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背景
デジタル技術と知識創造は新たな経営資源
SDGsに代表される社会課題への対応、テクノロジーの進化に伴う産業構造の急激な変化により、企業のイノベーション実現に向けた取り組みは、今後さらに加速していくと予想されます。イノベーション実現には経営資源の活用が不可欠ですが、企業の経営資源というと、どのようなものを思いつきますか?
人財、生産財、資金を想像されることでしょう。しかし、現在の最新の経営学やイノベーションマネジメントの研究では、そこに、人や組織が持つ知識(技術、製品やサービスのアイデア、ノウハウ、ビジネスモデルなど)の創造とデジタル技術(AIやIoTやクラウドなど)が重要な経営資源として認知されるようになりました。
DXとは
DXとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念(※1)です。経営戦略や新製品やサービスの創出という文脈では「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させた時がDXである」とされています。では、どのようにすればDXを実践できるのでしょうか?デジタル技術という資源を活用し、知識創造(技術、製品やサービスのアイデア、ノウハウ、ビジネスモデルなどの創出)の戦略を立案し実行することで、ビジネスを変革しようというのがDXであると捉えることができます。つまり、DXとはデジタル技術を活用した知識創造の実践とみなすことができるのです。
DX品質保証:傑出したイノベーターに頼るDXから組織的なDXマネジメントへ進化するための指針づくり
NTTデータ品質保証部の取り組むDX品質保証は、傑出したイノベーター個人に頼るDXから組織的なDXのマネジメントへ進化するための指針の構築を目指しています。
DXに必要とされる要素が明確になり組織で共有されることによって、DXは、マネジメント可能な状態となり、その結果、より効果的にDXの品質(お客様の満足度)を向上できるという考えのもと活動しています。
DXの課題
DXの品質保証が必要な背景
DXの広がりを受けて、NTTデータとお客様との関係にも変化が出てきました。DXでは、お客様もエンドユーザーも、求めるものが不明瞭であることが多くなってきました。NTTデータとお客様が共にユーザーを理解し、体験を設計し、仮説検証しながら推進するアプローチが求められています(図1)。「DXを通してより良いビジネス変革を実現したい」というお客様のご期待に応え続けていく取り組みが必要になるのです。
図1:DXによるアプローチの変化
では、どのようにDXの品質を捉え、どのような方針で保証すればよいのでしょうか?NTTデータ品質保証部では、DXの品質保証プロセスの構築に着手しています。我々の考えるDX品質保証の取り組みの一端を皆様にご紹介致します。
NTTデータ品質保証部における取り組み
DXで目指す品質とは
NTTデータでは品質を「お客様満足」としています。DXにおいても同様です。つまり、DX品質保証とは、DXの各種サービスのお客様の満足度の向上を図ることといえます。そこで、まず、DXにおける品質(全体)を下記のように定義しました。
- (1)お客様がデジタル技術によるビジネス変革をできているか?(デジタルサービスとしてのビジネス変革への貢献、経営戦略への寄与)
- (2)お客様がDXを実行した結果に満足しているか
DXの「品質」をDXの構成要素ごとにわかりやすく整理するために、DX品質ツリー(図2)を作成しました。これは、DXを構成する要素ごとの品質という視点から5つのレイヤーへ分解したものです。
- a. ビジネス戦略レイヤー:変革目標となるお客様の戦略を構築します
- b. 価値提案(バリュープロポジション)レイヤー:戦略に基づき、DXで追求する価値を定義しその効果を評価
- c. サービスデザインレイヤー:価値実現のためのサービスデザインを実施
- d. PoCレイヤー:PoCの実行、PoCにおける評価対象の有効性・効率性の評価
- e. 技術・開発レイヤー:アジャイル開発などの開発プロセスやAI、IOTなどの要素技術と開発プロセスによりサービスを開発・実現
ここで、ビジネス戦略レイヤーはお客様の経営戦略や市場の動向に強く依存するため、一様にモデル化することは難しいことから、価値提案以降の4階層をDX品質保証の対象としています。
図2:DX品質ツリー
DX品質保証のモデル構築
前述の4つの層の品質を高めるポイントを明らかにすることで、DX全体の品質を高めることにつながります。そこで、NTTデータ品質保証部では、DX関連のITサービス構築における各要素の関係性を考慮したモデル(DX4Layerモデル)(図3)を提示し、各要素の品質保証のポイントを明らかにする取り組みを進めています。
DX品質保証の実現のためには、DX経験者がもつDXの各過程のお作法や型、ベストプラクティスを見つけ組織で使える「知識」とすることが必要です。NTTデータ内のDXプロジェクト経験者に内在する高質の暗黙知:「善いとされる考え方や行動」を経験者から表出化させ、抽出し、体系化し、組織の知識資産として展開し、組織の人財に内在化させること目指しています。
そのため、ナレッジマネジメントの調査方法や、DX経験者との対話を通じて、暗黙知を引き出し、そこから導き出される各種のDX品質保証にかかわる観点やプロセスの抽出に取り組んでいます。これは、DXに関する知識創造プロセス(SECIサイクル)を回す(図4)ことに他ならないと考えています。
図4:SECIサイクル(出典 (※4)、(※5)、(※6))
(※3)デジタルトランスフォーメーションにおける価値共創のためのナレッジマネジメント― DXにおける価値共創の組織的知識創造視点からの考察 ―. 酒瀬川 泰孝, 大成 恭子, 坪井 豊, 大鶴 英佑, 寺尾 賢司. ナレッジマネジメント学会2021年度春季大会予稿集.
(※4)西原文乃・野中郁二郎(2017), イノベーションを起こす組織 革新的サービス成功の本質. 日経 BP. p. 25.
(※5)Nonaka, Ikujiro, &Takeuchi, H.(1995). The knowledge-creating company: How Japanese companies create the dynamics of innovation. Oxford university press.
(※6)野中郁次郎, &竹内弘高.(1996). 知識創造企業. 東洋経済新報社.
今後に向けて
NTTデータ品質保証部では、2018年度から継続的にDXの品質について検討を進めてきており、段階的な検討を経て今の形を目指すようになりました。現在は具体的なDX品質保証のためのモデル構築に取り組んでいます。成果がまとまり次第、NTTデータのナレッジとしてお客様とのDXプロジェクトの現場へ展開したいと考えています。