医師主導治験における臨床データの電子ソース(eSource)によるEDCへの連携の実現性を確認
トピックス
2024年3月8日
京都大学医学部附属病院
株式会社NTTデータ
京都大学医学部附属病院(所在地:京都府京都市、病院長:髙折 晃史、以下:京都大学病院)と株式会社NTTデータ(本社:東京都江東区、代表取締役社長:佐々木 裕、以下:NTTデータ)は、京都大学病院が実施する医師主導治験(NOBEL-ioPDT試験)注1において、医師主導治験実施の効率化に向けた共同研究を2023年10月から2024年2月にかけて実施しました。結果として、収集すべき臨床データ項目のうち約72%の項目が臨床データ収集システム(Electronic Data Capture、以下:EDC)注2に対してeSource注3として直接連携が可能となり、治験における業務負担の軽減とデータ品質の向上に繋がりました。
本研究では、NTTデータが提供する治験支援システムを利用し、登録症例における電子カルテ内の臨床データをeSourceとして収集し、EDCへ連携する形で医師主導治験における有用性の評価を行いました。その結果、ユーザビリティや業務効率性を確認できたため、医師主導治験においても本システムを適用可能であるとの評価に至りました。注4
京都大学病院およびNTTデータは、治験業務プロセスの効率化により、日本の臨床研究活動の活性化・効率化を促進し、日本の医療への貢献を目指します。
背景
治験では、治験実施計画書にて厳密に定められた実施手順に則して、臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator、以下CRC)注5により外来受診日や薬剤投与、検査等のスケジュール管理が行われ、その診療結果を原資料であるカルテに医師が記載し、CRCが手作業で症例報告書(Clinical Report Form、以下CRF)注6やEDCに転記・入力する作業が行われます。CRFやEDCに手作業で入力された情報は、製薬企業が原資料であるカルテとの照合・検証作業を行うことで品質を管理しています。
このような作業により、1つの治療薬が薬事承認されるまでに莫大な時間とコストが必要となり、最終的に医薬品の高価格化の要因となっています。
このような現状から、治験業務の品質確保と効率化が重要な課題となっており、京都大学病院とNTTデータは2020年より、治験支援システムに関して、病院内に記録されたデータから治験参加候補者を抽出する機能や、治験のスケジュール管理機能等に関する共同研究を実施してきました。2023年度には、京都大学病院が実施する医師主導治験にて、治験支援システムのスケジュール管理機能の評価を行っており、このたび新しくeSource連携の分野で実証を行いました。
実証について
目的 | IT技術を駆使することによる治験業務の品質確保と効率化の実現 |
---|---|
概要 | 病院内で記録された診療情報をeSourceとしてEDCへ電磁的に連携するための、連携項目の精査および医師主導治験の治験実施計画を用いたフィジビリティの評価 |
実施内容 |
|
対象 | 京都大学病院が実施する医師主導治験(NOBEL-ioPDT試験)の研究対象者における診療データ |
実証期間 | 2023年10月から2024年2月まで |
主な役割 | <京都大学医学部附属病院>
<NTTデータ>
|
実証観点 | 治験支援システムについて、下記の点に対する評価を行う。
|
実証結果
京都大学病院とNTTデータは、電子カルテから収集したCyberOncology®システム注8の臨床データを、eSourceとしてCDISC標準の形式に変換した上でEDC連携用データとして出力する機能を有した治験支援システムを院内に構築し、本システムを用いて医師主導治験(NOBEL-ioPDT試験)の対象患者データをCyberOncology®システムから取得し、EDC連携用のデータを作成することに成功しました。
今回作成したEDC連携用のデータは、治験支援システムで連携可能とするデータ項目のうちNOBEL-ioPDT試験におけるEDC登録項⽬の約72%をカバーすることが出来ており、CRCが行うカルテ確認やEDC登録における手入力時間が大幅に削減されました。本検証に参加したCRCからは、手作業によるエラーの削減や作業時間の短縮など、データ品質向上や業務改善を感じ取ったとの肯定的な評価を得ています。一方、連携データの更なるカバー率の向上を求める声もありました。
本検証を通じてユーザビリティや業務効率性を確認することができ、医師主導治験においても本システムを利用可能であるとの評価に至りました。今後、製薬企業が行う治験に本システムを利用する場合、eSource連携によりデータの一貫性と正確性が向上するためEDCへ連携されたデータは製薬企業によるカルテの直接確認(Source Date Verification:以下SDV)注9が不要となり、その稼働も削減されることが見込まれます。
今後について
京都大学病院およびNTTデータは、電子カルテやCyberOncology®システム等の院内データの積極的活用による治験業務の効率化を促進するとともに治験全体の質の向上を図り、将来的には治験期間の短縮・コスト削減・治療薬の早期承認の実現を目指します。更なる院内データの利用拡大を目指した取り組みを行うとともに、将来は本実証で得られた成果を本邦のさまざまな治験に展開を図り、日本の医療開発への貢献を目指します。
注釈
- 注1 NOBEL-ioPDT試験は京都大学病院が実施する切除不能進行再発食道がんおよび胃がんに対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)と光線力学的療法(PDT)の併用療法の有効性と安全性を評価する多施設共同第II相医師主導治験です。
- 注2 EDC(Electronic Data Capture)は、臨床データを電子的に収集する仕組み、もしくはそのシステムのことです。
- 注3 eSource(Electronic Source)とは、臨床試験において電子的フォーマットで記録された原データを指しています。
- 注4 本研究の成果は、2024年3月に開催される日本臨床試験学会第15回学術集会総会での報告を行っています。
- 注5 CRCとは、Clinical Research Coordinatorの略で、臨床研究コーディネーターと呼ばれています。医療機関において、治験責任医師・分担医師の指示のもとに、医学的判断を伴わない業務や、治験に係わる事務的業務、業務を行うチーム内の調整等、治験業務全般をサポートします。
- 注6 CRF(Clinical Report Form)は、症例報告書と呼ばれる、臨床試験を行った際の患者の検査データ等をとりまとめた報告書のことです。
- 注7 CDISC標準とは、非営利の臨床データ標準化団体であるClinical Data Interchange Standards Consortiumが定める、臨床試験データにおけるデータ項目,変数名,メタデータ(データに関する付帯情報),入力や管理のルールを定めたデータ標準となります。
- 注8 CyberOncology®はNTTグループの新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社(本社:京都府京都市、代表取締役社長:是川 幸士)が提供する、電子カルテ内のデータソースからがんの臨床データを収集する統合データベースシステムです。https://prime-r.inc/
- 注9 SDV(Source Date Verification)は、治験における評価および報告の根拠となる原資料の直接的な照合・検証作業のことを指します。具体的には、医療機関によって保存されるカルテ等から、重要な記録や報告を直接閲覧し、それらが正確で全面的な情報を反映しているかを確認します。SDVは治験の信頼性を確保するための一環として行われ、これにより治験におけるデータの質と完全性が保証されます。
- 文章中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。
京都大学医学部附属病院について
京都大学医学部附属病院は、大学病院の使命である「診療・研究・教育」に関する3つの基本理念「患者中心の開かれた病院として、安全で質の高い医療を提供する」「新しい医療の開発と実践を通して、社会に貢献する」「専門家としての責任と使命を自覚し、人間性豊かな医療人を育成する」をベースに、「安心・安全な医療の提供」に努めています。
URL:https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/
株式会社NTTデータについて
NTTデータは、豊かで調和のとれた社会づくりを目指し、世界50カ国以上でITサービスを提供しています。デジタル技術を活用したビジネス変革や社会課題の解決に向けて、お客さまとともに未来を見つめ、コンサルティングからシステムづくり、システムの運用に至るまで、さまざまなサービスを提供します。
URL:https://www.nttdata.com/jp/ja/
本件に関する報道関係者からのお問い合わせ先
京都大学医学部附属病院
総務課企画・広報掛
E-mail:hisyokoh@kuhp.kyoto-u.ac.jp
株式会社NTTデータ
広報部
E-mail:nttdata-pr-inquiries@am.nttdata.co.jp
株式会社NTTデータ
第二公共事業本部
デジタルウェルフェア事業部
梅原、豊島、星野
E-mail:phambielinq-sales@am.nttdata.co.jp