パソコンの導入からクラウドサービスの台頭まで、ITイノベーションは往々にして見慣れた軌跡をたどってきました。高まる期待や興奮の後には、実装上の課題という厳しい現実があり、生成AIも例外ではありません。世の中が騒ぎ立てる一方で、多くの企業がPoCから本格稼働までの道のりが容易でないことに気づき始めました。
NTT DATAのDavid Pereira(Head of Data & Data & Artificial Intelligence)は、生成AIを早期導入した顧客にアンケートを実施したところ、「PoCの80%近くが本格導入まで進めなかった」(※)という結果に驚いた、と語っています。
では、企業がハイプサイクルの落とし穴にはまることなく、実装の課題を克服するにはどうすればよいでしょう。「NTT DATAの生成AIプロジェクト成功の鍵は、戦略的アプローチの重視にあります。つまり、適切なプロジェクトを吟味・選択し、拡張可能なソリューションを構築し、そして永続的な変化を受け入れるマネジメント文化を醸成することです。」と、Pereiraは語ります。
Enterprise Gen AI Management Frameworkの一貫した実施により、この指標が改善されました。
適切なプロジェクトの選択:生成AIとビジネス目標の整合
NTT DATAが実施したグローバル調査によると、調査対象者の97%が今後1年間に生成AIへの投資を計画しています。しかし、回答者の83%は明確な戦略がある一方、51%は自社のAI戦略と事業計画が整合していないと答えています。この不整合がAI技術を十分に活用できていない要因となっています。NTT DATAの経験では、PoCが失敗に終わる原因の多くはこの不整合にあります。企業が競合他社のアイデアを採用する際、自社のビジネスの優先事項と合致しているかを考慮せずに取り入れてしまうケースが往々にして見受けられます。これに対して、NTT DATAは独自のEnterprise Gen AI Management Frameworkを活用したワークショップを開催し、顧客が有意義で効果の高いプロジェクトを特定できるように支援しています。このフレームワーク導入後、NTT DATAは、生成AIソリューションをビジネス目標と持続的な変革推進の両方に合致したものとすることによって、PoCから本格導入までの成功率を上げています。
Microsoft IGNITE 2024では、NTT DATAのAndrew Wells(Chief Data and AI Officer for North America)が、顧客企業を招いてパネルディスカッションを主催しました。セッションでは、各社の幹部たちがNTT DATAとの生成AIの取り組みについて意見を出し合いました。またWells氏はNTT DATAの案件評価アプローチについて、この戦略の中心にある4つの質問、「このテクノロジーで顧客の競争優位性を引き上げるにはどうしたらよいか?」「どのように生産性を改善するか?」「新たな収益を生み出せるか?」「導入にかかるコストは?」を紹介しています。
データドリブン型意思決定の強化
データのフラグメント化と品質に課題のある世界的飲料メーカーがNTT DATAとパートナー契約を締結し、Microsoft Azureを使用した統一データプラットフォームを導入。データパイプラインの自動化と生成AI搭載のインターフェイスを導入したことで、ユーザーは技術者でなくても簡単にデータ照会が可能になり、このプラットフォームにより異なるデータセットの一元化、データガバナンス強化、分析の合理化が実現しました。これらの改善から顧客企業は実用的なインサイトの入手が容易になり、意思決定の最適化と効率アップにも寄与しています。主な成果には、データの一貫性を確保するためのスケーラブルなフレームワーク、営業やマーケティングチームが利用可能なアナリティクス、収益に大きなインパクトを与える情報ツールの強化などがあります。
『データの合成、膨大な量の知識の取得、さらにプロセスの自動化まで、生成AIは日々変化の波を起こしています。その波に乗って、私たちのお客さま支援も常に進化しています』
Andrew Wells, Chief Data and AI Officer, North America, NTT DATA
同じ生成AI戦略は2つとして存在しません。しかし、出発点が同じということはあります。社内プロセスの自動化は、複雑さを最小限に抑えながら、短期間に成果をあげることができ、企業にとって着手しやすいものでしょう。さらに積極的に取り組むプロジェクトであれば、パーソナライズされた顧客体験の創出、意思決定の強化、効果的なクリエイティブコンテンツの作成、製造や物流分野での作業の自動化などがあります。
生成AIを用いた顧客向けアプリケーションや新たな商品企画は魅力的ですが、導入は容易ではありません。少なくともAIモデルに自社データを学習させる必要があるからです。
「現状に即したソリューションにフォーカスしてください」とPereira氏は述べます。「最初からパーフェクトを目指さず、まず探ることから始めてください。皆さん自身がテクノロジーと一緒に進化するようなプラットフォームを構築することです」
成功の定義
価値提供のために生成AIを試験導入する場合、セキュアな技術基盤と実装スキルのある人財が必要です。これらがなくてはPoCが成功裏に終わったとしても、容易にスケールアップはできません。
「私たちが常に目標としていることは、1つのビジネス領域、あるいは1つの地域で成果を達成し、その成果を他のエリアで再現することです」と、NTT DATAのCornelius Walter(CTO Automotive and Head of Generative AI@Auto)は述べています。
「よく目にする過ちの1つは、統合されたデータ活用基盤が用意されていないことです」と、Well氏は警告を発しています。強固なAIモデルは最新で、包括的なデータによって実現されます。これらのデータは組織全体に分散されていたり、外部に保管されていたりする可能性があるため、これらのデータに常に安全にアクセスできないことが往々にして問題となっています。
効率化の加速
商用車業界トップのグローバル企業がワークショップを開催し、様々な地域を跨いだ生成AIによる事業運営変革の可能性を評価しました。主催者である顧客企業は、NTT DATAと共同で、GitHub Copilotによるソフトウエア開発からAI主導プロセス変革まで、複数のビジネスプロセス領域にわたるインパクトの大きな取り組みを模索しています。手始めにNTT DATAは、シンプルな生成AIであるSource Code Library Generatorを実装し、分析と文書化を自動化して、顧客のレガシーなSAPコードベースの効率化に取り組みました。この最初の一歩が功を奏し、生産性が改善されたことから、運用上でより大きなインパクトをもたらす改革的なプロジェクトを優先しようと協議が行われています。
『OEM企業とサプライヤーのパートナー提携には、統合すべき点や責任分担などが多数含まれます。私たちは主要部品やコンポーネントをサプライヤーに大きく依存しているため、コラボレーションが不可欠です。生成AIによる効率性改善、ワークフローの高速化、データ品質向上は、連携の強化とプロセスの合理化を実現するものです』
グローバル商用車メーカー、リージョナルCIO
さらにAIをスケールする難しさはアクセシビリティだけにとどまりません。Pereira氏は「リスク・法務・コンプライアンス関連部門の十分な関与の他に、社員の教育とスキルアップが必要です。このカルチャーマネジメントがあるかないかで、生成AIの導入がまったく違うものになります」と語っています。
成功のスケールアップ
生成AIプロジェクトがパイロットフェーズから本格稼働に移行する段階で、組織体制が大きく変わる可能性があります。作業の自動化に伴い、担当業務が一新し、そこから新しい製品やサービスが考案されることもあるでしょう。
初期段階の経験から言えることは、生成AIの全社導入を成功させるには、リーダーたちはワークフロー全体、チーム体制、時には企業風土さえも徹底的に見直す必要があるということです。Pereira氏は「役割は変わってゆきます。若手プログラマーが今やっていることは3年後も同じではありません」と語ります。「同時にリーダーたちはこの5年から10年の間に確立されたルーティーンから脱却する準備が必要です。マネージャーたちは、これまでずっとこうしてきたという理由だけで特定のプロセスに縛られてはいけません」
R&Dの変革
グローバルビジネスを展開するドイツのTier1自動車部品メーカー、Continental社では、ユーザーエクスペリエンス事業部のエンジニアたちが書類の整理に追われていました。規定や顧客要件を記録する作業は、費用がかさむだけでなく、製品開発のタイムラインに大きく支障をきたしていました。
NTT DATAはAIベースの要求工学アプリケーションを開発し、生産性を大幅に向上しました。Microsoft Azure AIを使用したこの生成AIは、資料から要件を抽出・分類し、機能計画の自動作成を可能にしました。その結果、Continental社は、大幅な業務効率化と時間短縮を達成し、エンジニアたちは本来業務に専念できるようになりました。
『これ以上、言うことはありません。何度もお話した通り、結果は、特にNTT DATAのチームの皆さんとのコラボレーションは実にすばらしいものでした!私たちの複雑な要求を実用的かつスケーラブルなソリューションに変換するNTT DATAの実力にContinental社一同、感銘を受けました。
Michael Sicker, Director of R&D Transformation, Continental
生成AIのポテンシャルに懐疑的な人々に対して、Wells氏は異なる見解を示しています。「生成AIをハイプサイクルにはめようとする人たちはせっかちだと思います。過度に期待し過ぎ、結果を急ぎ過ぎています。しかし、彼らが世界の変化の速さに驚くのはこれからです」
NTTデータの生成AIに関してはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
WSJ連載記事 第一弾「CEOが見る生成AIインパクト」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/socialactivity/world-economic-forum/the-gen-ai-advantage/
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https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/121902/