海そうのCO2吸収量を算定する実証事業を実施 ~熊本県上天草市のアマモ場をドローン空撮画像で分析~

ニュースリリース/NTTデータ

2022年4月14日

株式会社NTTデータ

株式会社NTTデータ(以下:NTTデータ)は熊本県上天草市と共同で、海そうの1種であるアマモのCO2吸収量を測定する実証事業を2022年2月~3月に実施しました。
近年、海洋生態系が吸収する炭素である「ブルーカーボン」をCO2削減に有効活用できないか、世界的な注目が集まっています。一方で、ブルーカーボンの定量的な測定は進んでおらず、活用に向けた課題になっています。
本実証ではNTTデータがドローンの空撮画像を分析し、NTTデータ経営研究所がアマモのCO2吸収量を定量的に算定・評価しました。分析の結果、アマモのCO2吸収量とともに実測の重要性が明らかになりました。
NTTデータは今後、行政が進めるブルーカーボンの活用に向けた取り組みの推進に寄与していきます。

背景・目的

「ブルーカーボン」は海洋生態系の活動によって大気中から吸収・蓄積された炭素です。森林が吸収・蓄積する「グリーンカーボン」と並んでカーボンニュートラルに向けた貴重なCO2吸収源であり、近年世界的に注目されています。一方でブルーカーボンは検討や定量的データの蓄積が不十分で、現在の温室効果ガスインベントリ注1では「任意算定」となっています。日本でもブルーカーボンは算定対象になっていません。
昨今では国土交通省が中心となってブルーカーボンを温室効果ガスインベントリの算定対象とする検討を進めているほか、横浜市や福岡県といった自治体も独自にブルーカーボン・クレジット制度を実施する取り組みを進めています。そのなかで、海そうの種類や海域の違いを踏まえた精緻なCO2吸収量の把握が困難であることが取り組みの障壁になっているという課題が明らかになってきました。
今回、こうした課題認識を持つ熊本県上天草市とともに、その解決のためアマモのCO2吸収量を測定する実証事業を行いました。

実証事業の概要

実証事業の概要は以下の通りです。

目的ブルーカーボンが温室効果ガスインベントリの算定対象となっていく世界的な潮流の中、その推進に役立てるため
内容アマモのCO2吸収量の文献値と実測値を比較、検証
期間2022年2月15日~3月23日
役割上天草市現地調整および実証フィールドの提供
NTTデータアマモ場の面積算定(ドローンによる空撮)
NTTデータ経営研究所
  • アマモ湿重量測定、アマモのCO2吸収量算定
  • プロジェクト全体統括管理

表1:実証実験の概要

実証事業のポイント

アマモの年間CO2吸収量を実測値から算定し、文献値から算定した場合と比較して、結果に差があるか検証しました。文献値と実測値で、使用するアマモには以下の差があります。

比較ポイント文献の算定条件今回の実証事業の条件
アマモ採取時期5~6月頃(繁茂期)2月
アマモ採取場所九州地方以外の全国各地上天草市(九州地方)

表2:文献と今回の実証事業の算定条件の違い

実証実験の進め方は以下の通りです。

図:実証事業の進め方

図:実証事業の進め方

実証結果

アマモの年間CO2吸収量は、文献値を使った場合で41.29 kg-CO2/年、実測値を使った場合で31.75 kg-CO2/年と算定されました注2。実測値を使う場合と文献値を使う場合では約20%の差分があり、ブルーカーボンを精緻に把握するためには、土地ごとの特性、算定時期を考慮に入れる必要があることが分かりました。
なお今回分析に使ったドローンの空撮画像では、波や太陽光反射とった気候条件によって海そうの種別や密度(被度)の特定が困難なケースもありました。水中でのドローン活用なども含めて、複数のモニタリング手法を確立する必要も明らかになりました。

今後の取り組み

NTTデータは本実証で得られた成果を基に、今後国が推進していくブルーカーボン生態系の活用等によるCO2吸収源対策への取り組み、持続可能なコストでの実用化に寄与します。具体的には、海そうの現存量をより精緻に観測するためのデジタルを活用した画像分析による海そう種の判別方法の検討や、アマモ場等の藻場造成活動による環境への影響調査に取り組み、モニタリング手法の確立やブルーカーボン活動の推進の一助となることを目指します。
また、脱炭素化に取り組む自治体にブルーカーボンにおける活動支援を実施することで、温室効果ガス吸収量の増加による社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献します。

NTT Green Innovation toward 2040

NTTグループでは2021年9月28日に環境ビジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定し、2030年度までに温室効果ガス排出量の80%削減(モバイル、データセンターはカーボンニュートラル)、2040年度までにカーボンニュートラルを実現することをめざしています。またNTTグループは、自らのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを社会へ拡大し、日本政府がめざす2030年に2013年度比で温室効果ガスを46%削減するという目標、および2050年までのカーボンニュートラルの実現に貢献します。

注釈

  • 注1温室効果ガスインベントリ(Greenhouse Gas Inventory)は一国が一年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータのことで、世界全体や各国における温室効果ガス排出量を把握するために作成されています。現在のところ、ブルーカーボンは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとで批准国が条約事務局に提出義務のあるGHG排出と吸収のインベントリの算定対象とはされていません。
  • 注2アマモのCO2吸収量の算定は以下の式で行いました。
    年間CO2吸収(kg-CO2/年)
    面積×吸収係数
    吸収係数=湿重量×(1-含水率炭素含有量×炭素固定係数×44/12)
    (44/12:炭素量を二酸化炭素量へ換算する係数)
  • 注3実測で使用した値は以下の通りです。
  • 名称単位使用する値パターン1パターン2
    面積m2両パターンとも上天草市のアマモ場の面積3236
    湿重量kgWW/m2両パターンとも上天草市のアマモの湿重量0.59
    含水率パターン1:文献値、パターン2:実測値0.820.87
    炭素含有量kg-C/kgDWパターン1:文献値、パターン2:実測値0.320.31
    炭素固定係数両パターンとも文献値0.115
  • 注4新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」
    https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928a.html
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