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激変が予想される生活者の行動様式
これからの時代、生活者の行動や思考はどのように変化し、コンビニエンスストアやスーパーなどの流通・小売業界はこの変化にどう対応していけばよいか。流通・小売業界に対し、デジタルを駆使したデータ駆動型経営の導入や、多様な新規サービスの創発・社会実装に向けた取り組みを続けるNTTデータ流通・小売事業部の田中貴之に話を聞く。
「生活者に関しては、各方面におけるITの進化によって仕事、プライベートなどあらゆる場面でデジタル空間上での生活時間がどんどん増えることになるでしょう。場所や時間を問わず行動できるようになっていくことで行動変容は加速し、同時に購買様式や購買ニーズが大きく変化していくと考えられます。また労働人口減少や消費総量の減少が進むと共に、新しいプレイヤーも登場し、小売業者間での競争激化も予想されます。つまり、これまでの『売りたい物を売る』という小売業者の思考は早急な変革を迫られているのです」
図1:個人のなかでも相反する価値観が共存する時代。小売業界はよりきめ細やかに消費者のニーズを汲み取る努力が求められる。
さらに、流通・小売業界には2024年問題も大きなテーマとして重くのしかかる。2024年4月に施行される規制によって物流に関わるドライバーの労働時間が制限され、従来どおりの円滑な流通が見込めなくなるため、流通・小売業界に対応が迫られているのだ。
「これからの時代、小売業は、在庫状況を維持するため、精度の高い需要予測に基づく仕入れ管理、物流効率の向上を実現しなければビジネスを持続できなくなってしまいます」
こうした時代の変化を乗り切るため、流通・小売業界には具体的にどのような対応が求められるか。この問いに対し、田中は2つのポイント(経営イシュー)を挙げる。
「1つ目は、生活者のさまざまな購買ニーズに沿ったきめ細やかな商品、サービス、購入体験のさらなる追求です。デジタルとリアルの世界を行き来しながら多様化する行動様式、ニーズを細かく分析し、一人ひとりの生活者が求める商品、サービス、体験を提供していかなければなりません。2つ目は、業務の効率化、自動化、高精度化による持続可能な事業運営です。在庫管理や仕入れの省人化、多様な雇用形態の導入などが求められます。こうした多くの課題をデジタルの処方箋によって解決していこうというのが私たちのミッションなのです」
図2:流通・小売業界の2つの経営イシュー
生活者の行動様式を理解することが、出店計画失敗の減少につながる
さらに詳しく、流通・小売業が生き残るためのデジタル施策について検証していく。これまでコンビニエンスストアをはじめとする多店舗経営の流通・小売業では、「店舗形態と出店場所基準」「商品・サービス」「業務オペレーション」について、経営効率を優先し全国統一化してきた。これからは、そこにメスを入れ、変革していくことが肝要だ。
「まずはどこに出店するかという店舗開発。そして出店後にどのような店舗を作っていくかという店舗や売り場の構成。そして営業開始後には集客の仕組みや顧客満足度を高める品揃え、売り場を維持していくこと。こうした店舗ライフサイクルの各層に対しITを駆使した細やかな施策を実行していくことで、変容するビジネス環境への対応力を強化していただく。具体的には私たちが考案した7つの処方箋によって、流通・小売業が抱える多様な課題解決を実現できると考えています」
流通・小売業に対して有効な、NTTデータが提唱する7つのデジタル処方箋。このうち重要度の高い処方箋4つについて詳しく見ていこう。
1つ目は「正確な商圏理解に基づいて、出店場所・店舗形態を最適化」だ。端的に言えば、生活者の行動変容に対応すべく、詳細なデータをベースにして最適な出店場所や店舗形態を導き出す仕組みの構築である。
「出店の開発計画立案には2つのアプローチがあります。一つは小売業者側が自ら場所や物件を探し出すスタイル。もう一つはオフィスビルや商業施設、病院等がテナント募集を持ちかけ、小売業者がこれに応じるというスタイル。いずれのアプローチにしても、その商圏、出店場所で利益が出せるのかを判断する際に、静的な統計データやその土地の特性といった情報を判断基準としています。静的な統計データからの評価とは、例えば出店場所がとあるオフィスビルであれば、そのビルの延床面積から何人くらいの人間を収容できるだろう、それなら何人くらいの集客が見込めるだろうといった計算、見立てを指します。一方で先に説明した通り、生活者の行動は激しく様変わりすることが予想され、こうした静的統計データだけでは適切な出店の判断基準にはなりません。また、これまでターゲットとしていなかった商圏(ニューマーケット/マイクロマーケット)の発掘においても、出店判断においてより精密な情報が必要となるのです」
そこで重要となるのがタイムリーかつ正確な人流データ、生活者の行動データだ。
「単純な人の数だけでなく、頻繁にスーパーへ行くとか外食の頻度が高いなど、『数』と『質』の両面で顧客の動的データを収集、分析することで、より適切な出店が実現できると考えます。言ってみればITによって顧客の行動DNAを把握することで、出店計画の失敗を減らしていきましょうという取り組みです。行動DNAを視野に入れると、これまで眼中になかった場所が実は出店に適していたということもあり得ますし、今まで評価の高かった場所が実はさほど魅力的ではないという事実が見えてくることもあり得ます」
図3:静的データに加え、動的データ、人流データを収集、分析、活用することで消費者個々についての高精度な需要予測が可能となり、最適な店舗フォーマット、出店場所が見えてくるようになる。
人流データと生活者の行動DNAを紐付けることでその商圏の生活者に適した細やかな商品展開、サービス、店舗体験を実現できる可能性も高まる。また、出店場所や店舗形態の決定をITによって半自動化することで、小売業者にとっては大きな負担となっていた出店判断に係る業務の軽減と迅速化にもつながるという。
「NTTデータのアプローチとしては、行動データの提供のみを行うパターンから、出店判断の意思決定を支援するパターンまで、小売業者のニーズに応じたパターンがあります。とはいえ、小売業者の負担軽減も大きな目的ですので、NTTデータが出店の意思決定まで支援し、入手したデータを十分に活用していただきながらその価値を最大化していきたいと考えています」
NTTデータが提供するデジタル処方箋の効能
7つの処方箋のうち2つ目は、「店舗ごとに最適な商品、サービスを提案し、店舗ポテンシャルを最大化」するというアプローチだ。属人的な意思決定から脱却し、発注内容や販促、店内コミュニケーションなど多方面における適切な方向性を明確化していく試みとも言える。人流データや行動DNAなどのデータを活用した仕組みを構築することで、店舗オーナーの経験に基づく発注やサービス展開ではなく、解像度の高い顧客理解からなる商品需要予測などにより店舗のポテンシャルを最大化するというものだ。
「この処方箋には2つの大きな柱があります。一つはアプリへのプッシュ通知内容やそのタイミングなどを適切に判断(パーソナライズ)することで集客力の向上、収益の最大化を実現する取り組み。もう一つは、商品ラインアップと在庫量の適正化で、商品の廃棄ロスを最小化しながら顧客が求める商品が常に欠品しない状態を維持する発注、管理の仕組み構築です。前者は、顧客の行動DNAをつかむことで、例えば仕事帰りのタイミングに合わせて夕食のリコメンドをアプリへ発信するといった販促を自動化し、集客や客単価向上につなげていきます。後者は品揃えや発注を自動的に判断することで店員の負担軽減や収益向上につなげていきます。とりわけ日持ちしないデイリー商品は廃棄ロスと機会ロスリスクが非常に高いため、発注の難易度が高く、小売業者の大きな負担です。生活者の行動DNAに基づきこの作業を自動化すれば、一日に3度発注していたデイリー商品を一日2度の発注で済ませることができるかもしれません。この施策は、結果として、省人化や収益向上につながりやすく、小売業者に大きなメリットをもたらすでしょう」
図4:高精度の需要予測は、より効率的な発注や的確なプロモーションへとつながっていく。
7つの処方箋のうち3つ目は「店舗オペレーションを省力化した上で、多様な人材を活用」するというアプローチ。人手不足である現状においては、店舗業務の分割やギグワーカーの採用、在宅店員によるオンライン接客など、ITを駆使して労働条件や労働環境を時代に合った形で拡張し、多様な人材で店舗運営を実現していくことが肝要だ。田中は、ITを駆使することで、労働人口の減少が人材確保において必ずしもマイナスにはならないと説明する。
「デジタル空間上で接客や商品説明などが可能となれば、在宅勤務や短時間労働を希望する人を効率的に採用できるようになっていきます。リアル店舗の労働においても、例えばAIグラスのような装置や生成AIによるサポートを駆使すれば、分厚いマニュアルを読み、経験を積み上げていかなくても即戦力として働けるようになるでしょう。また省人化、自動化、無人化を進化させれば、収益見込みは低くても出店価値のあるマイクロマーケットへの出店、運営(これまでのP/L構造からの変革)も可能となります。この処方箋によって、路面店のコンビニエンスストアやウーバーイーツでさえ網羅できないマイクロマーケットへの進出と、多様な人材活用といった複数の目的を達成することができるのです」
図5:ITの効果的な活用によって、店舗業務の省力化ならびに、柔軟な人材活用、従業員教育の効率化が実現でき、結果として多彩な店舗フォーマットでの出店、展開が可能となる。
4つ目の処方箋は「物流拠点の再構築による『欲しいものがいつでも買える』店づくり」だ。例えば、既存店舗を基幹店舗とし、マイクロマーケットにおける店舗を衛星店舗として並走運営すれば、顧客特性に合わせたよりきめ細やかな商品、サービスの展開が可能となる。ひとつの商圏内で基幹店舗と衛星店舗が連携し合えば、生活者の利便性を一層高めるだけでなく、物流ネットワークや配送リソースの最適化といった小売業者側のメリットもより増大させることができる。衛星店舗ではより生活者に近い存在として必要な商品を必要なだけ提供できることに加え、基幹店舗から衛星店舗へ商品を移すことで基幹店舗では店舗スペースに余裕が生まれる。そのスペースを活用し基幹店舗を新たな商品やサービスを提供する場として機能させることできるだろう。
図6:基幹店舗と衛星店舗を適切に配置、機能させることで、多様化する消費者のニーズを捉えつつ、効率的な物流を実現することができる。
デジタル×業務運営×経営の三位一体で流通・小売業の発展に貢献
これからの時代、生活者の行動様式が激変するとはいえ、流通・小売業には大きな伸びしろがあるとも言える。NTTデータだからこそ立案、実装できる戦略は豊富にあると田中は話す。
「NTTデータは業界のForesight、“ありたい姿”を描き、その実現、さらにはお客さまビジネスにおける価値創出まで伴走する、Foresight起点のコンサルティングの実践を進めています。とりわけ生活者にとって不可欠な社会インフラともいうべき流通・小売業界に対しては、社会的使命を感じながら明るい未来をつくっていきたいと考えています。今回提案した7つのデジタル処方箋にとどまらず、多様な解を準備しながらそれぞれのお客さまに最適な提案をできると自負しています。精密なデータを駆使した効果的な施策にぜひご期待ください」
NTTデータが提唱する、流通・小売業界が時代の変化を乗り切るための7つのデジタル処方箋について、さらに詳しい内容はホワイトペーパーをご覧ください。
ホワイトペーパー「デジタルを駆使したデータ駆動型経営がもたらす、流通・小売業の未来」のダウンロードはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/-/media/nttdatajapan/files/industries/retail-distribution/retail-distribution-report-3.pdf
NTTデータの流通・小売に関する取り組み詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/retail-distribution/
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