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2022.11.25技術トレンド/展望

Service Design Global Conference 2022で実感したサービスデザインの最新事情

IT業界でも認識が高まりつつあるサービスデザイン。先日行われたService Design Global Conferenceの様子を通じて、サービスデザインの最新事情を報告する。
目次

1.Service Design Global Conferenceとは?

Service Design Global Conferenceとは、Service Design Network(※)が年に一回主催するサービスデザインのカンファレンスです。過去2年はコロナの影響でバーチャルイベントとして開催されましたが、今年は3年ぶりにデンマーク・コペンハーゲンで開催されました。

オンラインでのバーチャル参加も可能であったため、今回は日本にいて通常業務のリモート会議の合間に日本時間の深夜にいたるまで参加しました。バーチャル参加により、日々の業務に穴を開けることなく聴講でき、仮に業務と時間が重なったとしてもほとんどのセッションを後で見返すことができます。こうした利便性はコロナが生み出したインパクトから生まれた正の影響と言えるでしょう。非公式ですが現地参加は400名ほど、バーチャル参加は500名ほどだったようです。私はいわゆるコミュ障なので現地参加したところで他の参加者とネットワークを構築することなどあたわず。この状況でコペンハーゲンに行き現地参加したかったなどと望むのは身の丈に合わぬ高望みといえましょう。(血涙を流しながら断言)

などという感想はさておき、今回のカンファレンスで特に印象に残った内容を紹介します。

(※)Service Design Network

サービスデザインの思考、アプローチ、様々な手法やスキルを用い、デザインによる課題解決を行っているグローバルなネットワーク

2.はっとさせられたこと

Louise Vang Jensenによる“What’s Next versus What’s Valuable: Ethnography in a Future-Focused World”という講演の内容を紹介します。
エスノグラフィーとは、現状をバイアス無しに観察することで自分とは異なる文化について理解することと認識しています。ではVUCAと呼ばれる不確実性の時代においてエスノグラフィーはどういった価値を持ちうるのでしょうか?講演者が挙げたのは以下の点です。

looking ahead? look around/未来を知りたければ、現状を理解すべき

「次の10年に何が変わるか?ではなく10年に何が変わらないかを問い、将来も変わらない価値を見つけそれに投資すべきである。未来は現在の先にあるので、まず現在をちゃんと理解するべきであり、エスノグラフィーは、現在について深く理解し、人間社会において何が変化しないかを考える方法でもある」と述べられました。

What's the rush?/何を急いでいるの?

例としてスマートホームが取り上げられました。家とは古来人間にとって安心できる場所でした。しかしスマートホームはその安心感を取り上げてしまいます。窓が自動的に開閉することは人間にとって安心感を与えるでしょうか?はたしてスマートホームは人間の根源的なニーズに合致しているといえるでしょうか?
「テクノロジーは急速に変化する。しかし人間のニーズはそうではない。ロボットのエンジニアは、ロボットについて非常によく知っているが、ロボットを使う人間については知らない。未来は、人間は想像力の限界を超えることはない。しかし現在を文化人類学的手法で観察すればそれは想像できないほど多様である」と講演者は述べます。

締めくくりとして、「全てが変化していると思う時には、何が変わらないかを考えるべき。イノベーションとは必ずしも新しいことを考えることではない。今あるものの何を変革すべきか考えることだ」と講演者は述べました。この指摘にはハッとさせられました。
サービスデザインにおいてWhatを描く際には、社会環境の変化、技術革新がもたらす影響を考慮することが多いです。しかしそうやって導き出した未来の像は人間味を失った退屈なものになりがちです。
ではエスノグラフィーはそうした問題を解決できるのでしょうか?先日あるショッピングモールで行動観察を行ったのですが、人間の行動の多様さには驚かされました。そしてそこから机上で行うブレストよりも遥かに多くの、しかも実際の人間の行動に根ざした新しいサービスのヒントを得ることができました。

未来の姿を考える、と言ってもそこにいるのは数百万年前から大して進化していない人間です。そもそも人間とはどういう存在で何を動機に行動するのか、という深い理解なしに未来の絵を描いても文字通りの画餅に終わります。未来という言葉で思考停止し、何もかも変わると想定するべきではありません。サービスデザインを行う上では、何が変化し、何が変化しないかの見極めを行うことが重要という気づきを得ました。

もう一つ別の講演で聞くことができた興味深いキーワードを紹介します。
Ritual designというもので、日本語に訳せば「儀式のデザイン」となるでしょうか。「儀式」というと大層なものを想像しますが、振り返れば会社生活は儀式に満ち溢れています。入社式から始まり新人歓迎会、忘年会、送別会などもその一例と言えるでしょう。
こうした儀式は社会環境の変化により少しずつ変化していきます。例えばコロナによる環境変化によって歓迎会を廃止してしまうのではなく、それらの儀式は集団においてどのような意味を担ってきたのかを調査、可視化し、その上でそれをデザインしなおすとすればどのような方法があるかを考えることができるはずです。
業務のDXというと、ツールの導入にすぐ頭が向かってしまいがちですが、「職場に存在する儀式のデザイン」の実施を働き方改革の一助とし、ひいてはwell-beingの実現に貢献することができると考えます。

3.発表を聞いて考えたこと

サービスデザインはビジネスにおいてエンドユーザのことを知ることから始まるわけではありません。日常普段意識せずに行っている行為からも学び、新しい可能性を見出すことができます。改めてバーチャルで参加したカンファレンスの体験を振り返ってみると、カンファレンスにおけるプレゼンテーションもサービスデザインの観点から考えることができることに気が付きます。

今回のカンファレンスのテーマは“Courage to Design for Good”。多く語られたキーワードはCircular, Sustainable, Environment等でした。今やサービスデザインはエンドユーザのためだけではなく、地球環境をサステナブルにしていく責任を負っている、という主張を繰り返し耳にしました。
こうした言葉をエンドユーザたる聴衆の心に届けるためにはどのような工夫が必要なのか。もっとエンドユーザの視点に立つことで違う伝え方が可能なのではないかと感じたのも事実です。

我々も立教大学ビジネスデザイン研究所とサステナビリティ×デザインの取り組み連携を開始しています。(https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2022/082600/)サステナビリティ実現に向けたデザインの考え方やプロセス整備、さらに同研究所が目指す社会環境を創造するビジネスを「デザイン」する人材の育成に貢献することを目指していますが、この取り組みにおいてよりエンドユーザの心に響く届け方をしていきたいと改めて感じました。

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