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少人数で始まった全社データ活用の取り組み
航空機、産業用ロボットからモーターサイクルまで、幅広いビジネス展開を展開している川崎重工業。複数の事業部門が別会社のような業務プロセスを持っていたり、多品種少量生産が故にデータの管理が複雑であったりと、データ活用や管理の課題を抱えていました。その中で、会社全体のDX推進の要となるDX戦略本部のもと、2022年4月に発足したのがデータ活用のCoE(センターオブエクセレンス)であるデータサイエンス技術部です。連結従業員数は約38,000名の川崎重工業において、25名と少人数でスタートしました。
データサイエンス技術部のミッションは、全社のデータ活用プロジェクト連携や、各事業のデータ活用ニーズの掘り起こし、AIやデータ活用に関連する教育・研修や啓発活動、データ活用基盤の整備など、多岐にわたります。
各事業部門のデータ活用を推進するには現場課題や業務を深掘りし、現場理解を深める必要がありました。また、DX推進に対する社内認知度が低く、AI人材も不足しているといった問題にも直面していました。
限られた人数でこれらの課題に取り組むデータサイエンス技術部は、デジタル技術やデータ活用によるビジネスのデジタル変革を支援するNTTデータの「デジタルサクセス®」プログラムによる伴走支援を受けることにより、解決の糸口を見いだしていきました。
事業部門との密なコミュニケーションがDX推進の重要な鍵
DX戦略本部デジタル戦略総括部データサイエンス技術部 第二課長
藤原 一継 氏
「DX推進を進めるにあたり、NTTデータからは、DX戦略提言や人材育成に向けた企画の伴走など、当社の文化や事業背景を深く理解いただいた上で、適切なサポートを実施いただいています」とDX戦略本部デジタル戦略総括部データサイエンス技術部 第二課長の藤原 一継氏は語ります。
各事業カンパニーの事業課題や現場理解に加えて、「具体的なデータ活用の進め方」や「類似するデータ活用事例」など、データサイエンス特有のノウハウ部分に関してNTTデータやDataRobot社の協力を得ることで事業部門との密なコミュニケーションを可能にしているといいます。
本プロジェクトに参画したNTTデータの鍋山は、次のように話します。
「川崎重工業さまでは、複数の事業カンパニーによる自立経営が行われています。
その一方で、全社CoE組織には各事業カンパニーのデータ活用を横断的に支援することが求められ、DX推進戦略もこの企業戦略に沿って立案していく必要があります。
我々からは、このような川崎重工業さまの企業戦略を踏まえた上で、全社CoE組織の果たすべき役割を提言し、提言だけでなく具体的な施策実行までを伴走しています」
「デジタルサクセス®」でビジネスインパクトの大きい多様なデータ活用案件を創出
1つ目の重要課題としてNTTデータと取り組みを進めたのが、ビジネスインパクトの大きなデータ活用案件のテーマ創出です。これは、データ活用においてとても重要なステップです。現場でのデータ活用ニーズがあったとしても、実際に有効な分析や活用ができるかはわからないため、吟味を重ねる必要があるのです。そのため、ワークショップ開催などを通して、事業部側の業務課題を起点に重要テーマ創出に取り組んできました。
NTTデータとDataRobotがワークショップを開催、データ活用案件管理のTipsや方法論を提供し、テーマ創出~成果創出活動の内製化を進めています。
DX戦略本部 デジタル戦略総括部 データサイエンス技術部 第二課 基幹職
河田 久之輔 氏
テーマ創出ワークショップでは、さまざまな部門から、多種多様なテーマが集まります。DX戦略本部 デジタル戦略総括部 データサイエンス技術部 第二課 基幹職 河田 久之輔氏は、「2日に分けて開催し、前半に出たテーマや課題に対してどのようにデータ活用や分析を進めるとよいかを調べるなど、周辺知識を頭に入れて後半に臨んでいます。アプローチの選択肢を増やすうえで、NTTデータの引き出しの多さにとても助かっています」と語ります。
DX推進プロジェクトの社内認知向上に向けた取り組み
データサイエンス技術部がCoE組織としてさまざまな取り組みを進めていく上での課題の2つ目が、社内におけるDX推進取り組みの認知度がまだ低いことでした。DX推進を通した事業ROI創出のためには、事業部側からの認知を向上させ、取り組みへの協力を引き出す必要がありました。
データサイエンス技術部とNTTデータは、まずDX推進プロジェクトの社内認知向上に向け、社内セミナーを定期的に開催しました。開催テーマは、データ利用の基礎的な内容から社内外の具体的なデータ活用事例、生成AIやBI活用など幅広く企画。NTTデータが講師を支援し、社内の認知度向上をはかりました。結果として、初回から1000名を超える参加者が集まり、セミナー参加者のアンケートでは満足度が平均90%を超え、社内の認知向上に大きく寄与しました。
購買資材の物価変動予測では約1億円の効果を見込む
当初40件のテーマ創出を目標に活動していましたが、これまでに約60件のテーマが創出され、16件がPoCに発展しました。PoCは本来の業務に忙殺されて予定通りに進まなかったり、CoEと事業部門で足並みがそろわずに難航したりするケースも多くありますが、「デジタルサクセス®」による伴走支援は、事業の状況に応じ、柔軟にプロジェクト進行をサポートしています。
創出したデータ活用案件の成果も見えてきています。川崎重工業は、購買資材の物価変動予測に関するデータ活用において、約1億円のコスト削減効果を見込んでいます。河田氏は、他にも大きな手応えを予測している取り組みがあることを受け、「船舶プロペラの補修部品の需要予測や、航空宇宙エンジンにおける生産工程改善といった事業部門において、AIツールであるDataRobotの本格導入の見通しも立っています」と語ります。
さらに、事業部門だけでなく、人事部門ではメンタルヘルスケアのための取り組みを進めており、今後データ活用によるさらなる効果が期待されています。
全社の統合的なデータ基盤整備とデータ活用の民主化に向けて
DX戦略本部 デジタル戦略総括部 データサイエンス技術部 部長
中野 信一 氏
これまで紹介してきた通り、データサイエンス技術部ではAIやデータ活用などの社内認知の向上やテーマの創出などの取り組みを進めてきました。次の取り組みとして「教育・研修の拡充」と「データ活用基盤の整備」に注力していくといいます。データ活用人材を増やしてデータの民主化を加速させること、そして事業部側が主体的にデータを活用できるよう環境整備をすることが狙いです。
教育・研修の拡充では、「全社員向け研修」「管理者向け研修」「経営層向け研修」など、役割ごとに異なるニーズに沿った研修制度を構築中です。これらの研修を通じてDataRobotやTableauのような、データ分析や数値予測を業務に活用できるツールの更なる社内浸透を進めます。これにより、事業部側とのデータ活用の取り組みをさらに拡大させていきたいといいます。
また、データ分析ツールの普及にとどまらず、多くの社員が効率的にデータに触れるようなデータ基盤の構想検討も始まっています。
DX戦略本部 デジタル戦略総括部 データサイエンス技術部 部長の中野 信一氏は「いまは事業部ごとや工場ごとの単位でデータを活用していますが、将来的には全社で統合的にデータを管理して、経営的な判断や分析に使うということを目指していきたい」とビジョンを語り、こうしたデータ基盤の実現においてもNTTデータの知見や取り組みの支援に期待していると締めくくりました。
NTT DATAのDataRobotについてはこちら:
https://enterprise-aiiot.nttdata.com/service/datarobot
NTT DATAのデータ&インテリジェンスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/data-and-intelligence/
NTT DATAのデジタルサクセスについてはこちら:
https://enterprise-aiiot.nttdata.com/service/digital_success
岩手銀行への「AIサクセスプログラム」提供についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2023/102500/
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