いまマーケティングに求められるのは、顧客価値最大化
これまで、市場の変化に伴いマーケティングも変化してきました。
図1:市場環境の変化に伴うマーケティングの変化
戦後の高度成長期までのマーケティング1.0の時代は、市場に商品が十分に揃っていなかったため、商品を出せば多くの人に欲しがってもらえる状況でした。そのため、マーケティング活動は製品の機能的価値を消費者に訴求することを目的に行われていました。
その後、消費者志向の時代、人間を中心とした価値共有の時代と続き、マーケティング4.0は、デジタルシフトと自己実現の時代へ移行します。ここでは消費者が製品を購入することによって精神的欲求を満たすことが重要です。さらに、消費者は購入した商品の宣伝機能も担うようになるため、マーケティング活動においては購入後の消費者行動まで想定したコンセプトが求められるようになりました。
そして、現在のマーケティング5.0は「人間×デジタル」の時代です。ここで求められるのは、精神的欲求を満たすだけでなく、ビッグデータやAIの方法論を掛け合わせて、「顧客価値を最大化」していくこと。膨大なデータやオペレーションの処理はデジタル技術に任せ、人間は共感をキーワードに「人間対人間」のコミュニケーションによって個々の消費者に寄り添った満足度を追求していく時代になっているのです。
環境変化を引き起こした3つの要因
マーケティング5.0に至るこのような市場環境の変化は、何を要因に引き起こされてきたのでしょうか。
1つは、ソーシャルメディアの発達です。これまでは企業が消費者に訴えたいメッセージを投げかけてきましたが、SNSによって個人が自由に情報を発信できるようになったことで、企業によるバイアスがかからず、消費者が感じたままに情報を受け取るようになりました。情報の発信において個人の力が強まってきたことで、企業はマーケティングやプロモーション活動においても情報を届けて終わりではなく、受け取った個人から伝播させる情報の二次流通までをコントロールしていくことになりました。
もう1つの要因は、市場の成熟化です。普段の生活において必要なものが揃っている上に、市場の商品はデザインや機能が画一的で購買意欲が掻き立てられなくなっている。このような状況を前提に、私たちはマーケティング活動に取り組まなくてはいけないのです。
そして最後の要因として、社会課題の顕在化があります。少子高齢化、労働力不足、環境問題などさまざまな社会課題が顕在化する中で、企業の事業活動も社会活動の一環として捉えることが重要になっています。社会課題の解決に寄与する事業活動こそが世の中でプレゼンスを発揮し、事業としても拡大していくケースが多く生まれています。
これからの市場を踏まえた、今後のマーケティングモデル
これまでの市場環境の変化とその背景を踏まえ、今後のマーケティングモデルはどのようなものであるべきでしょうか。前述の通り、消費者の精神的欲求を充足させることが重要とされる上に、今では人々の嗜好性も多様化しているため、マーケティングにおいては個々人に対してピンポイントで突き刺していくようなアプローチが必要になっていきます。
「One to Oneマーケティング」という言葉は10年以上前から使われていますが、デジタル技術の発展により圧倒的な情報量を捌けるようになった今では、個人の属性情報だけではなく、心理や生体情報までも含めて把握できるようになり、これらのデータを活用することでアプローチを幅広く、高精度に進化させることができます。
図2:今後のマーケティングモデル
では、今後のマーケティングモデルを図にしてみていきましょう。今後のマーケティングは「データドリブンマーケティング」と「アジャイルマーケティング」という2つの軸と、3つのアプリケーションによって構成されていると考えられています。
データドリブンマーケティングは、マーケティング、経営戦略、すべての事業活動を十分なデータに基づいて決めていくという考え方です。データ収集から分析、解釈という一連の流れを自動的かつ最適化するためのデータエコシステムを構築することが事業活動の根幹になっていきます。
このようなデータドリブンマーケティングによって揃えられたデータを活用していくところに存在するのが、3つのアプリケーション。個人が求めていることをデータから読み解く「コンテクスチュアルマーケティング」、その個人にどのような心理変容を促すことがアクションにつながるかを先回りして求める「予測マーケティング」、その先にはデジタルシフトによって人間に代替していく部分と人間にしかできない部分を掛け合わせて最適解を見つける「拡張マーケティング」というアプローチがモデル化されています。
さらに、これらのデータを活用したアプリケーションを実践する一連の流れを高速化するのが、「アジャイルマーケティング」の考え方です。これからのマーケティングでは、準備に多くの時間を費やすのではなく、顧客の反応やデータに応じた短期間での微調整をくり返しながら、スピード感を持って事業を成長させていくことが重要になります。
NTTデータが取り組む、データドリブンマーケティング
ここまで解説したマーケティングモデルの考え方をもとに、NTTデータが取り組んでいるデータドリブンマーケティングの事例を4つご紹介します。
図3:トレンドエクスプローラー
1つ目が、サービストレンドの種となる消費者インサイトを発見する「トレンドエクスプローラー™」というサービスです。現在、多様化する一方の消費者の嗜好性を捉え、さらに対応していくことには膨大な作業が発生しています。特に、企画構想、生産計画、開発というリードタイムが発生する商品開発などにおいては、市場に投下する時にはすでにトレンドが移り変わっていることも少なくありません。トレンドエクスプローラーは、SNSにおける大量の書き込みなどを分析し、トレンドが一過性のものなのか、拡大定着していくものなのかを予測。トレンドが起きる前の段階で種となる消費者インサイトを発見し、データドリブンの根拠を持ちながら商品開発やマーケティングに生かしていくことができます。
トレンドエクスプローラーの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/trendexplorer/
図4:Lectit
2つ目は、ファッションにおいて店舗、ECに続く第三の販売チャネル「Lectit」。ファッションを選ぶための情報収集は、テレビや雑誌からSNSに変わりました。さらには、そのアイテムを誰が着ているか、自分のお気に入りの人のコーディネートまでもセットで考慮されるようになるなど、人への共感が購入に強い影響を与えています。
Lectitは、一般のユーザーが自分でセレクトショップをつくって「クリエイター」になり、自分のコーディネートを伝え、自分の影響力を含めて販売していくサービスです。ユーザーのお気に入りの人への共感をそのまま購買につなげられるほか、ブランドにとっては着回しを含めた訴求を行ってロイヤリティ向上につなげられるサービスです。
Lectitの詳細はこちら:
https://www.lectit.com/lect-app-consumer-web/
図5:Catch&Go
3つ目は、小売業の人材不足を解消する「Catch&Go®」というサービスです。消費者がアプリをダウンロードし、入店時にゲートをタッチすれば、あとは店内で商品を手に取ってそのまま出ていくだけ。
また「Catch&Go」では購入情報の把握も可能です。この情報を活用すれば、リアル店舗でもレコメンドやフィルタリングというサービスを提供できます。例えば、いつもECで缶コーヒーを箱買いしているお客さまがアプリでゲートをタッチした時に、いつもの感謝の印に缶コーヒーを一本無料でプレゼントするようなサプライズができれば、新たな購入体験によってロイヤリティ向上につながるでしょう。
Catch&Goの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/catchandgo/
図6:3D着衣画像自動生成
最後は「3D着衣画像自動生成」です。3Dスキャンデータによって、モデルが着衣した状態で3Dアバターを生成。この3Dアバターを用いて製品製造前に消費者の需要を見極めることができるようになります。需要を確認して生産計画に反映するまでのサイクルを短期化できれば余分な在庫を減らすことができますし、売れ筋の商品を事前に把握できるため、資金の選択と集中を効率的に行えます。またSDGsの観点でも有効です。衣料の廃棄は地球規模で大きな問題となっており、国内だけでも年間140万トン、世界では9,200万トンにも上ります。このような社会課題の解決にも一石を投じるようなサービスにしたいと考えています。
これから私たちが生み出していくサービスや事業は、データドリブンの考え方が中心になっていきます。重要なのは1つのデータではなく、データのエコシステムをつくっていくこと。多くの企業との連携によって、今まで見えてこなかった消費者の行動を捉えられるようになるはずです。今回の記事を通して気になった点、連携していただけそうな側面がありましたら、ぜひともお問い合わせください。
NTTデータの流通・小売業界向けサービスの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/retail-distribution/
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