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ツルハホールディングスのデジタル施策とNTTデータの小売向けサービス
北海道から沖縄まで、7つの事業会社・8つの屋号で2,500店舗以上のドラッグストアを運営するツルハホールディングス。モノの販売を事業の中心に置く同社では、この数年、グループのアプリに力を入れていると、デジタルを活用した取り組みを統括する小橋氏が語る。
背景にあるのは、従来のチラシでは消費者に情報が行き届かないという課題だ。「お客様とデジタルで接点を持たなければ、今後はエンゲージメントをつくれないと考え、みなさんが持っているスマートフォンに着目しました」と小橋氏。アプリのダウンロードはすでに770万(2023年5月時点)を超えている。同社ではこうした顧客接点づくりに加え、接点から得られたデータを分析・活用してお客さまに適した情報を届けるためのCRMやデジタル広告プラットフォームの取り組みなども進めている。
法人アセットベースドサービス推進室 SDDX担当 部長
神山 肇
デジタルを顧客エンゲージメント醸成の視点で活用している同社の施策について、NTTデータで小売業の新規事業に取り組む神山は、「消費者の考え方が多様化しているので、顧客接点を持つことはもちろん、それぞれの消費者がどのような考えでどういったものを購買しているかを読み取り、それに合わせたサービスを提供していくことが重要になっています。(※1)その意味でも、非常に良い取り組みだと思います」と語った。
図1:Catch&Go®の概要
神山は、デジタルを使って小売業及び消費者の課題を解決するNTTデータのサービスを2つ紹介した。1つ目は、スマートフォンの専用アプリを入店ゲートにかざせば、あとは商品を手に取り店を出るだけで自動決済される「Catch&Goサービス」と、同サービスを利用したレジなし店舗の事例。(※2)これにより省人化や省時間、あるいは非対面・非接触の買い物が可能になる。もう1つは、サイネージに表示されるアバターを介して遠隔接客ができる「どこ店」というサービスで、こちらは省人化に加えて新たな顧客接点づくり、及び顧客とのコミュニケーションで取得したデータ分析に活用できる。
図2:どこ店の概要
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/retail-distribution/
メタバース時代への対応は今から考えておくべきか
こうした新たな顧客接点を考える中、近年注目されているのはメタバースなどの新技術の活用だ。新しい技術は小売業でどのように活用でき、それによって小売の未来はどう変わっていくのだろうか。
ツルハホールディングス
執行役員 経営戦略本部長 兼 情報システム本部長
小橋 義浩 氏
ツルハホールディングスもメタバースに興味を持っており、情報収集や研究を進めているという。小橋氏は「当社は小売の現場にお客様に来ていただき、そこで購買していただくことが基本スタンスですので、メタバースという空間で何ができるのか、常に考えています。インターネット空間へと買い物の場が広がったように、今後、メタバース空間でも人が長い時間を過ごすようになるのであれば、そこに店を構えていかなければなりません」と話した。
NTTデータが発信する新しい顧客接点と小売を中心とした新規事業の企画開発に携わる龍神は、メタバースに多くの人が集まるようになれば大きな経済圏が生まれてくるだろうと話す。
「メタバースという空間がどれくらいの時間軸で育っていくのかは読みにくいところです。技術的な側面から見ても、メタバース空間を扱うエンジニアがまだまだ少ない。この2つの課題を見定め、どう対応していくべきか悩んでいるフェーズです」(龍神)
法人アセットベースドサービス推進室 部長
龍神 巧
神山は、メタバースにおける小売業にも商材によって違いがあると指摘。アパレルであればメタバース空間でアバターが着るアイテムなどと親和性が高いが、ツルハホールディングスが扱う商品のような一般消費財や食品は、やはりメタバース世界における可処分時間の長さが重要になってくるという。「そのときに向けて、メタバースでの顧客接点と新たなサービスを今から考えておくことは必要でしょう」と話した。
消費者のエンゲージメント強化に求められる要素とは
前半で言及されたように、両社とも顧客接点づくりやエンゲージメント向上のためのデジタル活用を進めているが、今後さらに強化していくには何が必要なのか。
龍神は、企業と生活者のエンゲージメントは大きく3つの段階に分かれるとし、ピラミッド図を示した。ピラミッドの一番下にあるのが、いわゆるお得な財・サービスの提供で、つまり値段が直接的に影響するサービスで築かれるエンゲージメントだ。
図3:財・サービスの特性とエンゲージメント強度の関係
そこから一段上がると、“とにかく便利”の段階。消費者が買い物をする際の不便をなくすフェーズで、ここではデジタルの活用が効いてくると龍神は指摘する。両社の取り組みもまさにここに該当し、「デジタルを使い込めば使い込むほど、この段階のサービスをうまく作れます。実際にここをうまく作り込んだ企業は、生活者とのエンゲージメント強度を高めています」と語った。
さらにもう一段、ピラミッドの頂点にどう上がっていくかがこれからの課題だと龍神。このフェーズは、消費者が“自分だけのため”とうれしくなるサービス、その人だけの価値観に合う買い物のあり方を、デジタルでどう実現できるがポイントになるとした。
これを受けて小橋氏は、いま同社がデジタル活用で進めている施策も、元をたどれば「創業当初の狭い商圏で、顧客それぞれの顔が見え、つながりの中で情報をやり取りしていた個人商店のあり方を、今いかにデジタルで実現するか」がめざすところだという鶴羽順社長の言葉を出し、「これがピラミッドの頂点の“自分だけ”につながってくると思います」と語った。
人と人とのつながりを醸成するデジタルサービスのあり方
デジタルを追求することで、非デジタルの人と人とのつながりをサポートしていくという観点から、いま神山は新たな小売のビジネスを検討しているという。
SNSが普及し、企業が介在しないところで消費者同士のコミュニケーションが増加し続ける現在、消費者コミュニケーションの中に企業が入り、消費者と企業が一緒になって商品・サービスの開発や店舗づくりをしていくことが重要になるだろうと神山。その観点からNTTデータでは最近、「B with C to C」という考え方も発信している。
さらに、「非日常の感動体験ではなく、日常の感動体験をつくることが大切」だと語る神山は、これまでのDXで語られてきた効率化などは今後も引き続き必要だとした上で、それと並行し、消費者の自己実現、ハッピーウェルビーイングの達成につながるサービスを提供できないかと考えているという。
例えば、店舗をハブとして顧客同士のコミュニケーションを生み、そこから消費者を巻き込んだ商品開発を行える仕組みを小売業とともに作り上げたいというのが、神山が考える新ビジネスの世界観だ。「感動体験とは期待を超えるサービス。そうしたサービスを、小売業の皆様と一緒につくっていきたいと思っています」(神山)
プログラムを通し、デジタルはもはや不可欠であることは大前提として、デジタルとアナログをうまく融合した施策を展開していくことが顧客の感動体験につながり、さらには小売業の未来にもつながっていくのだろう。
本記事は、2023年1月24日、25日に開催された「NTT DATA Innovation Conference 2023」での講演をもとに構成しています。