量子コンピュータとは何か
量子コンピュータとは、量子の挙動を利用することで、従来の古典コンピュータより圧倒的な速さで計算処理を行うことが期待されているコンピュータです。従来の古典コンピュータでは、ビットは”0”か”1”かの確定的な状態をもち、それを変換しながら計算処理を進めるものですが、量子コンピュータの基本構成単位である量子ビットは、重ね合わせと呼ばれる物理現象により、”0”と”1”を同時に実現しているとされます。そのため、N個のビットがあれば2Nパターンとなる計算処理を一度で行えることになり、圧倒的な処理速度を実現します。量子コンピュータの研究の歴史は1980年代にさかのぼり、長年夢のコンピュータと思われてきましたが、2011年にカナダのD-Wave社が量子アニーリングと呼ばれる方式で商用化に成功したことから、世界中の先進ユーザが技術検証を行うなど、賑わいを見せています。
量子コンピュータには、大きくわけて2つの方式があります(図表1)。一つ目は、量子ゲート方式と呼ばれるものであり、従来のコンピュータの論理演算子を、量子ビットの重ね合わせ現象を活用した演算子で置き換えたものです。理論的には古典コンピュータの計算処理を全て行うことができるとされていますが、確実な計算処理の高速化が証明されているのは、素因数分解・フーリエ変換など、一部のアルゴリズムに限られています。また、実現されている量子ビット数も最大で約70量子ビット程度であることから、実用化には時間がかかると見られています。もう一つの方式は、量子アニーリング方式と呼ばれるもので、“組合せ最適化”という問題を解くのに特化したものとなっています。ここで採用されているイジングモデルは統計力学の用語であり、2つの状態(“-1”か“1”)をとる格子点から構成され、最隣接する格子点のみの相互作用を考慮するようなモデルのことです。このモデルのエネルギー状態を表すエネルギー関数はハミルトニアンと呼ばれていますが、この形に変換しマッピングできるような問題であれば、量子アニーリング方式のマシンにて解を求めることが可能になります(図表2)。物理現象としてエネルギーを自然に最小の状態に落ち着かせるという作用を通して、解を求めます。それ故に、量子アニーリング方式のマシンは、計算装置というより物理装置とも言われています。
図表1:量子コンピュータの分類
図表2:エネルギー関数へのマッピング
量子コンピュータの適用事例
先述したように、世界中の先進ユーザ企業が適用検証を行っています。自動車メーカーでは、渋滞解消を目的とした最適ルート算出に用い、製薬会社では、創薬に向けて分子の結合特性を加味した安定構造の解析を行っています。コールセンタ業務におけるスケジュール最適化問題にも適用可能であり、NASAが火星探索ロボットの行動計画策定で検証するといった事例があります。また、アメリカのロッキード・マーチン社が戦闘機の開発において、数百万行を超える制御プログラムの不具合を検出するのに活用したり、金融業界でポートフォリオ最適化等を試行したりするなど、多様な業界の多様な課題において適用検証が進められています。
量子コンピュータの活用に向けて
量子コンピュータは、量子ビット数や安定性において課題があると言われていますが、日々物性面・ハードウェアとしての研究は進められており、商用可能な状態に近づいていくものと思われます。一方、量子ゲート方式・量子アニーリング方式ともに、ビジネス上のどんな問題に適用可能であるのか、適用可能な形にするにはもとの問題をどのように変換すれば良いのか、といった検証を進めておくことも重要です。
NTTデータでは、最適化などのデータ分析技術をベースとして、多様なソリューションの技術検証や、ビジネス上の課題への適用検証を進めていきます。