- 目次
マーケットの本質的なニーズをつかみ
幅広い顧客に対応する製品づくりを目指す
旭化成グループはマテリアル、住宅、ヘルスケアという3つの事業領域でグローバルなビジネスを展開している。マテリアル領域において、エンジニアリングプラスチックなど多様な製品を提供しているのが機能材料事業だ。同事業は各国の拠点をベースに、世界中の顧客と向き合っている。
機能材料事業におけるマーケティング改革が本格化したのは、2021年度のことだ。
「従来、当社は特定のお客様の課題に向き合い、課題解決につながる製品を開発・提案する手法を得意としてきました。そのお客様に対しては効果的ですが、同じ製品が他のお客様にも有効かというと必ずしもそうではありません」と語るのは、旭化成の崎田雄大氏である。
旭化成株式会社
モビリティ&インダストリアル事業本部
戦略推進部 デジタルマーケティング推進室
機能樹脂デジタルマーケティンググループ
グループ長
崎田 雄大 氏
目指すのはA社にとってだけ有効という製品ではなく、A社以外にもB社やC社にも喜ばれる製品づくりへのシフトである。崎田氏はこう続ける。「マーケットの本質的なニーズを理解し、そのニーズを反映した製品を開発・提供する方向にシフトする必要があると考えています。そのためには、マーケティング改革は避けて通れません。マーケティング活動を一気通貫でつなぐとともに、あらゆる活動にデジタルを埋め込もうとしています」
機能材料事業におけるマーケティング活動は、「顧客ニーズの調査」→「ニーズに対応する製品の開発」→「市場投入」→「顧客への提案」→「受注」という流れになる。開発や営業など他部門との連携を含めて一連のプロセスをデータでつなぎ、効率的かつ顧客獲得につながる有効なマーケティングへと進化させる。マーケティング活動で活用する様々なデジタルツールの中でも、主要な役割を担うのがSalesforceである。
マーケティングの仕組みや業務を見直すとともに、日本を含め9カ国の旭化成のグローバル11拠点に展開し定着させる。大規模なプロジェクトであり、改革プロセスはいまも進行中だ。
現地社員への地道なヒアリングから課題を抽出し
あるべき姿を描く
マーケティング改革プロジェクトは大きく1期と2期に分けることができる。2021年度からスタートした1期で取り組んだのは、マーケティング情報の共有である。例えば、営業担当者がPCに保存しているデータなどだ。すでにSalesforceをベースに情報共有基盤を構築し、営業担当者の活用度は高まりつつある。
2023年度からの2期目では、主に新規顧客の掘り起こしを担う既存のMA(マーケティングオートメーション)ツールと、営業部門が日常業務で用いるSalesforceを融合させ、新規の顧客獲得や提案力強化などを目指す。並行して、Salesforceの定着化に向けた活動がグローバルで進められている。
1期から旭化成のマーケティング改革プロジェクトに伴走しているのが、NTTデータである。「機能材料事業の経営管理の高度化プロジェクトで、NTTデータに参加してもらいました。そのときの経験や信頼感などもあり、今回もNTTデータにお願いしました」と崎田氏は話す。
では、NTTデータの提案はどのようなものだったのだろう。NTTデータの山崎研二はこう説明する。
コンサルティング事業本部 会計・経営管理ユニット
山崎 研二
「旭化成様のマーケティング改革における従来の課題として、以前から導入されていたSalesforceの活用度向上がありました。もちろん活用度向上は手段であり目的ではありません。しかしこれまでNTTデータが携わってきた案件の実績から、Salesforceにたまったデータを活用すれば、意思決定や効果的な営業活動に生かせることがわかっています。そこで、まず売り上げの8割を占める海外拠点を含む様々な現場をNTTデータが直接訪れて、『なぜ使われないのか』をヒアリングし、現場のみなさんと何度も議論しました」。その上でNTTデータがSalesforce活用による効果創出のシナリオを描き、そのシナリオに基づいてSalesforceをベースに機能拡張などの仕組みづくりを進めたという。
Salesforceに限らず、しばしばSFA(営業支援システム)へのデータ入力は課題といわれる。「入力が面倒な一方、自分たちの営業活動に役立つ実感が持てない」といった声を聞くことも多い。機能材料事業でも類似の課題があったようだが、フローの見直しや使い勝手を高める機能の追加などにより、Salesforceの活用度向上を図ったという。
「入力項目の数が多いことが、使いづらさにつながっていた面があります。項目を絞り込むとともに、入力しやすい画面を工夫しました。また、営業会議をはじめとする様々な会議でもSalesforceに入力されたデータを元に進行するように会議のスタイルを改めました。営業担当者がデータを入力しないと、古いデータをもとに判断が下されてしまうのです。さらに、もともと別システムだった申請ワークフローも組み込むなど、Salesforceが当たり前に使われる環境を作っていきました」と山崎は説明する。
こうした取り組みにより、先行的にプロジェクトが進行するある海外拠点では、日々の営業ログとして入力する情報量が以前の8~10倍に増加したという。
MAとSalesforceを融合
業務連携を進めて新規顧客獲得を目指す
次に、2023年度からの2期プロジェクトを説明しよう。まず、MAとSalesforceの融合について、崎田氏は以前の課題を次のように説明する。
「当社のWebサイトから資料ダウンロードするなど関心の高いお客様の中でも、問い合わせをくださる場合と、そうでない場合があります。前者についてはSalesforce経由で営業部門につなぎ、担当者がお客様を訪問します。後者については、どのような形で営業に情報を渡すかというプロセスが確立していませんでした。営業につなぐべきかどうか、迷うこともありました」
MAの運用を担うのは、デジタルマーケティングのチームだ。実は、1期のころは組織上、MAとSalesforceの運用は別々のチームで、チーム間の連携も十分とはいえなかった。デジタルマーケティングとSalesforceの融合が重要テーマとして浮上したこともあり、2期では両方のチームを統合した。それが、崎田氏が統括する機能樹脂デジタルマーケティンググループである。
「MAとSalesforceがつながればいいとは思っていましたが、1期まではつなぎ方が分かりませんでした。2期では2つのチームを統合するとともに、NTTデータのサポートを得て2つのシステムを接続しました。営業現場の協力もあって、業務連携のレベルも向上しています」と崎田氏。2つのシステムを統合してさほど時間は経っていないが、成果も現れ始めている。
「Webサイトを分析して関心が高いと思われるお客様について、問い合わせを待たずに営業担当者につなぎ、サンプル提供まで進んだケースが数件あります。従来なら、訪問に至らなかった可能性のある案件です」(崎田氏)
2期では、Salesforceの定着化に向けた活動も本格化している。先に入力情報量の増加に触れたが、情報を蓄積するほど分析の精度は高まる。とはいえ、グローバルすべての拠点で定着させるには長い時間がかかる。定着化を加速する上で、1つのカギになるのが基幹システムとの連携だ。
マーケティング改革とほぼ時期を同じくして、旭化成ではグローバルでの基幹システム更改プロジェクトが進む。こちらのプロジェクトでも、NTTデータはパートナーとして旭化成をサポートしている。
「基幹システムとSalesforceとの連携により、営業担当者は基幹システムにログインせずとも、Salesforce上で営業に必要な様々なデータを確認できるようになります。ユーザーフレンドリーな画面で、必要な情報に効率的にアクセスできるので、Salesforceの活用度はさらに高まるでしょう」と山崎は語る。
機能材料事業のマーケティング改革は息の長い取り組みだが、新規顧客発掘などの成果も生まれ始めている。また、データ蓄積も着実に進んでいる。
「成功事例を増やしながら、社内の納得感を高め、マーケティング改革をさらに力強く推進したいと考えています。単にシステムを導入するだけでなく、業務を変革し、さらには事業を変革する。長い道のりをともに歩むパートナーとして、NTTデータには今後も大いに期待しています」と崎田氏は話す。マーケティング改革へのチャレンジは佳境を迎え、次のステージに差し掛かろうとしている。それは蓄積されたデータに基づく新たな価値の創造である。データドリブンなマーケティング活動への準備は着実に整いつつある。
NTTデータの業務コンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/business-consulting/
NTTデータのCXイノベーションについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/cx_innovation/
あわせて読みたい: