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2024.4.1業界トレンド/展望

生成AIがもたらす未来 ~企業はどう備えるべきか?~

生成AIの進化が目覚ましい。驚くべきスピードで私たちの想像を超える進化を遂げており、会話、画像、音楽、動画などの生成がAIによって可能になった。今後、企業はどのように生成AIを活用していけばよいのか。生成AIを活用したサービス開発に携わるNTTデータ デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部の奥田良治、野村哲郎が解説する。
目次

急速に発展する生成AI技術

近年、会話を生成するChat GPT、テキストから画像を生成するStable Diffusion、独自の音楽を生成するAMADEUS CODE CLOUDなど、さまざまな生成AIが登場している。こうした生成AIはビジネスでどのような活用が想定されるのだろうか。

まず挙げられるのは、プログラミング、メール作成、インサイト抽出、思考整理、文書評価、ロールプレイングなど人間の基本的な能力をサポートする領域だ。この領域では、すでに業務に生成AIを取り入れ効率化を進めている企業も多い。

次に、2023年の後半くらいから生成AIが活用されるようになってきた領域が、特定業務の対応だ。社会規定に則った判断支援、コールセンターの応答支援、類似事例による作業方針検討支援、取引履歴を考慮したマーケティング支援などがあたる。

それをさらに進化させると、法令違反チェック支援、マテリアルズインフォマティクス用データベース構築、営業トーク解析など、専門知識や経験にもとづく高難易度の業務支援が可能になると言われている。

図1:生成AIが活用できる領域

図1:生成AIが活用できる領域

なぜここまで急速に生成AIの活用が広まったのか。NTTデータの野村哲郎は背景として、2つのポイントがあると語る。

「1つ目が、生成AIが汎用的な応答能力を持ったこと。これまでは特定業務での実用化をめざすには、膨大なデータと良いアルゴリズム、それらを扱えるデータサイエンティストが必要でした。しかし、生成AIが汎用的な応答能力を持つことで、追加学習なしでも期待感のある質問応答が可能になったのです。2つ目は、自然言語での対話インターフェースを持つことで、機械学習やプログラミングスキルがない人でも生成AIを活用できるようになったことです」

生成AIを使った企業の価値創出戦略

こうした中で、企業は今後、生成AIを使ってどのように価値創出していくべきなのか。野村は価値創出戦略の考え方を次のような四象限で示した。

図2:生成AIを使った企業の価値創出戦略

図2:生成AIを使った企業の価値創出戦略

「横軸は活用の仕方で、『社外向け』『社内向け』なのか、縦軸は生成AIの『汎用型』『特化型』です。生成AIをどこから取り入れていくかを考えるとき、まずはハードルの低い『社内向け汎用型』から始めるのが良いでしょう。そして、少しずつ『社内向け特化型』に伸ばしていくのです」

生成AIの活用が広がるにつれて、AIのモデルは『汎用型』『参照型』『追加学習型』と変遷していく。『汎用型』はChat GPTをそのまま使うようなモデルで、『参照型』は必要な業務文書を与え、Chat GPTのLLM(大規模言語モデル)までを使うモデル。『追加学習型』は事前にLLMにデータを学習させたうえで活用するモデルだ。

「ニーズに応じて最適な生成AIの実装方式は変わるため、自社の戦略を整理し、順を追って導入していく必要があります」(野村)

AIは個人のコンシェルジュになる

急速に進化している生成AIは将来的にどのように私たちの暮らしを変えていくのだろうか。NTTデータの奥田良治は、「AIは個人を助けるコンシェルジュになるだろう」と語る。

「私たちは日々、『今日何時に家を出よう』『今晩のご飯は何を食べよう』など無数の意思決定を繰り返していますよね。今後はAIがこうした日々の意思決定を支援するツールになっていくと考えます」(奥田)

例えば、夕食の準備をするとき、私たちは「昨日何を食べたか」「冷蔵庫に何があったか」「家族の健康」などを考えて、献立の検討や足りない材料の購入をする。また、調理をするときに作り方が分からない場合はレシピを調べる。

図3:個人の日々の意思決定を支援するAI

図3:個人の日々の意思決定を支援するAI

奥田は、「このように人が情報をインプット(入手)、プロセス(解釈)、アウトプット(行動)するすべての過程において、今後はAIがコンシェルジュとして支援する世界になっていくでしょう」と語る。献立を考える情報収集、冷蔵庫内の食材の自動チェック、それにもとづいた献立のレコメンド、食材の自動発注、作り方のガイドまで、サポートが可能になるかもしれない。

「1人1台スマホを持つように、あらゆるシーンでスマホの中のAIが人の意思決定や行動をサポートする。そんな世界は間近に迫っていると考えます」(奥田)

「デジタルヒューマン」「デジタルレイバー」の台頭

企業ではすでに、リサーチや文書作成などを効率化するMicrosoftのCopilot、テキストから画像生成するAdobeのFireflyなど、生成AIの活用が始まっている。こうした生成AIの活用はインプットや業務の効率化だけではなく、特にアウトプットの部分で破壊的な影響をもたらしつつある。

「これまでは『人がすべての作業をする』ことが前提でした。しかし、今まで人が丁寧につくってきた提案書や社内文書などを、今後は生成AIがぱっとつくれるようになるでしょう。もちろん人による確認や修正は必要になるでしょうが、アウトプットの業務が大幅に短縮され、『AIがサポートしながら人が作業する』ようになっていきます。こういう表現もできるのかと新たな気づきを得ることもあります」(奥田)

現時点では生成AIは主に文書やコンテンツ作成の支援ツールとして使われるケースが多いが、最近ではプレゼンや接客などのコミュニケーション領域で活用される生成AIも登場している。いわゆる、「デジタルヒューマン」だ。

「ディスプレイに表示されたデジタルヒューマンが、人に変わってお客さまと対話したり、プレゼンをしたりする。そんなことが実現しつつあります」(奥田)

例えば、NTT DATAが支援した事例では、全英オープンゴルフの来場者へのおもてなしと情報提供のため、デジタルヒューマン「Lottie(ロティ)」を導入。また、デンマークKrifa社では、受付のキオスクとしてデジタルヒューマン「Aida(アイーダ)」を設置。このようにイベント会場の案内や会社の受付として導入するケースは増えている。

図4:事例 ―デジタルヒューマン活用

図4:事例 ―デジタルヒューマン活用

もう1つ、AIの活用が期待されるのが、人の作業を助けてくれる「デジタルレイバー」だ。

RPAの登場によって、決められた作業を手順に従って自動化することが可能になった。そのさらに先、生成AIによってより複雑な作業ができるようになるのが「デジタルレイバー」だ。

「例えば、お客さまにアポを取ってスケジュール調整したり、メールを作成したりといった、従来は人がやっていた段取りやアポ取りの作業をデジタルレイバーが今後担っていくと思います。デジタルレイバーに『A社の担当者とあの案件で打ち合わせしたいから、調整をお願い』と言ってすべて任せることも、将来的には可能になるかもしれません」(奥田)

AIがもたらす企業活動の未来

こうしたAIの台頭によって、企業活動の未来はどうなっていくのか。まず、個人の業務をサポートするパーソナルエージェント型の汎用AIが全ての従業員を支え、各個人の業務活動の生産性を向上させる。そして、このパーソナルエージェント型汎用AIが経理や法務など各部門の専門知識を有した他の汎用AIと直接AI同士で会話をすることでさらなる業務生産性の向上を図る。さらには、パーソナルエージェント型汎用AIが「デジタルレイバー」「デジタルヒューマン」を活用して業務システムや仮想世界を通じてお客さまや取引先などの外部のステークホルダーに働きかけをしつつ、リアルな社会に影響を及ぼしていく。そんな姿が企業にもたらされるかもしれない。各企業はこのような姿を一つのメタモデルとして捉え、具体的な適用と変革を検討していく必要があるだろう。

図5:AIがもたらす企業活動の未来

図5:AIがもたらす企業活動の未来

ここまで紹介してきた内容は少し先の未来を含んでいたが、現段階では技術的にどこまで実現可能なのだろうか。野村は次のように語る。

「まず、すでに生成AIによってセキュアで高頻度なLLMの利用が可能であり、『汎用型』『参照型』『追加学習型』のすべてに対応することができます。その先、まもなく実現しそうなのが、LLMのネットワーク化です。LLMが連携して動けるようになり、より複雑な思考と行動が可能になります」(野村)

こうしたサービスの一例として野村が挙げたのが、NTTデータが提供する「LITRON® Generative Assistant」だ。NTTデータが開発した文書読解AI「LITRON」の自然言語領域で培った技術を活用し、多様なデータを連携させて信頼度の高い回答文を作成する生成AIソリューションだ。

「特性の異なるLLMがネットワークでつながり、AI同士がコミュニケーションを取るというのは実現されつつあります。こうしたツールを活用することで、さらに業務を効率化していくことが可能です」(野村)

人を中心に考え、価値を生み出していく

AIの急速な進化によって業務の効率化が進む一方で、「AIが人の仕事を奪うのでは」という議論もある。AIが普及した環境での企業経営における「人の役割」とは何だろうか。奥田は「人にしかできないこと、あえて人がやる方が効果が大きいことがある」と語る。

図6:AIが普及した環境での企業経営における“人”の役割とは

図6:AIが普及した環境での企業経営における“人”の役割とは

肉体を使う仕事、意志を持ったディレクション、責任を負うこと、AIを進化させることなどは人間にしかできない。また、AIにもできるけれど、あえて人がやることで効果が見込めることもある。例えば、温かみや熱量を持って人に接すること、法律や人事などの判断が人の感覚として妥当かを見極めることなどだ。

「人間ならではの良さや感性を生かしながらAIを組み合わせた世界をめざしていくことが大切だと思います。AIはあくまでもビジネスの価値の原石を創出するツールであり、価値を生み出す部分を担うのは人でなければなりません。またAIにはまるで幻覚を見ているようにもっともらしい嘘の内容を出力してしまうハルシネーション、回答の不適切性、著作権の問題など課題もあります。そういった意味でもAIは完全ではなく人の役割は重要だと考えます」(奥田)

こうした考えのもと、人がAIをうまく使いこなすスキルを身につけることやAIの基礎となるデータの整備/管理/ガバナンスをしていくことが企業にとって重要であることをふまえ、NTTデータはAIを含むデジタル技術を活用して変革をめざす方法論「デジタルサクセス®」を提唱している。

図7:デジタルサクセス®の4つの要素

図7:デジタルサクセス®の4つの要素

変化に対応するために大切なのは、着眼大局・着手小局のアプローチだ。変化の方向性は大きく、ざっくりと考える。そして、小さく、早く試しながら実践していく。これを繰り返しながら習慣化していくのだ。

図8:着眼大局・着手小局のアプローチ

図8:着眼大局・着手小局のアプローチ

「生成AIによる価値創出に向けたステップをこのモデルに当てはめる場合、技術理解やユースケース創出、コンセプト評価のサイクルをいかに高速化、軽量化できるかがポイントです。テクノロジーの進化をうまく活用できれば、効果的、効率的なユースケースを創出できるチャンスがあります」(奥田)

生成AIによって私たちの暮らしやビジネスのあり方は大きく変わろうとしている。こうしたAI時代に企業はどう備えるべきかという問いに対して、奥田は「あくまで中心は人」だと語る。

「人をいかに助けていくか。人に焦点をあてて、お客さまや従業員、ひいては社会全体にどのような価値を提供していくかを考え抜くことが大切です。NTTデータとしても、お客さまと一緒に考え、具現化していきたいと思います」(奥田)

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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