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2024.3.4業界トレンド/展望

近未来、データ駆動型経営が流通・小売業界を救う

近未来、テクノロジーの進歩によって、生活者はデジタル空間とリアル空間を自在に行き交いながら、行動変容を加速させていく。この変化に対応しなければ流通・小売業界の各社は持続可能な経営を維持できない。加えて、国内総人口の減少や新たなプレイヤーの参入によって、業界各社は業務の大変革を求められるだろう。流通・小売業界の展望と、それを実現するデジタルを活用した5つの施策とは。
目次

流通・小売業界が直面する変化

流通・小売業界を取り巻く環境はどのように変化していくでしょうか。

まず、さらなる労働人口減少と人件費の高騰が重大な課題としてより浮き彫りになるでしょう。そして、総人口が減ることによってパイが減り、需要が減り、という流れが加速し、当然、業界としては競争激化が予想されます。一方で小売店店舗数は恐らく増え続けるでしょう。また、本来は小売業者でない新たなプレイヤー、いわゆるデジタルディスラプター(デジタル技術を駆使して既存業界のビジネスモデルや秩序を破壊するプレイヤー)のような競合もさらに増えていきます。

環境規制の厳格化も業界を取り巻く変化として重要課題となっていくでしょう。たとえばフランスでは、食品ごとに環境へどれだけ負荷をかけているかが5段階で評価されるエコスコアの可視化が進んでいます。日本でも今後、生活者は食品ロスを強く意識するようになるでしょう。生活者がこうした環境負荷と照らし合わせて購買先や商品を選択するという新しい価値基準が生まれるのは間違いありません。

また、生活者の行動も変容していくなかで、個人のなかでも「効率重視と効用重視」、「リアルとデジタル」という相反する価値観が共存するようになると考えられます。テーマ、場所、タイミングによって、効率を重視した選択と効用を重視した選択が個々の嗜好によって適切になされ、消費の多様性が増大。デジタル上の空間がますます発展することで、仕事やプライベートにおけるデジタル空間内での行動が増加し、リアルとデジタルを行き来するようになると考えられます。効率重視の場合、時間と場所の制約を取り払えるデジタル上での行動が便利です。効用重視の場合は、五感を重視することが目的でもあるためリアルな空間での行動を選択することが増える、ということも考えられます。

流通・小売業界が意識すべき2つの経営イシュー

このような環境・生活者の変化に対して、業界は2つの経営イシューを意識すべきです。1つ目は、持続可能な事業運営を実現するため、業務の大変革が求められるということ。端的に言えば、生活者の行動変容や業界を取り巻く環境変化に対応するための、業務大変革です。2つ目は、多様化する生活者のニーズに沿った購入体験の提供です。これまでの商品やサービスの提供が明日には価値を失うかもしれません。小売業者はより一層、生活者が満足する購入体験を追求し、提供し続けなければならないのです。

この2つの経営イシューを解決するためには、デジタルの経済原理を活用したバリューチェーンの変革が必要だと考えています。

デジタル経済原理の活用とはいかなるものか

デジタル経済原理活用の具体例とはどのようなものか、そして、デジタルを駆使することでどう経営イシューを解決できるのか。まず、経営イシュー(1)の解決の方向性として、NTTデータでは「データ駆動型経営による業務大変革」を目指しています。

現状、小売業の店舗業務にはすでにデジタルの仕組みがいくつも組み込まれています。ただ、こうした仕組みを構築していても、多くのプロセスにおいて人間が介在するのが実情です。この状況をデータ駆動型経営で打破し、人間が介在しないで良い業務はAIに任せ、人間が対応すべき業務(たとえば、接客)に注力することが重要です。

近未来には実店舗はもちろん、バリューチェーン上のさまざまな環境で生活者の情報が取得できるようになります。そして自社のデータ、外部のデータを大量に取得し、掛け合わせ、AIに分析させる試みが現実的な施策として考えられます。さらにはAIがアウトプットした情報から意思決定までをデジタルによって自動化。こうして人間の役割を、AIの精度をモニタリングする部分に集約すると同時に、人間は人の温もりや感覚を求められる接客やサービスにより注力できるよう業務を変革していくのです。

業務大変革によって徹底した省人化を図ると、店舗のPL(損益計算書)構造は大きく変化。人件費が高騰するなか、徹底的な省人化は大きなインパクトとなるでしょう。また、デジタルによるさまざまな業務の高精度化によって、たとえば廃棄ロスのコスト低減も図れるはずです。さらには、生活者のニーズに沿った購入体験を提供する余裕も出てきます。

その先には、これまで進出できなかったマーケットが見えてくる、という経営イシュー(2)の解決につながるメリットも生まれます。規模は小さくても生活者との距離が近い、いわゆるマイクロマーケットと呼ばれる市場です。競合との差別化、総人口の減少によるパイの取り合いにおいて、マイクロマーケットへの進出は有効な方策となるでしょう。データ駆動型経営によって、生活者との物理的、情緒的な距離を縮めることが可能となり、結果、持続可能な経営の実現へとつながっていくのです。

NTTデータが提唱する、流通・小売業界に有効な5つのデジタル施策

ここからはNTTデータが提唱するデータ駆動型経営に向けた、5つのデジタル施策について紹介します。

1つ目は、正確な商圏理解による店舗開発について。出店場所や店舗形態の決定において、現状ではGIS(地理情報システム)等を用いた国勢調査結果や通行量調査など鮮度が低い、または断片的な情報、業者側が足で稼いだ情報、少し古い一般情報を使用し、分析しているケースが多いでしょう。こうした言わば静的データに対し、非常に高精度の動的データ取得、分析が可能となってきています。たった今、どの場所にどれだけの人間がいるかといったタイムリーな人流データがそのひとつです。あるいは数日後、この場所に人間がどれだけ存在するかといった予測精度も高まってきています。また、自社店舗を離れたあと、生活者はどのような購買行動に向かうかという生活者行動DNAを把握することも可能となり、今まで見えていなかった生活者のニーズを理解することができるようになっています。これらの動的データの取得、分析を駆使すれば、より正確な商圏理解が進み、出店場所や店舗形態を適切に判断できるようになるわけです。

2つ目は、集客施策の精度向上による店舗ポテンシャルの最大化です。動的データの活用や生活者行動DNAの把握によって、従来よりも精度の高い集客施策を打つことが可能となります。たとえば職場から移動し、自宅の最寄り駅に着いたタイミングで、あるいはまさに自社店舗へ向かって移動している生活者に対し、店舗からのメッセージやクーポンなどを送信することができます。必要なタイミングに必要なメッセージを送ることで生活者の購買行動は活性化、店舗ポテンシャルが最大化されるのです。

3つ目は、需要予測の精度向上による店舗ポテンシャルの発揮です。発注、仕入れを高精度のAIに任せてしまうことで、生活者が求めるタイミングで適切な商品を売り場に展開することが可能となります。POSに加えて人流データや生活者行動DNAを導入し、高精度データによって顧客理解の解像度を高め、省人化や自動化によって業務効率を向上させる。さらに、商圏ニーズに合わせた発注精度を高めていく。こうした試みによって店舗のポテンシャル(機会ロス低減と廃棄ロス低減の両立による収益最大化)は一段と向上していきます。

4つ目は、デジタルによる業務省人化と多様な人材の活用です。セルフレジ、清掃や商品補充のロボティクス化によって省人化を実現。さらにはオンデマンド型在宅人材プラットフォームなどを活用すれば、柔軟な人材確保を期待できるでしょう。また新人教育においても分厚い紙のマニュアルなどを必要とせず、対話型のAI導入などで省人化が図れます。労働人口減少に対応する重要な取り組みだと言えるでしょう。

5つ目は、物流拠点網の再構築による、生活者とのゼロ距離化です。ここまでの4つの施策を掛け合わせることよって、従来店舗は旗艦店として機能させつつ、衛星店(極小店舗など)出店などでマイクロマーケットへの進出を図れるようになるでしょう。新たな市場進出は経営において極めてプラス材料である上に、衛星店への商品展開によって旗艦店には新たな余白も生まれます。つまり衛星店では生活者とのゼロ距離化を図りながら、旗艦店では新たな顧客体験の提供や新商品の展開が可能となるわけです。

ここまでの解説で、NTTデータの提唱するデータ駆動型経営とはいかなるものか、そして、激変する社会環境において流通・小売業はどのような変革が実現でき、持続可能な経営が可能となるのかがお分かりいただけたのではないでしょうか。まずは1つの業務プロセスからでもこうした取り組みを始めてみてはいかがでしょう。小さな成功体験を積み重ねていくことが、結果として大きな成果を得ることにつながっていくのです。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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