急速なグローバル化に取り残される日本企業の情報システム
「NTT DATA Innovation Conference 2018」の特別セッションでは、「デジタル時代の情報システムの課題とこれからのあるべき姿について」と題した対談を実施しました。
登壇者は、特別ゲストであるジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)会長(当時、現:相談役)の鈴鹿靖史氏、NTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部長(当時)でNTTデータ グローバルソリューションズ 代表取締役社長の磯谷元伸、JSOL 執行役員 製造ビジネス事業部長(当時、現:法人事業本部長)の増田裕一、クニエ Sr. Managing Directorの蘇航です。
最初のトピックとなったのは「日本企業の現状情報システムの課題」です。鈴鹿氏は約560社が参加するユーザーコミュニティの知見をもとに、ユーザーから見た情報システムの課題を指摘します。
ジャパンSAP
ユーザーグループ 会長
(当時、現:相談役)(日本航空株式会社常勤監査役)
鈴鹿 靖史氏
「縦割り構造の組織が独自にシステムを作ってきた結果、個別最適が進みすぎたこと。これがビジネスの変革やデジタル化を阻害する要因となっています。この延長線上でERPを導入しても本来の強みは生かせず、蓄積されたデータの活用もままなりません」
また、差異化の問題も根強いといいます。情報システム部門が現場のわがままを聞きすぎた結果、システムはカスタマイズの山となりました。鈴鹿氏は「カスタマイズによる差異化は、今やビジネス上の競争力になりえません。これからはIoTや機械学習といったさまざまなテクノロジーを組み合わせることで独自色を出し、ビジネスを勝ち抜く時代になっていく」と語ります。
株式会社クニエ
シニア マネージング ディレクター
蘇 航
これを受けたクニエの蘇は、コンサルティングの経験から鈴鹿氏に賛同します。日本企業は横断的な業務や全体最適が不得手で、グローバル管理に苦手意識を持ってきました。しかしグローバルビジネスの基盤構築が不可欠なデジタル時代において、日本企業の情報システムにも変革が求められています。
「情報システムの存在価値は、今やERPやクラウド、業務の標準化にあります。現状の業務をシステムで再現し、安定運用させることにプロフェッショナル性を見出しているままでは、日本の情報システムはいずれ時代に取り残されてしまうでしょう」
部門変革の柱は全体最適視点とマネジメント力
これらの課題提起から、話題は「これからの日本企業における情報システム」へ移りました。デジタル変革をリードする企業となるには、どのような視点からシステムを構築していくべきでしょうか。
ビジネス全体を俯瞰した最適化の実現には、情報システム部門と業務ノウハウを持つビジネス部門との協力が欠かせません。そこでジャパンSAPユーザーグループは部門間、他業種間をつなぐシステム構築という意欲的な取り組みを進めているといいます。
このような新しい取り組みには、何よりも「経営層の理解」が必要であると鈴鹿氏は強調します。これには、情報システム部門の活動は目先のコスト削減や費用対効果が優先され、変革への社内決裁取得に苦労してきたという背景があります。「このようなイベントを活用し、経営層にITに対する理解を深めてもらうべきです。そして情報システム部門自らもプロジェクトを強力に牽引し、存在価値を高めていく必要があります」と、鈴鹿氏は会場の参加者へ呼びかけました。
続いてJSOLの増田が、情報システム部門の取り組みの事例を紹介しました。
株式会社JSOL
執行役員
製造ビジネス事業部長
(当時、現:法人事業本部長)
増田 裕一
ある大手製薬会社は、大型企業統合によって複雑化した業務プロセスの改善のためSAP ERPを導入しました。IFRS対応を含むグローバル標準プロセスを策定してグローバル経営管理を実現したことで、欧州モデルをベースにした業務の標準化や、SAPの標準機能を徹底活用した既存アドオンの大幅削減という成果を得ました。プロジェクトの要となったのは、情報システム部門がリーダーシップを発揮し、グローバル全体の推進役を務めたことでした。
また大手加工機器メーカーは、次世代のERPであるSAP S/4HANAを活用してグローバル経営基盤の強化を実現しています。同社はホールディング経営、グローバル経営への移行を機にSAP ERPを刷新し、SAP S/4HANAを有効活用してグローバルSCMの高度化などに取り組みました。この事例ではCIOが先頭に立って経営層を巻き込み、全体最適を考慮しながらプロジェクトを推進したことが成功要因になりました。
「情報システム部門が適切な役割を果たすことで、大規模なプロジェクトを成功に導くことができます。組織全体を俯瞰できる視点を生かして、標準化や最適化を推進していくこと。またプロジェクトを円滑に完遂するため、経営層や現場に対するマネジメント力を発揮することが、これからの情報システム構築に必要となっていくはずです」(増田)
株式会社NTTデータ
執行役員
製造ITイノベーション事業本部長(当時) 兼
株式会社NTTデータグローバルソリューションズ代表取締役社長
磯谷 元伸
NTTデータの磯谷(現:NTTデータグローバルソリューションズ 代表取締役社長)は、全体最適の視点から標準化や変革を支援する取り組みとして、2000年から製造業を中心にユーザー系システム子会社に出資し、共同で事業運営してきた「ITパートナー戦略」を紹介しました。
この長期的なパートナーシップの本質は、NTTデータが持つプロジェクト管理や人材育成のノウハウ、IT技術などを最大限に利用して、情報システム部門やグループ会社の構造改革を推進することです。「パートナーとして共にデジタル変革に向けたシナジーを強め、ITサービスの高度化を通じて事業競争力の向上に貢献していきます」と磯谷は展望を語りました。
ユーザーとベンダーの壁を越えて、共にデジタル変革していくために
対談を通じて、情報システム部門の目指すべき方向が徐々に見えてきました。最後のトピックとなった「デジタル化」に向けて、ユーザーとベンダーが共に築いていく、これからの協力関係の形を模索します。
磯谷はNTTデータが支援する多数のPoCやサービス導入を通じて、「テクノロジーの進化によるデータ量の爆発的な増加が、ビジネスプロセスやビジネスモデルの変革を伴うプロジェクトの呼び水となっている」と話します。
そこで課題となるのは、ERPの管理領域である会計/生産管理などの基幹システム(SoR:Systems of Record)と、顧客との接点となるAIやIoTなどのデジタル技術(SoE:Systems of Engagement)の関係です。両者の密な連携がこれまで以上に求められる中で、NTTデータは大規模なエコシステムの形成を行っています。
「システムを個別開発するのではなく、先進的な技術を持つ多くのパートナーによる最良のハードウェアやソフトウェアを選択して組み合わせる"Best of Breed"のアプローチを、デジタル変革の一翼を担うべく推進しています。今後はSAP社ともSAP Leonardoを通じた連携をさらに深めていく予定です」と、磯谷はシステムのビジョンを語りました。
変革のためのテクノロジーが揃いつつある点を受けて、蘇は「デジタル化を推進するために、担当者たちが乗り越えるべきいくつかの壁」の存在を示唆します。
「デジタル変革に対して寄せられる相談で多いのは、『事例を持ってきてください』というケース。間違いではありませんが、目標を見失わないためには自ら何をすべきか考え、これまでの自分を乗り越えていくことが重要です。そして各部署の目指す方向性の違いなど、組織を越えてアイデアを実行に移してください。企業間、業種間、国境などは高い壁にも感じられますが、最近は企業間コンソーシアムや業界の標準化、各種規制の緩和などの追い風も吹いています。」
最後に提示されたのは、「ユーザーとベンダーの壁」です。いざプロジェクトを発足しても、想像以上になった見積もりを前にツールや予算の確保に奔走していては勢いが削がれてしまいます。「ビジネスにはベンダーもユーザーもなく、全員がパートナーという考え方を持つこと」が壁を越える鍵になり、すべてをクリアしたとき、イノベーションの創造はさらに勢いを増していくと蘇は強調しました。
ユーザーとしてこれらの壁を乗り越えるには、全体を俯瞰したデータ活用ができる人材を育成することも重要だと鈴鹿氏は続けます。
「これからは、オープンイノベーションができる人材を皆で育てていかなければいけません。日本人は昔から塗り絵が得意で、線からはみださない技術には目を見張るものがあります。しかし現在は、真っ白いキャンパスにどんな絵を描くかが勝負の時代。自ら考える力を身に付けるには、多くの先進的な考え方に触れて新たな気付きを得るなど、積極的な訓練を重ねていく必要があります」
また、NTTデータグループへの期待として鈴鹿氏は「顧客第一主義を貫いてユーザーと同じゴールを目指す支援を行うこと、NTTデータグループの持つグローバルの知見を広くユーザーへ届けること」を挙げました。「デジタル変革の実現を通してユーザー企業の人材を育て、日本企業のCIOや情報システム部門に自信と刺激を与えられるようなベンダーは多くありません。NTTデータグループであれば、それができると確信しています」と会場に語りかけ、これに磯谷が日本企業へのビジネス支援の継続を約束して、対談は幕を閉じました。
ビジネスのデジタル化という命題を前に、従来の組織やシステムは変革に向けた過渡期を迎えています。NTTデータグループは、グローバル化の波を乗りこなしたいとお考えのすべてのお客様のパートナーとなり、共に情報システムの変革を推進していきます。
※役職などは当時のものです。