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2025.2.21技術トレンド/展望

都市のデジタルツイン構築のための技術と活用ポイント

「デジタルツイン」とは、現実空間の情報を仮想空間に双子(ツイン)のように構築したものである。デジタルツインを活用することで、製造業から都市、国家のレベルで現実空間の情報の最適化や起こりうる課題の解決策の検討ができることが知られている。一方で、デジタルツインを構築するために、どのような技術が使用されているかは知られていない。本記事では、NTTグループが開発したデジタルツイン構築のための技術をご紹介する。
目次

1.デジタルツインとは

「デジタルツイン」という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?デジタルツインとは、現実空間の情報を仮想空間に双子(ツイン)のように構築したもので、これを活用することによる情報の最適化や起こりうる課題の解決を目的としています。デジタルツインを構築するためには、現実空間の情報のセンシングを行います。そして、構築したデジタルツインの中でさまざまなデータを活用してシミュレーションを実施し、そこで得られた結果を現実空間にフィードバックすることによって価値を創出します。

デジタルツインは、工場における製造ラインの最適化や、自動車走行状態のモニタリングなど、さまざまな業界や分野で注目されており、そのスケールは、一部のエリアを対象としたものから都市を対象としたもの、さらには国全体を対象としたものなど、幅広く活用されています。日本においては、国土交通省のプロジェクト「PLATEAU」において、全国56都市が3Dモデル化されており、防災分野のシミュレーション結果の活用や行政サービス分野のサービス効率化が期待されています。

このように、世界的に構築・活用が開始されている都市のデジタルツインですが、構築するためにどのような技術が使用されているかは具体的に知られていません。都市のデジタルツイン構築にはさまざまな方法がありますが、本記事では、構築する際に使用されている技術をご紹介します。

現実空間の情報を取得するために、3D点群データのセンシングを行います。このデータの取得については第2章で説明します。続いて、デジタルツインの構築に向けて、3D点群データの位置合わせを行います。これも第2章で述べます。さらに、画像を活用した自己位置の推定については第3章、被写体位置の推定については第4章で取り上げます。

加えて、最後に都市のデジタルツイン活用までのロードマップもご紹介します。

2.都市のデジタルツイン構築のための技術:3D点群データの取得と位置合わせ

都市のデジタルツインを構築するためのデータとして、我々は3D点群データを使用しています。3D点群データとは、空間内の物体の位置を点の集合として表現したデータです。このデータは、建物や地形の形状を詳細に記録することができ、リアルで精緻なデジタルツインの構築に欠かせない要素です。3D点群データを計測するための機器はさまざまなものが存在しますが、その一つにMMS(Mobile Mapping System)があります。

MMSは、点群計測のためのLiDARや画像を撮影するためのカメラ、位置情報を取得するためのアンテナなど、各種センサーを車両に搭載し、車両を走行しながらそれらのデータを取得するシステムです。これにより、広範囲のエリアを効率的かつ短時間で計測できるという大きな利点があります。

一方で、MMSによるデータ計測は、その計測精度がGNSS(衛星測位システム)などのセンサーの計測誤差の影響を受けることが知られており、特に高層ビルが密集した都市部では、3D点群データの位置精度が低下するという課題があります。実際に都市部でMMSを用いて計測した3D点群データと、位置精度の高い地図データを重ね合わせ、3D点群データに計測誤差があることが分かる例を図1に示します。

図1:3D点群データの計測誤差の例

図1における地図データはNTTインフラネットが保有する「高精度3D空間情報」であり、位置精度の高いマンホールや道路境界の情報が含まれています(図1で示しているのは赤い道路境界のみ)。もし3D点群データの位置精度が高ければ地図データの道路位置と一致するはずですが、図1の左では計測誤差の影響を受けて3D点群データがずれていることが分かります。

この課題に対応するために、我々は、地図データを基準に3D点群データを位置合わせすることで、より位置精度の高い3D点群データを生成する技術を開発しました。この技術を用いることで、計測時の誤差を大幅に低減し、3D点群データの品質を向上させることが可能になります。実際にこの技術を使用して図1の左の3D点群データの位置精度を向上させた例が、図1の右になります。

この技術はMMSだけでなく、ドローンや歩行計測機器など、多様な計測手段で取得された3D点群データにも適用できます。ドローンを使えば山間部や地形が複雑なエリアのデータを効率的に取得することが可能となり、歩行計測機器は狭い路地や屋内などの車両では計測が難しい場所でのデータ取得に適しています。

生成した位置精度の高い3D点群データは、次章以降で紹介する自己位置推定や被写体位置推定といった高度な技術に活用できます。これにより、地図を活用した新しいサービスの開発や、より高度な自動運転システムの構築など、多方面への応用が期待されています。

3.都市のデジタルツイン構築のための技術:画像を用いた自己位置の推定

前章でご紹介した3D点群データの位置合わせに加え、我々はNTT人間情報研究所と連携し、「画像を用いた自己位置の推定」にも取り組んでいます。これは、カメラで撮影した画像からリアルタイムに自己位置を推定する技術です。自己位置とは、画像を撮影したカメラ自身の3次元位置と姿勢を指します。本章では、この技術の実現方法と、どのように活用することができるのかについてご紹介いたします。

自己位置を推定する技術では、まず、事前準備として空間を計測し、前章でご紹介した技術を活用して位置精度の高い3D点群データを取得するとともに、3D点群データの計測と同時に撮影された画像を収集します。次に、3D点群データと画像中の特徴量を対応付けることで、都市の特徴量データベースを作成します。そして、新たに撮影した画像と、都市の特徴量データベースを照合することで、撮影地点の自己位置を推定できるようになります。

この技術を用いることで、カメラで取得した画像から自分自身の3D空間上での位置をリアルタイムに把握し、デジタルツイン上に正確にマッピングすることができます。実際にこの技術を使用して、取得した画像から自己位置を推定した例を図2に示します。

図2:画像を用いた自己位置推定の例

画像を用いた自己位置推定が必要とされる理由の一つは、GPSなどの位置情報システムが利用できない環境が存在するためです。例えば屋内空間や地下、都市部の高層ビル付近ではGPSの測位が難しく、精度が低下することが知られています。このような環境では、画像を活用した自己位置推定技術が、正確な位置情報を取得する手段として有効になります。

この技術の応用例としては、屋内ナビゲーションや、自動運転車両・ドローンの自己位置推定、建築・土木分野での現場計測、拡張現実や仮想現実などの技術を活用するXRデバイスを用いた空間把握などが挙げられます。特に、XRデバイスと組み合わせることで、仮想空間と現実空間の整合性を高め、より没入感のある体験を提供できます。

このように、画像を用いた自己位置推定技術は、GPSが使えない環境での位置特定や、XR技術を活用した没入型サービスにおいて重要な役割を果たします。

4.都市のデジタルツイン構築のための技術:画像を用いた被写体位置の推定

前章でご紹介した自己位置推定技術に加え、我々は「画像に写る被写体位置の推定」にも取り組んでいます。これは、画像に映った人や車などの物体が3D空間上のどこに存在しているのかを特定する技術です。本章では、この技術の実現方法と、どのように活用することができるのかについてご紹介いたします。

我々が開発した被写体位置推定の技術は、深層学習による物体検出と、デジタルツイン上に存在している自己位置やその他物体の位置情報を組み合わせることで実現しています。深層学習を用いて画像内の物体を高精度に検出し、その位置をデジタルツイン上の3D空間データと連携させることで、被写体の正確な位置を推定することが可能です。

この技術を用いることで、画像に映る人や車の位置をリアルタイムに把握し、デジタルツイン上にマッピングすることができます。実際にこの技術を使用して、車載カメラに写る前方車両の位置推定を行った例を図3に示します。

図3:画像を用いた被写体位置推定の例

画像を用いた被写体位置推定が必要とされる理由の一つは、リアルタイムな状況把握が求められる環境が多いためです。特に、カメラは広範囲の情報を一度に取得できるため、センサーによる測定が困難な環境において有効です。これにより、動的な対象の位置を正確に把握し、即時の対応が可能になります。

例えば、自動車の運転支援システムでは、車載カメラに写る前方の車両や歩行者の位置をリアルタイムに把握し、自車両との距離に応じて警告や通知を行うことで、運転の安全性を向上させることができます。また、自動運転技術においても、道路上の他の車両や障害物の正確な位置を把握し、スムーズで安全な運転を実現するための基盤技術として重要な役割を果たします。

さらに、この技術は交通分野に限らず、さまざまな分野での活用が可能です。例えば防災分野においては、災害現場で撮影された画像から被害状況を迅速に解析し、被災者や障害物の位置を特定することで、適切な救助活動を支援することができます。

このように、画像に写る被写体位置の推定は、安全で便利な社会の実現に向けて重要な技術であると考えています。

5.都市のデジタルツイン活用までのロードマップ

これまでの章では、都市のデジタルツインを構築するために使用されている技術をご紹介してきました。本章では、都市のデジタルツイン活用までのロードマップをご紹介します。活用までのロードマップとしては、第一段階の構築と第二段階の普及があります。

第一段階の構築では、国や地方自治体、もしくは複数の企業によるアライアンスが率先して行うことが望ましいと考えられます。その理由は、規模の大きい都市のデジタルツインの構築には膨大なコストが必要となるため、一企業のみで実現することは困難であるからです。

都市全体のデータを取得し、それをリアルタイムに更新しながら精度の高いシミュレーションを行うためには、多くの技術とインフラ整備が求められます。したがって、国や地方自治体、もしくは複数の企業によるアライアンスを確立することが、持続可能なデジタルツインの基盤を構築するためには不可欠です。このアライアンスの目的は、デジタルツインの活用によって生まれる社会的・経済的な利益を見越し、長期的な視点で開発を進めることにあります。

さらに、デジタルツインの構築にあたっては、都市の特性に応じたデータの収集と管理が必要となります。例えば、交通インフラの最適化、エネルギーの効率的な管理、防災対策の強化など、具体的な活用シナリオを想定しながらデジタルツインの構築を進めることで、より実用的なシステムが実現できます。

第二段階の普及では、第一段階で構築された都市のデジタルツインを、さまざまな企業や組織が参加できるビジネスプラットフォームとして開放することが望ましいと考えています。この際、プラットフォームの開放は無制限ではなく、一定の条件や制限を設けることで、安全性やプライバシーを確保する必要があります。そのうえで、サービスの統合や、データ共有のための仕組み作りを進めることで、異なる業界同士が連携しやすくなり、新たな価値創出の機会が生まれます。

このようにデジタルツインが社会に浸透することで、利用可能なサービスが増え、ユーザーも使用するハードルが下がり、さまざまな分野での利活用が加速することが期待できます。

近年、スマートフォンをはじめARグラスやIoTデバイスなど、さまざまなデバイスが簡単に手に入るようになり、デジタルツインが活用されるための地盤は整ってきていると考えられます。今後、さらなる技術の進化とともに、よりリアルタイムで精度の高いシミュレーションが可能になり、都市のデジタルツインはますます高度化していくでしょう。デジタルツインが切り開く未来はすぐそこに迫っています。

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