Agile開発の普及で実現するリーンスタートアップなプロジェクト
リーンスタートアップという言葉はエリック・リース氏の著書が語源になっています。ムダ無く、継続的にイノベーションを起こすための方法論で、Agile開発やデザイン思考が要素の1つになっています。
リーンスタートアップが日本で流行したのは2013年~2014年頃でしたが、あいにく当時のエンタープライズ領域におけるAgile開発は黎明期でした。そのため、リーンスタートアップという言葉は流行りましたが、それを真に実践出来ていたのはインターネットサービス企業や、ベンチャー企業、外資系の企業に限られていた印象があります。
しかし年月を経て、当時Agile開発の導入を試み始めたプロジェクトが、最近ではリーンスタートアップの方法論を実践しています。2017年11月に開催された弊社主催のAgileフォーラムでは、株式会社NTTドコモ様がリーンスタートアップの方法論を使ったサービス開発の事例を講演されました。
今回はNTTドコモ様の事例をもとに、リーンスタートアップの方法論を使ったサービス開発の進め方を紹介致します。
リーンスタートアップで実現した自動観光ルート提案サービス
自動観光ルート提案サービス(Travel Assist)は「既存の観光案内サービスよりもシンプルに、“あなたに最適なルート”を提案する」ことをコンセプトとするクラウドサービスです。
ユーザはエンドユーザと事業者で、エンドユーザに旅行ルートを提案し、提案した旅行ルーとを楽しんでもらうことで、立ち寄ったお店などの事業者に収益が生まれるモデルです。エンドユーザには「意思決定を助ける情報」を、事業者にはエンドユーザに提供した情報による「集客力」を価値として提供されます。
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NTTドコモ様は、自動観光ルート提案サービスを「アイデア創出」、「価値検証」、「事業化」の3つのステップで開発されました。
ここからは、NTTドコモ様の取り組みと、取り組みがリーンスタートアップの方法論に紐づくポイントを説明いたします。
「アイデア創出」
自動観光ルート提案サービスはゼロベースのアイデアから生まれた新規サービスです。ゼロからアイデアを創発させるために、新規サービス開発のプロジェクトチームでアイデアソンを実施し、沢山のアイデアの中から自動観光ルート提案サービスの種となるアイデアを選出されました。
アイデアに磨きをかけるため、サービスの想定ユーザ(ペルソナ)、想定ユーザが実際にサービスを活用する場面、サービスの画面イメージを作成されました。そして想定ユーザと同じタイプの人にインタビューを行い、サービスの価値を検証されました。
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・取り組みのポイント
アイデアを選出した後、想定ユーザにインタビューを行い、サービスの価値を早期に検証する点がポイントです。
従来のやり方では、ユーザにサービスのアイデアを説明したり、サービスを使ってもらったりするのは、開発が全て完了した時点となります。
しかし、ユーザがサービスを使いたいと思い、利用するかどうか、即ち「サービスに価値が有るかどうか」は、実際にユーザがサービスに触れるまで分かりません。開発を終えてリリースしたものの、ユーザが利用しなければサービスに価値が無いという事であり、開発費が無駄になってしまいます。
そこでリーンスタートアップの方法論では、できるだけ早い段階からユーザフィードバックを繰り返し得ることで、サービスの価値を徐々に確立していきます。アイデアのような初期の段階では、ユーザがサービスを活用する場面をストーリー仕立てにして描き、想定する利用状況におけるサービスをユーザに評価してもらったり、ユーザにサービスのアイデアをプレゼンしたりして、サービスに対する意見や要望を収集します。
とにかく早く何度もユーザのフィードバックを確認することで、サービスに価値が無かった際に無駄になる費用と労力、時間を最小限に抑えようとします。
この考え方は、「価値検証」や「事業化」のフェーズでも共通です。
「価値検証」
PoC(概念実証)を行うために、短時間でサービスのモックアップを作成されました。そして、モックを用いて想定ユーザと同じタイプの人や一般人へのインタビューを行い、サービスの価値を検証されました。更に、得られたフィードバックを基にアイデアや想定ユーザ、画面のデザインなどに変更を加え、PoC用に最低限の機能を実装した実際に動くサービスを開発されました。
動くサービスを使った検証では想定ユーザが実際にサービスを使う様子を観察し、意見を伺うことで、開発時には気付かなかった問題点や改善点のあぶり出しをされました。
また、モックや動くサービスを使った検証とは別に、自動観光ルート提案サービスを紹介するホームページを開設し、ホームページを訪れた人の行動を分析する試みも実施されました。この試みでは、NTTドコモ様の取り組みを支援させて頂いた弊社が、弊社の社員を対象に実施し、結果的に1,000人単位のデータが集まりました。それを基に行動を分析し、サービスへの関心の高さを計測することが出来ました。
・取り組みのポイント
始めから全ての機能を作らず、アイデアの核となる最低限の機能から実装し、検証をしたら検証結果を次の実装に反映するという繰り返しがポイントです。この営みを上手く実施するには、ユーザのフィードバックを基に必要最低限の機能とは何かを明確にしておくこと、事前に検証の目的を明確にしておくことが重要です。
実装したサービスで検証する以外にも、事例のようにホームページを使い、訪問者のアクティベート数でサービスの価値を評価することも有効です。こういった検証をする際には事前にアクティベートの条件や、良し悪しを評価するための基準値を検討しておくことが重要です。
「事業化」
事業化ではスモールスタートで6都市限定版の商用サービスをリリースし、ルート提案がユーザに提供する価値を検証されました。加えて事業者とテストマーケティングを実施しながら、収益性モデルの検証もされました。
全国版のリリース後も定期的に価値検証と改造を行い、サービスの価値の向上に注力をされています。例えば、女性向けのコンテンツに重み付けをした方が満足度は向上することが分かり、機能に追加をされました。
・取り組みのポイント
最初から全国バージョンを開発せずに、6都市に対応したバージョンからリリースした点がポイントです。一部の地域に限定したバージョンからリリースすることで、リリースまでのリードタイムを短縮できますし、早い段階で一般のユーザのフィードバックを得ることができます。更に、地域が限定的なのでバグなどが見つかった際の保守性も高いです。
また、1度の商用リリースで開発を完了するのではなく、継続的にサービスの検証と改造をされている点もポイントです。ユーザの思考や環境は時間と共に変化するものなので、継続的なサービスの検証と改造はサービスの価値の維持と向上にはとても重要な取り組みです。
まとめ
昨今、リーンスタートアップという方法論が注目を浴び、NTTドコモ様が実践をされた背景には、市場ニーズの複雑化や不確実性の増加があります。従来に比べると計画段階でサービスの成功を見定めることが難しくなっているため、最初に計画をした全ての機能を実装してからリリースをする従来のやり方よりも、少しずつ機能をリリースしながらユーザの反応を確認する方が、サービスが見当違いでユーザに利用されなかった際のリソースの無駄を小さくすることができます。
また、リーンスタートアップを実践するには、「サービスの価値」に対する考え方が重要です。リーンスタートアップやAgile開発のベースとなる「サービスの価値」とは、機能が多く実装さていることやバグが少ないことではなく、ユーザがサービスを利用し、そこから収益や公共的な利益が生まれることを示します。
そのためNTTドコモ様の事例では、中長期的な計画や品質を高める工夫をしつつも、短期間で必要最小限のサービスを作り、ユーザが利用したいサービスであるか確認することを優先されました。
恐らく、従来のやり方の方がサービスの規模に対する生産性は高くなると思います。しかし、不確実性が増している現代において、リーンスタートアップを活用したやり方の方が「サービスの価値」に対する生産性は高くなるのではないでしょうか。
最後に、本プロジェクトでは当社のテレコム事業部と技術革新統括本部がリーンスタートアップとAgile開発実現の支援をさせて頂きました。当社はリーンスタートアップやAgile開発に関する研究開発に力を入れており、様々な分野のお客様に対して支援の実績がございます。Agile開発でお困りの際は是非ご相談ください。