プロセッサの多様化
ITインフラの進化は、コンピュータの計算力を生みだす頭脳であるCPUを中心に語られてきました。CPUは誕生以来進化し、高速化を続けてきましたが、2000年頃には主に物理的な限界から進化が鈍化しました。その後計算力を生みだすプロセッサは多様化し、マルチコア化と、オフロード化に進化の方向性を変えました。
マルチコア化は、一つのプロセッサ上に計算力の核となるコアを複数搭載する技術であり、コアが増えるほど高速化できる可能性があります。ただしマルチコアプロセッサには、特定のコアだけに計算が集中したり、コア毎に計算の粒度が異なったりすると、並列性が低下し本来の力が発揮できません。そこでマルチコアを最大限活用する専用のミドルウェアが、プロセッサが実行する計算を最適に分割します。マルチコアのGPUが機械学習の主役となったのは、こうした専用のミドルウェアが開発されてからです。将来に主流となるマルチコアプロセッサを見出すためにはミドルウェアの充実を確認する必要があるでしょう。
オフロード化は、高速化が期待できないCPUから作業を分割し、一部の計算をその計算専用の外部プロセッサに受け渡して、処理を高速化する技術です。例えばAIの学習処理に特化した専用プロセッサに処理を受け渡すことで、CPU単体での処理よりも数百倍の高速化が可能になります。オフロード化は、自動運転向けの画像処理やAI処理専用プロセッサ、スマートフォン向けAI処理専用プロセッサなど数多く開発されています。こうしたオフロード化においても、専用プロセッサを最大限活用するため適切に処理を分割するミドルウェアが重要な役割を果たしています。各社はミドルウェアを公開し、これを活用するアプリケーション開発者を増やすべく積極的にアピールしています。
アーキテクチャの進化
ITアーキテクチャにおいては、グローバルでの分散と統合を実現するデータベース技術の進化が注目に値します。
グローバルでの分散と統合を可能にしたデータベースシステムが、クラウドで提供される段階を迎えたのは革命的と言えるでしょう。世界各国で提供されるサービスを単純に一つに接続するだけでは、物理的な距離が生む反応遅れが課題となり、記録されたデータに矛盾が生じるなど現実的なサービスの提供は困難でした。しかし強力なミドルウェアが開発され、分散と統合は両立可能になりました。かつてこうした強力なITインフラは、世界規模のサービスプラットフォーム企業がSNSやメールの提供に向け自ら開発し独占的に活用していましたが、いまやどの企業でもクラウドの利用でビジネスに活かす時代となったのです。今後はこうした成果がオープンソースでも提供されることで、より自由度の高いアーキテクチャを提供するITベンダの登場も期待されます。
未来のITインフラ
ビジネスでの圧倒的優位を得るために10~20年といった長期的な時間軸で、新たなITインフラを開発する競争が始まっています。量子力学を応用し、現代のコンピュータを遙かに凌駕する並列処理を実現する量子コンピュータです。量子コンピュータは、組合せ最適化問題と呼ばれる処理ならば、現時点で既に既存のコンピュータを上回る性能を発揮しており、技術開発が進む将来には圧倒的な計算力を実現すると期待されます。ただ、量子コンピュータの実態は、量子チップと呼ばれる計算コアを現代のコンピュータでコントロールする実験装置に近いといえます。また量子コンピュータがあらゆる計算で現代のコンピュータを圧倒するかは確定していません。現実的な未来像は、現代のコンピュータが特定の処理を選択して量子コンピュータにオフロードする利用方法かもしれません。現代のコンピュータの1億倍速いとされる計算能力を例えばAIに活用できる日が到来すれば、その競争優位性は圧倒的です。ITインフラの進化を把握する上で、こうした未来のインフラへの注目も怠ることはできないでしょう。
図1:技術トレンド「ITインフラの多様な進化」
- ※1 「NTT DATA Technology Foresight」特設サイト
http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/foresight/sp_2018/index.html(外部リンク)