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2025.4.22事例

【後編】トヨタ紡織が取り組む全社一丸のDX

~経営から現場の意識を変えていく~

自動車の内装システムサプライヤー事業や、内装製品の製造、販売を手がけるトヨタ紡織では、経営から現場の意識を変え、社員と共にDXを推進する風土を醸成する活動を加速している。その施策の一つが社内向けDX展示会「DX EXPO」だ。NTTデータ東海、NTTデータ、NTTデータグループの3社は、一丸となってこのプロジェクトに伴走し支援してきた。
トヨタ紡織の全社DXプロジェクトをリードするトヨタ紡織 DX&IT推進本部 CDO 柴田隆宏氏と、NTTデータグループInnovation技術部 技術部長 稲葉陽子、およびNTTデータソーシャルイノベーション事業部アセットビジネス統括部 統括部長 新井貴博が、社員の意識変革の勘所や先進技術を活用した業務改革に関する将来ビジョンを語り合った。
目次

新しい仕組みを浸透させることの難しさ

NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部
稲葉 陽子

稲葉 陽子(以下、稲葉)
御社ではDXをどのように捉え、具体的にどのようなアプローチで進めているのでしょうか?

柴田 隆宏 本部長(以下、柴田氏)
本来はビジネスを変革することがDXですが、当社のような製造業だとTransformation with Digital(XD)と捉えたほうがあっていると考えます。私がまず取り組んだのは、一つの製品をつくるために必要な部材や工数など、ものづくり全体に大きく影響する原単位を標準化することです。この活動自体はデジタル活用とは関係なく、やらなければならないことだったのですが、今回のDXの取り組みをトリガーに関係者の理解が一気に高まりました。続いて情報の整理です。似て非なる情報が多数あるなか、データを一元管理することを情報のデジタル化と定義し、進めていきました。

稲葉
DX/XDの土台づくりが着実に進んできていると感じるのですが、Transformationを成功させるためには、社員の意識改革も必要だと思います。その点はいかがでしょうか?

トヨタ紡織株式会社 CDO 兼 DX&IT推進本部
本部長
柴田 隆宏

柴田氏
経営層から管理職、実務のライン長、実務者まで、全員の意識を変えていかなければなりません。しかし、デジタル化というのはIT部門の仕事であって「われわれの本業は別にある」と考える人が少なからずいます。まずは上司がデジタル化を正しく理解し、職場の方針に明記すること。そして、工数を確保したうえでデジタル化を実行していかなければ、なかなか進みません。経営層から実務者までの各階層にデジタル推進リーダーが必要なのですが、その人材が足りていないことは課題の一つです。

稲葉
製造業では労働時間の削減が大きなテーマになっていて、現場を見ている管理職の方々は日々悩まれているのではないかと思います。そこにデジタル化という話は出てきていないのでしょうか?

柴田氏
出てきていまして、各階層への浸透が始まっている状況です。デジタルで業務を効率化し要員計画に反映していく、という会社の方針は示されていますし、そのための実行計画も進めていますが、「自分たちで進めていくのだ」という意思、自律的な意識改革までは至っていないと感じています。

稲葉
やはりDXの新しい仕組みを入れようとすると、現場ではまず習熟に時間がかかるという課題があるからでしょうか?

柴田氏
習熟もそうなのですが、まずはトライすることが大切です。たとえば当社では、生成AI(Microsoft Copilot)を全員使える環境にして周知はしているものの、全員が活用している迄には至っていません。使えば有効だと分かるのですが、その第一歩のところで止まっている場合が多くあります。生成AIは利用しながら自身の活用レベルが向上していくツールだと考えています。

稲葉
私たちIT業界では、アプリケーションやツールには比較的慣れ親しんではいるものの、浸透させるのは簡単ではないですね。周知するだけでなく、研修をして、さらに実践する機会を設けて、徐々に習熟させていく。組織の中で使える人が出てきたら、その人に教えてもらい周りの人が使えるようになっていく、といった形で少しずつ進んでいる状況です。私たちはお客さまにシステムを提供する立場ですが、導入後になかなか利用が進まないケースもあり、DX/XDを推進するうえでの課題になっていると感じています。このあたり、新井さんはどう考えていますか?

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 アセットビジネス統括部
新井 貴博

新井 貴博 (以下、新井)
まず大事にしているのは、お客さまが掲げる経営目標や課題にいかに貢献するかということで、そのために適切なソリューションやツールを選定してご提案しています。ただ一方で、導入した後に、どのようにして現場の方々に使っていただくか、より効率的にお客さまの中で内製的に使っていただくかというところは、非常に難しい課題だと私も認識しています。

例えば、NTT DATAでは「WinActor」というRPAツールを10年以上提供しているのですが、ヘルプデスクでサポートをしても、なかなか定着しないことが分かっています。その中で一つの解決策として実施しているのが、コミュニティーづくりです。製品をご利用いただいている全てのお客さまユーザーが参加でき、ユーザー同士でTIPSを持ち寄れるサイトを提供することで、コミュニティーを通じてお客さまが自分自身で課題解決され、利用促進につながっています。

社内展示会が社員の意識を変える起爆剤に

柴田氏
新しいツールを定着させ、活用して効果を上げるのはそう簡単ではないですが、生成AIは大きなトリガーになると思っています。生成AIを使うことで、「実務の中でこんなことが実現できるのか」と実感が得られれば、部門も本気になるだろうと。そのための取り組みが社内展示会DX EXPOです。御社にご協力いただき、第1回では当社のDX基盤推進室 室長である吉田をデジタルヒューマン化して、AIエージェントとしてデモ展示をしました(※参考リンク)。あれはキャッチーなツールとして非常に良かったと思います。そして第2回ではDX&AI EXPOと改め、もう一歩進み、生成AIを活用した各職場の改善事例を展示しました。まだまだ生成AIの機能を活用しきる状態には至っていないのですが、自分たちで生成AIを用いて改善を実施した、という経験の意義は大きいと思っています。

稲葉
システムを提供する際には「現場の方々が興味を持てるものを」と私たちも心掛けており、DX&AI EXPOで社員の方々が自ら発案して事例をつくられたのは、本当に素晴らしいことだと思います。特に印象深かった事例はありますか?

柴田氏
一番力を入れているところとして、各部門の問い合わせ業務です。例えばOAヘルプデスクにはかなりのリソースを使っていますが、ここにAIを活用することで、2~3割の削減にめどがたっています。また、生産工場での事例も生まれています。人が動いて組み立て作業をしているところを撮影し、その画像を指の動きまで細かくAIで分析し、品質不良につながる可能性が多い作業を検知。今まで人の勘と経験に頼って改善をしていたのですが、それをAIが提案するという仕組みです。これは反響が大きかったです。

稲葉
後者の事例は製造業ならではですね。リアルタイムに異常検知ができることに加えて、育成にもつなげられそうです。DX&AI EXPOを経た今、感じておられる課題はありますか?

柴田氏
当初は「それはわれわれの本業ではない」という意識が強く、一体感が不足していたのですが、DX&AI EXPOを経て、かなり能動的になったと感じています。やはり成功事例を積み上げることが本当に大事だなと思います。だからこそ、ユースケースをさらに増やしていかなければ、なかなか全社に広がらないですし、部門ごとに一個ずつ改善するやりかたでは競合にも勝てません。同時多発的に事例をつくっていくには、各部門が主体的に進めていく必要があり、今まさにそこを仕掛けているところです。

稲葉
現場にこそ知恵があると思うので、さまざまなプロトタイプを作り試していくことが大事になるのですが、工数がかかってしまうのは課題になりそうですね。その点について、新井さんどうでしょう。

新井
今回DX&AI EXPOで私たちがサポートさせていただいたAIエージェント基盤サービス「つなぎAI」は、ITの専門知識があまりない方でもAIを使えるようにしたローコードツールです。社員に寄り添った秘書のような、アシスタントAIエージェントの世界観の展示をご支援させていただきました。こういったツールを起点に、どうすれば現場の方が利用する際のハードルを下げられるか、工数を減らせるか、それをどうサポートするべきか、私たちとしても意識してサービス化に取り組んでいます。

先進技術を活用した業務改善の具体例

稲葉
人が行う作業の効率化以外にも業務改善を進められるケースは多く、製造業においてはスマートファクトリーという取り組みもあります。シミュレーションによる最適化、ロボットを活用した自動運送、異常検知などを実現する先進技術はNTT DATAでも取り扱っていますが、御社ではどうお考えでしょうか?

柴田氏
工場DXというかたちで取り組んでおり、物流が大きなテーマになっています。特に工場内での物流は、加工費を低減する重要なファクターです。当社では今、物の動線を見える化しているのですが、つくる動線よりも運ぶ動線のほうがはるかに長い。しかし運んでいる間は製品に付加価値が付かないので、ここをいかに効率化できるかを考えています。

稲葉
動線を効率化する際、従来であれば、人の勘や経験に頼るケースが多いと思うのですが、一方で工程が複雑になっていて、数理最適化などの計算手法やシミュレーションで最適なルートを導きたいシーンもあるのではないかと想像しています。

柴田氏
弊社の製品は部品点数や生産工程が多いなど、細かい条件が多く複雑で難しいですが、もしこれを計算処理で最適化できるのならば、非常に有用です。

これまで以上に大切になってくるものは、「伴走」

柴田氏
今後、生成AIは間違いなく進歩していき、人が担っている作業はどんどん生成AIに代替されていくと思いますが、効率化によって生み出されたリソースをいかに活用していくべきなのか、という課題が出てきます。解決策の一つはリスキリングだと考えているのですが、そう簡単にリスキリングができないケースも確実にあります。この課題にどう向き合っていくか、良いアイデアはありますか?

新井
人が新しいポジションに移ったときに、伴走してくれるAIエージェントがいると、ゼロから積み上げなくても、その場所にアジャストできる可能性があると私は考えています。生成AIの力をうまく借りながらリスキングを促進し、活躍の場を広げていく。今の生成AIの進化を見ていると、そういったエンパワーメントができるのではないでしょうか。実際にお客さまからも、「生成AIが人の育成や業務継承をサポートする世界って、きっとあるよね」というお話を伺うことがあります。

柴田氏
リスキリングに伴走する生成AIも出てくるでしょうね。結局我々が期待しているのは、人でも生成AIでも「伴走」なんです。ただし、業界や企業ごとに求める伴走の仕方は違っているはずです。自分たちでAIをファインチューニングできるようになりたいという思いもあり、伴走のメニューが多岐にわたっていると非常に協業しやすい、という期待を持っています。

新井
「AIの民主化」が進み、お客さまの中で内製化がどんどん進んでいく世界になっていくと思います。その伴走のためのサービスメニューを用意することが肝要であり、私たちの宿命だと、今のお話を伺って感じました。特に御社のように戦略から社員への浸透までの流れをしっかりと実践されている企業での内製化の課題感は、ぜひ生の声を頂戴したいと思っています。

稲葉
最後に、これまで推進されてきたDX/XDを踏まえて、今後どう進めていくのか、御社の展望をお伺いできますか?

柴田氏
5年ほど前から進めてきた標準化やデジタル化、脱レガシーといったものがようやく終わるめどがついたので、今後の目標はデータをしっかりと連携させる情報基盤を活用していくことです。業務効率化は目的ではなく手段として、情報基盤を使って2030年にビジネスのスピードを2倍にするところをめざしてやっていきたいと思います。

稲葉&新井
今日はありがとうございました。NTT DATA全体でしっかりと伴走できるよう、努めていきます。今後ともぜひよろしくお願いいたします。

(※参考リンク)

【前編】トヨタ紡織が取り組む全社一丸のDXはこちらについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2024/072901/

NTT DATAのテクノロジーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/technology/

生成AIアプリケーションを誰でも開発できるAIエージェント基盤サービス「つなぎAI®」の提供を開始のテクノロジーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/041401/

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