1.日系企業のグローバルITマネジメントの状況
多くの日系企業が、ビジネスをグローバルに展開するために、生産拠点や販売拠点を海外に設置したり、海外現地法人のM&Aを行ったりしている。その際、日本側のIT部門の関与が不十分な状態で現地主導によるIT整備が行われ、M&A会社のIT部門と情報システムを残存させた結果、独自のIT部門や情報システムが散在する結果となっている。
経営のグローバル化により、経営情報のグローバルレベルでの可視化やグローバル全体最適によるITコストの削減が求められており、多くの日系企業では情報システムの共通化、集約化やグローバルITマネジメント体制の整備に取り組んでいる。
2.グローバルITマネジメント研究会の設立
NTTデータグループのお客様である日系企業からは、「経営層からIT部門に対して自社の情報システムやIT部門のグローバル化のあるべき姿を検討するように求められている」、「各海外拠点にIT部門を保有しておくべきか、日本に集約すべきかについて検討している」などの声が多く挙がってきた。そのため、株式会社クニエ、株式会社NTTデータ経営研究所と共同で、グローバルレベルでのITやITマネジメントの整備を担務されている大手日系企業のグローバルIT担当者様と共に、グローバルITマネジメントに関する研究会を2013年に発足した。
グローバルITマネジメント研究会は、参加企業の関心が高いテーマを選定し、各社の課題や取組事例の共有、重要成功要因に関する議論などを実施している。研究会への参加企業は年々増加しており、日系企業におけるグローバルITマネジメントの関心の高さが伺える。
3.日系企業におけるグローバルITガバナンスモデル
日系企業のITマネジメントの傾向としては、2つ挙げられる。
- 日本人CIOは、文化的背景もあり、多国籍人種を統制することに不慣れなことが多く、適切な統制が取れない
- 各リージョンCIOはリージョンCEOがレポートラインとなっているため、グローバルCIOの権限が弱い
欧米企業のように、"規則"と"権限"により海外IT部門を完全に統制するのではなく、統制型マネジメントとサポート型マネジメントを融合したマネジメントスタイルを採用している企業が多い。
4.グローバルIT部門の組織形態
日系企業は、北米や欧州などの各地域にリージョン統括会社を設置するリージョン経営の企業が多い。そのため、IT部門の組織形態においては、日本側にグローバルIT統括組織、各リージョンにリージョンIT統括組織を設置する企業が多い。グローバルインフラ統合やグローバルセキュリティ対策などのグローバル共通のITテーマについては、そのテーマに特化したグローバルプロジェクトチームを立ち上げ、各リージョンの担当者が協同して、グローバル方針の策定やソリューション評価、選定、導入等を実施している。
リージョンや会社といった既存の組織の枠にとらわれずに、IT部門としてGlobal One Teamとなり、各海外IT部門のノウハウや優秀なIT人材を適材適所で活用していくことが必要であると考える。海外IT部門を巻き込み、Global One Teamを作るためには、グローバルCIOの権限強化と各海外IT部門との密なコミュニケーションが重要である。
また、情報システムやITインフラの共通化、統合化を進めている企業では、地域分散型組織と機能分散型組織を組み合わせたハイブリッド組織を目指す傾向がある。多くの欧米企業のIT部門はハイブリッド組織であるため、多くの日系企業が、地域分散型組織からハイブリッド組織に移行していくものと考えられる。
5.グローバルIT人材の育成
今まで説明してきたように、多くの日系企業では、グローバルITマネジメント整備に取り組んでいるが、
- GHQの日本人が頑張って統制を取ろうとするが、現地事情を理解せず机上で実施してしまい、現地が言う事を聞いてくれない
- 日本人のITスタッフの交渉力やリーダーシップが不十分
というように、海外のIT部門をリードできる人材不足が多くの企業の課題となっている。
グローバルIT人材の育成を行いながら、日本人のスキル不足を補うため、現地IT人材を積極的に活用している企業も多い。例えば、ある企業では、グローバルネットワーク統合やEmail統合などのグローバル連携チームを組成する場合、必ずしも日本人がチームリーダーを務めるのではなく、テーマに精通した欧米のIT人材をチームリーダーに任命している。
6.グローバルIT人材の育成
IT人材の育成は成果が出るまでに時間がかかる。IT人材や調達が自社のグローバル展開のスピードに追い付かない場合は、外部リソースの活用が有効な手段となる。また、グローバルに拠点を有するITベンダーをパートナーにすることにより、グローバルITプロジェクトを迅速に立ち上げることや、自社のビジネス・システムについてITベンダー内での情報蓄積、共有が進みグローバル全体最適を考慮したプロジェクト推進に力を貸してもらえることも期待できる。
グローバルITパートナー活用や各リージョンの外部委託先管理の支援を行うため、グローバルIT統括組織内にVMO(Vendor Management Office)を設置する企業も増えてきている。