10月23日に、量子コンピュータで「量子超越性」を実現したというGoogleの論文がnatureに掲載されて(※1)話題となりました。この「量子超越性」とは、現在の計算機では非常に長い時間がかかる処理を、量子コンピュータを用いることで高速に処理ができることを指します。
話題となったGoogleの量子コンピュータは量子ゲート方式と呼ばれるもので、理論的には汎用的な計算を可能としています。現時点では量子ビットの大きさや安定性に課題があり、実用には10年以上かかると認識されています。量子コンピュータには、もう一つ、量子アニーリング方式と呼ばれる組合せ最適化問題に特化したマシンがあります。2011年にカナダのD-Waveが商用化に成功して以来、様々な企業が活用へ向けた実証実験を進めています。
本稿では、両方式それぞれの現状について解説します。
量子ゲート方式
量子ゲート方式には、量子アルゴリズムと呼ばれる量子の特性を活かしたアルゴリズムが300以上提案されています。(※2)(例:Shorの素因数分解、Groverの探索、量子SVM)これらアルゴリズムの実用へ向け、IBMやGoogleなどがハード開発に取り組んでおり、現在は最大約70量子ビットが実現しています。汎用的に使おうとすると100万個以上の量子ビットが必要と言われることから、実用化はまだ先とされているものの、ミドルウェアの開発も盛んに行われています。MicrosoftはQ#という量子プログラミング言語やQuantum Developer Kitという開発環境を提供しています。IBMはQiskitというフレームワークを、量子化学・機械学習・最適化・金融アプリケーション適用の手順と合わせて提供しています。また、活用検討も進められており、EVバッテリーの分子シミュレーション(※3)や有機材料の光学特性の制御が挙げられます。
量子アニーリング方式
アニーリング方式のマシンは、数理最適化問題の求解を、量子ビットからなるモデルをエネルギー最小の状態にすることに置き換えて実行(実験)します。ハードウェアの開発も様々な手法で行われており、量子性を活用したD-Waveだけでなく、量子アニーリングの挙動を、古典コンピュータ上で模擬するものや、それらに独自の工夫を加えたアーキテクチャを提供している企業もあります。例えば、富士通のデジタルアニーラ®、日立のCMOSアニーリングマシン、東芝のSimulated Bifurcation Machine(ソフトウェア)が挙げられます。中には商用化されているものも出てきていることから、様々な企業で実証実験による適用先の探索や、ソリューション化が行われています。
D-Waveは、マシンの様々な活用事例を発表するQubitsというカンファレンスを年に2回開催しています。今年の3月に開催されたQubitsでも、空港のフライトゲートの割当問題、マルチモーダル輸送システムでのルート最適化、サプライチェーン最適化、工場でのアームロボットの先端軌道最適化など、多くの事例が発表されました。(※4)
NTTデータの取り組み
NTTデータでは、量子コンピュータ活用支援を目的とした、量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボサービスを1月より開始しました(※5)。
本サービスではアニーリング方式を主として扱っており、問題の定式~実機検証~活用イメージのデモ化など、ワンストップで活用検討ができるようにメニューを用意しています。特にマシン選定では、マルチベンダとして各社マシンの特性や性能に関する実機検証を行っているため、業務要件に最適なマシンを選択することができます。他にも、ツールを活用したクイックな実機検証や、お客様課題の定式化など、幅広いコンサルティングを行っています。対象を量子ゲート方式にも拡げる予定であり、準備を進めています。
(※1)
Quantum supremacy using a programmable superconducting processor:
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5
(※2)
Quantum Algorithm Zoo:https://quantumalgorithmzoo.org/
(※3)
Volkswagen tests quantum computing in battery research:
https://www.volkswagenag.com/en/news/2018/06/volkswagen-tests-quantum-computing-in-battery-research.html
(※4)
Qubits Europe 2019:
https://www.dwavesys.com/qubits-europe-2019
(※5)
量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボのサービス開始:
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2019/012501/