1.人材および組織から見るDX推進の課題
近年、急速に進むデジタル化によって企業や消費者の行動が大きく変化しています。そのため、デジタル技術の活用を前提とした業務フローの改善や、新規サービスを創出するDXへの取り組みが必要不可欠になってきています。多くの企業がDXに取り組む一方で、「成果が出ている」と実感している企業は少ない状況です。DXを推進し成果を創出するためには、多岐に渡るDXの取り組みを計画・実行できる人材を揃え、組織化しなければなりません。このような「人材」がいないことや、「組織」が構築されていないことによる課題を紹介します。
DXを推進する適切な「人材」がいない
DXを推進するためには、取り組み内容に合わせて適切な人材が必要になります。例えば、DXによる変革ビジョンを描くには、ビジネスとデジタル技術両面を理解していなければなりません。デジタル技術に関して理解が不足していると、技術的に実現性のあるロードマップを策定できず、その後の検証や導入時に失敗する可能性が高まります。一方、ビジネスに関する理解が不足していると、デジタル技術の活用が目的化してしまいビジネス成果に寄与する取り組みにならない可能性があります。DX推進の段階によって取り組む内容が異なるため、段階に合わせて適切なケイパビリティを有する人材が必要です。2章ではDX推進の段階ごとに必要となる人材のケイパビリティについて言及します。
自社のDX成熟度に合った「組織」を構築できていない
全社的にDXの取り組みを拡大させ、取り組みの継続性とアジリティを高めるためには自社のDX成熟度に合った組織を構築していかなければなりません。例えば、部門ごとにDXの取り組みを続けていると、取り組みが個別最適化されてしまい、全社に拡大していきません。また、外部ベンダーに依存したDX推進を続けていると、自社のDXリテラシーが向上せず、アジリティのあるDX推進ができません。前者の例においては、部門ごとの取り組みを取りまとめる組織を構築しなければなりません。また後者の例においては、内部と外部の人材を適切に活用できるように組織を変容していく必要があります。3章では自社のDX成熟度に合わせた組織の構築について言及します。
2.DX推進の段階に応じた人材の在り方
DXを推進するためには、DX推進の段階ごとに実施すべき取り組みを理解し、取り組み内容に合ったケイパビリティを有する人材が必要になります。NTTデータでは図1のようにDX推進を構想、PoC、定着化の3段階に分けて取り組むことを推奨しています。(1)変革の方向性を大きく・ざっくりと考え、(2)変革に向けた各テーマを小さく・クイックにスタートさせ、(3)改善サイクルを習慣づけて拡大していくアプローチです。基本的には、変革を具体化していく後段に進むほど取り組み内容が多岐に渡るため、多くのケイパビリティが必要になります。各段階を推進する上で必要になる主要な人材のケイパビリティを紹介します(図2参照)。
図1:DX推進における3段階の取り組み
(1)構想段階
構想段階では変革の方向性を考え、変革のためのロードマップを策定します。事業ビジョンを踏まえた上で、DXによる変革ビジョンを設定できる人材が必要です。また、変革ビジョンの達成に向けて現実的な計画を立案するために、ビジネスとデジタル技術両面のバランスを見極め、実現可否の判断や難易度の評価を下すことが可能な人材も必要になります。
(2)PoC段階
PoC段階では構想段階で出たテーマを小さくクイックに試行し、実業務に導入すべきテーマを選定します。検証テーマがビジネスとして成立するか、デジタル技術の活用によって実現可能か判断できる人材が必要です。また、将来的に必要となるシステムやデータを見据えた上で、当該業務の課題解決に繋がる業務設計を実現できる、デジタル技術やデータサイエンスにケイパビリティを有する人材も必要になります。
(3)定着化段階
定着化段階ではDXの取り組みを習慣化し、取り組みを拡大することで、ビジネス成果を創出します。DXの取り組みを定着させるために、現状のビジネスルールや業務フローを改善し、それに合わせたシステムの更改や新規導入ができる、ビジネスやデジタル技術にケイパビリティを有する人材が必要です。また、業務適用の中で適切にモデルが機能しているか評価し業務改善できる、ビジネスとデータサイエンスにケイパビリティを有する人材も必要になります。
上記のように各段階で必要な人材のケイパビリティは変わるため、多様な人材がDX推進には必要です。一方で、各段階を一貫し、多様な人材をまとめ上げ牽引するリーダを設置した方が、うまくDXを推進できます。リーダに求められるケイパビリティは、DXを推進していく中で自身の担当範囲に縛られず困難に立ち向かうモチベーションを持ち、社内外のステークホルダーと協調しながらドライブできることです。
重要なのは、構想・PoC・定着化を一貫したリーダの指揮下で、段階ごとの取り組み内容に合ったケイパビリティを有する人材がDXを推進していくことです。必ずしも1人が全ての役割を担う必要はなく、個々の人材が協働することで不足しているケイパビリティを補っていくことが有効です。
図2:各段階でのゴール、取り組み概要、必要な人材のケイパビリティ
3.DXの成熟度に応じた組織の在り方
DX推進のためにはDXの取り組みを全社的に拡大し、取り組みの継続性とアジリティを高める組織を構築することが重要です。その際には一足飛びに全ての組織機能を具備しようとしすぎず、自社のDX成熟度に合わせて必要な組織機能を見極め、一歩ずつ順を追って整備することが有効です。このように進めることで、無理無駄のない組織構築・運営ができます。このDX成熟度は2章で述べた構想・PoC・定着化の取り組みを進め、サイクルを回すことで高まります。DX推進に適した組織へ変化させるためには、成熟度に応じてDX推進の主体を担う組織を変えることと、内外の人材を適材適所で活用することが必要です。2点について紹介します。
(1)DX推進の主体を担う組織を変える
DX推進の主体をどの組織が担うかは、成熟度に応じて下記の3ステップに分けられます。DX推進の主体を担う組織を変えていき、部門がDX推進を自走可能にすることを目指していくべきです(図3参照)。
Step1.DX推進組織なし
DX推進組織が設置されていない場合は、全社的なDX推進が実施されず、部門ごとに個別で取り組んでいる状況です。責任を負う組織がなく人材がいないため、全社的なDXによる変革ビジョンを描けません。DXへの取り組み状況を俯瞰できず、全社としての成熟度を判断できません。また、DXのノウハウが部門ごとに分散されるため、同じ失敗の繰り返しや、重複投資をする可能性があります。
Step2.DX推進組織を設置
DX推進組織を設置し、組織横断的に人材やノウハウを集約するべきです。DX推進組織は全社的なDX推進を行い、社内の変革マインドおよびデータドリブンな文化を醸成し浸透を図ります。DX推進組織は部門側のDXを主導ないしは伴走することで各部門を育てます。他にもナレッジの整備、人材育成、データ活用基盤の提供や運用、先進技術に対する目利きを行い、全社的にDXリテラシーを向上させ成熟度を高めます。
Step3.部門にDX推進の主体を移行
DX推進組織の活動により部門側のDX成熟度が高まると、取り組みの更なる拡大のために、DX推進の主体を部門側に移行すべきです。部門側の成熟度が高いため、各部門は横連携を伴いながら全社的に整合の取れたDX推進を自走できます。変革の対象となる業務への理解が深く、現場近くでDXに取り組むため、成果創出に直結しやすいDX推進が可能になります。この状況になると、DX推進組織は機能を縮小し、全社最適に向けた統制、ナレッジの集約と発信を行い部門のDX推進をサポートする立場に回るべきです。DX推進組織は機能を縮小していますが、先進的か高難易度の取り組みに関しては主導することが有効です。
図3:DX推進の主体を担う組織の変化
(2)内外の人材を適材適所で活用する
DXを推進する上では内部の人材だけでなく、自社のDX成熟度に応じて外部の人材を適切に活用することが重要です。外部人材の活用で、取り組みに必要なケイパビリティを有する人材を確保できます。取り組み当初は成熟度が低いため、将来的にポジションを担うであろう内部の人材が、外部のサポートを借りつつビジネスにおけるデジタル活用を検討・リードしていくことが有効です。徐々に内部の人材が担当する割合を高くしていき、最終的には内製化を目指すアプローチが効果的です。ビジネスの中核部分を内製化していくことで、自社のビジネスを理解した上で最適な取り組みを判断できるため、アジリティの高い意思決定を実現できます。また成熟度が低い状況下では、自社内の人材だけでDXを推進することはできないため、経験豊富な外部のデータサイエンティストやエンジニアを積極的に活用する必要があります。
DX成熟度が高まるにつれて、データサイエンティストやエンジニアの領域も内部の人材が一定数担うことが有効です。作業を内部の人材が担うことで、意思決定から対応するまでのスピードが上がり、DX推進のアジリティをさらに高められます。外部の人材を活用する場面は、自社で対応できない高度な取り組み、テーマ増加による内部人材のリソースが枯渇している際、コモディティ化した競争優位の源泉になり得ない取り組みや単純作業などが有効です。上記のように自社のDX成熟度を踏まえて、内部あるいは外部の人材を適切に活用することが重要になります。
4.カタリストチームによる支援事例
DXの成熟度や、取り組みたいテーマの難易度によって、外部の人材を有効に活用することがDXを推進する上で必要です。NTTデータでは、DX推進に関する悩みや困りごとを解消するためのケイパビリティを持ったカタリスト(※1)チームを有しております。DX推進の段階ごとにカタリストチームが支援し、課題解決した事例を3つ紹介します。
(1)構想段階:A社支援事例
A社ではDX推進の必要性は理解されていましたが、デジタル技術を活用して取り組むべき具体的な方向性が定まらない状況でした。加えて、上層部と現場が思い描く方向性がかみ合わず、建設的な議論が出来ていませんでした。そこで、ビジネスとデジタル技術に知見があり、変革ビジョンの設定や、ロードマップ策定にケイパビリティを有する人材が支援にあたりました。お客さまが現在取り組んでいるDXテーマや、今後着手していきたいDXテーマを進める上での課題感、悩み、希望等をお伺いし、中期経営計画を踏まえて整理することで、変革ビジョンのたたき台を作成しました。このたたき台をベースに上層部を交えてお客さまと議論することで変革ビジョンを明確化したのです。また、NTTデータの過去知見を踏まえて作成したロードマップ案や直近の実行計画を提案し、変革ビジョンに対する進め方も明確にしました。それを受けて、全社でのDXの取り組みが推進し始めました。
(2)PoC段階:B社支援事例
B社ではDXの変革ビジョンをマーケティングプロセスのデータドリブン化としており、現状の熟練担当者による勘と経験に頼った意思決定からデータに基づいた客観的判断の実現を目指している状況でした。そこで、ビジネス成果創出のために改善すべきプロセスが何かを見極めることができ、プロセス改善に必要となる分析を判断できる人材が支援にあたりました。テーマの実現性を技術的難易度と期待できるビジネス成果から検討することで優先順位付けを行い、ターゲットリストを機械学習で導出することをテーマとしました。テーマ決定後、現場で必要な情報を調査、把握し、ターゲットが高確率と判断された根拠と勧奨すべき商材をセットで導出できるモデルを作成することで、スムーズな現場導入に繋がったのです。従来の勘と経験に頼ったマーケティングでの実績と比べて、受注率が向上するという成果を獲得できています。
(3)定着化段階:C社支援事例
C社ではBIツールを導入したものの、業務部門の分析セルフ化が進まず、分析専門組織メンバの稼働が逼迫している状況でした。そこで、導入したモデルが業務の中で適切に機能しているか評価し、必要に応じて改善できる人材が支援にあたりました。実際の操作を直接確認し、業務フローを精緻化することで実業務におけるデータ活用の課題を把握していきます。全部門共通ではなく、各業務部門の業務に適合した形で業務フローやBIツールの仕様を改善したのです。また、実業務に即したハンズオンを実施し、データ活用のイメージを浸透させました。その結果、業務部門での分析セルフ化が促進され、活用率が40%に拡大しています。
「カタリスト」とは「触媒」という意味でNTTデータメンバがお客さまメンバと良い「化学反応」を起こし、お客さまのデジタル化の促進を行いたいという願いを込めています。
5.終わりに
DXを推進するためには、自社のDX推進の段階によって変わる取り組み内容に即したケイパビリティを有する人材が必要であり、成熟度に合わせて組織の在り方を変化させることが重要です。NTTデータでは、DXを推進するための人材育成や、組織化サービス(※2)を提供しています。お客さまのDX推進段階を評価し、段階に応じて適切なコンサルテーションや研修を提供することで、DX推進に必要な人材および組織戦略の立案・策定・実行を支援しています(図4)。「これからDXを推進したいが何から始めていいかわからない」、「PoCから先に進めない」、「DXを推進しているが期待していた成果が出ない」、「DXが全社的に浸透しない」などDX推進の困りごとや不安を抱えている場合など、サービスに興味がある方はぜひお声掛けください。
図4:DX推進を担う人財、組織を作り上げるサービス
https://www.nttdata.com/global/ja/news/services_info/2020/043000/
デジタル変革・DXを成功に導く「デジタルサクセス」の詳細はこちら:
https://enterprise-aiiot.nttdata.com/service/digital_success