログラムを作る時間を大事にしています。
たとえ最初は思ったとおりに動かなくても、すぐに作り直せるプログラムの特性を活かして、子どもたち自身にまずは試行錯誤してもらい、講師やスタッフはヒントを出すことに留めています。
大人に頼らず、自分の考えを、自分の力で実現できた達成感こそが、楽しい学びの体験として心の種となり、心の種をまかれた子どもは、家庭でも自発的にプログラミングを継続したいという意欲に繋がります。
そのために、プログラミングツールは、インターネットに接続されたパソコンがあればどこからでも取り組める「プログラミン」や無償ダウンロード可能な「Beauto Builder R」を使い、家庭に体験の持ち帰りができる工夫をしています。
次に、プログラムは世の中でどのように役立っているのかを学び、子どもたちがプログラミング体験と実社会とを繋げて理解できるようにすることです。わたしたちは、たくさんのコンピュータープログラムの恩恵を受けながら生活しています。しかしながら、プログラムの存在を意識する機会はほとんどありません。
くらしの中に潜んでいるコンピュータープログラムを知り、そのプログラムの果たす役割や情報の動きについて、ロールプレイングを通じて、体感的に理解を深めることで、学びの幅を広げます。(写真はATMからお金を引き出すロールプレイング)
最後に、子どもたち自身が未来を創る可能性のある人であることを認識してもらうため、未来についてのアイディアを自分なりに考えてもらうことです。未来はひとり1人のアイディアから生まれます。100年前の人が今のわたしたちのくらしを見ると、魔法のような世界だとびっくりするのではないでしょうか。子どもたちの自由な発想と、実現するプログラミングの力。これこそが、未来を創る原動力になるはずです。
今回も、子どもたちがたくさんの未来に関するアイディアを描いてくれました。
わたしたちは、この活動を通じて、子どもたちと一緒に学び・考え、人の幸せに貢献するITサービスの実現に取り組んでいきたいと思います。きっと、未来はこんなロボットと人とが楽しく共生している世の中になるかもしれませんね。
プログラミン 文部科学省が提供しているウェブサイト上のプログラミング環境。MITメディアラボで開発されたビジュアルプログラミング言語「Scratch(スクラッチ)」を参考に作られている。
Beauto Racer 本体基板・モーター・LED・赤外線センサーなどを備えた、クルマ型の教材ロボット。Beauto Racerを動作させるソフトウェアとして無償でダウンロードできる「Beauto Builder R」が用意されている。
Scratch Day 2016 in Tokyo
盛り上がるプログラミング体験イベント
さて、子どものプログラミング体験の活動をしているのは、もちろんわたしたちだけではありません。現在、多くの団体や企業がそれぞれの特徴を活かした活動を展開しています。
その1つに、キッズプログラミングイベントの代表格とも言えるScratch Day 2016 in Tokyo(※1)があります。年に1度の開催で、今年は、2016年5月21日に東京大学本郷キャンパスで開かれました。
プログラミング言語Scratch(スクラッチ)を使って、様々なプログラミングアイディアをアクティブラーニング(※2)として体験できるイベントです。
会場内に一歩足を踏み入れると、そこは、子どもたちの熱気溢れる世界。
イベントのテーマである、出会う(meet)、分ち合う(share)、学び合う(learn)にちなんだカリキュラムがたくさん設けられています。
自由体験コーナーでは、大学や団体などの協力により最新のプログラミングツールやガジェットが体験でき、プログラミング経験が少ない子どもでも、気軽にはじめの一歩を踏み出すことができます。
また、事前に申込めば、指導員によるScratchを使ったアニメーション作りやロボットプログラミングのワークショップも体験できます。
ロボットやセンサーと連動させてプログラムでモノを動かす自由体験も多く、一旦取り組みはじめると、意図した動きが作れるまで夢中になる子どもたちが至るところで見受けられました。
自分が作ったプログラムどおりに、モノが動く。
プログラムを変えれば、モノの動きも変わる。
同時に、ホールでは、事前にエントリーした子どもたちが自らのScratch作品をプレゼンするShow & Tellや、制限時間内に課題をコーディングするプログラミングバトルも開催されています。
発表する子どもたちにとっては、多くの人に自分の作品を披露する晴れ舞台ですが、話を聞く側の子どもたちにとっても、同世代の仲間たちから刺激を受けることができる、まさに分かち合い・学び合いの機会なのです。なんと午後3時には、来場者数は700人を超える大盛況ぶり。
ちなみに、この来場者数カウンターもScratchで制作されたものです。
必要なものは自分で創る。それをすぐに実践できるのが、プログラミングの良いところですね。
子どもたちとプログラミングとの出会い
ところで、このようなプログラミングイベントの盛り上がりは、何か特別な才能を持つ一部の子どもたちに限られた話ではないのか。といった見方もあるかもしれません。
そこで、プログラミングを楽しんでいるのは一体どんな子どもたちなのか、Scratch Day 2016 in Tokyoの会場で話を聞いてみました。
夢中でロボットプログラミングに取り組み、ロボットを動かす男の子。現在、小学2年生。はじめての出会いは、4歳の時だそうです。
お父さんいわく、近所の保護者と一緒に行った、子どもにプログラミングを教える集まりが、プログラミングに触れさせた最初のきっかけです。ただし家庭で特別な環境を作っているわけではなく、プログラミングも機会があれば実施する程度だそう。
ロボットプログラミングのツールはこの会場ではじめて使ったようですが、何度もロボット動きを確かめながら、多くの命令を組み合わせたプログラムに取り組んでいました。
別のブースで、ゲームの動きを熱心に確かめる男の子。現在、小学6年生。はじめたきっかけは、小学4年生で入った学校のパソコンクラブでの活動だそうです。
お父さんいわく、ゲームで遊ぶのが大好きなので、自然にゲームを作ることに興味をもったとのこと。
どうやら、子どもたちがプログラミングに出会うきっかけはさまざまですが、自分の興味のある領域と結びつき、楽しいと感じられると、プログラミングが遊びの一環として、自然に子どもたちの心に入り込んでいくようです。
わたしたちのプログラミング教室でも、「ゲームは遊ぶよりも作るほうが楽しかった」という声や、「はじめは何をするのか不安だったけど、やりはじめると、のめり込んでしまって時間があっという間に過ぎた」という声がよく聞かれます。
この声こそが、プログラミングが知識や勉強としてではなく、遊びの一環として取り込まれた証なのです。
やはり、「プログラミング=楽しいもの」という認知から自律的な学びにつなげていくには、体験を通じて獲得するのが近道のようですね。
※写真はインタビュー協力者ではありません
楽しい出会いの輪を広げる力になりたい
ただ、このような体験イベントは、東京・大阪を中心とした大都市での展開が多く(※3)、はじめの一歩を踏み出す機会に恵まれる子どもは地理的な問題から限られてしまうのが現状です。
本来、インターネットの世界は、地域差を超えるユニバーサルサービスとしての要素を持つはずです。希望すればどこにいても体験の機会が得られるよう、新しいしくみ(※4)や機会提供のあり方を考えることが必要です。
わたしたちも、東京で開催していたプログラミング教室のカリキュラムを地域で事業を営むグループ企業へ提供し、各地域でも自主的に活動できる取り組みをはじめています。また、プログラミング教室の活動を元に、子ども向けのプログラミング入門書「遊べる!わかる!みんなのプログラミング入門」を2016年3月にリックテレコム社から発行しています。
プログラミングに出会うきっかけの1つになれば、そして、その出会いが楽しいものになることを願って書いたものです。
今回のScratch Day 2016 in Tokyoでは、リックテレコム社も協賛されているため、本書もイベント会場に並べていただきました。
見えてきた課題
今回、会場で出会った子どもたちの多くは男の子で、女の子は少数派でした。
わたしたちの活動では、はじめてプログラミングを体験する子どもが多いため、もう少し数が増えますが、それでも女の子は参加者の4割に留まります。
過去、わたしたちが開催していたパソコン操作の体験教室では、参加者の男女比は1:1だったので、プログラミングに進むと、女の子の参加率が少なくなる傾向は明らかです。
よって、とりわけ女の子に対しては、性別による環境要因・特性要因を越え、テクノロジーに対する苦手意識を持たない早い段階で、楽しさを実感できる体験の機会に出会うことが重要であると感じます。
また、2020年には、学校現場でのプログラミング教育が本格的に開始され、わたしたちのような機会提供の役割は、学校へとシフトしていくでしょう。
変化を見据えて、わたしたちは何をすべきなのか。
そう遠くない未来、テクノロジーの世界で活躍する“元女の子“や、もちろん”元男の子“たちと一緒に、人の幸せにつながるAI社会をつくるため、これからも多くの方々のご協力をいただきながら、果たすべき役割を考えていきたいと思います。
年に一度、世界各地で同時に開催されるScratchのお祭り。東京では2009年から毎年開催され、年々規模が拡大している。
学ぶ人が、受け身ではなく、書く、話す、話しあう、創造する、発表するなどの活動を行いながら自ら積極的に学ぶ方法。知識を詰め込むのではなく、問題を発見し、解決する、あるいは新しい知識を創造する力を身につける学習方法として注目されている。
Scratch Dayについては、東京以外にも、古河、静岡、天白など、地方都市での開催が行われている。
Scratchでは、コミュニティー形成のしくみがあり、子ども同士が自主的に運営し、交流が盛んにおこなわれているのが特徴。