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2025.4.21業界トレンド/展望

DXによる小売事業の明るい未来創造のためには

〜継続性とさらなるAI活用がカギを握る〜

人口減少と働き手の不足、物価や人件費の高騰など、ネガティブなニュースも多いなかで、日本の小売業界は今、大きな変革の岐路に立っている。小売業は、人々の日々の生活、衣食住を支え続ける言わば社会のインフラだが、リアル店舗のインフラ網の維持には大きな負担が伴っている。このままでは小売業が元気を失ってしまうのではないか……。そんな危機感を背景に、NTT DATAはデジタルの力、リテールDXの力で小売業界の明るい未来を創造する方策を模索。NTT DATAで流通・小売業界様向けのビジネスを担う龍神巧が、最新事例を紹介しつつ、これからの展望を語る。
目次

小売業界に押し寄せる抗いがたいトレンド

15年後、2040年の未来を考えたとき、小売業界は人口動態の大きな変化というトレンドに対峙しなければなりません。日本の生産年齢人口は1995年のピーク時8,716万人から2040年には約6,000万人へと30%以上減少する見込みです。私たちはピーク時よりも3分の1少ない力で世の中を支えていかなければならないのです。

また、日本の総人口も2008年をピークに減少しており、2040年にはピーク時から10%以上減少すると予測されています。

図1:Down Trend(内閣府、国立社会保障・人口問題研究所、人口戦略会議、METI等の開示資料をもとにNTT DATA推定)

こうした人口減少は2つの面で小売業界に深刻な影響を与えます。1つは消費の口数が減ることによる収入の低下。もう1つは店舗を支える労働力の不足です。

さらに、日本のGDPは民間消費に支えられている部分が大きく、2040年頃には世界5位以下になることも予測されており、国際競争力も劣後していくことが想定されます。

非常に厳しい環境が待つ中で、特に深刻なのが労働力の問題です。

私たちの試算によれば、1995年の生産人口がピークだった頃に約1.22億平方メートルだった全国の売場面積は、2025年には約1.37億平方メートルに拡大しています。一方で、これを支える生産年齢人口は大きく減少し、一人当たりが支える売場面積は1995年の8,716万人を1とした場合、現在は7,170万人で1.37倍に増えています。

図2:今の何倍働かないと店舗網を維持できないのか(商業統計調査、経済センサス等をもとにNTT DATA推計・試算)

15年後、2040年の生産年齢人口がさらに減少して5,978万人になると、1995年比で1.64倍の売場面積を支えなければならない計算となります。つまり、1.64倍の生産性を現場でつくっていかないとリアル店舗のインフラ網を支えきれないということです。

これは一人ひとりが現場で頑張ってどうにかなる世界ではもうありません。飲食業界ではすでにロボティックスの活用が増え、店舗運営を効率化している部分もあります。しかし、飲食業界も小売業界も、商品の品出しなど店舗の従業員に依存する仕事が多く、最低賃金の上昇も店舗網維持の課題です。

生産性向上のカギを握るAI活用

こうした厳しい状況を打破するため、AI技術の日常業務への活用が重要なテーマです。 2025年1月にニューヨークで開催されたNRF(全米小売業協会)でも指摘されていたように、AIが現実のツールとして日常業務にうまく組み込まれ始めています。

単に「AIを導入すれば何とかなる」といった楽観論ではなく、AIを使い倒すためのデータセットを揃えて、AIを活用できる人材を育成し、人間とAIがどう協調して業務の生産性を高めていくか、作業を効率化していくのかを探っていく局面に入っているのです。

小売業界でも、店舗開発の動線予測、商品企画でのトレンド予測、物流での配送網の選定、カスタマーサービスでのチャットボットによる自動化など、すでにさまざまな場面でAIの活用が始まっています。ただし、これらは個別の作業を効率化する、もしくは担当者の生産性を高めるための取り組みです。1.64倍の生産性向上を実現するためには、個別の作業ではなく業務プロセスにいかにAIを活用していくかが、今後の重要なポイントです。

具体例として、3つの事例をご紹介します。

1つ目は「AI自動発注」です。
これは、店舗実績(POSデータ、発注/廃棄/欠品の実績)、人流データ(モバイル空間統計、GPSログ)、天気・気温・周辺イベントなどの外部要因データを組み合わせて、販売数の未来予測モデルを構築し、商品ごとの最適発注量を算出する仕組みです。

自社のオウンドデータとサードパーティーのデータを組み合わせ、販売数の未来予測をつくり、店舗の在庫を加味した上でAIによる自動発注をかけ、店舗運営を効率化します。

2つ目は「販促における生成AI活用」です。
データ収集から分析、販促企画生成、コンテンツ生成、配信、効果測定までのプロセスごとに人間とAIが協調することで、効率的な販促活動を実現します。例えば、個店別に生成AIでペルソナ定義を行い、企画の訴求軸と商品は人間が選定し、画像やコピーは生成AIで作成するといった役割分担です。生成した販促クリエイティブについては最終的には人による校正が必要になるなど、個々の作業工程よって人間とAIとの役割分担、レベルは異なる部分もありますが、従来のデジタライゼーション(MAをはじめとしたオートメーション)と組み合わせることにより、業務プロセス全体の効率化が進んでいます。
これにより、これまでコンテンツ生成などがネックでターゲットを細分化しづらかったプロモーションを、大きくコストを増やすことなく実践しやすくなります。

図3:販促における生成AI活用・プロセス効率化

3つ目は「生成AI同士の対話を通じた販促CVR向上」です。
この事例はとあるカード会社で行った取り組みです。会員をクラスタリングし、各クラスターの「AIバーチャル顧客」を生成。このバーチャル顧客に対してグループインタビューを実施し、反応の良かったクラスターに販促プロモーションを展開するというものです。この手法により、高級商材にもかかわらずCVR(コンバージョンレート)が1.7倍に向上したという成果が出ています。
ただし、このプロセスはペルソナ生成の補正やインタビューのための質問検討、インタビューを進めるためのAIファシリテーターの設定等に多くの人手がかかっており、「効率化」や「業務代替」といった観点では改善の余地が大きいものです。

これらの事例では、すべてが自動化されるわけではなく、各プロセスで人間とAIが役割分担をしながら協調することで効果を高めています。

AIとともに進化していく小売業のビジネスモデル

私たちが描く未来像は、こうした成功事例をさらに発展させ、「AI同士の協調と連携による業務プロセスの変革」です。現在は人間とAIの協調が中心ですが、今後はAI同士が対話、協調し、連携することで、個別業務の効率化を超えた業務プロセス全体の最適化をめざします。

例えば、「店舗の売り場づくり・品揃え最適化AI連携」では、売り場レイアウト最適化AI、品揃え・陳列最適化AI、発注量最適化AIといった複数のAIをAIエージェントが統括します。生活者データベースと連携しながら、店舗運営を包括的に最適化していくのです。

さらに進んだ未来像として、「消費者一人ひとりに寄り添うAIエージェントが買い物プロセスを代行する世界」も考えられます。複数の特化型AIが連携し、世の中にある商品やサービスから消費者に最適なものを選定し、買い物・サービス利用自体も代行する……そんな顧客体験の提供も可能になるかもしれません。

系としての最適化に向けた「横のDX」

ただし、こうした未来を実現するには大きな壁があります。必要なのは従来の「縦のDX」から「横のDX」への転換です。

「縦のDX」とは、単一企業内での最適化、つまり、その企業での人手作業をデジタルに置き換える取り組みです。

一方「横のDX」とは、異なる企業間でデジタル化したデータを共有していく取り組み。立場の異なるプレーヤーがデータを共有し「横のDX」を進めることで、初めて新たな価値を創出できると考えています。競合関係にあっても、顧客視点、生活者視点で協力していくことが業務最適化への近道になり、協業できる領域は必ずあるはずです。

これは日経ムック「リテール革命」での対談で、トライアルグループのテック企業である「Retail AI」の北川亮一執行役員も同様の見解を示されていました。

図4:系としての最適化の限界と、その突破に向けて(日本経済新聞出版「日経MOOK リテール革命」の巻頭対談部分より引用)

2040年に必要となる1.64倍の生産性向上を実現するための鍵は、企業の垣根を超えたデータ共有と協業にあります。これから先、2040年、2100年に向けて日本のリテールインフラを守り、育て、明るい未来に仕立てていくためには、AIの進化とデータ活用、そして企業間協業による「横のDX」が不可欠です、NTT DATAがめざすリテール業界の未来への道筋は、単なる技術導入を超えた社会全体の変革を視野に入れたものです。人口減少社会においても、デジタルの力で持続可能な小売業のエコシステムを構築する挑戦はすでに始まっています。

日本経済新聞出版「日経MOOK リテール革命」詳細はこちら:
https://amzn.asia/d/5IXMVuT

NTT DATAの流通・小売業界での取り組み詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/retail-distribution/

NTT DATAの生成AIに関する詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/

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