寝不足は肥満のもとであるということが科学的に明らかになっており、睡眠不足が食欲増進につながるということを示した数々のデータが存在しています。
スタンフォード大学医学部の30~60歳の男女1024名を対象とした疫学調査(注1)で、8時間睡眠者と比べて5時間睡眠者では血中グレリン(食欲亢進ホルモン)が14.9%増加し、血中レプチン(食欲抑制ホルモン)が15.5%減少することが判明しました。
さらに、健康な20代男性12名を対象に、4時間睡眠で2晩過ごした後と10時間睡眠で2晩過ごした後で、食欲に関するホルモンの変化と食べ物の嗜好について調べたシカゴ大学の実験(注2)では、4時間睡眠で2晩過ごした後は、10時間睡眠の後に比べ、レプチン(食欲抑制ホルモン)が18%低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)が28%増えており、実際に空腹感や食欲も増えていることが明らかになっています。しかも、ただ食欲は増えるだけでなく、4時間しか睡眠がとれなかった後は10時間睡眠の後に比べ、ケーキやクッキー、アイスクリームなどの甘いスイーツや、ポテトチップスなどの塩気や脂質の高いもの、パンやパスタなどの炭水化物に対する欲求が強まるという傾向がみられました。
ペンシルベニア大学でも、徹夜をすると8時間眠った人たちよりも高脂肪な食事メニューを選ぶことを明らかにしています。(注3)
コロンビア大学の研究グループが追跡調査を行った結果(注4)では、7~9時間睡眠者の人と比べ4時間以下の睡眠者は肥満度が73%も高く、5時間睡眠者の肥満度は50%も高いというものでした。
2008年、カナダでは被験者を短時間睡眠者(5~6時間)、標準的睡眠者(7~8時間)、長時間睡眠者(9~10時間)に分類し、6年後の体重、ウエスト、体脂肪率の変化を比較する研究が行われました。(注5)体重、ウエスト、体脂肪率全てにおいて睡眠時間が短くても長くても高くなり、7~8時間睡眠者が最も変化が少ないという結果が出ています。
また、国内の7万人を対象に7年間追跡調査をした睡眠時間と肥満における研究(注6)では、睡眠時間が5~7時間と比べて5時間未満の場合、7年後に肥満となるリスクは1.20倍高くなったという結果が報告されています。
いずれの研究においても、睡眠不足は食欲を高め、肥満につながることを明らかにしています。実際に睡眠時間が短い人は、1日あたり350~500kcal余分にカロリー摂取をしているという指摘もあるほどです。
少し前までは「寝ると豚になる」という神話が皆の共通認識として存在していましたが、これは現在、科学的に完全否定されています。正しく眠ることで食欲の中枢が整い、正しい食生活の実現を後押しすると同時に、身体の代謝をサポートして「健康的で痩せやすい身体」がつくられるのです。「頑張ってダイエットを続けているけれどダイエットに成功しない」、「ストレスが溜まってしまってダイエットがうまくいかない」、「食欲が抑えられない」「もうダイエット生活とはサヨナラしたい」そんな人は、まずは睡眠時間を確保する生活パターンを取り入れることから始めてくださいね。
出典:Taheri S, Lin L, Austin D, Young T, Mignot E. (2004). Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index. PLOS Medicine 1(3), pp. 62.
出典:Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E. Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med. 2004 Dec 7;141(11):846-50.
出典:Fang Z, Spaeth AM, Ma N, Zhu S, Hu S, Goel N, Detre JA, Dinges DF, Rao H. Altered salience network connectivity predicts macronutrient intake after sleep deprivation. Sci Rep. 2015 Feb 3; 5:8215.
出典:Gangwisch JE; Malaspina D; Boden-Albala B et al. Inadequate sleep as a risk factor for obesity: analyses of the NHANES I. SLEEP. 2005; 28:1289-1296.
出典:Chaput JP, Després JP, Bouchard C, Tremblay A. The association between sleep duration and weight gain in adults: a 6-year prospective study from the Quebec Family Study. Sleep. 2008 Apr;31(4):517-23.
出典:Itani O, Kaneita Y, Murata A, Yokoyama E, Ohida T. Association of onset of obesity with sleep duration and shift work among Japanese adults. Sleep Med. 2011 Apr;12(4):341-5.