1.エンタープライズにおけるクラウド活用の状況と課題
クラウドの発展に伴い、様々なシーンでクラウドの活用が進んでいます。クラウドファースト、クラウドバイデフォルトの推進によりエンタープライズ領域の潮流が変わり、多くのシステムでクラウドが採用されるようになりました。また、Digital化に伴いクラウドネイティブな技術も積極的に利用されるようになっています。さらには、大規模・ミッションクリティカルなシステムでもクラウドが利用されるようになってきています。
しかし、エンタープライズシステムでしっかりとクラウドを活用しようとすると、様々な課題に直面します。まず、クラウド技術の獲得です。主要なクラウドベンダとしてAWS、Azure、GCPが挙げられ、各クラウドは似ている点もありますが、それぞれ独自の仕様や特性もあります。また、クラウドサービスは改変も頻繁に行われます。したがって、クラウドを活用したシステムの開発を行う際には、その技術動向・特性をきちんと押さえた上で開発を行う必要があります。
人財面も重要です。クラウド技術者は慢性的に不足しており、開発に必要な技術者数が集まらない事態も発生しています(量の課題)。また、クラウド人財の人数は集まったとしても、十分な技術知見を有した技術者が不足し、品質面の課題が発生する場合もあります(質の課題)。
このようにクラウド活用においては技術・人財両面の課題対応が必要となります。
2.クラウド活用の強化術
上述のとおり、エンタープライズにおけるクラウド化は大きな潮流となり進んでいます。しかしクラウドを活用しようとすると、技術・人財両面の課題対応が必要となります。そのため、これらの課題を解決し、クラウド活用力を強化する必要があります。本稿では、その際に有効な術を当社の事例と共に紹介します。
クラウド開発のベースを作る
クラウドでは、従来のオンプレミスとは技術要素や特性が異なるため、開発手法や人財を整備しベースを固めることが大事です。主な取組例を2点紹介します。
・クラウド開発の標準化
クラウドを活用して開発を実施している会社では、しばしば開発の教科書となるリファレンスモデルやガイドラインを整備することが行われています。これによりクラウド開発手法が標準化されるため、ガバナンスを効かせながら、生産性と品質を向上することができます。また、クラウドのメリットであるアジリティを享受するためには、開発のスピードアップが必要となります。その際、ポイントとなるのがInfrastructure as a code(IaC)です。AWSの場合、CloudformationやTerraform等を活用することでIaCを実現可能です。
当社でも豊富なクラウド開発事例を基に標準化を進めており、設計書や試験項目、セキュリティガイドライン、チェックリストなど、クラウド開発で必要なアセットを一気通貫で整備しています。また、設計書から自動化コードを出力可能な仕組みを開発し、IaCによるアジリティ・品質向上を実現しています。
・クラウド人財の育成
何よりも重要なのが、クラウド開発を行える人財を確保することです。即戦力となる技術者は少ないため、人財育成は特に重要となります。急速なクラウド化の潮流に対応するためには、会社を挙げて積極的に人財育成を進めることも重要でしょう。クラウドの資格取得推進や育成ロードマップ・コンテンツを整備し、クラウド技術者を早期に立ち上げることが行われます。
当社では、全社横断のリスキル施策や、各部門の事業特性に応じた強化施策を進めています。クラウドベンダとのアライアンスプログラム(※1)も活用し、AWS/Azure技術者は2019年の各1000名から、2021年12月でAWSは2500名、Azureは2400名まで増加しています。
上記の取り組みを進めることで、クラウド活用が進むベースが固まっていきます。オーソドックスなアプローチですが、組織的にクラウド活用力を向上させるためには重要なポイントです。
クラウドを徹底的に使いこなす
クラウド活用が進むと、大規模システムや高い非機能性が必要となる高難易度システムにおいても適用が進んでいきます。その際、安心安全にクラウドを使いこなすことが重要です。主な取組例を3点紹介します。
・クラウドにおけるセキュリティの確保
クラウドにおいてセキュリティは避けられないテーマとなります。クラウドサービスの設定誤りによる重大なセキュリティ問題はたびたび起きています。クラウドの設定内容は責任共有モデルにおいては利用者側の責任となるため、きちんと設計することが重要です。
ただ、設計要素も多く防ぎ切ることも困難なため、クラウドセキュリティを強化するソリューションやサービスを併用することも有効です。
当社が提供するA-gate®(※2)では、クラウドのセキュリティリスクを低減する権限セットやセキュリティリスクが高い操作を自動的に検知・修復する仕組みも提供しており、セキュリティ向上に大きな効果があります。
・クラウド仕様・非機能特性の徹底評価
高い非機能要件を有するシステムにおいては、クラウドのSLA(サービス品質保証)・条件についてきちんと押さえておく必要があります。また、高い非機能要件に対応するためには、SLAに記載されない挙動についても正確に把握することが重要です。
当社では、クラウドサービスのSLAや非機能特性を正確に把握するため、実機検証により徹底的に挙動を評価しています。評価結果や得られたノウハウは開発アセットに取込み、標準的に利用されるようにしています。
・クラウド高度活用人財の強化
高難度システムにおいては、クラウドを使いこなせる高度人財がより重要です。高度人財になるためには、クラウド開発プロジェクトにおいてアーキテクトやSRE(Site Reliability Engineer)として活動し、OJTで技量を高める必要があります。また、組織的に高度人財を育てるためには、クラウド人財間での相互連携も重要な要素となります。
当社では、クラウド技術者を集めたクラウド開発組織において組織的に人財強化を進めています。また、クラウドのトップ技術者(※3)による社内コミュニティ(※4)を形成し、旬な技術交換や切磋琢磨を進めています。さらに、日本・世界で活躍するトップ技術者が直接次世代技術者候補を育成する場(※5)も作り、クラウド技術者が共に育ち・育てる文化の形成を進めています。
上記がクラウドを徹底的に使いこなすためのポイントです。クラウドの特性を踏まえたソリューション整備や技術評価を行うこと、またクラウド高度人財を強化することで、要求水準が高いシステムにおいても安心安全にクラウドを使いこなせるようになります。
AWS Japan APN Ambassador および APN AWS Top Engineers
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/information/2021/072600/
3.まとめ
本稿では、クラウド活用を強化するためのポイントや当社事例を紹介しました。NTTデータでは、クラウドを安心安全迅速に活用し、お客様と共に最適なIT環境の実現を目指します。