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2023.1.31技術トレンド/展望

Hyperautomation ~事例で見るシステム運用のコスト削減の新たな1手~

システム運用は作業人員の確保やプロセスの複雑化で高コストとなる一方で、効率化は不定期かつ局所的となりがちである。
本稿ではHyperautomationというツールを用いて改善を自動化することでコスト効率化を達成する手法について事例を交えて紹介する。
目次

1.システム運用のコスト削減に困っていませんか?

システムは開発も重要ですが、商用利用開始後の運用(以下、システム運用)というのもまた重要です。
システム運用の重要な目標の1つは「安定運用」、つまり故障をはじめとしたトラブルなく安定してサービスを継続的に提供することです。安定運用を実現するには、適切な資格および経験を有する複数の人員を配置し、定型化した作業プロセスを整備しているシステムが多いのではないでしょうか。

また、システムを年単位で運用していくと、新機能の追加などでプロセスが変わり、見直しの漏れから作業の無駄や属人化といった課題が蓄積されていきます。これらの課題の根本原因としてあるのが、システムが徐々に複雑化していき、全体像を把握している人が少なくなることです。しかし作業者全員がシステムの全容を把握するということは非常に困難です。(図1)

図1:IT運用業務における様々な課題

図1:IT運用業務における様々な課題

2.システム運用作業の一般的な改善方法とその課題

システム運用の改善という活動は非常に大切であり、継続的な実施が必要と一般的に言われます。
では、みなさまはどのような観点で改善対象を一覧化していきますか?

私が現在担当しているシステムでの改善例とその課題を紹介します。
ITILなどの業界標準の考え方に沿ったプロセスとなりますが、システム運用の作業者に改善候補となる作業と対応案を一覧化してもらい、その一覧に対して以下のような観点で定量的に判断して改善対象を決定しています。

  • 実現するための開発作業時間
  • 改善後の効果(例 作業削減時間)
  • 作業頻度(毎日、毎週、年1回など)

その結果、運用作業について改善計画を立て、実装し、効果を検証します。
一方で、私たちのチームでは改善効果が小さいという懸念を持っていました。
この懸念について原因を検討してみると、改善対象の一覧化に問題があるという結論になりました。具体的には、理想としては業務全体の作業一覧から時間が長い作業を改善対象にすべきですが、実態としては人の判断となるため意図せず先入観や無意識の選別によりシステム全体を客観的に洗い出せていませんでした。

3.Hyperautomationという解決策

私たちの改善候補抽出についての課題に対し、『Hyperautomation』という対策が提唱されています。
HyperautomationについてGartnerでは以下のように定義しています。

Hyperautomation is a business-driven, disciplined approach that organizations use to rapidly identify, vet and automate as many business and IT processes as possible. Hyperautomation involves the orchestrated use of multiple technologies, tools or platforms, including: artificial intelligence (AI), machine learning, event-driven software architecture, robotic process automation (RPA), business process management (BPM) and intelligent business process management suites (iBPMS), integration platform as a service (iPaaS), low-code/no-code tools, packaged software, and other types of decision, process and task automation tools.
出典:https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/hyperautomation

私たちのチームではHyperautomationとは、組織的に、業務をビジネスとITの両面でプロセスを分析して、対策を検討し、複数の手段から選択して自動化していくアプローチと理解しています。

以降では、私たちのチームでHyperautomationを適用した事例を紹介していきます。

4.Hyperautomationの適用事例

私たちのチームではHyperautomationを適用した改善作業を次のようなプロセスと定義しました。(図2)
(1)現状分析→(2)対策検討→(3)対策実行

図2:改善プロセス

図2:改善プロセス

それぞれ具体的には以下のような作業です。
(1)現状分析…システムの現状を可視化する作業です。業務全体について、種類や各作業のタスクの一覧化、作業ごとの時間を明らかにすることを目的にします。手段としては、ツールを用いることの他に、作業者へのヒアリングも含みます。
(2)対策検討…現状分析の結果から改善対象の作業とその対策案を検討します。理想としては1つの改善対象の作業に対し、複数の対策案を検討し、効果の高さから対策を選択します。
(3)対策実行…選択した対策を実行します。改善後の効果測定方法をあらかじめ決定していくことが重要です。

本事例はシステム運用作業のうち、商用システムへの変更適用前に、開発や試験を行う環境(以下、開発環境)の構築作業における取り組みです。当時、作業時間を短縮したいという課題がありました。

開発環境の構築は頻度として月に1回程度と定期的かつ頻度が高い一方、1つの環境を構築するために約200分、作業者は2名が必要であり、システムの運用作業全体の中でも最も時間がかかっていました。

Hyperautomationを適用した結果、開発環境構築の作業時間を80%削減(200分から40分へ)することができました。(図3)
手段としては2つあり、1つ目はRPA(※1)ツールによる手作業の自動化、2つ目はRPAツール導入による業務プロセスの見直しです。
改善後の振り返りでは、作業者からの、ここまで大きな改善結果となることは予想外であったというコメントが印象的でした。

図3:(事例)Hyperautomation削減効果

図3:(事例)Hyperautomation削減効果

開発環境の構築作業については、過去5年ほど実施していた中で、幾度も改善対象となり、実際に複数回改善は試みましたが、あまり顕著な効果は見られませんでした。そのため、今回のHyperautomationによる削減効果は驚くべきものでした。

以降ではさきほどの3つのプロセスに従い、どのように改善作業を実施したかを紹介します。

まずはじめは「(1)現状分析」です。
利用したツールはSaaS(※2)で提供されるマイニングツール(※3)を利用しました。

本事例で利用した機能は「タスクマイニング」です。
作業者が操作したツールやその時間を記録し可視化します。例えば作業者が1つの業務でブラウザ操作やメール操作、表計算ソフトをどのくらいの時間作業していたかを知ることが可能です。

今回の事例では、業務全体はチケット管理ツールにて作業時間を記録する形で可視化済みであり、時間が長い作業は開発環境の構築ということは認識していました。

続いて、タスクマイニングで、開発環境の構築では作業者が具体的にどのツールをどのくらいの時間利用しているのかを確認した結果、手作業が多い(200分)ということが判明しました。(図4)

図4:改善作業詳細

図4:改善作業詳細

つづいて「(2)対策検討」です。
「(2)対策検討」として、作業時間の多いブラウザ操作をツールで代替するために、手作業の中身を確認すると「ブラウザ操作」「メール操作」「コマンドプロンプト操作」に分類され、作業内容は定型的であったため、対策としてRPAツールを選択しました。

また、スクリプト化や表計算のマクロ利用など複数の候補の中から、利用ツールを幅広く自動化可能で、コストや習熟のしやすさといった観点でもRPAツールを採用することにしました。

RPAツールの実装によって手作業を自動化する際には、ビジネスプロセスも見直す必要があります。
私たちのチームでは、従来手作業で「作業計画書の作成→レビュ→本番作業時にダブルチェック→証跡確認」が必要でした。
自動化した場合のプロセスを想定し、真に人の判断が必要な箇所はどこかを重視してプロセスの省略可否を判断しました。見直した結果、「作業計画書の作成(RPA部分を削減)→レビュ→証跡確認」となりました。

さいごに「(3)対策実行」です。
「(3)対策実行」した効果検証として、再度タスクマイニングを実行した結果は、ブラウザ操作およびコマンドプロンプト操作をすべて自動化することができ、手作業として残ったのはメール操作や表計算操作でした。実装作業時間を考慮しても開発環境の構築を約1年間継続することで十分な改善効果を挙げられると見込まれます。

本事例での成功要因としては、タスクマイニングにより、作業者の利用したツールとその作業時間が一覧化されたことで、対応策をRPAツールとする適切な選択ができたことだと考えられます。

一方で今後の課題は、対策検討において現状では参考情報が少なく、人間の判断が必要となってしまうことです。この課題に対しては、今後も事例を積み重ね、パターン化させることで解決していくことを検討しています。

最後に、本稿をご覧いただき、システム運用のコスト削減について、特にHyperautomationについてご興味がございましたらぜひお問い合わせください。

(※1)

Robotic Process Automation。人間がPCを用いて実施する繰り返し、定型的な作業を代替すること。

(※2)

Software as a Service。サービス提供者が管理するサーバ上に構築されたソフトウェアを、利用者がインターネットを通じてアクセスして利用するサービス形態。

(※3)

業務や作業内容を記録し、ダッシュボードなどで可視化するツール。特にシステムのログをinputにするのをプロセスマイニング、作業者の操作記録をinputにするのをタスクマイニングという。

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