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DXで成果を挙げている企業に共通する3つの事象
皆さんは、DXとは何か正しく説明できますか?先日、日経新聞で「DXとデジタル化を混同して理解している人が多い」といった記事を目にしました。デジタル化は、ITによってアナログをデジタルに変えることです。一方、DXはデジタル化によって、生活をより良い方向に変化させることが目的です。
会社から突然「DXを推進しろ」と言われたら、どう進めればいいのか、悩ましいところです。では、実際にDXで成果を挙げている企業には、どういった共通点があるのでしょうか。
一般的に言われるDX成功への道筋には、ポイントが3点あります。
まずは業務の改革や課題の解決など、DXの目的を明確にする必要があります。次に、経営者がしっかりコミットして、推進することです。現場が中心になると、部分最適に留まってしまうケースが多くなります。そして、スピーディーにソリューションを組み合わせて、外部のリソースもうまく活用することが必要です。
図1:DXを成功に導くポイント
今回は、クラウドを活用してDXを推進させた4つの事例を紹介します。
キリンの製造工場で全体情報を集めて生産状況を可視化
最初にご紹介する事例は、飲料メーカー『キリン』さまの「IoTプラットフォームによる働き方の変革」についてです。
キリンといえば、まずビールが思い浮かぶと思います。その製造現場には、3つの課題がありました。1つめは、業務ノウハウの属人化。2つ目は、工場における各システムやデータが、うまく経営と連動しておらず、十分に生かされていなかったこと。3つ目は、設備トラブルの発生状況が十分に可視化されていなかったこと。工程間のつまずきを現場のコミュニケーションで対応していたため、対応稼働の抑制が発生していました。
課題解決のために提案したソリューションが、NTTデータのクラウド型情報活用プラットフォーム「iQuattro(アイクアトロ)」です。製造業やサプライチェーンで導入されており、工場や本社、サプライヤーなどからの情報をAPI経由で収集・蓄積します。その情報を加工して、ダッシュボードなどで可視化する仕組みです。
図2:IoTプラットフォームによる働き方の変革
NTTデータでは、キリンさまの工場の設備やカメラ、各種制御システムから情報を収集して、蓄積・加工して生産状況を可視化するIoTプラットフォームを構築しました。可視化された情報は、実績、分析、目標などの目的別のダッシュボードにアウトプットし、工場の情報を本社で確認し、経営と連動できるようになりました。
一般的な効率化は工程単位ですが、今回は工程間の情報を統合して工場全体の生産状況をリアルタイムで確認できるようにしています。また、1秒あたり約5万点の生産データを扱える処理能力も、他には類を見ないレベルです。
この取り組みにより、短期的にはデータが可視化され、工程間の情報連携が自動化されました。レポートの作成業務などが削減されたほか、前工程の進捗状況を見える化したことで、効率的な作業順序への組み換えも可能になりました。中長期的には、更なる自動化や高度化に向けて、基幹系の業務計画を連動させたり、原材料の自動発注へ結びつけたりすることが目標となっています。本社と工場が一体となって省力化、品質向上を推進し、働き方の変革を実現した好事例と言えるでしょう。
ライオン社員のデータ活用を加速させたクラウド型ビッグデータ分析基盤
2つ目にご紹介するのは大手生活用品メーカー『ライオン』さまの事例で、テーマは「データ分析による新たな顧客価値創造」です。
昨今、ネットやアプリといったオンラインでの顧客接点から発生するデータを活用したマーケティングが盛んになっています。ライオンさまでも、購買データやソーシャルメディア、商品レビューなど生の声を幅広く集めて消費者理解を深化しました。そこから新しい価値を創造することで「心と体のヘルスケア」の実現を目指しています。
そのためにNTTデータが支援したソリューションが、AI・データを起点とした意思決定、ビジネス変革を実現するクラウド型ビッグデータ分析基盤「TDF(トラステッド・データ・ファウンデーション)」です。当社規定のセキュリティレベルを十分に確保したうえで、コンサルティングからデータ分析環境の構築・運用、データの活用支援まで、ワンストップでサポートします。
具体的には、お客さまの大切な資産であるデータをデータレイクに集約し、加工・蓄積。その後は、BI/機械学習/画像解析に関わる分析テーマに応じて、豊富な選択肢から最適なツールを組み入れて提供します。
ライオンさまがこだわっていたのは、より多くの社員によるデータ活用です。そのために必要なソリューションを選定して、導入後は活用の浸透やデータサイエンスに関するナレッジ蓄積を推進しました。
図3:データ分析による新たな顧客価値創造
そこで、スピーディーに高精度の予測モデルが作成可能なAIツール『DataRobot(データロボット)』を導入しました。これにより人手の分析では気づけなかった顧客志向の発見ができるようになります。次に、ノンコーディングでのデータ加工・集計機能ができるツール『Alteryx(アルテリクス)』を導入。これらのツールを根付かせるため集中的にワークショップを行い、組織への浸透を深めました。
結果、ライオンさまの狙い通り、より多くの社員がデータを活用するようになり、データサイエンスに関する組織的なナレッジも蓄積されました。加えて、エンドユーザーである消費者の理解に対して、その質が向上したことも挙げられます。
さらに、マーケティングの課題の抽出からアウトプットまでの期間も短縮されました。従来かかっていた期間は、外部業者との連携を含めて最短で約2カ月。現在は、状況に応じて社内でデータ分析などを実施することで、最短約3週間まで短縮できています。
金融会社が導入した、クラウド活用に欠かせないセキュリティサービス
3つ目は、金融のデジタル化を推し進めるために地銀7行が協働で研究・開発を行うために設立した共同出資会社『フィンクロス・デジタル』さまの事例です。テーマは「クラウド活用のためのセキュリティ・ガバナンス」です。
クラウドの導入を検討したときに、多くの企業で最初に危惧されるのがセキュリティです。まず、クラウドとセキュリティの考え方について整理しましょう。
クラウドにおいて利便性と脅威は、トレードオフの関係とされています。誰もが簡単かつスピーディーにシステムを構築できることは、非常に便利です。しかし、裏を返せばガバナンスが効いておらず、誰でも簡単にセキュリティホールを作れるということでもあります。そもそも、クラウドはインターネット上にあるもの。活用すれば自社以外のサービスに簡単に接続できますが、逆にちょっとしたミスや悪意のある操作で、大切なデータの漏洩につながります。セキュリティ対策においては、脅威を正しく理解し、対策することが重要です。ここでは、4つの対策を紹介します。
図4:クラウド活用のためのセキュリティ・ガバナンス
まず、自社における最適なセキュリティ・ガバナンスの構築が必要です。ヒトや業務フローに応じた権限を定義し、全社ルールを策定します。
次に、全社ルールを展開ために共通の仕組みを作る必要があります。クラウドを利用する際、委託先を利用する企業も多いです。その場合、共通したセキュリティ基準が無いと、ベンダーごとにバラバラな対策となり、後から統一するのが難しくなります。最初に共通の仕組みをつくることが重要です。
そして、クラウド進化に応じて継続的な見直しを行います。クラウドは年間1,000回以上のスピードでサービスがアップデートされています。これらアップデートに対するセキュリティ対策を忘れてはいけません。
最後に、マルチクラウドを採用している場合は、クラウド特性に応じた対策を施します。クラウドといっても、AWSやAzure、GCPはそれぞれ別物です。AWSでセキュリティガイドラインを作っただけでは十分ではありません。別のクラウドサービスを活用する際には、一から理解したうえで、ガイドラインを作っていく必要があるのです。
このように、自前での対策はかなりの労力やコストがかかります。そこでNTTデータでは、パブリッククラウドの導入の検討から運用までを一元的に支援するソリューション『A-gate』を提供しています。
『A-gate』のサービスは、「スタートアップコンサル」「セキュリティクラウド基盤」「マネージドCCoE」に大別されます。「スタートアップコンサル」では、お客さまがセキュリティ・ガバナンスを確立・整備するにあたり、NTTデータがこれまで培った知見を活かした支援を実施。「セキュリティクラウド基盤」では、セキュリティルールに準じた権限の実装や違反した際の検知や自動修復などの機能を提供しています。そして、「マネージドCCoE」は、クラウドの新サービスを研究し、セキュリティ基盤の機能をアップデートし続け、常に最新の脅威に対応できる状態を保ち続けます。
この『A-gate』を活用しているのが、『フィンクロス・デジタル』さまです。銀行業務の高度化・顧客利便性の向上を推進するなかで、顧客属性や取引状況を分析。投資信託等への関心が高いと予測されるお客さまをAIが抽出するシステムをクラウド上に構築しました。AIが抽出した見込み顧客の成約率は、従来の2倍以上にもなったそうです。
クラウドサービスは、AI・ビッグデータ機能のマネージドサービス利用や、アジリティの観点からAWSに決定され、そこでのセキュリティを担保するために、『A-gate』が導入されました。『A-gate』自体は、金融分野のみならず、エンタープライズや公共分野でも同様に活用できます。
税金の徴収・管理を行う共同利用型・定額料金のクラウドサービス
4つ目の事例は、公共分野でのDXの取り組みです。テーマは「公共機関における安全・安心なクラウド運用」です。
昨今、公共機関においても、DX推進する動きが進んでいます。その背景には、2018年に政府が発表した「クラウド・バイ・デフォルト原則」があります。これは、政府情報システムについて、コスト削減や柔軟なリソースの増減などの観点から、クラウドサービスの採用をデフォルト(第一候補)にするといったものです。加えて、今年9月のデジタル庁発足もDX推進を加速させている一因だと考えられます。
NTTデータでは、これまでも公共機関のシステム開発に数多く携わってきました。その実績とクラウド活用の知見、経験を活かしたソリューションが『DCPF(デジタル・コミュニティ・プラットフォーム)』です。
AWSやAzure、NTTデータのクラウドサービスのOpenCanvas(オープンキャンバス)をはじめとして「顧客のニーズに合わせたクラウドサービスを選択可能であること」、「クラウド上での安定したシステム運用を実現すること」、「安心にデータ活用できるように、さまざまな機能を提供していること」の3つをコンセプトとして掲げています。
この『DCPF』を活用したソリューションのひとつが、NTTデータの企画型サービス『pre'xco(プレコ)』です。自動車税などの徴収・管理などに関する県向け税務システムで、全国初となる共同利用型・定額料金のクラウドサービスで、既に複数県で導入が確定しています。
図5:公共機関における安全・安心なクラウド運用
クラウド基盤はOpenCanvasで構成。LGWANによる閉域接続やマネージドサービスにより安定運用を提供しています。また、データセンター、機器、アプリケーションなど、業務に必要な機能をノンカスタマイズ・共同利用で提供することで、導入費、運用保守費、税制改正費の低減を実現しました。サービス利用型で提供するため、システム管理作業の負担も軽減されています。
さいごに
この記事では、クラウドを活用したDXの成功事例を4つ紹介してきました。DXを進めるうえでアジリティの高いクラウドサービスを活用するということは、必要不可欠と言っても過言ではありません。
一方、クラウドを安全に活用するためには、責任範囲をしっかりと理解して、セキュリティ対策などを考慮した作り込みや運用が重要になってきます。
NTTデータではクラウド活用を支援するさまざまなソリューションを用意しており、お客さまに寄り添うサポートを続けています。今後も、お客さまと共にDXを実現していきます。