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労働集約型ビジネスからAI駆動型ビジネスにシフトする
VUCAの時代、世の中の不確実性はますます高まっています。また、高齢化社会となり労働力人口が減少に向かう中で、これまでの労働集約型のビジネスモデルには限界が見えてきています。
こうした中で生成AIが果たす役割は大きく、NTT DATAは生成AIを活用したお客さまのビジネス変革支援に取り組んでいます。また、NTT DATA自身のビジネスについても、個別のSIや受託開発といった労働集約型ビジネスからAI駆動型ビジネスにシフトすべく、ソフトウェア開発業務をはじめとし変革を進めています。
お客さまのビジネス変革に向けた取り組み
まず、お客さまのビジネス変革に向けたNTT DATAの取り組みやユースケースを紹介します。
私たちは、先進的なお客さまとの共創、コンサルティング・サービス・アセットの拡充、プライベート環境における生成AI提供という三つの戦略を掲げてお客さまのビジネス変革を支援しています。
プライベート環境における生成AI提供は、企業における生成AIの活用で多い「社内の機密データをセキュアに学習させて活用したい」といったニーズに応えるためです。
オンプレミスまたはプライベートクラウド上でプライベートな環境を提供し、NTTの独自LLMである「tsuzumi」またはオープンソースのLLMをベースに提案しています。tsuzumiはプラットフォームフリー、オンプレミスでもパブリッククラウドでも、お客さまのご希望の環境で活用できます。軽量なのでファインチューニング(学習)も容易。そして、高性能です。(図1)
このように、エンタープライズにおける安心で安全な生成AI活用を支援しています。
図1:プライベート環境における生成AI提供
また、生成AIに関するアセットの開発、商用化においては、高度な文書処理を行う文書読解AIソリューション「LITRON」、チャットボットの「eva」、コード生成・変換アセット「Coding by NTT DATA」、インテリジェントマネージドサービスの「ACE」などがあります。
さまざまな業界における生成AIのユースケース
生成AIはほとんどの産業に適用可能ですが、NTT DATAが注目しているのはメディアやIT、製造、医療、小売り、旅行などの分野です。こうした業種における生成AIのユースケースとしては、文章生成と検索、対話などが代表的です。
旅行プラン提案AI
観光・旅行業界の事例を紹介しましょう。現在私たちが検証を行っている「旅行プラン提案AI」は、ユーザーの興味や関心、出発地、行きたい場所などを聞きながら、生成AIがスケジュールを組んでくれます。観光スポットやレストランなどの情報、Google Maps APIで計測するポイント間の移動時間などをもとに、生成AIが旅程を組み立て、提案してくれます。(図2)
図2:旅行プラン提案AI
食の伴走対話AI
次に、「食の伴走対話AI」です。ユーザー日々の食生活などの情報を入力すると、ユーザーの属性や食事の履歴などをもとに、生成AIが食生活のアドバイスを生成します。定型的な返答しかできなかった従来のコンシェルジュサービスの壁を越え、かつ生成AIを活用する際に話題が発散してしまうという課題をNTT DATAの対話制御技術で解決しています。
パーソナルアシスタントがユーザーの価値観を尊重し、個人に合ったウェルビーイングを支援するサービスが実現します。(図3)
図3:食の伴走対話AI
議事録からのタスク自動生成
そして、さまざまな業種・業界で活用が見込まれる「議事録からのタスク自動生成」です。議事録の内容から具体的なアクションが必要なタスクを抽出し、業務システムにタスクを登録するのは手間のかかる作業です。この作業を生成AIによって自動化することで、ユーザーはより優先度の高い業務に集中し、タスクの抜け漏れを防ぎ、ナレッジを共有することも容易になります。最近では生成AIが議事メモ自体も作成するケースもあり、議事録の作成からタスクの登録までを高い精度で自動化することも可能です。
曖昧で複雑な質問に回答できる、意図理解型チャットボット
従来のシステムは曖昧な質問が苦手です。質問によっては、システムが「分かりません」と返答することもありました。そこで、生成AIを活用してユーザーの意図を解釈し、必要に応じてシステム内部・外部の情報を参照して適切に回答する意図理解型チャットボットを開発しています。
例えば、NTT DATAが提供する閉域ネットワークサービスにおいて、この意図理解型チャットボットを活用する例を見てみましょう。
生成AIはサービスの利用規約のほか、内部・外部の情報を参照してユーザーの質問に答えます。例えば、「本サービスの品川区の通信状況と、最低利用期間を教えて」と質問すると、チャットボットは「本サービスの品川区の通信状況は『非常に高速』です。また、最低利用期間は、利用開始日から起算して1年間です」と回答しました。
この場合、通信状況については別の社内システムの情報を、サービスの利用期間についてはシステム内部で保持している利用規約を参照し、従来のシステムでは難しかった適切な回答を実現しています。
図4:曖昧で複雑な質問に回答できる意図理解型のチャットボット
NTT DATAのソフトウェア開発業務における生成AI適用事例
これまで、お客さまのビジネスの変革にどのように生成AIを活用できるかを話してきました。ここからはNTT DATA自身のビジネス変革にどのように生成AIを活用しているかを紹介します。
ソフトウェア開発は、生成AIの活用による大幅な生産性向上が期待されています。開発プロセスの中で、特に生成AI適用による効果が大きいのはコーディングとテストでしょう。私たちは当初はこれらのプロセスから生成AI活用をはじめ、今では要件定義や設計、プロジェクト管理、運用・保守などにも活用領域を拡大しつつあります。
これまで、NTT DATAは2000年代から開発の標準化を進め、さらに自動化やアジャイル開発、近年はAI、データドリブン開発にも注力してきました(図5)。
生成AIの登場に伴い、ソフトウェア開発における生成AIを用いた提案や適用事例はすでに140に上り、生産性向上につなげた事例も増えています。例えば、海外大手銀行の画面マイグレーションでは、生成AIの活用によって67%の生産性向上を実現しました。
図5:生成AIを活用したNTT DATA自身のバリューチェーン変革への取り組み
コーディングにおける生成AI活用も社内に広がりつつあります。MicrosoftのGitHub Copilotは、技術者が途中までプログラムを書くと、生成AIが次のプログラムをいくつか提示します。技術者はその中から最適なものを選び、効率的に開発を進めることができます。また、技術者のコメントをベースにプログラムを自動生成することもできます。NTT DATAが独自開発したコード生成・変換アセットである「Coding by NTT DATA」は、既存のソースコードを読み込ませ、Java8からJava17など、新しい実行環境に適したソースコードを自動作成することができます。
実際に「Coding by NTT DATA」を活用した事例の1つが、航空券予約システムにおけるJavaのバージョンアップです(図6)。Java8からJava17へのバージョンアップ作業に生成AIを適用し、作業時間を55%短縮することができました。
AIコーディングと手作業でのコーディングにおける作業時間の内訳を比較すると、修正作業は大幅に短縮されますが、確認作業の時間は手作業よりも多くなっています。手作業の場合には、修正しながら確認している面もあるからでしょう。生成AIを繰り返しバージョンアップ作業に活用することで、さらなる効率化が見込めると考えています。
図6:航空券予約システムのJavaバージョンアップにおけるAIコーディング技術の活用例
要件定義など、開発の上流工程でも生成AI活用が進んでいます。生成AIを使って、要件やユーザーストーリーからシーケンス図や画面遷移図を自動生成するのです。要件変更に伴ってシーケンス図の書き直しが必要となる場面はよくありますが、生成AIの活用によりこうした手間を減らすことができます。
開発におけるプロジェクトマネジメント支援にも生成AIを活用することができます。プロジェクトマネージャーは多忙で、プロジェクトの状況を詳細に把握するのは困難です。そこで、チャットツールやタスク管理ツール、ドキュメント、ソースコード、管理ツールなどを生成AIとつなぎ、生成AIに課題抽出と解決策の提示などの役割を担わせます。生成AIは過去のプロジェクトデータなども参照しつつ回答し、プロジェクトの生産性向上や品質向上を図ります。
例えば、プロジェクト内のあるチームのチャットの投稿頻度が低い場合、情報共有に課題があるのではないかという仮説のもと、生成AIはそのチームの追加トレーニングを提案するかもしれません。あるいは、特定のソースコードの更新頻度が非常に高い場合、生成AIは「仕様が決まらないまま開発を進めており、開発プロセスに問題があるのではないか」「未習熟者がソースを書いているため、レビューを強化したほうがよい」といった提案をプロジェクトマネージャーに対して行うことができます。
また、NTT DATAでは、ソフトウェア開発業務以外でも、社内ナレッジ検索やOA業務に生成AIを積極的に活用しています。
生成AIの進化とビジネスの未来
生成AIは、今後どのようにビジネスの未来を変えていくのでしょうか。
ここまで説明したユースケースの多くは、特定の業務を最適化・効率化するタイプのものです。いま、さまざまな分野でこうした特定業務向けの生成AIの活用が進んでいます。例えば、財務・経理専門の生成AI、法務向けの生成AIなどです。
今後は、こうした複数の専門的な生成AIを束ねてコントロールする汎用(はんよう)生成AIも登場することでしょう。
例えば、ある製品を海外市場に投入するときには、法務や財務などのリスクを含めて、企業は総合的なビジネスリスクを評価する必要があります。各専門分野のAIを複数集め、AI同士で会話をさせれば、妥当な結論を導いてくれるかもしれません。私自身は、やがてそんな時代が訪れるのではないかと考えています。
図7:生成AIがもたらす企業活動の未来
私たちは、生成AIを活用してお客さまと先進的なビジネス変革事例を共創しつつ、さまざまなクラウド事業者やAIベンダーとの連携や独自のアセットを組み合わせ、お客さまのご要望や環境に応じた生成AI活用環境を提供しています。また、AIガバナンス室やAIアドバイザリ―ボードを設置するなど、AIガバナンス推進体制を整備し、安心・安全な生成AI活用も支援しています。
NTT DATAは、これからも生成AIを活用したお客さまのビジネス変革に貢献していきます。
- ※本記事は、2024年6月21日に開催されたAWS Summit Japanでの講演をもとに構成しています。
NTTデータが考える生成AIの未来についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/0401/