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2024.11.22業界トレンド/展望

これからのモビリティ社会を支えるソフトウェア人材の育て方

SDV化に伴い、モビリティ業界ではソフトウェア人材育成が急務である。デンソーでは2019年から「ソフトウェア改革」を経営課題の1つに掲げ、ソフトウェア人材の育成を進めている。その取り組みに人材・組織変革コンサルタントとして伴走しているのがNTTデータだ。2024年6月13日、両社はソフトウェア領域での包括提携に合意し、さらに取り組みを加速させている。
これからのモビリティ社会で求められるソフトウェア人材とはどのような人材なのか。育成に際し重要なことは何か。自社だけでなく、業界、日本全体への貢献を志す2社に、取り組みの狙いと成果、今後の展望について話を聞いた。
目次

歴史的な岐路に立つ、モビリティ業界

近年、カタカナ表記されるようになった“クルマ”は、これまでの“車”と何が違うのだろうか。走る・曲がる・止まるといった機能のほか、壊れにくさといったモノ単体としての価値から、インターネットにつながり、社会とつながることで生まれる価値が問われるSDV(Software Defined Vehicle)へと変わり始めた今は、モビリティ業界における歴史的な分岐点にあると、デンソーソフトウェア改革統括室の山田 隆太氏は語る。

株式会社デンソー
山田 隆太 氏

「これからのクルマが問われるのは、例えば個人の行動や嗜好に合わせた効率的な移動サービスとか、運転状況にあった保険サービスといった、世の中の問題解決やうれしさに寄与できるかどうかです。そのために、これまでのように一度販売したら終わりではなく、社会の進化や用途の変化に合わせてサービスや機能をアップデートしながら価値を追加していく。モビリティ業界はそんな時代変わってきています。」(山田 氏)

図1:SDV化されたモビリティとこれまでのモビリティ

歴史的な変化の分岐点にあるモビリティ業界において、大きな課題となっているのがソフトウェア人材の獲得だ。現在、国内のIT人材が約135万人、その中でモビリティ業界に従事するのが約5万人と言われているが、SDV化を進めていく上では数が足りていないのが現状である。山田氏は会社間で獲得競争をしている場合ではなく、業界や社会全体で人材育成し、底上げやリスキルをしながら最適配置を図っていかなければ世界に後れを取ってしまうと、日本企業の協調の重要性を語る。

「人的資本経営というのは、人材育成を投資対象とし、会社の成長戦略の中心に据えることです。日本でも無形資産への投資を株主に伝えることが法律として定められたように、人材育成は会社の成長性そのものであり、それが資金調達にも直接関わってきます。欧米ではすでに当たり前の考え方ですから、日本の基幹産業であるモビリティ業界もこれから世界で戦っていく上で、人材育成に経営課題として向き合っていかなくてはいけません」(山田 氏)

このような危機感のもと、新たな人材育成の体制づくりへと乗り出すこととなったデンソー。一方、NTTデータでは社員の現在のレベルの認定や能力開発の方法を提示し、一人一人の自律的な成長を支援する「P-CDP」という制度が2003年から約20年にわたり運用されている。両社によるソフトウェア領域での包括提携への合意に先立ち、NTTデータが人材・組織変革のコンサルタントとしてデンソーの人材育成を支援する共同プロジェクトが2019年から始まった。

ソフトウェア人材は、オープン化すべき

支援を担当するNTTデータの人材・組織変革コンサルタントである近藤博一は、P-CDP制度を参考にしながらも、それをそのままデンソーやモビリティ業界へ当てはめるのではなく、ともに挑んでいくような向き合い方が求められたと振り返る。

株式会社NTTデータ
近藤 博一

「目指すのは、デンソーやNTTデータといった個社の壁は意識せず、業界全体におけるソフトウェア人材の底上げに資する、業界全体のソフトウェア人材育成におけるスタンダードとなる制度です。それをベースに日本中のモビリティ業界のソフトウェア人材が成長していくために、超一線級の定義づけをしなくてはいけないという共通理解のもと、私たちからアドバイスをするというよりは、デンソーさんと一緒に試行錯誤しながら進めていきました」(近藤)

会社の壁を越えて、業界全体でソフトウェア人材を育成する。この壮大なミッションの前に、そもそもモビリティ業界の人材育成が極めて個社別であるという問題があると、山田氏は指摘する。

「人材育成が個社別になっていることの原因に、そもそもの考え方が問題解決型であるという状況があります。例えば品質問題の際に、不具合原因の再発防止のための教育がはじまるといった具合です。一方で、我々がNTTデータさんと描いているのは、モビリティを社会とつながる存在とするSDV化を促進するために、どんな人材がどれだけ必要になるかというあるべき全体マップを共有し、それを関係各社で網羅していくような全体戦略的な人材育成です。これまでのような囲い込みによる問題解決型の育成ではこのような多様性をカバーできなくなりますから、これからは一人ひとりの特性や志向に合わせて学びや活躍の場を選択できるオープンな育成環境に変えていかなくてはいけません」(山田 氏)

図2:ソフトウェア人材のオープン化

さらに、このようにオープンで選択型の育成制度を実現する上では、必要なスキルを身につけられる環境へ人材が異動していける“環流”が欠かせないという山田氏。

「オープンな選択型にしていくために、まずは各社が自分たちの仕事をオープンにしなければいけないと思っています。デンソーには、こんな役割の仕事があり、こんなスキルを身につけることができる。自社の仕事をオープンにすれば、自然と必要な・必要とする人材が集まり、自律的な育成が推進され、組織として強くなることができます。業界全体でこの動きが活性化できれば、人材の最適配置が進んでいくはずです」(山田 氏)

このような人材の環流は、全体像としては賛同を得られるものの、実際に各社がオープン化に踏み切るのは簡単ではないと、近藤は実感を語る。

「世の中が多様化している中で人材を抱え込んでも、抱え込まれている社員の側はモチベーションも上がらず自然と外に出てしまいます。その動きを促進することが私たちの狙いですが、まずはデンソーさんとNTTデータで合同研修をするなど、機密情報の漏洩などを理由にクローズドになりがちな企業間の壁を越えていく動きを始めています」(近藤)

日本のスタンダードを目指すソフトウェア人材育成制度

NTTデータの支援のもと、日本のスタンダードとなる全体マップを目指してつくられたデンソーのソフトウェア人材育成制度は、「ソフトウェア・ソムリエ(SOMRIE:Sophisticated、Outline、Master、Revolutionary、Impressive、Enthusiasm)認定制度」と呼ばれ、2021年度に運用を開始。18のケイパビリティごとに、7つのレベルが設定され、2024年10月時点で100名以上のソフトウェア人材が認定を受けているという。これによって、どのような変化が生まれているのだろうか。

図3:デンソーのソフトウェア・ソムリエ認定制度(作図:株式会社デンソー)

「モビリティ業界は分業化が進んでいるため、優秀なソフトウェア人材であっても自分の領域外のことは見えにくく、それが最適配置を阻んできたと言えます。また業界としても右肩上がりの成長をしていた時期が長く、変化への感度が低いことも問題であったと言えるでしょう。ソフトウェア・ソムリエ認定制度によって全体マップができたことで、人事部門と連携して人材の能力と役割が適切であるかのチェックと改善ができるようになりました。さらに、客観的な能力マップができたことで、これまでの“上司が指導し上司に相談する”という世界から脱却し、必要に応じてそれぞれの専門家に相談して能力進展する流れができています。社員のキャリアマップも、配属された部署で出世していくだけではなく、自分はシステムアーキテクトでレベル4を目指すから、この部署でこんなスキルを身につけたいと、社員一人ひとりが自分の目指す姿とそこに向けた成長を具体的に言える環境が整ってきています。」(山田 氏)

一方で、これまで認定を受けた100名超の人材には、すでに活躍が顕在化していた人材が多く、これから認定者を増やしていくには潜在的な人材を発掘し確実に成長させていくことが重要になる。そのために、ソフトウェア・ソムリエ認定制度の認定基準には、「後進の育成」という項目も組み込んだと、近藤はポイントを解説する。

「後進の育成と言っても、単純に部下の指導ではなく、後継者の育成を意味しています。先輩として後輩を指導するのではなく、プロフェッショナルなスキルによって周りを牽引していける能力を育成すること、自分がいなくなっても同じ振る舞いができる人をつくることです。人材コンサル的に言うと、ポイントとなるのは“委任”で、後継者に自分の仕事を任せることで成長を促します。そのためにも『3年後に自分はいなくなる』など、次のローテーションを計画して準備しておくことが、人材を環流させるために非常に重要なことです。」(近藤)

ソフトウェア人材をビジネスデベロッパーへ

ソフトウェアによってクルマのあり方を定義する“SDV”の開発を担うこれからのソフトウェア人材には、システム全体の構成からものづくりを発想する広い視点が欠かせない。また変化し続ける社会と接続し、問題解決に寄与するSDVには決まった正解はないため、変化に対する柔軟性、物事を抽象化して本質を捉える力も必要になってくるだろう。ひと口に“ソフトウェア人材”と言っても、ものづくりがより複雑化し、不確実性が高まる中で、求められる質が変わっていく。つまり「これからのソフトウェア人材は、クルマを通じて世の中に提供すべき価値を考える、つまりクルマをあるべき姿へと導く存在になっていく」と、山田氏はその変化を語る。

図4:これからのソフトウェア人材に求められる力

一方NTTデータでは、自社内においてビジネスデベロッパー人材の育成に挑戦している。そこで近藤は、自社で培ったノウハウをもとに、デンソーに対しビジネスデベロッパー人材育成の取り組みを提案したという。

「ビジネスやアイデアを創出する人材になるには、ある程度の資質が関係しています。NTTデータ内でのPeople Analyticsを活用した分析(※1)によって、事業創出の人材タイプがいくつかあることが分かっています。そこでまずはデンソーさんの中からそういった人材を発掘し、ビジネスデザインのメソッドなども適用しながら人材育成に取り組んでいます。もちろん、これも試行錯誤の連続で、必ずしも結果が出るわけではありません。分析が見誤っていればフィードバックによって改善したり、世の中に数あるメソッドとの比較もしたりしながら、デンソーさんとともに検証とブラッシュアップを繰り返しています」(近藤)

NTTデータと取り組むビジネスデベロッパーの育成はまだ始まったばかりで、育成された社員が実際に新規事業を生み出すまでにはまだ時間がかかる。しかし山田氏は、18のケイパビリティの中でもビジネスデベロッパーとしての素養が求められる「ストラテジスト」「ビジネスプロフェッショナル」「クリエイター」「プロダクトマネジャー」は現在不足している人材であり、その育成が特に急務だと、取り組みの重要性を語る。

未来のあるべきモビリティ社会を、笑顔で支える人材に

SDV化に向け、まさに舵を切り始めたモビリティ業界。鍵を握るソフトウェア人材の育成に向けてデンソーとNTTデータは、これからどんな未来を描いているのか。山田氏と近藤に、今後の展望と意気込みを聞いた。

「SDV化されたモビリティ社会のTier1であるために、私たちはモビリティのあるべき姿を考え続けなくてはいけません。またそのためには、金融、医療、物流など、モビリティ以外のことを知らなくてはいけません。『ソフトウェア・ソムリエ認定制度』は、広い視野を持ち、社会課題と向き合うことでモビリティのあり方をアップデートし続けていけるソフトウェア人材を、製造業全体で育成するためのベースとなることを目指しています。会社の壁を越えた人材の多様化と高度化によって、この歴史的な変化を成功に導く一翼を担えればと思っています」(山田 氏)

「人材・組織変革のコンサルタントとして、私たちは働く人を笑顔にすることをミッションとしています。認定制度では人材の最適配置が一つのテーマになっているように、能力のある人が輝ける場所で働けたり、リスキリングしたりすることで、多くの人が幸せになれることを願っています。その実現に向けて、これからもデンソーさんと力を合わせていきたいと思っています」(近藤)

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