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2016.9.20技術トレンド/展望

人工知能と通信で進化するクルマ

新技術の登場により、クルマと私たちの関係が転換点を迎えています。 人工知能による深層学習技術と、エッジコンピューティングの分散処理技術。 それらが切り拓くのは「ぶつからないクルマ」という夢への道のりです。 トヨタ自動車とNTT未来ねっと研究所の担当者たちに聞きました。

交通事故死ゼロへの一歩

知能を持ったクルマの誕生

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 主幹 玉根靖之さん

トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 主幹 玉根靖之さん

───2016年2月のNTT R&Dフォーラムで、複数台のプリウスの模型車が自由な方向に動きながら衝突をしないという「ぶつからないクルマ」のデモ展示を拝見しました。1月に米国で行ったデモを再現したものだそうですが、そもそも玉根さんの所属する「コネクティッドカンパニー」とは、どのような組織なのですか。

今年の4月に立ち上げた組織で、メンバーは500人ほどの規模です。私たちが目指すのは、一言で言うと「もっといいクルマを作ろう」ということに尽きるのですが、“いいクルマ”の定義はメーカー側が決めることではなく、お客様が決めることだと思っています。

今日の社会でスマートフォンのように、いろいろな外部の端末とクルマが繋がるという環境変化が起こっているなか、“私たちも「繋がる(コネクト)」という観点からクルマを考えなくてはならないのではないか”という判断がありました。

───すべてのクルマが外部とコネクトしていくとともに、ビッグデータも活用していく。

これまで私たちがお付き合いしたことのなかったような組織と連携していき、新たな価値を生み出すために、動き出しています。

───繋がる(コネクト)という概念が描くクルマの未来像とはなんでしょう?

さすがに将来のことを確実に予測することはできませんが、パッセンジャー(乗客)ではなくドライバー(運転手)になり得るのが、電車などの他の乗り物とクルマの違うところです。

では、運転中に何と繋がれば楽しいか。

検索サイトやSNSへのアクセスなど、情報収集の機能を付けるだけでは、スマートフォンの延長で終わってしまいます。より「いいクルマを作る」という目標に向かって、昨年、人工知能を研究する国内企業のPFN(※1)に出資する経営判断をしました。

───これは、自動運転が一般化するという将来を見据えてのことでしょうか。

必ずしも、人工知能の技術がそのまま私たちの考えるクルマの技術に直結するかどうか、まだ分かりません。もしかしたら自動運転にも使えるかもしれない、という予感があるという段階でしょうか。

そこで今回はあえて自動運転という言葉は使わずに、毎年出展している米国のCES(※2)という展示会で、人工知能、クルマ、通信という3つの技術を掛け合わせた「ぶつからないクルマ」のコンセプトを紹介したのです。

2016年2月18日、19日、NTT R&Dフォーラムに出展した際の展示ブースの様子

エッジコンピューティングが鍵に

───機械学習した「ぶつからないクルマ」は、どのような目的で、またどんな方法でデモンストレーションされたのでしょうか。

人工知能を使ったクルマとはどのようなものか、具体的に一般の消費者の方々に分かるデモにしました。「衝突を予測しながら運転を学習していく」というPFNが持つロジックを使い、それをクルマに具現化しようと考えた企画です。

今回採用した人工知能は、真っさらな状態から3時間くらいかけて賢く成長します。未学習の状態から展示しようとも考えたのですが、5分も滞在しない来場者は、最初のほうを見ても、何が起こっているか分かりません。そのため、だんだんと賢くなっていく様子を映像で見せながら、デモではある程度の学習を積んだ状態のクルマを使いました。

CESで流した映像の絵コンテ

CESで流した映像の絵コンテ

さらに、ぶつからない状態になったクルマだけが動いていると、あらかじめ動きをプログラムしていると思われる可能性もあったので、銀色の車体以外にリモコンで来場者が動かせる赤い車体を導入したのです。赤いクルマを自由に動かしても、銀色のクルマがきちんと自分たちで判断して衝突を避けられることを伝えられました。

───会場の反響はどうだったのでしょう。

YouTubeなどで多くの方に投稿していただいたり、さまざまな声を各方面から頂戴したりしたので、今回のコンセプトをご理解いただけたと考えています。

───CESのデモでは、どのようにNTTグループと連携したのですか。

クルマに搭載される半導体の性能は向上しています。クルマでできる演算処理はクルマで、その他の計算はクラウド側で処理をさせよう。そのための通信の負荷を下げようというのが以前までの考え方です。でも、その構想だけでは不十分でした。遅延によってタイムラグが生じやすいからです。

私たちが着目したのは、ある程度データを並列にして同時に処理しながら、なるべくリーンな(無駄のない)形で高速な情報のやり取りをしていくNTTのエッジコンピューティング技術(2本目で後述)でした。

クラウド上のサーバーにデータの集積や処理が集中するクラウドコンピューティング(左)に対して、エッジコンピューティング(右)ではネットワーク上に複数のエッジサーバーを置いて処理を分散させる

世の中にあるクルマの状態のデータと、クラウド側の状態のやり取りをいかにスムーズにできるか。こうした技術についてNTTの皆さんと相談をしながら、ぶつからないクルマの具現化に漕ぎ着けました。

ただ、最初のデモはWi-Fiで動かしていたのですが、さまざまな電波が飛び交うCESの会場では、通信状態が非常に悪く、そのままでは動かないクルマが出てくる可能性が非常に高かった。

そこでNTTの皆さんには通信が途切れない状態で、クルマがクラウドとやり取りできる仕組みを短期間で仕上げてもらいました。無線のところを作り、それを模型のクルマに組み込み、PFNが学習のチューニングなどを急いでやったという段取りです。

楽しさを保ちつつ、リスクを回避

───コネクティッドカンパニーの今後の目標を教えてください。

私たちの究極の目標は、クルマによる交通事故で亡くなる方をゼロにすること。そのとき非常に大きな影響力を及ぼすのが、人工知能ではないかと私たちは考えています。

でも、それが達成できてもクルマに乗ったときに楽しくなかったら意味がありません。世の中が求める「いいクルマ」を作り、クルマに乗っていただいたときの楽しさを高めながら、どれだけリスクを回避できるかがポイントだと思っています。

───具体的にはどういった方向に進化するのでしょう。

パソコンやスマホではディスプレイ越しに他の人と繋がるわけですが、運転中のドライバーのように、ディスプレイを介さない状態では、どのように便利で安全なインターフェースがあり得るのか。

快適にクルマを運転したいとき、どういう動作をしていただくと苦痛なく動けるのか。やりたいことに対して目的が達成できるのか。

ドライバーやパッセンジャーの行動パターンと人間心理がどんな関係を持つのかまで含め、これから研究していきたいと思います。本当に実現できるか分かりませんが、試みたいことばかりですね。

※1PFN

2014年に設立された日本のベンチャー企業。CEOは西川 徹。ネットワークデバイスやエッジデバイスに高度な機械学習のアルゴリズムを搭載することで、分散協調的に機械学習を行う「エッジヘビーコンピューティング」の開発を手がける。
https://www.preferred-networks.jp/

※2CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)

米国ラスベガスで毎年1月に開催される世界最大規模の家電見本市で、“セス”と読む。初回の開催は1967年、全米家電協会が主催している。現在は2,000社を超える出展があり、一般公開されないにも関わらず10万人以上の来場者がある。

IoT時代の到来に備えた研究開発

人工知能の早いレスポンスが目標

NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 ユビキタスネットワークシステム研究グループ 主幹研究員 高橋紀之さん

NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部 ユビキタスネットワークシステム研究グループ 主幹研究員 高橋紀之さん

───NTT未来ねっと研究所は、どのような組織ですか。

高橋 NTT先端技術総合研究所の配下にある研究所の1つです。少し先の未来を見据えつつ、要素的な技術というよりは、実際の通信やネットワークのシステムを主に研究しています。

直近で取り組んでいるのは、エッジコンピューティングです。より端末やクルマに近いところでアプリケーションの計算処理を行えるような新しいネットワークの姿を研究しています。

私自身は1992年の入社以来、将来に向けた通信技術アーキテクチャ、インターネットのその先を模索するような研究を繰り返してきました。

───トヨタ自動車とPFNと連携した3社による「ぶつからないクルマ」のプロジェクトが始まったのは、どういう趣旨からでしょうか。

高橋 3年前から私たちと協働していたPFNも、人工知能を載せるプラットフォームとして、エッジに重心を置く「エッジヘビーコンピューティング」に取り組んでいました。そこへ、トヨタ自動車からPFNへの出資があり、3社の繋がりができました。

将来、人工知能が自動運転などに繋がっていくと、人工知能はかなり早いレスポンスでクルマや道路から得られる情報に対応できないといけませんから、3社の研究が噛み合ったと言えるでしょう。

───今回のCESのデモでは、PFNによる深層学習技術、エッジコンピューティングによる分散処理技術に加えて、高信頼無線技術の採用を謳っていますね。

「ぶつからないクルマ」のコンセプトデモは、人工知能による深層学習技術、エッジコンピューティングによる分散処理技術、通信が途切れることなくデモを実現する高信頼無線技術の3つで実現した

高橋 トヨタ自動車の玉根さんからCESへの出展のお話をいただいたときには、すでに「ぶつからないクルマ」のコンセプトが固まっていました。あとは、絶対に途切れない通信技術を確保してほしい、という依頼だったんですね。

依頼内容を研究所へ持ち帰り、無線技術の専門家も交えて議論しました。着実に間に合うスケジュールも含めて何種類かを検討した結果、3種類の無線技術を用意して米国へ持って行ったのです。

CESの会場は携帯電話も満足に繋がらない劣悪な通信環境だという話を経験者から聞かされていたので、恐々と乗り込みましたが、最終的には一番手で考えた案が無事に動いてホッとしましたね。

───来場者の反応はどうだったでしょう。

高橋 お客様が常にひっきりなしの大盛況で、技術者冥利に尽きるという感じでした。

通信にしろ、計算処理にしろ、私たちが中心的に研究している分野というのは普段なかなか見えないところですし、見せにくいという現実があります。今回は分かりやすく「ぶつからないクルマ」という模型を使ってデモできたのは、非常にありがたい話でした。

デモで使用した「ぶつからないクルマ」の模型

デモで使用した「ぶつからないクルマ」の模型

新技術を後押しした背景とは

───キーワードとなるエッジコンピューティングは、研究所の中でも新しい研究分野に属するのでしょうか。

 エッジコンピューティングの基盤開発のプロジェクトは、3年ほど前に立ち上がりました。私は2004年の入社から一貫してIoT関連の研究をしてきましたが、今は特に、交通系の分野にどうやってエッジコンピューティングを活かしていけるかという研究開発に日々取り組んでいるところです。

同 森 航哉さん

───もう実際の製品に活かされているという事例はありますか。

 エッジコンピューティングの概念は、ネットワークの端っこにサーバーを置いて、端末の処理を助けてあげようというものです。例えば、テレビなどでWebをブラウズするときに動きがカクカクしてしまう。それをエッジサーバーのところで処理してスムーズに表示するというサービスが、2015年8月からNTTぷららで商用利用されています。

───いわゆる「シンクライアント」とは技術的にどこが異なるのでしょう。

 シンクライアントだとPCだけが繋がるイメージですが、IoTが進展するとクルマも含め、非常にたくさんの機器同士が通信で繋がるようになります。そのとき1つ1つに個別のネットワークを組むのではなく、共通の仕組みで幅広い端末を一度にサポートします。そのためのデバイスが実際に出てきたのが、エッジコンピューティングの普及を後押ししています。

サーバーなどのマシンパワー自体が上がっているので、シンクライアントのようにクラウドの奥深くに集積して置くようなサーバーを使わなくても、ネットワークの端っこに置くような、規模の小さいサーバーでも十分以上の性能があるというのが今は異なる点だと言えるでしょう。

通信技術で付加価値をもたらす

───お二人の目標があれば伺いたいです。

 NTTグループに在籍する個人としての考えですが、かつてNTTは電話事業で人と人を繋げることに集中してきました。インターネットが出てきてからはコンピューター同士を繋げてきたわけですね。今度はIoTの時代となり、クルマも含めて、いろんなモノを繋げていくようになります。そこにネットワークの付加価値を与えたいのです。

手前味噌ながら、それを担うのがエッジコンピューティングになると思います。今までのクラウドではできなかったようなこと、新しく可能となる機能によって、スマートシティを実現していくというのが私たちの世代のチャレンジなのかなと考えています。

高橋 私たち研究者は自分の技術に思い入れがあって当然ですし、どうしてもそこを中心に考えてしまうところがあるため、研究所の外に対してなかなか実体をご理解いただけないケースも過去にはありました。

今回のようにトヨタ自動車やPFNといった外部のパートナーがいると全然違います。研究のスパンも違いますね。インフラだと10年先に日の目を見るようなものもあるのですが、実際にサービスとしてやられている方の速度感は貴重です。

トヨタ自動車の皆さんと話していると、よくコネクティッドという言葉を使われますが、私たちが考えているコミュニケーション以上の意味が含まれている気がします。単にネットワークで繋がっているのではなく、情報で付加価値を与えるというか、ドライバーがいかに快適に、より楽しくなれるかを常に追求されている気がするんですね。

そうした志に応えていけるネットワークとはどういうものなのだろうかと問い続けながら、これからも研究開発を続けたいと思います。

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