少量学習によるフィードフォワード型のAI空調制御により、省エネと快適環境の両立を実証 ~短期間データでも快適性予測を可能とし、JR新宿ミライナタワーの実環境での有効性を実証~
2021年11月1日
日本電信電話株式会社
東日本旅客鉄道株式会社
株式会社NTTファシリティーズ
株式会社NTTデータ
背景・経緯
これまで商業ビルやオフィスビルといった大規模ビルにおける、通路やロビー、ラウンジなどの共用部の空調制御は、センサーからの信号に基づく制御(フィードバック型制御)や、ビル管理者の経験に基づいた制御が行われてきました。しかしながら、カーボンニュートラル社会実現の機運が高まる中、従来の技術では、空調の制御が室内環境に影響を及ぼすまでの時間遅れを考慮することが難しく、また、時間遅れを考慮するためには温湿度や人流といったデータを長期間計測し、分析する必要があるため、実際のビルにおいて、消費エネルギーを抑えつつ来館者や入居テナントにとって快適な環境を実現することは困難でした。
そこで、ICT技術による2040年度までのカーボンニュートラル実現をめざすNTTグループと、多くのビルを所有し、ESG経営の実現とビルの魅力向上に向けて取り組むJR東日本グループは、ビルにおける魅力向上と消費エネルギー最適化の両立に向けた実証実験を共同で実施してきました。特に、ビルの消費エネルギーの約50%を占め、かつ来館者や入居テナントの快適性に深くかかわる空調機の運転最適化を共同で検討してきました。
実証実験の概要と結果
本実験では、NTTの開発した「空調最適制御シナリオ算出技術」を、夏季のJR新宿ミライナタワーにおけるオフィスロビーの空調運転へ適用しました。この技術は、人・モノ・環境の状態再現と未来予測により都市における新たな価値創造を目指した「街づくりDTC™注3」の取り組みの一環として、NTTスマートデータサイエンスセンタで開発した技術です。なお、この技術には、移動体を含む地理空間の位置情報基盤である「4Dデジタル基盤®注4」を用いています。本実験での各社の役割分担を表1に、開発した技術の概要を図1に示します。
本技術では、以下の処理に基づき、最適な空調運転シナリオを算出しています。特に、コンピューター流体力学と機械学習の組み合わせによって、短期間での計測による少量データからの快適性予測を実現している点と、深層強化学習注5を用いることにより、ビル内の広い共用空間において生じる、空調が室内環境に影響を及ぼすまでの時間遅れも考慮したフィードフォワード制御を行う点が特長です。
- 来館者の数、外気温、空調運転状況、室内の温湿度を用いて、機械学習技術とコンピューター流体力学を組み合わせることで、快適性指標であるPMV注6を少量の計測データより予測
- 予測されたPMVを基に最適な空調運転設定を算出するという処理を1日分繰り返し実施しながら最適化する深層強化学習を用いて、対象日における最適な空調運転シナリオを算出
上記によって算出された空調運転シナリオを適用したところ、PMVを快適な範囲内に保ちつつ、空調機が用いる消費エネルギー量(冷水熱量)を、従来の同気候日における空調運転時と比較し、約50%削減できることを確認しました。この結果は、深層強化学習を用いた空調最適制御シナリオ算出技術が、実際のビルにおける空調の最適化に役立つことを実証した重要な成果です。
なお本成果は、11/16より開催されるNTTR&Dフォーラム注7へ出展されます。
表1:本実験における各社の役割分担
企業 | 役割 |
---|---|
NTT | 空調最適制御シナリオ算出技術の開発 |
JR東日本 | 検証環境とビル運用における課題・ニーズの提供 |
NTTファシリティーズ | ビル運用技術・ノウハウの提供 |
NTTデータ | 開発環境の提供・本成果を踏まえた実用化の検討 |
図1:空調最適制御シナリオ算出技術の概要
本成果の特長
- 来館者数、外気温、空調運転からの快適性(PMV)予測と、快適性と消費エネルギー量を考慮した空調運転シナリオの算出を組み合わせた深層強化学習による「空調最適制御シナリオ算出技術」により、空調により最適環境に制御されるまでの時間遅れも考慮したフィードフォワード制御による空調最適化を実現
- 従来は2ヶ月以上の測定データを要した室内快適性の予測に、コンピューター流体力学と機械学習を組み合わせることで、最短3日間の測定データのみから快適性を高精度に予測可能とし、実際のビルへの導入を短期間で実現
- JR新宿ミライナタワーのオフィスロビーにおいて実際に本技術を適用した結果、快適性を保ちつつ、従来制御と比較して消費エネルギー量を約50%削減できることを実証(図2、図3)
図2:実験日と基準日における空調機の消費エネルギー量(冷水熱量)
図3:実験日と基準日における平均PMVの変化
今後の展開
今後、NTTグループとJR東日本グループは、本成果の導入拡大を共同で推進し、ビルの魅力向上と共に消費エネルギー量削減を実現していきます。あわせて、NTTデータおよびNTTファシリティーズにて、本サービスの実用化の検討を進めて参ります。さらに、NTTグループとJR東日本グループは、それぞれのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを行い、日本政府がめざす2030年に2013年度比で温室効果ガスを46%削減するという目標、および「2050年カーボンニュートラル宣言」の実現に貢献していきます。
用語解説
- 注1NTTグループでは2021年9月28 日に環境ビジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定し、2030年度までに温室効果ガス排出量の80%削減(モバイル、データセンターはカーボンニュートラル)、2040年度までにカーボンニュートラルを実現することをめざしています。また、NTTグループでは、自らのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを社会へ拡大し、日本政府がめざす2030年に2013年度比で温室効果ガスを46%削減するという目標、および2050年までのカーボンニュートラルの実現に貢献します。
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928a.html - 注2「ゼロカーボン・チャレンジ 2050」とは、JR東日本が将来にわたり環境優位性を向上し、社会に新たな価値を創造する企業グループであり続けるために策定した環境長期目標です。
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20200512_ho02.pdf - 注3NTT、NTTアーバンソリューションズ 2021年2月2日
「未来の街づくり」を実現するNTTグループのデジタル基盤「街づくりDTC™」の技術開発、実証実験の開始について
https://www.ntt-us.com/news/2021/02/news-210202-01.html - 注44Dデジタル基盤®とは、ヒト・モノ・コトのさまざまなセンシングデータをリアルタイムに収集し、「緯度・経度・高度・時刻」の4次元の情報を高い精度で一致・統合させ、多様な産業基盤とのデータ融合や未来予測を可能とする基盤です。NTTのIOWN構想における「デジタルツインコンピューティング(DTC)」を支える基盤として、NTT研究所の技術とNTTグループのノウハウ・アセットを活用し、2021年度からの機能の順次実用化と、継続した研究開発による機能拡充を目指します。
詳細については、以下のサイトをご覧ください。
https://www.rd.ntt/4ddpf/ - 注5深層強化学習:人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを用いた機械学習の一手法であり、ある環境に対する試行錯誤を通じて最適解を学習することが特徴です。
- 注6PMV(Predicted Mean Vote):人の熱的快適性を数値化した指標。温度、湿度、放射温度、風速、対象者の運動量および着衣量から算出され、0が快適で、暑いと正、寒いと負の値となります。PMVが±1の範囲内であれば75%の人が快適と感じる環境とされています。
- 注7本成果を出展しますNTT R&Dフォーラムの詳細については、以下のサイトをご覧ください。
http://www.rd.ntt/forum/
本件に関するお問合せ先
日本電信電話株式会社
サービスイノベーション総合研究所
企画部広報担当
E-mail:randd-ml@hco.ntt.co.jp
東日本旅客鉄道株式会社
広報部
報道グループ
TEL:03-5334-1300
株式会社NTTファシリティーズ
経営企画部
広報室
TEL:03-5444-5112
株式会社NTTデータ
広報部
TEL:050-3644-3022