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1.はじめに
1990年代後半のインターネット、Windows OSの登場により、従業員を取り巻くオフィス環境は大きな変化を遂げました。OA領域のICTインフラ(OAインフラ)の整備は、企業におけるIT部門の役割として、年々重要性を増しています。
企業におけるOAインフラ
IT部門は従業員の日常業務を支えるOAインフラサービスを提供するだけでありません。保守・サポート切れに伴う更改においては、クラウドサービスの活用、巧妙化するセキュリティ攻撃、増加するNWトラフィックなど様々な課題の対応に追われています。
表の中の「提供する機能」にはありませんが、働き方変革におけるICT活用としてOAインフラをどのような姿に変えていくかという戦略を描くことは、近年IT部門における重要なミッションの一つとなっています。
本記事では、OAインフラの整備として利用者に最も身近なデバイスであるPC端末を取り上げます。コロナ渦により変化が求められるニューノーマル時代における新しい働き方に適した形に変えていくNTTデータの実践事例を紹介します。
2.社員自身が業務スタイルを変革できる環境へ
当社は長年、様々な業界・業種のお客様のITシステム、サービスの開発・運用を行ってきました。また、従来のビジネスに加え、近年ではAI、IoT、クラウドサービスなどの新しいデジタル技術を活用した「DX」(Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション))の実現、デジタル化推進のサポートも重要なミッションとなっています。
このような大きなニーズの変化に対応するためには、様々な観点から当社自身も目指すべき姿を変えていく必要があると考えました。言い換えれば当社自身のDX推進をどう進めていくかということです。
その一つとして、OAインフラ領域のDX推進においては、どのような働き方をするか、目指したい方向性を明確化することもポイントとなります。方向性の例としては
- Digitalを活用した働き方の変革
Digital技術を活用した共有・コラボレーション促進と業務プロセス変革 - 社員のProfessionalityの最大化
Digital対応力の強化や社員エンゲージメントの向上 - 適切なガバナンスの構築
リスクマネジメントの強化
といったものがあげられます。
このような方向性の整理は、今までのIT部門が中心となりトップダウンで整備してきたOAインフラの導入戦略だけではなく、現場の課題感を吸い上げ、最新の技術を導入して解決をしていくボトムアップのアプローチも必要となります。
Digital技術や次世代生産技術で当社自身の業務スタイルをモダナイズするためには、社員が最新の技術や最新端末を安全かつ高い利便性で活用できるようにしていくということが重要です。
3.DXを阻む壁
お客様のITシステム、サービスの開発・運用においては、セキュリティ上、流出が許されないシステムの設計情報を取り扱う必要があります。
情報処理推進機構(IPA)が公表している「情報セキュリティ10大脅威 2020」によると、OAインフラで対策が必要なセキュリティの脅威が上位を占めています。
情報セキュリティ10大脅威 2020
https://www.ipa.go.jp/security/vuln/10threats2020.html
当社でも様々なセキュリティ対策を実施しています。セキュリティ対策の強化は必要不可欠ですが、一方で当社社員が目指したい方向性を実現するための壁となっていました。
~DXを阻む壁の例~
- エンジニアが力を発揮する環境の利用制限
開発環境がトレンドに合っていない、最新PCや使いたいクラウドサービスが利用できない - 強固なセキュリティによる生産性低下
社外にPCを持ち出せず、ノートにメモした内容を帰社してまとめ直すなど二度手間の発生 - ICT環境における課題認識不足
セキュリティ対策による利便性低下は避けられないものとして課題意識がない
このような壁を最新のICT技術を活用して乗り越えられないか、社員が働きやすくパフォーマンスを最大限に発揮できるOAインフラが必要ではないか。このような想いから新しいOAインフラとしてこれまでのシンクライアント端末の利用から最新のデバイスを活用できる働き方環境の変革の検討が必要と考えました。
4.目指すべきOAインフラの変革ポイント
OAインフラのDXを推進するにあたり、課題を解決するために必要となる考え方の整理は欠かせません。OAインフラの整備目的としてコンセプトや目指す効果、変えるべきルールを明確化し、その実現に向けて活動することが重要となります。
変革のポイントは、企業がおかれる状況や業種によって様々かもしれませんが、根幹は共通するものがあるのではないでしょうか。
例えば以下の点があげられます。
- 変えていくべきルール、OAインフラの見極め
OAインフラが企業の成長の足かせとなってはならない。目的達成のための「ルール」「システム」であるOAインフラが時代遅れになっていないか、IT部門は最新のICTを活用して解決できることがないか、変えるべきことがないかを常に意識することが重要。 - 課題を解決する最新のセキュリティ対策
セキュリティ、コンプライアンスを守ることはお客様の情報資産だけでなく会社や社員を守り、企業活動を継続するために必要なこと。 - 最新のDigital技術の活用による目指すべき働き方の実現
OAインフラの更改はあくまで目的を達成するための道具を提供することに過ぎない。目指すべきニューノーマルの働き方において最新のDigital技術をどのように活用するかをセットで考えることが重要。
5.導入から得た教訓 OAインフラ更改を円滑に実現するためのアプローチ、ポイント
従業員が数千~数万人という大きな組織では、OAインフラの更改は一大イベントになります。本事例のようにPC端末などOAインフラの変更は投資額としても大きなものになります。また、導入に向けて様々な課題が発生します。そこで円滑に導入を進めていくためのアプローチとポイントをご紹介します。
(1)一部の部署から段階的に導入、全社展開へ
OAインフラは、認証、メール、NW、端末などのサービスを全社一律で提供しているケースがほとんどだと思います。また、各サービスを開発・運用するグループもIT部門の中でいくつかのグループに分かれます。
そのため何か新しい取り組みを行う際にはIT部門内だけでなく、利用部門である社内の各部署などステークホルダが多くなります。
そのため一部の部署からPoCを行い、検討している機能が新しい働き方を実現できるのか?といった観点を技術面だけでなく、セキュリティ面、運用面、場合によっては社内のルールの変更など様々な観点から評価することが重要です。
(2)セキュリティ要件を整理し、社外からのアクセスを許可する社内システム、サービスを順次公開する
社外に持ち出すことを前提としたセキュアなFAT端末からアクセスを許可する社内システム、サービスとして、何を対象とするかを仕分けすることも重要なポイントの一つです。社内システムの利用を社外からの利用に拡大するにあたって、生産性の向上に寄与するのか、社員のエンゲージメント向上につながるのか、その際に必要となる対策はPoCで十分に確認できているのか見極めたうえで順次公開していくことが大切です。
(3)ICTインフラと働き方変革のロードマップを明らかにする
長年運用を続けた結果、多くのサービスを提供している企業におけるICTインフラを一気に置き換えることは現実には困難です。スモールスタートが重要と述べましたが、利用者にとって大きな変化による利便性向上と現実とのギャップを感じ、期待外れに思われる場合もあるかもしれません。IT部門として重要となるのは、今後のICTインフラのロードマップを単なるサービス提供観点での説明ではなく、導入過程において従業員の働き方変革の進め方と、エンゲージメント向上などもたらされる効果とセットで説明することです。
6.まとめ
本記事では、OAインフラの更改による働き方変革における取組を紹介しました。働き方変革はOAインフラの更改だけで実現できるものではありませんが、従業員が日々使う身近な環境の改善とその活用をセットで考えることで、働き方の変革を実現することができるでしょう。