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2023.12.5業界トレンド/展望

今、重要視すべきデザインとテクノロジーの融合がもたらすビジネス価値――CX向上に必要な3つのエッセンスとは?

商品やサービスそのものだけでは差別化が難しい昨今、購買前後の体験を含めたCX(顧客体験価値)が注目されている。生成AIの台頭などテクノロジーが目まぐるしい進化を遂げ、事業価値創出においてはデザイン思考の考え方も重視されるようになってきた。CXを高め、その先で企業にとってのビジネス価値最大化を実現するカギは「デザインとテクノロジーの融合」だという。「サービスデザイン」「顧客タッチポイント」「データ活用」の3つのエッセンスを軸に、デザインとテクノロジーの融合によるCX向上の実現方法をひも解く。
目次

BtoBの世界でも高まるCXの重要性

‐‐企業がCXを高めていくうえで、なぜデザインとテクノロジーの融合が求められるようになってきたのでしょうか。

谷中:デザインというと人間のぬくもりを感じる一方、テクノロジーはどこか無機質で人間味がないと感じる人が多いかもしれません。このようにデザインとテクノロジーは距離感があるように思われがちですが、この2つを近づけていくことが、CX向上ひいては企業としてのビジネス価値最大化につながっていくと思っています。

今やAIやBIをはじめ、企業の関心を集めるテクノロジーが続々と登場しています。しかしそれらを実装しても、しっかり定着しその力を最大限発揮するには、埋めなければいけないギャップがあるのです。そのため、IT部門だけの目線でテクノロジーの活用を進めるのではなく、あくまでユーザーの視点で、ユーザーが納得した上で、新しいテクノロジーを活用するデザインプロセスが、テクノロジーのビジネスへの貢献度を大きく引き上げるのではないかと考えています。

実はこの考えは、BtoCの世界では既に起こっています。わかりやすいのがiPhoneで、プロダクトデザインの素晴らしさだけでなく、箱を開けるところから直感的に使い始められるところまでのUX(ユーザー体験)が優れており、社会を大きく変えるほどの自然なカスタマージャーニーが生まれています。今後、こうした動きはBtoBの領域でも巻き起こってくるでしょう。

‐‐最新テクノロジーが社会に実装されていくなかで課題になること、そしてその解決に近づく方法をどう考えていますか。

デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部
事業本部長 谷中 一勝

谷中:たとえば、社内のユーザーがツールを十分に使いきれていなかったり、データ活用についても前提となるデータが十分に揃っていなかったりといったケースが多く見られるのが現状です。

そこで、デザインコンサルティングの手法を用いれば、社内でいえば従業員、社外に提供するサービスであればその先にいるコンシューマーの視点に徹底的に立ったジャーニーを考え、ツールやデータが最大限に使われていない原因は何か調べて改善を図っていく作業を実現できます。

デザインコンサルティングとは、そのサービスがどれだけストレスフリーに使えるか、それも1ユーザーに限らず多くの人々をまたがり、連鎖して使われていくにはどうすればいいかを描くための手法です。

徹底したユーザー視点でジャーニー全体を設計

‐‐デザインとテクノロジーを融合し、CX向上に取り組む上で重要となるポイントを教えてください。

谷中:その実現には「サービスデザイン」「顧客タッチポイント」「データ活用」という3つのエッセンスが重要だと考えます。この3つのエッセンスをうまくミックスし、徹底的なユーザー視点でこれらをサイクルで回すのが、デザインコンサルティングの手法です。
サービスデザインは、徹底的なユーザー視点でカスタマージャーニーを最適化します。従来はIT部門や外部のコンサルタントが主体となり新しいテクノロジーの活用を進めてきましたが、サービスデザインは、社内あるいはその先にいるユーザーを主体に課題を見える化し、サービスのジャーニーを考え、新たな価値を提供する一連のデザインプロセスです。あくまでユーザー視点でジャーニーを正確に捉え、ユーザーが納得したうえでテクノロジー活用につなげていくことができるため、一過性ではないつながりも創出することが可能です。

村岸:新しいアプリやサービスを作るとき、何を考えればいいか。ユーザーは、そのアプリやサービスを使う前後にさまざまなことをしています。たとえば航空会社のアプリでいえば、旅行しようと思い立った最初のタイミングでいきなり航空会社のアプリを開くことはないでしょう。まずは「どこへ行こうか」から始まり、観光スポットやグルメ、アクティビティを調べ、ホテルのWebサイトや予約サイトを訪れ施設や価格をチェックする、といった道筋を通ります。つまり、顧客とのタッチポイントはさまざまなところに存在しているわけです。

ですから、作ろうとするアプリやサービスのことだけを考えるのではなく、始まりから終わりまでの全体のジャーニーを描いたうえで、航空会社のアプリはその中でどういった役割を果たすのか考えることがとても大事になります。さらに、そうした多数の顧客タッチポイントごとにデータが存在しているので、そのデータをいかに集め、活用できる状態でデザインのプロセスに取り入れられるかが重要です。

‐‐そもそもCXに取り組むうえでの「デザイン」という言葉は、どういった意味合いで使われているのでしょうか。

デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部
デジタルテクノロジー&データマネジメントユニット サービスデザイングループ
Advanced Professional 村岸 史隆

村岸:CXの向上につながる顧客にとっての価値を描くことが、まさに「デザイン」です。ジャーニー全体においては顧客に価値提供するポイントが数多くあり、その全体の体験をデザインしていくということです。

ただ、ユーザー以外の人々が、“ユーザーに共感して寄り添うソリューションを検討する”という、従来の方法では限界が出てきました。それだけでは使う側の立場から見た“手触り感”や“納得感”がなく、せっかく新しいテクノロジーを取り込んだサービスも十分には活用されません。そこで、“あるべきユーザー体験”の全体をユーザーと一緒になって描き、実現していくプロセスを設けたサービスデザインの考え方が必要になってきたのです。

“あるべきユーザー体験”の実現に向けた道筋とは

‐‐手触り感や納得感のあるサービスデザインでCXを向上させるには、どのように進めていくのでしょうか。

村岸:あるべきユーザー体験全体の理想像をユーザーと共創していくには、まずターゲットとなるユーザーを絞り込み、ジャーニー全体の中でユーザーの課題や困りごとを抽出します。そのうえでCX向上につながる注目点を決め、それをサービスでどのように解決できるかを考え、ソリューションをデザインして、実際にデリバリーしていきます。そのために必要なものが、テクノロジーであり、データです。

当社がサポートしたある自動車メーカーのオーナー向けアプリを例に出します。車オーナー向けアプリの機能として通常考えられるのは、点検予約や新しい部品の購入、あるいは買い替え時のコンタクトといった程度で、それほど多くのタッチポイントは考えにくいでしょう。このメーカーでは顧客エンゲージメントやロイヤリティを高め、次回も同じブランドの車を買ってもらうためのサービスとしてオーナー向けアプリ活用を考えていました。そのため私たちは、ライフスタイル全体で車がどのように使われるのかから考えました。

たとえば日常での利用はもちろん、車でレジャーやキャンプに行く予定を立てるところも含めたさまざまなシーンを想定し、顧客・ユーザー体験の理想像を作りました。その中では、このメーカーのオーナーは同じ車種のオーナーと趣味でつながることができればブランドへのロイヤリティもより上がるのではないか、といった推測も踏まえて、単に点検予約や店舗来店時の体験にとどまらず、データを活用してパーソナライズしたオプションをエージェントが提案する、といった機能もデザインしていきました。

図:【自動車メーカーのオーナー向けアプリをデザインした事例】 様々な利用シーンを想定し、顧客・ユーザー体験の理想像を作ることで、To Be(あるべき)ユーザー体験を実現

図:【自動車メーカーのオーナー向けアプリをデザインした事例】
様々な利用シーンを想定し、顧客・ユーザー体験の理想像を作ることで、To Be(あるべき)ユーザー体験を実現

加藤:こうしたデザインにより、一連のジャーニーのCXを上げていく上では、やはり顧客を知ることは不可欠要素です。顧客を知るにはさまざまなタッチポイントで集めたデータを基に理解を深めていくことが必須で、そのためにはデータ活用の仕組みが一元的に整備されていなければなりませんし、データをAIで分析してユーザーの思考を予測することも必要です。

‐‐そこにデータ活用の重要性が出てくるのですね。

デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部
デジタルサクセスコンサルティング ユニット D&Iコンサルティンググループ
部長 加藤 元英

加藤:はい。今はタッチポイントの数も増えています。たとえば車がネットワークにつながっていれば、車の走行距離や移動した場所、使われる頻度などのデータも集めることが可能ですし、もしも車以外のデータ、たとえば店舗の購買データなどと紐付けられるようになれば、ユーザーの属性や好み、車の利用目的もさらに推測しやすくなるでしょう。その意味で、理想的なジャーニーを描くにあたってデータを集め、活用しやすい時代になってきたという実感はありますね。

企業の営業担当が日常的に行う体験全体を例に考えると、営業計画立案、顧客訪問準備、顧客訪問、訪問報告・ステータス更新という4つのプロセスのそれぞれにおいて、課題や求められることをデータから見える化できます。これらを分析し、実際に営業を行う社員とインタビューやワークショップを行いながらサービスデザインを実施して、CXを向上させる最適な体験を作っていくことができます。さらに、サービス改善の施策を打った結果、ジャーニーがどう変わったかを分析・検証するうえでもデータを活用できます。

谷中:顧客・ユーザーにとって何が最良の体験価値なのか、それをジャーニー全体の視点から描き出すことが必要です。そのための要素として、サービスデザインがあり、さまざまな顧客タッチポイントがあって、データ活用の基盤がある。CX向上においてはこの3つのエッセンスをうまくミックスし、徹底的なユーザー視点でこれらをサイクルで回していくデザインコンサルティングの手法によって、全体の体験価値が上がってくると考えています。

デザインとテクノロジーの自然な融合を目指したNTT DATAの価値提供

‐‐これまでの話を踏まえ、NTT DATAとしてデザインとテクノロジーの融合という視点から、今後企業にどのような価値を提供していきたいとお考えでしょうか。

谷中:当社はグローバルのデザインブランドである「Tangity」においてユーザー起点のCXを設計するサービスデザインに取り組んでいます。また、360度のタッチポイントの要となるSalesforceとのパートナーシップや、タッチポイントから得られるデータ活用のスキルとノウハウも有しています。さらに最近では企業向け対話型AIサービス「LITRON Generative Assistant」をリリースするなど、最新テクノロジーを活用してCX変革を支援する多彩なサービスを提供し、顧客企業への提供価値向上に努めています。

テクノロジードリブンという意味ではなく、デザインと組み合わせたうえでテクノロジーのポテンシャルを最大限に発揮し、ユーザーのCX向上、その先のビジネス価値最大化につながる体験を顧客企業と共に創っていきたいと考えています。

‐‐ありがとうございました。

(※)「Tangity」は日本国内および各国における株式会社NTTデータの登録商標です。
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