国内熟練技術者の技術継承に向け、生成AIを活用した暗黙知伝承に関する取り組みを開始

報道発表

2024年6月3日

ライオン株式会社
株式会社NTTデータ

ライオン株式会社(代表取締役兼社長執行役員:竹森 征之、以下、「ライオン」)と株式会社NTTデータ(代表取締役社長:佐々木 裕、以下、「NTTデータ」)は、ライオンの衣料用粉末洗剤の生産技術領域注1において、国内熟練技術者(以下、「熟練者」)の暗黙知となっている技術や知識・ノウハウを、生成AIを用いて形式知化する取り組みを6月から開始します。
近年、少子高齢化、労働力人口減少により、熟練技術者の技術継承や人材確保が困難になりつつあります。新規参画者への技術継承にはスキルと時間を必要とし、特に暗黙知化された情報の文章化と共有に課題がありました。
本取り組みでは、衣料用粉末洗剤の製造プロセス注2開発において、文章化されていない暗黙知を抽出し「勘所集」として文書化します。さらに、生成AIを活用した検索サービス「知識伝承AIシステム注3」に「勘所集」を取り込むことで、新たに衣料用粉末洗剤の製造プロセス開発を行うメンバーが、熟練者の技術や知識・ノウハウを容易に検索・活用することができ、効率的に担当業務が遂行できるよう支援します。
ライオンは本取り組みの推進により、効率的な技術の継承を実現することで、国内および海外拠点における技術力やグローバルECM注4などの強化につなげます。NTTデータは、形式知化された情報と暗黙知化された情報を掛け合わせ、知識伝承および活用のユースケースを確立し、製造業界をはじめとして、労働力人口不足という社会的な課題解決に寄与します。

背景

昨今、少子高齢化、労働力人口減少により、熟練技術者の技術継承や人材確保が困難になりつつあります。そこで、熟練者が持つ豊富な業務知識を伝承するための仕組みづくりが急務となっています。しかしながら、新規参画者への技術継承には、スキルと時間が必要であり、熟練者に多大な負担がかかります。そのため、いかに効率的かつスピーディーに知識を伝承していくかが大きな課題となっています。そこで今回、アジアでの需要が堅調であり、製造プロセスの開発において熟練者の暗黙知が必要とされる「衣料用粉末洗剤」を対象テーマとして選定しました。
ライオンは、「スピードと効率を備え、高度化・新価値の創出を実現できる」状態を目指し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきました。2023年5月には、対話型生成AI「LION AI Chat注5」をグループの国内従業員5,000人に向けて公開するなど、生成AIを活用した業務効率化に取り組んでいます。2023年12月には、膨大な社内情報を短時間で取得し、その結果を生成AIの活用により簡潔な表現で検索者へ表示する「知識伝承のAI化」ツールの開発を開始しています。
ライオンとNTTデータは、2022年1月から、ライオンの中長期経営戦略フレーム「Vision2030注6」(以下:Vision2030)の実現に向け、事業変革、DX推進プロセス確立・展開、人材開発の強化、二社共創ビジネスの創出を目指して業務提携しています。注7NTTデータは、ライオンに対して、主にマーケティング領域におけるデータの分析や活用基盤構築を支援し、データ活用の高度化による顧客理解の深化やDX推進に向けた戦略策定、新規ビジネスの検討や技術検証などに貢献してきました。また、これまでNTTグループとして暗黙知を抽出し文書化するサービスや生成AI活用のサービス注8を幅広いお客さまに提供し、ナレッジ活用に取り組んできました。

取り組み概要

ライオンはこれまで、社内のデータベースにある形式知化された情報を、効率的に集めて提供する技術開発を進めてきました。また、生産技術領域においては、熟練者の知識・技能を伝承するため、OJTやマニュアル・手順書を活用してきました。しかしながら、衣料用粉末洗剤の製造プロセスを開発する際、効率的に検討を進めたり、工場での生産時に原料の性状などを考慮した運転条件を設定したりするノウハウといった暗黙知を学ぶのに、時間を要するという課題がありました。

両社は共同で、ライオンの衣料用粉末洗剤の生産技術領域を対象に、暗黙知も含めた熟練者の豊富な業務知識を、生成AIを活用し伝承していく取り組みを開始します。NTTグループでは、これまでに暗黙知を抽出し文章化する取り組みを進めてきました。この取り組みで得られた知見を活用し、熟練者へのインタビューや幅広い役職の社員間でのワークショップから情報収集を行い、暗黙知化している技術や知識・ノウハウなどを抽出し「勘所集」として文書化します。注9そして、ライオンが取り組んでいる、生成AIを活用した検索サービスである「知識伝承AIシステム」に「勘所集」を取り込むことで、熟練者のノウハウを円滑に継承する仕組みを構築します。さらに、抽出対象となる暗黙知の範囲を拡大することを見据え、勘所集作成の効率化を図ります。具体的にはNTTデータが持つ先進的な技術や知見を生かして、インタビュー結果をまとめる工程への生成AIの適用を検討します。
これにより、新たに衣料用粉末洗剤の製造プロセス開発業務にあたるメンバーは、勘所集が取り込まれた「知識伝承AIシステム」を参照することで、熟練者から効率的に技術を継承し、担当業務に取り組むことが可能となります。

図:本取り組みのスコープ

図:本取り組みのスコープ

ユースケース例

衣料用粉末洗剤の製造プロセス開発業務において、勘所集を取り込んだ知識伝承AIシステムの活用シーンとして下記のような例を想定しています。

  • 熟練者が経験してきた製造工程において、品質に影響する留意すべき事項などのノウハウを容易に検索・活用することで、効率的に検討手順を学習し短期間での技術力向上を図ります。
  • 熟練者が長年かけて習得した、原料の性状などの諸条件を考慮した製造条件を設定するコツを生成AIによって伝承させることで、新規参画者への指導にかかる負荷を軽減します。

今後について

ライオンは、本取り組みにより、既存文書の整備と熟練者の暗黙知の抽出を合わせて、伝承するべき知識の形式知化を実現します。さらに、熟練者の暗黙知の抽出範囲の拡大や定期的な抽出および他製品への展開を進めることで、国内および海外拠点における技術力の向上を図り、グローバルな競争力の強化につなげます。
NTTデータは、ライオンとの連携をさらに拡大・強化し、ライオンの事業の成功に向けた支援を継続します。今後は、形式知化された情報と暗黙知化された情報を掛け合わせ、知識伝承および活用のユースケースを確立します。そして、暗黙知まで含めた知識抽出と生成AI活用を組み合わせたサービス提供を積極的に推進していきます。これらの取り組みを通じて、製造業をはじめとしたお客さまの労働力人口不足という社会課題解決への貢献を目指します。将来的には、よりセキュアで専門的な内容を取り込むことが可能な生成AI、特にNTT版大規模言語モデル「tsuzumi」注10の活用も検討します。

注釈

  • 注1 製品を効率よく安定的に量産化するための技術のこと。
  • 注2 研究所において、ビーカーサイズで開発した組成を、工場の大型スケールでも生産できるように最適な製造条件を開発すること。
  • 注3 生成AIと検索システムを用いた「知識伝承のAI化」ツールの開発を開始
    https://www.lion.co.jp/ja/news/2023/4464
  • 注4 エンジニアリングチェーンマネジメントの略。製品の企画・開発・工業化検討の一連の流れのこと。
  • 注5 Azure OpenAI Serviceを活用した対話型生成AIを国内従業員約5000人に公開
    https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8838/20230601_01.pdf
  • 注6 中長期経営戦略フレーム「Vision2030」
    https://www.lion.co.jp/ja/company/vision.php
  • 注7 ライオンとNTTデータ、DX推進に関する業務提携を開始
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/010600/
  • 注8 多様なデータを連携させて根拠ある回答文を作成する生成AIサービス「LITRON® Generative Assistant」を提供
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/062900/
  • 注9 NTTが研究開発した「技能抽出・コンテンツ化手法MEISTER」をベースに、NTTテクノクロスの暗黙知を形式知として抽出するコンサルティングサービスを活用します。
  • 注10 NTT版大規模言語モデル「tsuzumi」
    企業内データを外部に出さずにオンプレミスやプライベートクラウド上でカスタマイズできるといった強みがあります。
    日本語と英語に対応しており、特に日本語処理性能は、NTT研究所での長年の言語処理研究の蓄積を生かし高い処理能力を有しています。
    https://www.rd.ntt/research/LLM_tsuzumi.html
    • 文章中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

本件に関するお問い合わせ先

報道関係のお問い合わせ先

ライオン株式会社
コーポレートコミュニケーションセンター
TEL:03-6739-3443

株式会社NTTデータ
広報部
石上
E-mail:nttdata-pr-inquiries@am.nttdata.co.jp

製品・サービスに関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ
第二インダストリ統括事業本部
食品・飲料・CPG事業部
第一ビジネス担当
三井、伊東
TEL:050-5546-9018

株式会社NTTデータ
デザイン&テクノロジーコンサルティング事業本部
デジタルサクセスコンサルティングユニット
小橋、齋藤
TEL:050-5546-2297