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2020.7.10INSIGHT

データが導く「保険の未来」(後編)
~安心安全を届ける東京海上日動の挑戦~

不確実性の高まりに呼応する形で、データの重要性が叫ばれる時代。
東京海上日動は組織をまたいだ全社的なデータ活用を本格的に開始した。
彼らの目指す先はどこにあるのか。
同社が構築した「データ分析基盤(データレイク)」の全貌を、担当者の生の声から追う。
そこから見えてきたのは、テクノロジーの発展がもたらす「保険の未来」と、2020年代の社会において企業が果たすべき役割だった。

データが導く「保険の未来」(前編)はこちら

挑戦し続ける伝統的企業が共創の一歩を踏み出す

■質量ともに拡大し続ける分析環境。成否はデータへのアクセスを如何に効率化していくかにある。

――データ分析基盤の構築プロジェクトがどのように進んだのか教えてください。

松浦第一弾として、2017年8月から8カ月間という短期間で、Hadoopの基本的なクラウド環境であったり、「データ分析ラボ」と言われる分析ツールが入った環境、ETL(Extract / Transform / Load)ツールの導入など、分析を行うために必要な一通りの機能を有する環境を構築しました。一方、データのバリエーションという観点では、限られた一部のデータだけで分析を始めたため、不十分であったと言えます。

松浦 晋

松浦 晋
東京海上日動火災保険IT企画部 企画グループ。2017年に通信系企業から転職。保険事業を支えるコアシステム(基幹系、情報系、その他)の企画立案と合わせて、大規模案件のマネジメントにも携わる。「転職して最初の大きな仕事が、NTTデータさんと一緒に手がけた『データ分析基盤』の構築でした」

翌年の2018年度は、データカタログや、プリパレーションのツールを導入して、主にユーザビリティの拡張を目指しました。また、データがないと何もできませんから、活用できるデータを着実に増やしていく取り組みを進めていきました。

こうした取組の成果もあり、利用者が増えてきたことから、2019年度はリソース面の拡張と、BI基盤の構築を進めています。BI基盤はデータ分析基盤で作成したダッシュボードを広く公開するとともに、第一線での活用を推進していくためにはどうしたらよいかを、見やすさや、セルフ分析のしやすさなどいろいろな観点で試行錯誤できることを目指しています。様々な利用者を想定し多くの要求を受け止めていく必要があるため、NTTデータさんと一緒に頭を悩ませながらつくらせてもらっています。

田井中2018年の段階では、「環境を統合する」という意味合いが強かったと感じていました。すでに色々な環境で行っていたデータ分析と散在していたデータを、まずは1カ所に集めてやりましょうと。さらにデータを容易に検索可能なデータカタログや様々な分析に対応したツールを導入して分析者にとって使いやすい環境を目指しました。2019年度はTableau 環境を一般の社員にまで提供し、さらに分析の裾野を広げています。矢継ぎ早に施策を進めていくスピード感に必死でついて言っているという感じです。

田井中 智也

田井中 智也
NTTデータ AI&IoT事業部 ソリューション統括部 ソリューション担当課長。「東京海上日動様のデータ分析基盤は初期構築から担当しました。構築した基盤を利用して分析を活発化させるために、データを準備するデータエンジニアリングやデータをいかに管理するかのデータマネジメントの推進に松浦さんと一緒に取り組んでいます」

――データカタログとは、どういったものですか。

山川分析環境上にはさまざまなデータがあります。ただし、分析しようとする人がすべてのデータの中身を理解しているということはまずありません。例えば、保険金支払いに関するデータ、契約に関するデータ一つとっても、その中には、自動車保険に関するデータ、火災保険に関するデータがあり……更にそこに入っているデータの入り方はそれぞれ違う…という状態で、どのようにすればデータが使える状態になるのか、データを見るだけでは十分でなく、源泉システムでのデータのでき方まで調査しないとわからないという事も少なくありませんでした。

山川 智史

山川 智史
東京海上日動火災保険 営業企画部 マーケティング室 グローバルマーケティンググループ。東京海上グループのIT戦略の中核を担う東京海上日動システムズからの出向で2019年度から現職。アーキテクトとしてデータ分析環境を使ったマーケティングに従事「一ユーザーとして、データ活用の成否を決める、データの可視化に関する感想をお伝えできれば」

簡単な例になりますが、性別フラグが「0」か「1」で入っていたら、「0」は男性と女性どっちなんだ? となってしまう。どのデータでどの数字がどんな意味を持つのか、それらがきちんとカタログ化されていないと、生のデータを分析にそのまま使うのは難しい。いちいち「この項目とこの項目が使える」みたいな突き合わせをやっていたので手間でした。データの意味を整理し、データのカタログを整備すれば「この0は何、1は何」というのがすぐわかるので、分析に入るまでの時間を短縮することができるんです。

松浦今のような話は、いろいろな場所で何度も起こるんです。同じデータがあったとしても、分析しようとする人はみんなわからないから、必ず詳しそうな人にデータの意味を聞くことから分析が始まる形になるんですよ。本当はきれいにデータが整備された状態を目指したいのですが、今は、分析者が横でつながりながらカタログを活用していくことが当面の解決手段になると思っています。「誰かが気づいたことが、他の誰かにも共有されていれば二度手間にならない」という効果が実際に出始めています。

田井中例えば「ある人がこのデータを分析したら、こういう結果が出ました」とか「このデータとこのデータを掛け合わせたら、思いがけない気づきを得ました」という知見は、他の部署の人も知りたいですよね。出てきた結果をデータカタログに登録することにより、「このデータはどのような特性を持ち、分析するとこういう結果が分かる」ということを広く共有できるような仕組みをつくれれば、データ分析を活発にするコミュニティが形成できると考えています。

――データ分析のナレッジを溜めて、社内で共有するということですね。

田井中そうですね。どうしたらカタログを分析者の方に活発に利用してもらえるか。啓蒙活動や、仕組みづくり、ルールづくりを今やっているところです。

――データ分析環境に「完成形」はあるのでしょうか。

松浦個人的な見解ですが、完成はないと思っていて、ひたすら拡張し続けるものだと考えています。データ分析に人間が介在しない世界はおそらく来ないとは思いますが、もう少し自動化できるところはたくさんありますから、データの種類や量の面でも、分析の手法や知見、分析技術と言った点でもしばらく拡大し続けるのではないでしょうか。

また、分析では「データ加工が8割」と言われています。そこにかかる時間をどれだけ自動化によって短縮できるか。また、分析の部分でも色々なアルゴリズムを自動化で試すなど、やらなければいけないことはまだまだあります。

■“脱SIer宣言”は、挑戦し続ける社風を持った企業との「本当の意味でのパートナー」となるという強い決意の表れ。

――プロジェクトが進行するときの空気感はどんなものだったのでしょう。印象に残っているエピソードなどあれば聞かせてください。

田井中ミーティングの時間は長かったですね。ただ、ほぼ関係者全員が本気で考え、一緒に結論をだしていこうという空気感があったため、そこでどんどん物事が決めまっていったというのは良かった点だと思います。

松浦毎週定例会議を2時間で予定していたのですが、気づいたら6時間ということも多々ありましたね(笑)。

立石2017年8月の立ち上げ時は1日置きで、2日に1回でした。プロジェクトの始まりは、システムの骨格を決めなければいけないすごく重要な時期ですから、正直大変でしたが、充実感もありました。

立石 良幾

立石 良幾
NTTデータ AI&IoT事業部 ソリューション統括部 ソリューション担当部長。データ分析基盤のシステム構築の事業を展開する。「入社して20年来、一貫してシステム開発を担ってきました。前半は業務システムの開発、後半はデータ分析周りの基盤構築の仕事をしてきました」

田井中多くの会社だと、例えばビジネス部門とのしがらみや要望に引きずられて、IT部門がなかなか決められないケースもあると思うのですが、このプロジェクトは松浦さんがその場でどんどん決めてくれるので、意思決定のスピード感が早かったですね。

松浦僕の上司も、ゴールイメージと基本的な進め方が間違っていなければ、細かいプロセスや仕様にはうるさく言ってきませんでした。その上で、アウトプットの責任はちゃんと持ってくれる形にできたので、非常にやりやすかったです。自分で言うのも変ですが、中途で入社したにも関わらず、僕の能力をちゃんと評価して、任せてくれたのだと思っています。

新谷東京海上日動全体としても、140年の歴史で「挑戦し続ける」という気概とともに、しっかり外からも力を取り込んでいく社風があると思うのですが、とりわけIT企画部というのは、そういった特徴が顕著である部署だと、私がIT企画部に赴任した当時感じたのを思い出しました。

新谷 玄

新谷 玄
東京海上ホールディングス 事業戦略部 企画グループ。データ戦略の策定・推進に加え、データ基盤の構築にも関与。「今日はグループ全体のデジタル戦略の企画やハイレベルな今後の構想もご紹介できればと思います」

もともと私は全然違う畑からIT企画部に来ましたので、外様である自分は専門家集団であるIT企画部に果たして受け入れられるのだろうかという不安がありましたが、赴任後すぐにそれが杞憂である事が分かりました。「いいものはいい」と正当に評価してくれる点も組織として良い面ですし、グループ会社の東京海上日動システムズとの関係も極めて良好であるのも強みの一つだと思います。

また、NTTデータさんをはじめ、様々な協力会社さんとお付き合いさせてもらっていますが、各社さまとかなりフラットに話せている印象がありました。情報はできる限り共有して、お互いが一緒になって「何か新しいものをつくり上げていこう」という気質がそもそもあるんだなと考えます。

山川まさに「共創」ですね。私が東京海上日動システムズにいたときにも、必要な情報をタイムリーに出していただけました。こちらを信頼していないと、決して見せられないような情報も多く含まれており、信頼関係と一緒にやっていこうという気持ちを肌で感じたのを覚えています。

――東京海上日動さんから見たNTTデータの印象は、どのようなものでしたか。

松浦まず、物事を決めるには「決めるための情報提供と提案」が重要ですが、NTTデータさんからはそうした情報提供や提案を「その時点で調べ得るファクト(事実や実績)とそこからの予測や提案」をしっかりと整理して明確に出していただきました。決めるに足りうる情報が常にあったから、その場で素早く判断ができたんです。

また、今回データ分析基盤の構築プロジェクトに入っていただいたメンバーは、僕が間違っていることがあると思ったら、絶対に指摘してくれるんです。だから、僕も思ったことが全部言えましたし、それが間違っていたときにちゃんと一度立ち止まって一緒に考えることができたと思います。

田井中色々な情報を出していただくことで、「目的」とか「こういう姿にしたい」といった思いの共有ができていたことには、プロジェクトを進めていく上で大きな指針となったことから、私たちも感謝しています。だからこそ、私たちから見て「ちょっと最初の目的からズレているかもしれない」と感じたときは、あえて言わなければならないと考えお伝えしていました。

立石私は常々、自分たちが「単なるSIerであってはいけない」と思って仕事をしています。そこには色々な意味があるのですが、そのうちの一つが「お客さまが言ったことをすべて正しいと受け止め、そのままつくります」というスタンスではいけないということです。

――クライアントとベンダーの関係であっても、指摘や提案はしっかりするべきだと。

立石ええ。「意見があるときはしっかり言う」というのが重要だと思い、そういうことができるメンバーをアサインした結果、今回は上手く機能したのかなと考えています。

松浦確かに、僕が言ったことがその通りすべて実現されてしまうと、自分が何かちょっとでも間違った瞬間、できあがるものも間違ったものとなってしまいます。でも、それが色々な面からチェックされる状態になっていたので、仕事の進め方としてすごくいいなとプロジェクトの初期段階で感じました。様々な人の経験と知見が集まって一緒につくっている感覚が得られたのは本当に大きかったです。

■日本の伝統的大企業同士がタッグを組んだプロジェクトから海外のプラットフォーマーへ対抗する形が示せるのではないかと信じている。

――最後にみなさんから一言ずつ、今日の感想をいただいて結びたいと思います。

新谷東京海上日動にとっての脅威は、近年になって台頭してきた新しいチャネルだとも言われます。例えば海外プラットフォーマーにどう対抗していくのか。個人的な話ですが、私はアメリカでの海外生活が長かったこともあり、日本に対する思い入れが強くあります。東京海上日動に入社したのも、古くから日本の発展を支えてきた伝統的な日本の企業だったからですが、海外のプラットフォーマ―からの脅威に対して、僕たちがこれからどうしていかなくてはいけないのか。特に日本の大企業と大企業が、理想的にはクライアントとサービサーという立場を超えて、何かの価値を一緒に生む。企業同士、協力するというところが、本当に目指すべきところなんじゃないかなと思っています。

今回の一例はビジネスの中では極めて小さな案件だったのかもしれませんが、お互い大企業でさまざまな制限がある中、ベンダーさんとクライアントという立場ではありつつも、一緒に苦しい思いをしながら協力しあって新しいものをつくり上げたという面ではとても意義深いプロジェクトだったのではないでしょうか。

お互いの利益相反などは度外視して、何か一つのものを協働で作る。それが「日本の大企業で新しいものをつくっていこう!」という世界で戦っていくための展開の一助になるというか、一つの好事例として象徴的なアウトプットになるという風に感じました。

山川今日はIT企画部とNTTデータさんが、すごく想いを持ってデータ分析基盤を作ってこられたのを再確認できました。私たちユーザーも、もっともっとこの環境を使っていかなくてはいけないと強く思いました。

今までは「データを集める時間がないので期間的にできません」といった言い訳を考えがちだったんですが、もうデータはそこにあり、分析環境もある。それらを使って新しい施策もどんどん考えていきたい。NTTデータさんと一緒につくった環境を使い倒して、世のため、人のため、お客さまのためになるようなことをやっていかなければいけないなと強く思いました。

松浦自分のこれまでの仕事を振り返ると、サービス毎にやりたいことがあって、それを実現するためのシステムをつくってきました。全体最適というよりは個別最適を徹底的に目指してきたと言えるかもしれません。良い面ももちろんありましたし成果も出ましたが、システム毎がバラバラで全体のアーキテクチャみたいなところが明確に定義できていない、なんだかもやもやした感じが僕の中にあったのも事実です。

データ分析基盤の様に、どちらかというと全体を見なくてはいけないシステムを一緒につくらせていただきましたが、これからはシステム全般のデータ活用を推進していくためのシステム刷新に取り組み初めています。その先には、東京海上グループ全体を支えていくシステムがどうあるべきかというアーキテクチャがありますので、その実現に向けてどういうアプローチを取っていくべきかといったところをNTTデータさんと一緒にやれるといいなというのが今の個人的な夢です。

直近の話ではないにせよ、そこまでやれば劇的に変わるところが出てくると思っています。今はレガシーシステムをどうしていくかについて色々と考えはじめたところですが、どんなゴールを目指していくか一緒に考えていきたいなと思っています。

田井中分析基盤の構築に関わらせていただいた後は、「分析基盤をどう使い倒すか」「いかにデータを活用していくか」「どうやって東京海上日動さんの社員の方にデータ活用への意識を持って使っていただくか」というところを推進する立場でお仕事をさせていただいています。

色々なお話を伺っていると、安定運用と新規ツール導入という利害が衝突するようなお話があったり、それらの要望をなかなか取り込めていなかったり。会社全体としてそういった声を取りまとめて、改善のサイクルを回すような仕組みがないと難しいと実感しているので、今後はそういった取り組みを一緒に推進していきたいと思っています。

今日のように色々な部署の方が集まって話をする場に参加できたというのは非常に貴重な経験になりました。こうした改まった機会でなくとも、コミュニケーションを続けていきたいなと思っています。

立石今日は私たちの部署だけここに来ていますが、NTTデータには保険の専門チームもありますし、普段はそうした社内の部署とも連携してプロジェクトに取り組ませていただいています。

今はどちらかというと溜めたデータを上手く分析するところまでできたと思うので、次は、その分析結果を東京海上日動様の顧客接点系のシステムにスムーズに提供できるようにすることが必要なステップだと思っています。
まだまだNTTデータが提供できる価値はたくさんあると思っていますので、どんどんご提案させていただき、一緒にチャレンジしていきたいです。

本記事の取材は、2020年1月に行われたものです。
取材・構成/神吉 弘邦 撮影/奥田晃司

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