生成AIによる業務効率化の必要性
労働人口の減少は日本の大きな問題となっており、さまざまな業種で生成AI活用による業務の効率化、生産性向上への需要が高まっている。すでに業務に生成AIを取り入れ、効率化を進めている企業も多い。現状、活用例として多いのはカスタマーサポートやチャットボットなどを用いた顧客問い合わせに対する省力化、コンテンツやクリエイティブの自動生成能力による広告やマーケティングの効率化などだが、特定の業務における自然言語を使った検索や要約にとどまっていることが多い。
NTT データで国内の生成AI戦略をリードする奥田良治は、生成AIの活用状況と今後の展望についてこう語る。
「NTT DATAは、これまでさまざまな業界・業種の顧客と生成AIを活用した業務革新に取り組んできました。その数はグローバルで500件,国内でも100件を超えます。その中で最も需要が多いのは、フロントオフィス・バックオフィスの日常的な業務の効率化です。ひとつの業務にとどまらず、業務プロセス全体で生成AIを活用できるようになれば、より抜本的な業務効率化、労働集約から知識集約型ビジネスへの変革が可能になります。」(奥田)
複数のAIエージェントがオフィスワーカーの業務を効率化する「SmartAgent」コンセプト
こうした課題に応えるべくNTT DATAが構想しているのが、業務プロセス全体を生成AIによって支援する「SmartAgent」というコンセプトだ。奥田は、その特徴をこのように述べた。
「『SmartAgent』の特徴は、複数のAIエージェントが自律的に協調しながらユーザーの業務プロセス全体を一気通貫で支援する点です。『パーソナルエージェント』は、ユーザーからの依頼に対してプロジェクトリーダーとなって自律的にタスクを組み立て、関連する『特化エージェント』にタスクを指示します。『特化エージェント』は経理や法務などの専門知識を持ってタスクを検討・遂行するAIエージェントで、『パーソナルエージェント』の指示を受けてタスクを遂行します。定型化された単純なタスクは、『デジタルワーカー』が実行します。これらのAIエージェントが協調し、業務全体の効率化、生産性向上を図っていく。このような世界観の実現に取り組んできました」(奥田)
図1:SmartAgentの構成要素
例えば、法人営業における活用イメージはこうだ。営業担当者は、アプリケーション上のチャットでパーソナルエージェントに初期訪問、提案、契約締結などの業務を依頼する。すると、パーソナルエージェントがプロジェクトリーダーとして動き出し、営業、提案書作成、稟議(りんぎ)書作成、法務など、さまざまな専門性を持った複数のAIエージェントを自律的に選定し、連携する。これを受けてAIエージェント同士が協調し、自らタスクを細分化してひとつひとつのタスクを自律的に実行してくれる。
一般的に営業職では商談や顧客対応といったコア業務に割ける時間は全体の3割程度に留まるとされており、残りの時間は事務作業などの付随業務に費やされている。しかし、「SmartAgent」を導入すれば、コア業務に集中できる時間が2.5倍に増加する試算だ。営業業務のプロセス全体に生成AIを活用して抜本的な効率化を図ることができれば、付随業務に費やす時間を減らしてコア業務により多くの時間を割き、生産性を向上させることが可能になる。
図2:SmartAgentによる営業職の業務効率化(試算)
さまざまな業界の顧客との取り組みの中で、既にSmartAgentというコンセプトに基づく業務効率化の事例も出てきている。
1つめの事例は住友生命とのPoCで、顧客向けの商品加入案内メール送付を自動化したという事例だ。単に自動化するだけでなく、登録された健診データおよび嗜好(しこう)データをもとに、パーソナルエージェントとデジタルワーカーが協調し、顧客にパーソナライズされた商品加入案内メールを自律的に作成、送信する。
2つめの事例は、東京ガスのマーケティング活動の自動化だ。マーケティング部門の担当者が対象商材を選択すると、マーケティングの専門知識を持つ特化エージェントがターゲット定義からペルソナの設定、カスタマージャーニーマップの作成、そして課題分析、施策立案までを自律的に実施し、マーケティング業務のサイクル全体を支援する。
3つめの事例は、ライオンと進めている生産技術の暗黙知のAI化だ。これまで蓄積してきた技術文書や実験データを学習させた特化エージェントが、新しく参画した技術者に対話形式で情報提供することで、熟練技術者が持つ生産技術の知識伝承を容易にする。従来データ化されにくかった熟練技術者だけが持つ暗黙知を社内の共有財産としていくための取り組みだ。
こうしたAIエージェント同士のコミュニケーションを実現するソリューションが、2024年7月に発表した「LITRON Multi Agent Simulation」だ。生成AIに個別の立場(ペルソナ)を設定し、AIエージェント同士がコミュニケーションし、新製品のアイデア出しやマーケティング戦略の立案支援などを実施する。さまざまな議題を設定して多様な会議シミュレーションを行い、ユーザー自身の業務に対して新たな洞察を得ることができる。
「『SmartAgent』の特徴は、ユーザーからの指示を受けたパーソナルエージェントが業務の専門知識に特化したAIエージェントを呼び出すという仕組みによって、さまざまな業種・業務の特化エージェントと連携しやすくしている点です。また、パーソナルエージェントが自律的に対象業務のタスクを整理し実行するだけでなく、必要に応じてユーザーの意思を再確認するなど、ユーザーとのやりとりを介してタスクの判断や実行を改善していく仕組みが差別化要素となっています。」(奥田)
今後の展望
この「SmartAgent」コンセプトを実現すべく、まずは営業領域を対象に「LITRON® Sales(リトロンセールス)」サービスの提供が始まった。
LITRON Salesは、営業領域における各種業務を自律的に支援、実行するサービスだ。パーソナルエージェントが特化エージェントにタスクを割り振ることで、データ入力、アポイントメント準備、提案書作成、契約書・社内文書作成などのタスクを支援、実行し、営業担当者の負担となっている事務処理、資料作成、日程調整などの業務負荷を低減する。
図3:LITRON Salesの概要
同サービスは段階的な機能提供を予定しており、第1弾として、データ入力・活用機能の提供を、2025年3月の第2弾では顧客経営課題分析から提案書作成までを実行するアポ・提案準備機能を提供する予定だ。
こうした生成AIによるサポートによって、営業担当者は顧客への提案活動などの付加価値業務に充てられる時間を多く持てるようになる。社内外の多様なインプット活用を通じた仮説構築力や提案力の向上を実現することも可能だろう。
「実際にお客さまのどの業務にどうSmartAgentのコンセプトを適用して生成AIを活用し、生産性を上げていくのか。コンサルティングから導入、運用を一貫して支援し、アプリケーションからインフラ、BPSまでフルスタックでお客さまに提供することで、社会の未来を革新していきます」(奥田)
生成AIの提供体制を盤石にするための取り組みも行っている。生成AIのグローバル戦略を推進する本橋 賢二は、こう述べた。
「全社員20万人へのAI教育を実施するとともに、2026度までにグローバルで3万人の生成AI専門人材育成をめざします。ソフトウェア開発についても、要件定義やテスト・運用も含めた全体の工程で生成AIを活用し効率化に取り組んできました。AIコーディングアシスタントであるGitHub Copilotについても国内ではトップクラスの利用実績があり、新たにGitHub社と業務提携することでさらなる効率化を推進していきます。」(本橋)
これまで企業のオフィスにおける活用例を紹介してきたが、SmartAgentの活用可能性は、特定の業界・業務に限定されないと奥田は語る。
「製造業の製造現場、あるいはオフィスではなく顧客とのリアルな接点を持つ金融、行政といった分野でも活用いただけると考えています。」(奥田)
NTT DATAは、営業、マーケティング、法務、ファイナンスなど多様な業務シーンでこのSmartAgentを提供していく計画だ。
- ※「SmartAgent」は日本国内における株式会社NTTデータグループの商標です。
- ※「LITRON」は、株式会社NTTデータの登録商標です。
AIエージェントを活用した新たな生成AIサービスを提供開始についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2024/102401/
NTTデータのLITRON®の詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/litron/
NTTデータの生成AI(Generative AI)の詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/